日常、そして恋

知世

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出会い

今日から高校生です

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「これでいいかな…?」
鏡を見て、呟く。
微妙に曲がっている気もする。
…ネクタイが曲がった状態で、入学式には行きたくないなぁ。
「うーん…」
たぶん、大丈夫…のはず。
中学生の時は、詰め襟の学生服―学らん―だったから、ネクタイを結ぶことに慣れてないんだ。
桜乃学園はブレザーではなく、スーツ型の制服で、黒の背広・濃い灰色のズボン・灰色のネクタイ。
ズボンとネクタイには、よく見たら薄いストライプがある。
全体的に落ち着いた雰囲気で、大人っぽい制服なんだ。
スタンダードで上質な服は信頼も高く、世界中で認識されていて、中学・高校とも同じデザインの制服。簡単な修繕・裾上げは、休日以外、業者さんが校内で対応しているって、パンフレットに載ってたな。
時計を見ると、7時15分になっていた。
これから、冬お兄ちゃんと一緒に登校するんだ。
本当は、僕も秋を寮に送っていきたかったんだけど…断られてしまった。
この学園はかなり敷地が広くて、高等部と中等部の寮まで徒歩30分なんだって。
行き帰りで1時間かかるし、疲れてしまうから、と秋が気遣ってくれた。
…僕は体力がないんだ。
小学四年生の頃から、ほぼ毎日―天気が悪い日や用事がある日、体調が悪い日以外―ジョギングを続けて、やっと人並みにはなれたけど…あまり体力がなくて。
でも、これからも続けていれば、いつか、冬お兄ちゃんや秋みたいに、体力がつくと思うんだ。…頑張ろう。
―ピンポーン。
インターホンが鳴った。
冬お兄ちゃんだ。
リビングにある写真立て―僕が寂しくないように、家族写真と家の人たちの集合写真を、お母さんがくれたんだ―に向かって、微笑みかけた。
「行ってきます」



入学式は終わった。
高等学校だからなのか、有名な学園だからなのかは分からないけど、中学校とは少し違っていたんだ。
―まず、同じ新入生でも、特待生と編入生しか点呼がなかったこと。
点呼は緊張したなぁ…。
「はい」と返事をするだけなのに、吃ったら、裏声になったら、どうしよう…って、不安になるんだ。
いつも凄く緊張してしまうから…点呼は、苦手だな。
―それから、生徒会長と風紀委員長の挨拶があったこと。
僕が通っていた中学校では、四月~五月の一ヶ月間、生徒会選挙があって、その時に生徒会長さんも決まっていたから、入学式で挨拶はなかったんだ。
風紀委員長さんは、風紀委員会に入る三年生の中から―先生達が相談して―任命することになっていて、入学式での挨拶はないよ。
でも、代わりに、新入生代表の挨拶があったな。
そういえば、桜乃学園は新入生代表挨拶はなかった。
―それ以外は、中学校と同じだったかな。

入学式自体には、特に変わったことはなかったけれど、理事長さん、生徒会長さん、冬お兄ちゃんの挨拶は、印象的だったなぁ。

理事長さんは、

「後悔をしないように、生きてください。君達は若い。失敗と成功を繰り返すでしょう。失敗を恐れず、何度でも立ち向かっていきなさい。それは、無駄にはならない。必ず君達の未来に繋がります」

生徒会長さんは、

「人生に一度しかない高校生活を楽しみましょう。私達には、今しか出来ない事が沢山あります。その限られた、一日一日を大切にしてほしいと思います」

冬お兄ちゃんは、

「自分を誇れる、人間になってください。日々努力し、向上していけば、自ずと成長していきます。人として、恥じる行為だけはしないように」

だった。

何度失敗しても立ち向かうこと。
一日一日を大切に過ごすこと。
努力し続けること。
…難しいことばかりだけど、どれも大事なことだから、忘れずに実践していきたい。
そう、思いました。



新入生退場のアナウンスに従って、体育館の外へ出ると、
「桜井くん」
名前を呼ばれた。
「? はい」
知らない声に呼ばれて、誰だろう?と思いながら、話し掛けられた方を見る。
「あ」
見覚えのある姿に、小さく呟くと、ニッと笑いかけられた。
「良かった、分かってくれて。―俺たち、入学式で桜井くんの隣に座ってたんだ」
「僕が右側で、彼は左側」
「はい、覚えてます」
入学式の席はクラス毎に別れていて、出席番号順なんだ。だから、彼らは僕のクラスメートだと思う。
「いきなり呼び止めて、ごめん」
「いえ」
「出席番号の前後ってさ、二人一組になったりして、一緒にいることが結構多いから、仲良くしたいと思って」
「―ありがとうございます、嬉しいです」
仲良くしたい、と言ってもらえたことが嬉しくて、自然と笑顔になる。
すると、
「あ~…これは…うん…」
「…ヤバいかもね」
二人は顔を見合わせて、何か話していた。
「?」
小さな声はよく聞こえなくて、首を傾げたら、
「それダメ!可愛い!」
注意されてしまった。
「??」
ダメ?可愛い?って、何が??
「と、とりあえず…首傾げるの、やめて。ダメだから。色々」
どうしてダメなんだろう…?
とりあえず首を傾げるのはダメみたい。
「分かりました」
不思議に思いつつ頷くと、彼らは微妙な顔―困ったような、疲れたような、表情―をした。
「無自覚…」
「そうきたか…」
「頼まれたんだよね?」
「いや、どちらかというと、お願いだったな」
「どっちでもいいよ。―僕は、普通に仲良くしたいだけ。樹もだろ?」
「ああ」
今度は頷き合っている。
仲良しだなぁ。
「俺、清水 樹(しみず いつき)」
「僕は佐久間 透(さくま とおる)」
「桜井 春人です」
清水くんは明るい茶色の瞳と短髪で、笑顔が爽やかな少年だ。…たぶん、運動部か、元運動部かな。何となく、秋と似た感じがする。
佐久間くんは黒みを帯びた茶色―焦げ茶色―の猫っ毛と猫目で、可愛らしい少年だ。…かわいいなぁ、猫みたい。
「…あのさ、春人か、春人くんって呼んでいい?」
「風紀委員長が桜井先輩だから、桜井くんって呼ぶの、なんか違和感あるんだ。あ、嫌なら断ってね」
「嫌じゃないです。お好きなように呼んでください」
「ありがとう。―春人って呼ばせてもらうね。僕たちのことも、好きなように呼んでいいから」
「そうそう。清水でも樹でも、しーちゃんでもいっちゃんでも、何でもいいから」
「しーちゃんといっちゃんは無視していいよ」
「ちょ、無視よくない!」
「恥ずかしいからね、スルーでいいんだよ」
「無視もスルーも同じだろ!え、恥ずかしい?マジか…。頑張って考えたあだ名なんだけど」
「うるさい」
「ひっでぇ!」
テンポのよい会話が続く。
仲が良い人同士でする軽口は、聞いていて心地好い。
「ふふっ」
笑いながら話す彼らを見ていると、僕まで楽しくなってきて、思わず小さな笑い声を上げてしまった。
笑う僕を見た二人が目を丸くしている。
驚いた、という顔で、まじまじと見つめられて、段々不安になってくる。
…も、もしかして、笑ったらいけなかったのかな?
「あ…ごめんなさい。その、本当に仲良しなんだなぁ、って思って…何だか楽しくて…」
慌てて言うと、
「や、謝らなくていいからさ」
「そうだよ。何も悪くないから、謝らないで」
「う、うん…ありがとう」
―あっ。
ホッとして、間違えちゃった。
「ありがとうございます」
すぐに言い直すと、
「春人って、敬語で話す方が楽なの?」
そう聞かれた。
「え?」
「敬語が楽だったり、好きだったら、別にいいんだけど…。違うなら、普通に話してほしいかな」
「だな。同い年なんだし、相手が敬語じゃなければ、タメ口でいいと思う。…個人的には、普通に話してほしいな、俺も」
「―うん、分かった。普通に話すね。…実は、敬語で話すの、あんまり得意じゃないんだ」
「それなら良かった。…ちょっと馴れ馴れしかったかな、って思ったんだ」
「そっか。…俺、敬語嫌いじゃないけど、苦手なんだよなー」
不意に、手を差し出される。
「じゃ」「じゃあ」
「「改めて」」
「よろしくな!」「宜しく」
彼らの笑顔につられるようにして、笑みが浮かぶ。
「うん!宜しくね。―樹くん、透くん」
僕は大きく頷いて、樹くんと透くん、二人と握手をした。

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