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番外編(小ネタ、小話、小説)
四月二日『彼方』
しおりを挟む「奏坊っちゃん、お誕生日おめでとうございます」
四月二日は、奏坊っちゃんのお誕生日だ。
僕が笑顔で告げると、
「…あぁ」
坊っちゃんは少し目を伏せた。
…憂い顔も美しいけれど、坊っちゃんには笑っていてほしいな。
傷口に触れるような真似をした僕が言えることではないのだけど。
…坊っちゃんは、自分が生まれたことも、生きていることすら、憂いている。
誕生日おめでとうなんて、言われたくないんだ。
それを分かった上で、わざと言う僕の真意を、聡いあなたは気付いている。
坊っちゃん…僕は、坊っちゃんがこの世に生まれてくれて、生きていてくれることが嬉しいんです。
―たとえ、あなたが望んでいなくても。
だから、この言葉が、癒えない傷に触れてしまうと分かっていても、伝えたい。
…酷いことをして、すみません。
あなたの過去を知らない僕が…癒やすことも、寄り添うこともできない僕が…こんなことを言うのは、間違っているのでしょうか。
「あの…坊っちゃん」
デリケートな問題に土足で踏み込んだことを後悔する気持ちと、それでも伝えたかったという身勝手な気持ちと、奏坊っちゃんは僕にとってかけがえのない人で、あなたを心から愛している、ということを知ってほしい気持ちがせめぎあう。
謝るべきなのか葛藤していると、
「彼方」
名前を呼ばれた。
坊っちゃんは僕を見上げて、微笑んでくれていた。
「祝ってくれて、ありがとな。―彼方も、誕生日おめでとう。俺も…彼方が生まれたこと、それから、生きていることが嬉しいよ」
「ぼっちゃん…!」
喜びで打ち震える。
ああ、坊っちゃん!!
僕は…。僕は、なんて、幸せなんだろう!
今すぐ死んでもいい!いや、ダメだ。坊っちゃんを残して死ねない。あぁでも、幸せ過ぎて、死にそうだ!!坊っちゃん愛しています!!!
―今日は僕の誕生日でもある。
正確には、違うけど。
何もなかった僕に、坊っちゃんが与えてくれたものの一つだ。
名前も、国籍も、衣食住も、そして、感情も…。
坊っちゃんと出会い、同じ時を過ごして…僕は『道具』ではなく『人間』になった。
奏坊っちゃんが僕の全て。
坊っちゃんの為なら何だってするし、どんなことでもしてみせる。
きっと、僕は坊っちゃんと出会う為に生まれたのだと思う。
生きるも死ぬも、坊っちゃんと共に。
…この幸せが、ずっと続きますように。
それが無理なら、どうか…どうか、奏坊っちゃんが、これ以上傷付かないようにしてください。
照れている坊っちゃんを抱き締めながら、柄にもなく―いるのかどうかも分からない神様に、強く願った。
使い捨てられ、いずれ死ぬだけの道具は、名を与えられ、感情を知り、居場所を得る。
『道具』が『人間』になった日―それは、かけがえのない人が出来た、幸せの始まり。
明日(12日)の0時から、本編の更新を再開します。
彼方の設定諸々(奏との生活について)は、本編終了後に小ネタとして書きます。
終わったことなので、彼方の過去は本編でも明かされませんが、リクエストされたら書こうかな、と思っています(元殺し屋なので、ややグロテスクな表現や、彼方のことは人間ではなく道具扱いしたり、劣悪な環境で洗脳教育されたりなど、性的な展開は皆無ですが、倫理的にはアウトな部分が多々あるので、閲覧注意です)
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