太陽神は創造神の手に余る異世界で破壊神になるらしいので見物に行くことになった道中記

餅狐様

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第肆記  無味の豊穣神

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 ここ数日、あーちゃんの様子がどうもおかしい。

 得意なゲームで連戦連敗。
 アニメを何時間も集中して見ることも、できない。
 ボケーっとしていて、明らかに今までと違う。

 心配故に、夕飯時のうーちゃんに聞いてみた。


「ねぇ、うーちゃんさ。あーちゃん、最近変じゃないかな?」


 うーちゃんの箸が止まった。


「それはのぅ……」


 神妙な面持ちでこちらを見つめる。


「ズバリ、栄養失調じゃからじゃな!」


「いや、プリンがあればいけるってあーちゃん言ってたけど……」


「たわけ! 嘘に決まっておろう! 神も栄養失調になる故、ウチは普通に食事をとっておるのじゃ」


 制止していてたうーちゃんの箸は、パクパクッと軽快に料理をその小さなお口へと運んだ。


「うーん……あーちゃんのこと、何とか出来ないもんかなぁ」


「ニシシ、ウチに提案があるのじゃ」


 スプーンをビシッと俺に向けてニヤニヤしているうーちゃん。

 曇天の太陽を晴らすためなのか、はたまた自分の楽しいと思う事の延長線のためなのか。

 どちらに転んでもあーちゃんが元気になる事に期待を込め、俺はその提案を受け入れる事にした。


「あ、うーちゃん。その避けてるピーマンも食べようね」


「……うるさいのぅ」


 そして翌日、所変わってここは伊勢神宮外宮。

 伊勢神宮に行ったことがある方は御存知だろうが、伊勢神宮は外宮と内宮に分かれていて同一の境内に両宮は存在していない。


 内宮には天照大御神ことあーちゃん。

 外宮には豊受大神とようけのおおかみ……と呼ばれる神様が祀られている。


 今日はうーちゃんと二人きりで朝イチデートだ。
 あーちゃんの寝ている間にこっそりと抜け出てきた。

 神通力で纏うお召し物は、麦わら帽子にダボダボの白の半袖。
 ホットパンツに白ニーハイと、現代の女の子との差はほとんど無い。

 駐車場から正宮まではそこそこ距離がある。
 まだ人気の無い参道を玉砂利を踏み鳴らす二つの足音が境内をこだまする。


「なぁ、うーちゃん。とようけのおおかみ? ってどんな神様なんだ?」


「うむ、端的に申せばおばちゃまの給仕係じゃな。一ヶ月に一度神事がどうのこうのでおばちゃまは伊勢神宮に戻っておるが、あれは栄養補給に行っておるのじゃ」


「えッ! それ初耳なんだけど」


「ニシシ、そりゃあ言ったら理想のプリン生活に終焉が来るからであろう。……でも、良い年してプリンしか食べないおばちゃまにも理由があってじゃな……ほれ、着いたのじゃ。まぁ、豊受に会ってみるのが早かろうよ」


 正宮前に立ちうーちゃんが声を上げる。


「豊受ー! 豊受はおるかのー! 伏見のウカが参ったのじゃよー!」


 正宮の周りを、次第に霧が満たしていく。

 すっぽりと白いカーテンのような障壁が覆う。
 その中からは一つの人影。
 手入れが行き届いた美しい緑髪ポニーテール。
 あーちゃんより少し背丈が高いだろうか。
 凛とした雰囲気のその神は、現れた。



「宇迦様、お久しぶりです。それに人の子も……今日は何故参られたのですか?」


「うむ、おばちゃまが栄養失調じゃから何とかして欲しいのじゃ」


「やはり、天照様は偏った食生活をされておられるのですね……」


 やれやれとでも言わんばかりの面持ち。
 そして、俺が事の経緯を豊受様に説明した。

 話を聞いた彼女は、あーちゃんと面会希望との事で自宅へとお連れする事になった。
 車内でワイワイと無邪気にはしゃぐうーちゃんに対して、窓の外を見つめ何を思っているのか静かに構える豊受様であった。


 二時間後、所変わってここは我が家。

 豊受様を連れて帰ってきたのにも関わらず、まだ腹を出して寝ている正午のあーちゃんである。
 その光景を眼前に焼き付けるかのように立ち尽くし、じっと見つめる豊受様。
 嘘のような誠がその瞳にはどう映っているのか、俺には到底推し測れない。


「えっと……これが天照大御神の実態です。すみません……」


「謝る必要はありません。流しを貸して下さい」


 静かな物言いだが、瞳の奥に宿る炎に俺は圧倒された。
 それを見たうーちゃんは待ってましたと言わんばかりにニヤニヤとしている。

 何だろうか、絶対悪い方向で話は進んでいる訳ではないはず。
 台所からチラリと覗く手際も問題は無さそうだ。
 だが、それなのにどこからか湧き上がるこの一抹の不安の正体は何なのか。


 ――俺には分からない。


 豊受様が台所入りしている間に俺はうーちゃんとゲームだ。
 戦略ゲームが本当に強いうーちゃんに俺はもう勝てない。

 その成長を見るのも、俺の楽しみの一つである。


「ニシシ、煌は弱いのぅ。読みが甘いのじゃ!」


「読みとか以前にうーちゃんがマイナーなうちもんしか使わないから、何してくるか分からなくて対策の立てようがないんだよ」


「ウチは煌がメジャーなうちもんしか使わぬ故、手に取るように読めておるわ。ニシシ」


「おはよぉ……ウカとうちもんなんて煌はドMなのねぇ……」


 ようやくお目覚めのあーちゃん。
 もう日は沈みかけていた。


「煌、プリンはよ」


「今日はプリンよりも良いものがあるよ」


「へぇー、何? サプライズでも用意してくれたの? いいわ、有能か無能か見極めてやろうじゃない!」


 どうやら沈んだお日様は家の中に出てきたらしい。
 機嫌の良い太陽を台所に導いた。

 テーブルにはどこから材料を持ってきたんだと言わんばかりの、豪勢且つ栄養バランスも考えられたどこかの割烹にありそうなご馳走が並んでいた。

 どこからどう見ても美味しそうなその芸術に太陽は陰る。


「天照様、お待ちしておりました。ささ、お召し上がり下さい。煌様と宇迦様の分もご用意ありますので遠慮なさらずに」


 あーちゃんは俺とうーちゃんをギラリと睨み付ける。


「豊受を連れてくるって嫌がらせなの? 煌、マジ無能。ついでにウカは死のう」


「ニシシ、ウチは不滅じゃ!」


「あーちゃん、そんな事言わないで食べようよ。せっかく豊受様がこしらえてくれたんだからさ」


「ハァ……先に食べれば分かるわ。はよ食べて」


 あーちゃんは腕を組んでそっぽを向く。


「じゃあ、お先に失礼。豊受様、頂きます」


 箸を伸ばして口に運ぶ。
 あーちゃんは呆れ顔。
 うーちゃんはニヤニヤ。
 豊受様は真剣だ。


「……うん、非常に美味って、あ……味がねぇぇぇぇぇぇええええ!!!!!」


 この一つの料理ピンポイントで味が無いんだと己に言い聞かせ、残りの料理全てに手を付ける。

 決して不味い訳ではない。


 シンプルに、そうシンプルに超超薄味なのだ。


「こんなの毎日食べてられないでしょ?」


 またしても、ハァと大きな溜息をつくと、どこか諦めたような面持ちであーちゃんは席に着く。

 栄養失調気味なのは本人も自覚ありなのだろう。
 しぶしぶ中身の伴わない芸術を食べる。

 よく管理栄養士と結婚すると食卓が生きているのに死んでいるとは聞いていたが、流石に毎日これというのは俺も正直手厳しい。

 その反動であーちゃんが唯一プリン主義になるのもうなずける。


 そこで、俺は豊受様に提案をすることにした。


「せっかくですから、人間の食文化に触れられてみてはいかがですか? 簡単なモノならすぐできますけど……」


 彼女は感情気味にすぐに返答した。


「素材の味を引き出している私の料理にケチをつけるのですね。……いいでしょう。私の舌を負かしてみなさい! 人の子よ!」


 よし来たと言わんばかりに、俺は冷蔵庫にあった残りの食材で簡単なとろみのある中華風野菜炒めを作る。


「さぁ、召し上がってみて下さい」


 豊受様は初めて見る庶民料理に少々引き気味だ。


「な、何ですか何ですか……このどろどろしたモノの中に野菜なんて入れて……」


 初めて見る料理に警戒しつつも豊受様は手を伸ばす。
 口の前で少しためらうも勢いでパクっと頬張る。

 静かな空間に響くシャキシャキ音。
 それらは喉を通りまた沈黙する。

 緊張の一瞬。
 俺は豊受様の感想に構える。


「……美味! 何ですか何ですか! 大変美味ではないですか!」


 瞬く間に完食する豊受様。
 俺はホッと息を撫で下ろす。


「つまりは、こういうお食事であればあーちゃんも納得してくれると思われます。あーちゃんも食べてみて」


 あーちゃんもトロンとしたそれを嫌そうに食べる。


「……え、待って煌。これ美味いじゃん! 有能だわ」


「ほーれ言ったじゃろ? おばちゃまは食わず嫌いなだけなのじゃ。キクラゲとか食うてみよ。シャキシャキが癖になるのじゃよ」


「どれどれ……どうなってるのこの食感!? 他の野菜だってシャキシャキはするけど、これは舌触りは柔らかいのに食べると程よい硬さで、トロトロの液体の美味さと相まって美味しいわ」


 あーちゃんが初めて俺の料理を、しかも美味しそうに食べてくれている。
 俺は目に熱いものを感じるくらい嬉しかった。


 豊受様は泊まるみたいなので、その後、彼女には現代風調理の仕方について指導のメスを入れた。
 例えるなら、素人が管理栄養士に料理を教える何ともあり得ない光景である。


 次の朝、豊受様のこしらえた料理は大変、大変美味しく、食卓に楽しい風が吹き乱れた。
 みんなで囲む食事は美味しい芸術をさらに昇華させる。


「豊受、あんたもここにいなさい。こんくらいの料理なら毎日食べてあげても……別にいいわ」


 目を閉じながら食べるあーちゃんは、スキルアップした豊穣様に留まるよう促す。


「えっと……それだと煌様に悪いのでは……」


「俺は別にいいよ。これからよろしくね豊受様」


 オドオドしながらこちらを見る彼女。
 俺は快く居住を許可した。


「分かりました。この豊受大神、ここで御奉仕させて頂きます。それと敬語はお辞め下さい。後、……その……私にも皆様のような名前が欲しいです」


 それに素早く反応したのはうーちゃんだ。


「ウチが考えよう。トヨウケだから……よっちゃんでどうじゃろう?」


 相も変わらず、すごーく安直なネーミング。
 だが……肝心の豊受様はというと。


「分かりました! よっちゃん頑張ります!」


 両手でガッツポーズをしてやる気満々の豊受様。
 名前も気に入ってくれたようで俺も一安心だ。

 こんな所に三柱も神様が。
 それも有名所の神様が居ていいものかと。
 自問自答するも答えは出ない。 

 しかし、また一つ家が賑やかになった事実に変わりない。
 その事については、非常に嬉しい俺であった。


――伊勢神宮外宮豊穣神豊受大神がパーティに加わった――
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