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プロローグ
2.秘密の儀式
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翌朝、夜明け前の静寂の中、怜はアラームが鳴る前に目を覚ました。
設定時刻は午前5時。藍の起床は午前7時だが、その前に怜がすべき重要な準備があった。
マニュアル通り、怜は静かに自室を出て、昨夜確認した収納室へと向かう。収納室は、今や怜にとって「仕事場」であり、同時に藍の秘密の核心に触れる場所だった。
怜は、昨日と同じく、冷蔵庫のように冷えた室内に整然と積まれた成人用おむつの山から、指定されたメーカーのものを数枚取り出した。さらに、ウェットティッシュ、皮膚保護クリーム、そして使用済みの処理袋。すべてが、まるで医療現場のように準備されていた。
(先輩は、これで出勤するんだ……)
藍の華やかなビジネススーツ姿と、この白い塊が、怜の頭の中でどうしても結びつかない。そのギャップが、怜の心臓を妙に締め付けた。完璧な存在が抱える、あまりにも人間的で、無防備な弱点。
準備を終え、怜はキッチンの清掃を済ませた後、藍の寝室のドアの前に立った。時刻は午前6時30分。
マニュアルには、こう書かれている。
《起床時の介助》
「主人の目覚めの30分前にはノックをし、許可を得て入室すること。最も重要な業務は、『夜間の確認と交換』である」
怜は深呼吸をし、控えめにノックした。
「篠宮先輩、藤堂です。失礼します」
わずかな沈黙の後、中から低い、少し眠気の混じった声が返ってきた。
「ああ、入れ」
怜は静かにドアを開けた。
部屋の中は、遮光カーテンのおかげでまだ薄暗い。キングサイズのベッドの上には、藍が仰向けになって横たわっていた。その端正な顔は、いつも見せていた毅然とした表情とはかけ離れ、どこか幼い無防力さを漂わせている。
「おはようございます」
「ん、早いな。ご苦労」
藍は目線だけで怜にそう応え、すぐに天井に戻した。その目は、少しぼんやりとしている。
怜は、心臓の鼓動が早くなるのを感じながら、手に持った介助用具一式をサイドテーブルに静かに置いた。
「では、確認させていただきます」
怜は一歩ベッドに近づいた。藍は、パジャマ姿だったが、下半身は分厚い、ショートパンツのような形状の防水カバーを着用していた。これは、万が一の漏れを防ぐためのものだ。
怜はまず、藍の腰に手をかけ、防水カバーのサイドのホックを外した。
藍はされるがまま、表情一つ変えない。その無言の了解が、怜に緊張と同時に奇妙な許可を与えているように感じられた。
そして、防水カバーを静かにずらすと、その下に着用されていた、夜間用のおむつが露わになった。
「……っ」
おむつは、明らかに夜間の間に吸水し、中央部分がふっくらと膨らんでいた。淡いオムツ特有の臭いが、怜の鼻腔をくすぐる。それは、少し熱を持ち、しっとりとした、使用済みの証拠だった。
怜は、昨夜の準備で多少覚悟を決めていたはずなのに、憧れの先輩の、この無防備な状態を間近にした途端、頭の中が真っ白になった。
(これが、篠宮藍の秘密……)
藍は、まだ目を閉じたまま、小さく呟いた。
「……どうだ、怜。漏れてるか?」
その声は、恥ずかしさや戸惑いを一切含まない、まるで天気について尋ねるような、日常的なトーンだった。その無感情さが、かえって怜を深く動揺させた。
「いえ、大丈夫です。カバーへの浸透はありません」
怜はかろうじて声を絞り出す。
「そうか。じゃあ、早く済ませてくれ。午前8時には会議がある」
「はい」
怜は深呼吸し、プロ意識を装うよう努めた。
「失礼します、体を少し横にしてください」
怜の指示に、藍は素直に体を右に向けた。
怜は、手慣れた介護士のように、膨らんだおむつのサイドテープを静かに剥がし、そっとその重みを感じながら、藍の臀部の下から引き抜いた。
その瞬間、藍の無防備な下腹部が、初めて怜の目に晒された。
怜は、すぐに新しいおむつを滑り込ませ、濡れた部分を温かいタオルで丁寧に清拭する。藍の肌は驚くほど白く、怜の手の動きに小さく震えているのが感じられた。
「……ごめん」
藍が、初めて謝罪の言葉を口にした。
「いや、気にしないでください。これは俺の仕事ですから」
怜は冷静を装うが、手の震えは止まらない。
全てが終わり、清潔な新しいおむつが藍の腰にしっかりと固定された時、怜は深い疲労感と、得体の知れない達成感を同時に覚えた。
(先輩は今、俺の手の内にいる……)
「ありがとう、怜。さすが、完璧だな」
藍は、ようやく目を開け、怜の顔を見た。その瞳は、怜が知っている、挑戦的で自信に満ちた、篠宮藍の瞳だった。
設定時刻は午前5時。藍の起床は午前7時だが、その前に怜がすべき重要な準備があった。
マニュアル通り、怜は静かに自室を出て、昨夜確認した収納室へと向かう。収納室は、今や怜にとって「仕事場」であり、同時に藍の秘密の核心に触れる場所だった。
怜は、昨日と同じく、冷蔵庫のように冷えた室内に整然と積まれた成人用おむつの山から、指定されたメーカーのものを数枚取り出した。さらに、ウェットティッシュ、皮膚保護クリーム、そして使用済みの処理袋。すべてが、まるで医療現場のように準備されていた。
(先輩は、これで出勤するんだ……)
藍の華やかなビジネススーツ姿と、この白い塊が、怜の頭の中でどうしても結びつかない。そのギャップが、怜の心臓を妙に締め付けた。完璧な存在が抱える、あまりにも人間的で、無防備な弱点。
準備を終え、怜はキッチンの清掃を済ませた後、藍の寝室のドアの前に立った。時刻は午前6時30分。
マニュアルには、こう書かれている。
《起床時の介助》
「主人の目覚めの30分前にはノックをし、許可を得て入室すること。最も重要な業務は、『夜間の確認と交換』である」
怜は深呼吸をし、控えめにノックした。
「篠宮先輩、藤堂です。失礼します」
わずかな沈黙の後、中から低い、少し眠気の混じった声が返ってきた。
「ああ、入れ」
怜は静かにドアを開けた。
部屋の中は、遮光カーテンのおかげでまだ薄暗い。キングサイズのベッドの上には、藍が仰向けになって横たわっていた。その端正な顔は、いつも見せていた毅然とした表情とはかけ離れ、どこか幼い無防力さを漂わせている。
「おはようございます」
「ん、早いな。ご苦労」
藍は目線だけで怜にそう応え、すぐに天井に戻した。その目は、少しぼんやりとしている。
怜は、心臓の鼓動が早くなるのを感じながら、手に持った介助用具一式をサイドテーブルに静かに置いた。
「では、確認させていただきます」
怜は一歩ベッドに近づいた。藍は、パジャマ姿だったが、下半身は分厚い、ショートパンツのような形状の防水カバーを着用していた。これは、万が一の漏れを防ぐためのものだ。
怜はまず、藍の腰に手をかけ、防水カバーのサイドのホックを外した。
藍はされるがまま、表情一つ変えない。その無言の了解が、怜に緊張と同時に奇妙な許可を与えているように感じられた。
そして、防水カバーを静かにずらすと、その下に着用されていた、夜間用のおむつが露わになった。
「……っ」
おむつは、明らかに夜間の間に吸水し、中央部分がふっくらと膨らんでいた。淡いオムツ特有の臭いが、怜の鼻腔をくすぐる。それは、少し熱を持ち、しっとりとした、使用済みの証拠だった。
怜は、昨夜の準備で多少覚悟を決めていたはずなのに、憧れの先輩の、この無防備な状態を間近にした途端、頭の中が真っ白になった。
(これが、篠宮藍の秘密……)
藍は、まだ目を閉じたまま、小さく呟いた。
「……どうだ、怜。漏れてるか?」
その声は、恥ずかしさや戸惑いを一切含まない、まるで天気について尋ねるような、日常的なトーンだった。その無感情さが、かえって怜を深く動揺させた。
「いえ、大丈夫です。カバーへの浸透はありません」
怜はかろうじて声を絞り出す。
「そうか。じゃあ、早く済ませてくれ。午前8時には会議がある」
「はい」
怜は深呼吸し、プロ意識を装うよう努めた。
「失礼します、体を少し横にしてください」
怜の指示に、藍は素直に体を右に向けた。
怜は、手慣れた介護士のように、膨らんだおむつのサイドテープを静かに剥がし、そっとその重みを感じながら、藍の臀部の下から引き抜いた。
その瞬間、藍の無防備な下腹部が、初めて怜の目に晒された。
怜は、すぐに新しいおむつを滑り込ませ、濡れた部分を温かいタオルで丁寧に清拭する。藍の肌は驚くほど白く、怜の手の動きに小さく震えているのが感じられた。
「……ごめん」
藍が、初めて謝罪の言葉を口にした。
「いや、気にしないでください。これは俺の仕事ですから」
怜は冷静を装うが、手の震えは止まらない。
全てが終わり、清潔な新しいおむつが藍の腰にしっかりと固定された時、怜は深い疲労感と、得体の知れない達成感を同時に覚えた。
(先輩は今、俺の手の内にいる……)
「ありがとう、怜。さすが、完璧だな」
藍は、ようやく目を開け、怜の顔を見た。その瞳は、怜が知っている、挑戦的で自信に満ちた、篠宮藍の瞳だった。
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