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第3章 その兄弟喧嘩、本当に必要ですか?

第34話 振り返れば奴もいた

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「エーリック殿下に無理強いされて好きでもない相手を好きと言わされるなんて!」

 ケヴィンは続けて大きな声で右に左に向きながら芝居じみた仕草で叫ぶ。彼がとうとう狂ったかとウェルシェは眉をひそめた。

「何を仰ってますの。私はエーリック様に強要などされていませんわ」
「いったい何を根拠に僕がウェルシェを脅していると言うのですか!」
「アイリスが教えてくれた」

 アイリス?
 誰それ??

 ウェルシェとエーリックは一瞬それが誰なのかが分からず二人並んで同時に首を傾げた。

「彼女は言っていた。エーリック殿下は意に添わぬ婚約者で、ウェルシェが本当に愛しているのは私だと」
「まったく事実無根の言い掛かりですわ」
「僕達の関係は上手くいっている」
「見ず知らずの方が良く知りもしないで酷いですわ」

 こんな金にもならない勘違いヤローを好きだなんて思われるのは心外だ。頭も緩そうだし、結婚してこんな無能をグロラッハの当主にしたら領地が秒で崩壊しかねない。

 利と理をこよなく愛するウェルシェにとって1ミリもメリットの無い相手に懸想したと思われるなどとんでもない風評被害だ。

「いったいそのアイリスとはどなたですの?」

 自分を貶めているのは何処のどいつだとウェルシェはお冠だ。

「知らないのかい? 『スリズィエの聖女』で有名だけど……オーウェン殿下の真なる想い人さ」

 ――あのピンク頭か!

 オーウェン殿下の浮気相手、男達を侍らせるバッタもん聖女様――アイリス・カオロである。

「お待ちください。私はアイリス様とは面識がございませんわ」
「そうですよ。そんな令嬢にどうして僕達の仲を疑われなきゃならないんです」
「良く知りもせずに酷いですわ」
「根も葉もない虚言を流布するのはさすがに問題ですよ」

 二人は猛抗議した――が、ケヴィンはまったく聞いていなかった。

「ああ、王家の力でむりやり婚約を結ばされた可哀想な姫君よ、この私がきっと君を真実の愛で救ってみせよう」
「――!?」

 しかも、聞く耳を持たず自己陶酔しているケヴィンの発言はかなり問題があった。

「それは王家への批判ですか!?」
「ケヴィン先輩、それは問題発言ですよ!?」

 まるで王家の取り決めが不当であると言っているようなもので、国への反意とも捉えられかねない内容にウェルシェとエーリックはギョッとした。

「そこで何を騒いでいる!」

 その時、エーリックと同じ金髪でエーリックよりも深い青い瞳の男子生徒が割って入ってきた。

「兄上!?」

 それはエーリックの腹違いの兄であり、この国の第一王子オーウェンであった……
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