あなたのお嫁さんになりたいです!~そのザマァ、本当に必要ですか?~

古芭白あきら

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第9章 その乙女ゲーム、本当に必要ですか?

第103話 見た目詐欺

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「何なのかしら、あれ?」

 いきなり現れ一方的に捲し立て周囲を荒らして去って行く嵐のようなアイリスに、ウェルシェは不覚にも呆気に取られてしまった。

「あれが『スリズィエの聖女』と呼ばれているの?」

 可愛い桜色淡いピンクの髪、澄んだ空色スカイブルーの瞳、華奢で小柄な肢体、際立った美貌ではないが、全体としてとても清涼感のある愛らしい美少女。

 確かに外見はスリズィエを連想させる可憐な令嬢である。
 だが、その中身は聖女より狂女だとウェルシェは思った。

「とんだ見た目詐欺ね」

 カミラがいれば「お前が言うな」とツッコミしそうな完全なる特大ブーメラン発言である。

「あなた達の苦労がしのばれるわ」
「お気遣い痛み入ります」

 アイリスが去りウェルシェしかいないはずの花園に響く男性の声。

「まさか突撃を掛けられるなんてね」
「お助けできず申し訳ありません」

 その声はレーキ・ノモのものである。
 どうやら木の陰に隠れているようだ。

「仕方ないわ。今しばらくは私とあなた達の関係をオーウェン殿下には悟られたくないもの」

 正直そこまで警戒する必要があるのだろうかとレーキは疑問に思う。

 オーウェンはレーキ達を軽く見ている。彼らがウェルシェと結託しても歯牙にも掛けまい――レーキはそう分析している。

「あの女の異常性は見ての通りですので重々お気をつけください」
「あそこまで滅茶苦茶な方だったとは思いもしなかったわ」

 レーキの忠告にウェルシェは乾いた笑いを浮かべた。

「オーウェン殿下達はあんなスリズィエののどこが良かったのかしら?」

 誰がどう見てもイーリヤの方に軍配が上がる。

「まったく、殿方の趣味は理解できないわ」
「あの方々の嗜好を一般的男性のそれと一括りにしないでください」

 レーキは心外そうに思いっきり顔をしかめた。

「そうねぇ、オーウェン殿下達以外の殿方は彼女に近づいていないわね」
「彼らにとってアイリス・カオロは聖女か女神の如き崇拝の対象みたいですよ」

 ウェルシェはオーウェン達とアイリスについても調査している。だから、彼らがアイリスに傾倒するに至った経緯も承知していた。

「殿下達は他人に厳しくご自分に甘い方々なのですね」
「甘言が助言に、諫言かんげん讒言ざんげんに聞こえる人達ですから」

 だから、ウェルシェは思考の飛躍をした発言をしてしまったのだが、優秀なレーキは意をんで理解を示して皮肉で返した。

「まったく呆れたものだわ」

 ウェルシェはオーウェンの側近達がアイリスに陥落した経緯の報告書を思い出してげんなりした。
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