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第10章 その陰謀、本当に必要ですか?

第110話 その怯える姿はやっぱり演技なんですか?

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「ウェルシェ!」

 すぐに来て欲しいとのウェルシェからの手紙に、エーリックは取る物も取りあえずグロラッハ家へと急行した。

 そこで彼の目に入ったのは最愛の婚約者の怯える姿。

「ああ、エーリック様……私……とても怖いですわ」

 その美しい顔貌かんばせを恐怖に引き攣らせ、ウェルシェは真っ青になってエーリックに訴えた。穢れなき雪の如き真っ白な肌から可哀想なほど血の気が引いている。

「いったいどうしたの?」

 今にも倒れそうな最愛の婚約者に慌ててエーリックは駆け寄ると、両手でウェルシェを支えるように肩を抱き留めた。

(つ、冷たい!?)

 その瞬間、手に伝わってきた体温の低さにエーリックはびっくりした。ウェルシェの細い肩が氷のように冷えていたのだ。

「うっ、うっ、私……ヒック……私……グスッ……どうしたら良いか……」

 しかも、ハラハラと涙を流して頬を濡らし、手で覆った口から嗚咽を漏らしているではないか。

「大丈夫、僕がついているよ」

 エーリックは優しく包み込んでウェルシェの背中をさする。

「いったい何があったんだい?」
「そ、それが……ここ最近、誰かにつけ回されているみたいなんです」
「なんだって!?」

 エーリックは目を大きく見開き驚いた。

「僕らの婚約は王妃オルメリア様からの後ろ盾もあると言うのに!」

 オルメリアの裁定後、ウェルシェの周辺から不埒者の姿は消えて久しい。だが、喉元過ぎれば熱さを忘れるもので、また不心得者が出たのかとエーリックは眉間に皺を寄せた。

「懲りもせずに僕のウェルシェをつけ狙うなんて……いったい誰が?」
「そ、それが分からないのです」

 ウェルシェはふるふると首を横に振った。

「いつも誰かに見張られているみたいで……ですが、決して近づいてこず姿を見せないのです」

 卑劣なストーカーには男でも精神を病むのだ。ましてやウェルシェは非力な貴族令嬢だ。姿を現さない者につけ回される彼女の恐怖はいかばかりか。

「報復を恐れてコソコソ隠れて隙を窺っているのか」
「私……恐ろしくて……」

 いかに婚約が王妃の後ろ盾を得ていても、襲われ無体を働かれればどうにもならない。そんな恐怖に四六時中ウェルシェはさらされている。

「くっ、卑怯者め!」

 自分の両肩を抱き締めガタガタ震える最愛の婚約者の怯える姿にエーリックは怒りを覚えた。

「安心してウェルシェ。僕が何とかするよ!」
「本当ですの?」

 ウェルシェの問いにエーリックは自信を持って頷く。

「うん、実はそいつらに心当たりがあるんだ」
「え゙っ!?」

 あまりに予想外の言葉に演技が崩れ、ウェルシェは変な声を上げてしまったのだった。
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