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第13章 そのラブコメ、本当に必要ですか?

第142話 腹黒令嬢の醜態

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 競技場の真ん中で動きやすいが、可愛らしさもある白い競技服に身を包むウェルシェは誰もが見惚れる美少女だ。

 競技に邪魔にならないようにと、いつも下ろしている髪をポニーテールに纏めているのがまた愛らしい。

 普段ならウェルシェは愛想よく笑顔を振りまいて、己の美貌で周囲の人間を魅了しまくる。ところが、どうした事か今はどうにも表情が硬い。

 ウェルシェは珍しく緊張していた。
 無意識に魔杖タクトを握る手に力が籠る。

 ――魔弾の射手クイックショット本戦第二試合三本目。

開始10秒前オンユアマーク、9……8……』

 競技開始のカウントダウンが始まった。
 魔杖を握るウェルシェの手に汗が滲む。

『……6…‥5……』
(ちっ!)

 心の中で舌打ちして、ウェルシェは素早くオリジナル腹黒魔術を発動させた。手の温度をほんの少しだけ下げ強引に汗を引かせるためだ。

(情け無い……たかだか子供のお遊戯で!)

 自分の醜態にウェルシェは動揺していた。

『…‥4…‥3……』

 こんな経験は初めてだ。

(どうして……)

 なぜ緊張してしまうのか分からずウェルシェは戸惑う。

 この二回戦でもウェルシェは一本目を再びパーフェクトゲームで先取。だが、二本目は僅差で奪われてしまった。

 そして、一対一で迎えた三本目。

 先行の対戦相手は味方人形標的アレイターゲットへ誤射した以外のミスはなかった。

 だが、味方への誤射はマイナス2ポイントで敵人形標的を二つ外したに等しい。しかも、同点も場合は味方人形標的への誤射数の多い方が負けとなる。

 つまり、ウェルシェは味方への誤射さえしなければ、二つまで敵人形標的を外してもよいのだ。

 接戦の中、俄然ウェルシェに有利な状況で勝負を決する大切なゲームを開始するところである。だから、常人なら緊張するのが当たり前のシチュエーション。

 だけど……

(別に負けたっていいのに)

 将来が既に約束されているウェルシェにとって、剣魔祭での成績にこだわる理由などない。青春をかけて試合に臨んでいる他の生徒とは違うのだ。

 それなのに、なぜか緊張してしまっている。どうにも自分の感情をコントロールできない。

『……1……ピーッ!』
 ガコンッ!

 答えが出ないまま開始のホイッスルが無情に鳴らされた。

 考え込んでいたウェルシェは反応が遅れ、放った白銀の魔弾バレットは標的から僅かに外れてしまった。

「ちっ!」

 思わず舌打ちが漏れ出る。
 本当にあり得ない醜態だ。

(とにかく今は目の前に集中!)

 試合に負けるのは構わないが、無様を晒すのはいただけない。

 気を取り直してウェルシェは次々と飛び出す標的へ向けて魔杖タクトを振るうのだった。
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