転生ヒロインに国を荒らされました。それでも悪役令嬢(わたし)は生きてます。【完結】

古芭白あきら

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本編

29. 出会い

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「凄い……」


 次々と襲い来る猿の様な『魔獣』を黒髪の男性は事も無げに斬り捨てていく。

 その筆舌に尽くし難い戦いは圧倒的で、なんと言いますか彼が動いたと思った瞬間、光が走るのです。その光が剣閃であると分かった時には『魔獣』が真っ二つに裂かれているのです。

 今も彼を取り囲んで一斉に飛び掛かった4体の『魔獣』が、4本の光が走って線を描いたかと思うと宙で両断されて黒い瘴気と共に掻き消えてしまいました。


「なんだあいつは……」
「圧倒的じゃないか」


 あれだけいた『魔獣』が瞬く間に斬り伏せられ、気がついた時には全て消え去っていました。

 私達は余りの事態に茫然としてしまいました。確かに小型の『魔獣』ではありますが、ああも易々とほふれるものではありません。しかもあれだけ多数の『魔獣』を1人で討伐するなど、その強さは尋常ではありません。


 時間にして数分くらいでしょうか。戦闘が終わり彼が納刀する音に私は我に返りました。

 私は1人その黒髪の男性の方へと歩き始めました。


「待ってくれシスター」
「あの男が味方とは限らん」


 自警団の方々が私の行動を制止しましたが、私は歩みを止めませんでした。


「彼のお陰で助かったのです。お礼を述べねばなりません」
「だが……」
「1人で行くのは危険だ」
「俺達も行く!」


 私の身を案じてくださったのでしょう、数人が私に随伴してくださいました。そのお気持ちはとても嬉しいのですが、大勢で推し掛けて彼に威圧感を与えてしまわないか心配です。

 ですが黒髪の男性に近づくと付いてきてくれた自警団の方々が呻き声を漏らしました。


「くせっ!」
「ぐっ……なんだこの臭い?」
「た、耐えられん……」


 どうやら黒髪の男性から異臭が発せられていたのです。彼をよく観察すれば、衣服は随分と草臥くたびれ、汚れも酷く、その顔はやつれ、鋭い眼光でしたが眼窩にくまができており、かなり衰弱しているのが分かりました。


「もし、大丈夫ですか?」


 今にも倒れてしまいそうな彼の様相に、私は思わず駆け寄りその体を支えました。


「お……れ……は……」


 彼はそのまま崩れ落ちてしまいました。
 ここまで弱った体であれ程の戦いを……


「いけません。この方を早く町までお運びして!」


 私は異臭に近寄ろうとしなかった自警団の方々に叱咤を飛ばし、彼を町まで運んで孤児院へと迎え入れたのでした。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 目が覚めると見知らぬ粗末な天井が俺の目に入ってきた。その次は俺が寝かされている粗末なベッドが。周囲を見回せば狭い部屋で、ベッドの横で椅子に腰掛けた女性が俺に優しい視線を向けていた。

 あの時『魔獣』に襲われてた一団にいたシスターだ。

 輝くような金髪に、引き込まれそうな翠の瞳。
 とても綺麗な女性だった。


「お目覚めですか?」
「ああ……」
「お水を飲まれますか?」


 俺がこくりと頷くと、彼女はにこりと笑うと吸飲みを手にした。俺が上半身を起こすと、彼女が甲斐甲斐しく俺の背に手を回して口元に吸い口を持ってきたので、そこから水を一口こくりと飲み込んだ。


「ありがとう」


 礼の述べると彼女は首を振った。


「お礼を申し上げるのはこちらの方です。危ない所を助けて頂きありがとうございます」
「俺はただ掛かる火の粉を払っただけだ」
「それでも助けて頂いたのは事実です」


 何となく彼女は真面目で頑固なんだろうなと感じた。


「それにしてもかなり衰弱しておいでの様ですが……」
「ここ暫く真面まともに食事もとらずに旅してたからな」


 王都を出てからここまで、人里を避けて旅をしてきた。満足な食事も摂っていなかったのだ、常人だったらとっくに死んでいただろう。


「長旅を……通りで」


 そう言えば、『魔獣』を全部倒した後に近づいてきた男達がしかめっ面してたな。水浴びさえしてなかったから凄い悪臭を放っていたんだろうな。

 自分を見れば、鎧などは外され簡素だが清潔な服を纏っていた。どうやら体を綺麗に拭いて服を着替えさせてくれたらしい。


「すまない。かなり汚れていたし、酷い臭いだったろ?」
「謝る必要はありません。助けて頂いた恩義にこの程度はどうということはありません」


 彼女の言葉と声音には優しさと誠実さが籠っている。
 何故だろうか、俺はとても安心してゆったりとした気持ちになった。
 こんなにもリラックスした気分を味わったのは何時以来だろうか?


「何か口に入れられる物を持ってきますね」


 彼女はそう言って立ち上がろうとしたのだが、俺は咄嗟に彼女の腕を握っていた。彼女が傍から離れるのがどうしても耐えられなかった。

 そんな俺に不思議そうな顔を彼女がしたので、断りも無く女性の腕を掴んでいる自分に気がつき、俺は気が動転してしまっていた。


「そ、その俺は悠哉だ。結城悠哉」


 なんで俺は自己紹介なんてしてるんだ?
 もっと気の利いた事を言えないのか俺は!


「ユーヤさんとお呼びすればよろしいですか?」
「ああ、構わない……あんたはミレーヌ・フォン・クライステルなのか?」


 俺の問いかけに彼女は一瞬びっくりした表情を見せたが、すぐに真顔に戻るとゆっくり首を横に振った。


「ミレーヌ・フォン・クライステルはもう死にました」


 彼女のその言葉に俺はぎょっとした。

 俺が探していた『辺境の聖女』はもういないのか?
 それとも目の前の彼女がその『辺境の聖女』で、ミレーヌとは別人なのだろうか?
 そうだとすれば、迫害されてもなお強く人々の為に生きる聖女は虚像だったのだろうか?

 だが、そんな俺の疑念を他所に彼女は語り続けた。


「私はシスター・ミレです」


 そう名乗る彼女の顔はどこか寂し気だったけれど、そのかげが俺の胸にグッと迫って目が離せなかった。


「私はこの地で生まれ、この地で生きる人々の1人に過ぎません」


 そう言って笑う彼女の表情はとても優しく穏やかで、俺はそんな彼女に見惚れてしまった。


「だから貴方の探す・・・・・『ミレーヌ・フォン・クライステル』はもうこの地にはいないのです」


 彼女の言葉の意味を俺は理解した。

 彼女の中の『ミレーヌ・フォン・クライステル』はもう死んだのだ。そして、彼女はシスター・ミレとしての生を辺境の地で得て、この地の為に生きると決意したのだろう。


 彼女が羨ましいと思った。
 彼女がとても眩しく見えた。
 彼女と同じ様に生きたくなった。


「俺も生まれ変わる事ができるだろうか?」


 誰かに聞かせる為の呟きではなかったが、彼女はそれを正確・・に拾って温かな笑顔を向けてくれた。


「貴方がそう望むのであれば」
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