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第六章
4.貴族だろうが俺には関係がない【5】
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「私はね、商人になりたかったの。家の為ではなく、自分の為に生きたかった」
ユーニキュアさんの視線は遠くを見ていました。それは荷馬車の方を見ているようでいて、もっと違う場所に思いを馳せているようです。
既に終わった事のように語ってはいるものの、彼女の瞳は夢に向けられ輝いていました。
「それなのに、もうダメね。商団もなくなってしまった……。あ~あ、これで私の自由も終わり。後は両親の為に家の為に、この身を捧げなくちゃ」
「諦めて……しまうのですか?」
言葉と共に私に向けられた彼女の瞳からはもう先程の輝きは消えています。夢としての光が潰えてしまったようでした。
確かに多くの荷馬車は壊れて倒され、たくさんの荷物が散乱しているようです。そして周囲には倒れている人達。彼女の仲間である事は明白でした。
それでも私の言葉に偽りの仮面をつけたユーニキュアさんが微笑みます。
「そうよ。今回が最後のチャンスだったもの。私、十九になるの。もう夢見る少女じゃいられなくなったのよ」
「夢を見るのに年齢制限があるのですか?」
「当たり前じゃないの。結婚して子供を育てなきゃならないのよ?夢の中では王子様が来てくれても、実際に王子様なんてみつからないわ。長女なら家を守る為にお金持ちではなくともそれなりの相手と結婚しなくちゃいけないし、好き嫌いがどうであれ子孫を残して繁栄させなければならないの」
表情では笑みを浮かべてはいました。
ですがこれって、彼女の本心ではないですよね。だって、瞳に輝きがないのです。夢が捨てきれないと雄弁に語っていました。
「ユーニキュアさんの思いは、そうではないですよね?本当は商人になりたいのではないのですか?」
「……なりたいわよ。でも、思ってるだけじゃダメだもの。私は長女なの。家を守るのは当たり前の事。貴族の義務ね」
「その為にご自分を犠牲にされるのですか?」
追及した私の言葉に首肯しつつも、立場が優先されるのだと言い切りました。でも私は彼女の考えに思わず自分の思いをぶつけてしまいます。
──あぁ、これって私の自己満足ですよね。
不意に冷静になりました。私は今ユーニキュアさんの事ではなく、ヴォルの事を思って怒っていたようです。勝手なのは私ですよね。
「ごめんなさい」
「……良いのよ。貴女の言いたい事も分からなくはないもの」
申し訳なくなって謝罪した私に対し、ユーニキュアさんは力なく微笑みました。
気分を害した様子はないので、少しだけ安心します。
「本当は私もそう思って、無理矢理この商団を率いて町を出たの。……でもその結果がこれ。商団の仲間も荷物も護衛も、皆ダメにしてしまったわ。もう言い訳が出来なくなっちゃった。これが現実なのよね」
「あの……、ご両親はユーニキュアさんの夢の事を知っているのですか?」
「知っている訳がないじゃない。教えた事すらないわよ。それに……言ったところで無駄なんじゃないかしら。だって貴族は、家を繁栄させていかなくてはならないもの」
消えそうな溜め息が聞こえました。
そして全てを諦めてしまったかのように、ユーニキュアさんは寂しく笑います。とても儚い雰囲気でした。
固定観念というものでしょうか。幼い頃から当たり前と聞かされて、それ以外の事実を知ろうともしていないのです。本当はもっと良い方法があるかもしれないのに。
何だか悲しいです。ヴォルもそうでしたけど、地位や権力を持った方々はそういうものなのでしょうか。
それが『普通』の事なのでしょうか。私には分かりません──分かりたくもないのかもしれないですね。
ユーニキュアさんの視線は遠くを見ていました。それは荷馬車の方を見ているようでいて、もっと違う場所に思いを馳せているようです。
既に終わった事のように語ってはいるものの、彼女の瞳は夢に向けられ輝いていました。
「それなのに、もうダメね。商団もなくなってしまった……。あ~あ、これで私の自由も終わり。後は両親の為に家の為に、この身を捧げなくちゃ」
「諦めて……しまうのですか?」
言葉と共に私に向けられた彼女の瞳からはもう先程の輝きは消えています。夢としての光が潰えてしまったようでした。
確かに多くの荷馬車は壊れて倒され、たくさんの荷物が散乱しているようです。そして周囲には倒れている人達。彼女の仲間である事は明白でした。
それでも私の言葉に偽りの仮面をつけたユーニキュアさんが微笑みます。
「そうよ。今回が最後のチャンスだったもの。私、十九になるの。もう夢見る少女じゃいられなくなったのよ」
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「当たり前じゃないの。結婚して子供を育てなきゃならないのよ?夢の中では王子様が来てくれても、実際に王子様なんてみつからないわ。長女なら家を守る為にお金持ちではなくともそれなりの相手と結婚しなくちゃいけないし、好き嫌いがどうであれ子孫を残して繁栄させなければならないの」
表情では笑みを浮かべてはいました。
ですがこれって、彼女の本心ではないですよね。だって、瞳に輝きがないのです。夢が捨てきれないと雄弁に語っていました。
「ユーニキュアさんの思いは、そうではないですよね?本当は商人になりたいのではないのですか?」
「……なりたいわよ。でも、思ってるだけじゃダメだもの。私は長女なの。家を守るのは当たり前の事。貴族の義務ね」
「その為にご自分を犠牲にされるのですか?」
追及した私の言葉に首肯しつつも、立場が優先されるのだと言い切りました。でも私は彼女の考えに思わず自分の思いをぶつけてしまいます。
──あぁ、これって私の自己満足ですよね。
不意に冷静になりました。私は今ユーニキュアさんの事ではなく、ヴォルの事を思って怒っていたようです。勝手なのは私ですよね。
「ごめんなさい」
「……良いのよ。貴女の言いたい事も分からなくはないもの」
申し訳なくなって謝罪した私に対し、ユーニキュアさんは力なく微笑みました。
気分を害した様子はないので、少しだけ安心します。
「本当は私もそう思って、無理矢理この商団を率いて町を出たの。……でもその結果がこれ。商団の仲間も荷物も護衛も、皆ダメにしてしまったわ。もう言い訳が出来なくなっちゃった。これが現実なのよね」
「あの……、ご両親はユーニキュアさんの夢の事を知っているのですか?」
「知っている訳がないじゃない。教えた事すらないわよ。それに……言ったところで無駄なんじゃないかしら。だって貴族は、家を繁栄させていかなくてはならないもの」
消えそうな溜め息が聞こえました。
そして全てを諦めてしまったかのように、ユーニキュアさんは寂しく笑います。とても儚い雰囲気でした。
固定観念というものでしょうか。幼い頃から当たり前と聞かされて、それ以外の事実を知ろうともしていないのです。本当はもっと良い方法があるかもしれないのに。
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