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第八章
6.魔力以外を感じられない【4】
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「あ~、面白かった」
散々ベンダーツさんに笑われ、私は何だか怒り疲れてしまいました。
ベンダーツさん、笑いだすと止まらなくなるみたいです。お酒を飲んでいないので酔ってはいない筈ですが、私の中に『ベンダーツさん笑い上戸疑惑』が浮かび上がりました。
「……もう良いですよ」
「メルの方が可愛い」
拗ねてみせる私は、当たり前のように返されたヴォルの言葉に思考が吹き飛びます。
いつの間にかヴォルの膝上に抱き上げられていたのですが、予想外な背後からの不意打ちでした。それで慌てて振り向こうとした私ですが、何故だかヴォルにガッシリと頭を押さえられてしまいます。
何ですかね、この固定は意味が分かりませんでした。痛くはない程度の、それでも動かす事の出来ない強さなのです。
「な、どうしたのですかっ?!」
「問題ない」
混乱しつつ問い掛ける私に、声音だけはいつものヴォルでした。
けれども問題がないなら、頭を放して欲しいです。無理に振り返ろうとしても首が痛いだけで、私の力では抗う事は不可能でした。いえ、考えなくとも力の差は当たり前です。
「それなら何故頭を押さえるのです?」
「困るからだ」
現在進行形で困惑しているのは私の筈ですが、何故かヴォルの方が困っているようでした。
しかしながら、どうしてヴォルが困るのでしょうか。
そんなやり取りをヴォルとしていると、またベンダーツさんがクスクスと笑っている事に気が付きました。
もう、一体何なのでしょうか。
私は溜め息を吐き、頭を押さえるヴォルの手に抵抗する事をやめました。
「……熱い……」
聞こえるかどうかの囁きが耳を打ちます。
今の──ヴォルですよね?
確かにいつもより掌の熱が高いような気がしました。けれども振り向きたいのですが、今は頭部を固定されているのでダメなようです。
視線を向ければ未だにクスクス笑っているベンダーツさんでしたが、本当にヴォルの具合が悪いならこんなふうに楽しそうな筈がないのです。
「ヴォル?もう今は振り向かないですから、頭を放してください」
「分かった。……すまない」
謝罪の言葉と共に手を放されましたが、何だか複雑な心境でした。──なんて思っていたのですが、そのまま後ろから抱き締めてきたヴォルの頭が私の肩に乗ります。
赤い──ですね。
何がって、ヴォルの耳が──それは私が見ても驚く程でした。
私は抱き締められている側なのでキチンと確認する事は出来ませんが、ヴォルの紺色の髪から覗く耳が真っ赤に染まっています。どうやら、熱いのは羞恥から来る体温上昇のようでした。
「も~う、二人共最高だねっ。……あ~、俺も嫁が欲しくなってきたなぁ」
笑いを抑えるでもなく、ベンダーツさんはとても楽しそうです。
しかしながらヴォルも私もそれに対して反論するような事を何も言えず、ただ二人して固まっていたのでした。
「……明かりだ」
呟くマークの声に目を開ける。辺りが暗くなっている事から、あれからかなり時間が過ぎているようだった。
俺は魔力回復の為にメルを抱き締め、いつの間にか二人して眠っていたようである。そして現時点でもメルは俺の腕の中で、安らかな呼気を繰り返していた。
「あ、ごめん。起こしちゃった?」
「問題ない。それより……」
眉根を下げてのすまなさそうなマークから、前方より近付いてくる光に視線を向ける。
──魔力感知を展開、魔力認識。
方角からしてケストニアから来たようだった。
「距離があるから分からないけど……人間?」
「魔力以外を感じられない。魔物だ」
「マジ?でも、魔物が明かりなんか使うかねぇ?」
訝し気なマークだったが、そんな事は俺にとってどうでも良い。
『魔物』か、『そうでないか』の区別だけで十分だ。
現実問題として、俺は魔物を可能な限り殲滅したいからである。
散々ベンダーツさんに笑われ、私は何だか怒り疲れてしまいました。
ベンダーツさん、笑いだすと止まらなくなるみたいです。お酒を飲んでいないので酔ってはいない筈ですが、私の中に『ベンダーツさん笑い上戸疑惑』が浮かび上がりました。
「……もう良いですよ」
「メルの方が可愛い」
拗ねてみせる私は、当たり前のように返されたヴォルの言葉に思考が吹き飛びます。
いつの間にかヴォルの膝上に抱き上げられていたのですが、予想外な背後からの不意打ちでした。それで慌てて振り向こうとした私ですが、何故だかヴォルにガッシリと頭を押さえられてしまいます。
何ですかね、この固定は意味が分かりませんでした。痛くはない程度の、それでも動かす事の出来ない強さなのです。
「な、どうしたのですかっ?!」
「問題ない」
混乱しつつ問い掛ける私に、声音だけはいつものヴォルでした。
けれども問題がないなら、頭を放して欲しいです。無理に振り返ろうとしても首が痛いだけで、私の力では抗う事は不可能でした。いえ、考えなくとも力の差は当たり前です。
「それなら何故頭を押さえるのです?」
「困るからだ」
現在進行形で困惑しているのは私の筈ですが、何故かヴォルの方が困っているようでした。
しかしながら、どうしてヴォルが困るのでしょうか。
そんなやり取りをヴォルとしていると、またベンダーツさんがクスクスと笑っている事に気が付きました。
もう、一体何なのでしょうか。
私は溜め息を吐き、頭を押さえるヴォルの手に抵抗する事をやめました。
「……熱い……」
聞こえるかどうかの囁きが耳を打ちます。
今の──ヴォルですよね?
確かにいつもより掌の熱が高いような気がしました。けれども振り向きたいのですが、今は頭部を固定されているのでダメなようです。
視線を向ければ未だにクスクス笑っているベンダーツさんでしたが、本当にヴォルの具合が悪いならこんなふうに楽しそうな筈がないのです。
「ヴォル?もう今は振り向かないですから、頭を放してください」
「分かった。……すまない」
謝罪の言葉と共に手を放されましたが、何だか複雑な心境でした。──なんて思っていたのですが、そのまま後ろから抱き締めてきたヴォルの頭が私の肩に乗ります。
赤い──ですね。
何がって、ヴォルの耳が──それは私が見ても驚く程でした。
私は抱き締められている側なのでキチンと確認する事は出来ませんが、ヴォルの紺色の髪から覗く耳が真っ赤に染まっています。どうやら、熱いのは羞恥から来る体温上昇のようでした。
「も~う、二人共最高だねっ。……あ~、俺も嫁が欲しくなってきたなぁ」
笑いを抑えるでもなく、ベンダーツさんはとても楽しそうです。
しかしながらヴォルも私もそれに対して反論するような事を何も言えず、ただ二人して固まっていたのでした。
「……明かりだ」
呟くマークの声に目を開ける。辺りが暗くなっている事から、あれからかなり時間が過ぎているようだった。
俺は魔力回復の為にメルを抱き締め、いつの間にか二人して眠っていたようである。そして現時点でもメルは俺の腕の中で、安らかな呼気を繰り返していた。
「あ、ごめん。起こしちゃった?」
「問題ない。それより……」
眉根を下げてのすまなさそうなマークから、前方より近付いてくる光に視線を向ける。
──魔力感知を展開、魔力認識。
方角からしてケストニアから来たようだった。
「距離があるから分からないけど……人間?」
「魔力以外を感じられない。魔物だ」
「マジ?でも、魔物が明かりなんか使うかねぇ?」
訝し気なマークだったが、そんな事は俺にとってどうでも良い。
『魔物』か、『そうでないか』の区別だけで十分だ。
現実問題として、俺は魔物を可能な限り殲滅したいからである。
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