「結婚しよう」

まひる

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第三章

10.結婚しよう【6】

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「では、ヴォルティ。メルシャとの婚儀、しかと見せてもらうぞ」

「はい」

 ヴォルの返答に合わせ、私も深く頭を下げました。とりあえずこの場はここまでです。次は婚儀の場所に移ります。
 謁見の間を退室し、次の予定をこなすべく歩みを進める私達でした。

「……ヴォル?」

 隣を歩く彼の表情を見上げます。
 謁見の間を出てからというもの、ヴォルは一言も話しません。婚儀の部屋に向かっている筈なのですが、隣を歩きながら不安になりました。──大丈夫なのでしょうか。

「……問題ない」

「大丈夫そうに見えませんよ?」

 私は腕を引っ張って足を止めさせ、必死に背伸びをしてヴォルの瞳を覗き込みます。彼は表情ではなく、瞳に感情を表す事が多いからでした。

「…………少しサボるか」

「えっ?」

 ガルシアさんに聞いていたので確かな筈ですが、この廊下の先に婚儀の場所があるのです。でもヴォルは、そう言うなり緑あふれる中庭の方へ足を向けてしまいました。
 あの……、本当に行かなくて良いのですか?

「ヴォル?」

「メルも来い」

 振り向いて手を差し伸べられ、私はもう考える事をやめました。だって、ヴォルが来いと言っているのです。必要とされています。
 私は履き慣れないヒールに気を付けながら、急いでヴォルのそばに駆け寄りました。

「私は何も不安なんてないですから」

「…………メル」

 そして私は、ヴォルに精一杯の笑顔を向けます。

「私はヴォルと一緒にいると決めていますから。ヴォルは、私を守ってくれるのですよね?」

「勿論だ。俺はメルを守る」

「それなら、怖い事だって我慢します。痛い事は嫌いですけど、それでも頑張ります。私だって、ヴォルを守ります」

「…………メル」

 来るだろう返答を予想しながら問い掛け、思った通りの答えに更に語気を強めて宣言しました。
 この自信が何処から来るのかなんて聞いてはダメです。──今の私、初めて何だって出来そうですよ。

「結婚しよう」

 拳を握りそうな私に、ヴォルの真っ直ぐな声が届きました。
 ん?何故、またこの台詞ですか?

「結婚、しますよ?」

「……本気で」

「はい。勿論、本気ですけど?」

「俺の本気で、だ」

 いまいち状況が分からないですが、ヴォルの真っ直ぐな視線と言葉は変わらず私に向けられています。
 んん?良く分かりませんが……。

「私も本気なんですけど」

 ──だって、ヴォルの事が好きですし。
 思わず小首をかしげてしまいました。

「結婚しよう」

「はい」

 あ、どうやらこの返事で正解のようです。ヴォルの瞳がフワリと柔らかく細められましたから。

「サボるのは後にするか。先に婚儀を挙げておかないと、気が変わられても困る」

「えぇっ?変わりませんよ、そんな簡単に」

「簡単でなければ変わるのか」

「いえいえ、今のは言葉のあやです」

「そうか。だが俺もこれ以上は待てないしな」

 軽口の応酬のようなやり取りですが、一つ分かるのはヴォルの機嫌がとても良いという事でした。
 しかしながら──何を待つのですか?
 再び小首をかしげた私に、ヴォルは軽く頬を撫でるだけでした。

「行くか。魔の巣窟へ」

「えぇっ?」

 冗談なのでしょうが、普段は聞かない楽しそうなヴォルの声音です。
 けれども婚儀の会場って、お城の中ですよね?

「俺を見失うなよ」

「わ、分かってますよ。って言うか、ヴォルは何処にいても分かります。目立ちますし……どれだけの騒音の中でも、ちゃんとヴォルの声は聞こえますから」

 過去の経験上実感している事なのです。
 でもそれを伝えたら一度目を見開いた後、何故か微笑まれましたよ。でも、本当に綺麗な笑顔でした。
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