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第2章──少年期5~10歳──
037 対処しなくてはならない現状
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綺麗な黄色と黒の縞模様の髪、そして背後には同色のスラリと細くて長い尾が揺れている。
フェリシアが知っている身近なネコ種は、ヨアキムの補佐官である白猫ベルナールだ。オオカミ種であるフェリシアとは異なり、ネコ種の尾は常に動いているイメージがある。
目の前のトラ種であるフェツィエナも同様に、ユラユラと空を交ぜるように動いていた。
〈あれ、同じネコ種なら、飛び掛かりたくなるんだろうね〉
〈そうだな。俺はウマだから分かんねぇけど〉
「フェツィエナ」
スキル【以心伝心】で初見の感想を話していたフェリシアとグーリフだったが、ライモが声をあげた事で周囲の空気が変わる。
それまでのフワリとした柔らかな雰囲気は一瞬で掻き消え、まるで眼前に猛獣がいるかの如く刺すような感覚に襲われたのだ。
ちびっ子二人で手を繋ぎ合っていたが、その異変にグーリフがフェリシアの前に立つ。
「フェツィエナ……」
「……何でしょうか」
緊張感に息を呑んだフェリシアだったが、ライモはその空気に動じる事なく、再度奥方に声を掛けた。
けれども返ってきたのは、感情の乗っていない冷たい声。明らかにライモとフェツィエナの間に、深く越えられない幅の溝が見える。
〈な、何だかヤバくない?〉
〈そうだな。こりゃ警戒心じゃなく、既に殺気の類いだぞ〉
目の前のトラは視線を動かす事すらせず、ガーデニングテーブルに並べられたカップに手を添えていた。
だがそれを口に運ぶでもなく、かといって他の茶菓子に手を付けるでもない。──明らかにこちらを意識しているのだ。
フェツィエナとフェリシア達の距離は十メートル。
これだけ離れているのに、彼女の拒絶の空気はありありと見える。
(怖……。これ、嫌われてないって言えるのかなぁ)
フェリシアとして生を受けて五年。明確な害意を向けられた事は一度──生後まもなくの、賊タヌキ誘拐犯だけだ。
その後の誘拐犯一味には商品としてしか見られなかったし、グーリフに助けられて自宅に戻ってからは殆ど皇族並みの護衛に守られている。
したがってグーリフの背に守られている今でも、自分へ向けられる慣れない恐怖心にフェリシアの足が震えていた。
「寛いでいる所を邪魔してすまない。以前話したであろうが、銀の娘が来ている」
「あ、あの……初めまして。フェリシア・ラングロフです。こっちはグーリフ・シール」
「……フェツィエナです」
感情が読めない表情なのはライモも同じで、このピリピリとした雰囲気の中で平然とフェリシアを紹介する。
正直フェリシアは、この微妙な空気感で御近づきにもなりなくはなかった。しかしながら初めに奥方に会いたいと口にしたのは自分である為、今更踵を返す訳にもいかない。
震えそうになる喉に力を入れつつ、半歩グーリフの背から身を出して名乗った。
けれども家名を名乗る事なく、名前のみ返してきた彼女。視線だけはフェリシアに向けられたので、完全なる無視を決めた訳でもない。──結果的に、視線が合わさったフェリシアのスキル【神の眼】が発動した。
≪名前……フェツィエナ・コノネン
年齢……24歳
種別……ヒト科獣属トラ種
体力…… -C
魔力…… D【雷】
状態……【嫉妬】≫
(え……っ?)
予想もしていなかった文字を見た事で、思わずフェリシアは目を見開く。
フェツィエナのピリピリとした空気は、どうやらステータス異常によるものらしかった。
そして意図せずも『状態』部分へ意識が集中してしまった為、更に深い部分の説明が展開される。
≪【彼の隣はわたくしのものなのに】【わたくしとは並び立ってくれないのに】≫
瞬時にフェリシアの視界を占領する文字は、フェツィエナの内なる想いを嫌と言う程表していたのだ。
その言葉にされないフェツィエナの心の声が、スキルを通じてフェリシアの眼前に晒される。
だが同時に、これ程の強い思いをぶつけられた事は初めてだった。スキルを解放していた事で、それが更に悪い方へ作用する。
これまでフェリシアの視界に映し出される文字は、あくまでも対象の情報だった。そしてそれらに意識を向ける事で詳細を知る事が出来て、かつ表示を最小化させる事も可能である。
つまりは一種のサポート機能であり、フェリシア自身を害する事など有り得ないのだ。──だが今は。
「あ……あぁ……」
フェリシアは目を見開いたまま、絞り出されるように漏れ出た声は苦痛を匂わせる。
しかしながら文字が見えているのは当然フェリシアだけで、何が起きているか分からないグーリフとライモが困惑を見せた。
だがフェリシアには周囲の様子など全く見えない。何故ならば、視界一面に広がるのは文字だけだったのだ。
≪【わたくしが彼の妻のに】【わたくしの方が彼を愛しているのに】【わたくしが】【わたくしが】【わたくしが】【わたくしが】【わたくしが】≫
視線をフェツィエナから外したいのに、それすらも出来ない。
否──対象を見ている訳でなくとも、既に視界にはスキルの文字しか映っていないのだ。そして脳のキャパオーバーにより、身体が硬直したように麻痺している状態である。
これまで自然と視界に映るスキル【神の眼】の文字は、フェリシアにとって当たり前のものだった。逆にそれを利用して、周囲の環境に順応してきたのである。
それが今回は異常だった。
スキルの暴走ともいえる事態。
過去一度たりとも他者の感情を文字として読み取れた事などなく、そもそも悪感情をぶつけられるような相手もいないのだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「やめろっ!」
〈フェル、しっかりしろ!〉
グーリフが叫びながらフェリシアを抱き締める。
腕の中の彼女は瞳を潤ませたまま見開いて微動だにせず、スキル【以心伝心】にも反応がなかった。
だがグーリフの制止の声に、これまで場を包んでいた威圧感が薄れる。
「……大丈夫か?」
「フェルに触れるんじゃねぇ」
突然様子のおかしくなった少女に、怒りを顕わにする少年。幾つもの戦場で生き残ってきたライモにとっては、この程度でしかないのだろう。
そもそもが妻であるフェツィエナから向けられたものを、殺気として認識すらしていないだろう態度だった。
グーリフもフェツィエナの威圧を毛程も感じていなかったのだが、フェリシアにとっては毒でしかなかったようである。
「お前、いい加減にしろよ?」
ライモがフェリシアを気に掛けた瞬間、再度向けられた圧。今度はフェリシアを腕に抱いていたからか、グーリフにもありありと感じられた。
手を伸ばすライモを制した後、グーリフは振り返ってフェツィエナに鋭い視線を向ける。そしてその怒りから、己が持つ本来の魔獣たる気配が僅かに溢れ出た。
ザザッ!
ライモが戦闘態勢へと瞬時に移行し、フェツィエナを背へ庇う。
そしてそのままグーリフに向け、腰の長剣を抜刀して正面に構えた。
訪れた静寂。
グーリフが魔獣の気配を見せたのは一瞬だったが、長年国の刃として様々な戦いに立っていただろうライモにしてみれば明確な抜刀理由なのだろう。
五歳児にしか見えない外見など、魔法やスキルで幾らでも騙せるかもしれなかった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「あ~、ビックリした~」
一触即発の空気を破ったのは、フェリシアののんびりとした声だ。
その場の視線が全てフェリシアに集まる。
グーリフの腕の中で深呼吸をするフェリシアは、ふと自分に集中する視線に気付いた。
〈え?何、何?どうしたの?〉
〈……大丈夫なのか、フェル〉
〈え?う、うん。ちょっとスキルが暴走して……って、それよりこの状況は何?何で大将さん、こっちに剣を向けてる訳?〉
困惑するフェリシアだったが、先程までの諸々を思い返してみる。
大将ライモから奥方フェツィエナの紹介を受け、フェツィエナの鋭い感情を向けられてスキルが暴走。
グーリフに抱き留められている現状から、フェリシアが倒れたか何かでグーリフがキレた。
ライモが戦闘態勢になっている事から見ても、キレたグーリフがヤバかった事は推測出来る。
結論、マズイ。
〈ちょっと何やってるの、グーリフ!〉
〈いや待て。何故俺が悪いと即座に結論付けた〉
〈大将さんが剣を抜くって事はそういう事じゃないのっ?〉
〈……まぁ、間違ってはねぇな〉
〈おいっ?!〉
スキル【以心伝心】で尋問しながらも、既に物理的にグーリフの胸ぐらを掴んでいる状態のフェリシアだ。
最も強力な護衛ではあるが、裏を返せば最も危険な爆弾のような存在である。
当然ながらそれはフェリシアにとってではなく、『フェリシア以外の全てに対して』だ。
「ご、ごめんなさいっ」
「すまなかった」
同時に謝罪が飛ぶ。
そして一拍後、口にしたフェリシアとライモが二人して驚きの表情で目を合わせた。
下げた頭部を半端に持ち上げた状態で、視線を交わらせる事、数秒。
「あ、の……グーリフは危険じゃないから、その……」
「あぁ……、すまない。私とした事が、客人に刃を向けるなど」
謝罪戦後の微妙な空気。
けれども誰からも殺気や威圧感は発せられていない今は、グーリフに対して多少の警戒心を持ちつつ、ライモは静かに剣を鞘に納めた。
グーリフを警戒するライモと、その背に守られつつもフェリシアに良い感情を持っていないらしきフェツィエナである。
(何か………………帰りたい)
フェリシアは現状の空気を何とかしなくてはならない義務感に気が重く、内心で溜め息を吐いた。
スキル【神の眼】を通して、目の前の三人の状態が見えるフェリシア。
グーリフは【怒り】、ライモは【警戒】。フェツィエナはもっと複雑で、【嫉妬】【喜色】【困惑】である。
先程の例もあり、フェリシアは状態異常の詳細を見る事への恐怖心もあった。
しかしながら他に解決策が分からないと共に、可及的速やかに対処しなくてはならない現状なのである。現実逃避をしたい本音を圧し殺しつつも、フェリシアは心を決めて深く息を吸った。
フェリシアが知っている身近なネコ種は、ヨアキムの補佐官である白猫ベルナールだ。オオカミ種であるフェリシアとは異なり、ネコ種の尾は常に動いているイメージがある。
目の前のトラ種であるフェツィエナも同様に、ユラユラと空を交ぜるように動いていた。
〈あれ、同じネコ種なら、飛び掛かりたくなるんだろうね〉
〈そうだな。俺はウマだから分かんねぇけど〉
「フェツィエナ」
スキル【以心伝心】で初見の感想を話していたフェリシアとグーリフだったが、ライモが声をあげた事で周囲の空気が変わる。
それまでのフワリとした柔らかな雰囲気は一瞬で掻き消え、まるで眼前に猛獣がいるかの如く刺すような感覚に襲われたのだ。
ちびっ子二人で手を繋ぎ合っていたが、その異変にグーリフがフェリシアの前に立つ。
「フェツィエナ……」
「……何でしょうか」
緊張感に息を呑んだフェリシアだったが、ライモはその空気に動じる事なく、再度奥方に声を掛けた。
けれども返ってきたのは、感情の乗っていない冷たい声。明らかにライモとフェツィエナの間に、深く越えられない幅の溝が見える。
〈な、何だかヤバくない?〉
〈そうだな。こりゃ警戒心じゃなく、既に殺気の類いだぞ〉
目の前のトラは視線を動かす事すらせず、ガーデニングテーブルに並べられたカップに手を添えていた。
だがそれを口に運ぶでもなく、かといって他の茶菓子に手を付けるでもない。──明らかにこちらを意識しているのだ。
フェツィエナとフェリシア達の距離は十メートル。
これだけ離れているのに、彼女の拒絶の空気はありありと見える。
(怖……。これ、嫌われてないって言えるのかなぁ)
フェリシアとして生を受けて五年。明確な害意を向けられた事は一度──生後まもなくの、賊タヌキ誘拐犯だけだ。
その後の誘拐犯一味には商品としてしか見られなかったし、グーリフに助けられて自宅に戻ってからは殆ど皇族並みの護衛に守られている。
したがってグーリフの背に守られている今でも、自分へ向けられる慣れない恐怖心にフェリシアの足が震えていた。
「寛いでいる所を邪魔してすまない。以前話したであろうが、銀の娘が来ている」
「あ、あの……初めまして。フェリシア・ラングロフです。こっちはグーリフ・シール」
「……フェツィエナです」
感情が読めない表情なのはライモも同じで、このピリピリとした雰囲気の中で平然とフェリシアを紹介する。
正直フェリシアは、この微妙な空気感で御近づきにもなりなくはなかった。しかしながら初めに奥方に会いたいと口にしたのは自分である為、今更踵を返す訳にもいかない。
震えそうになる喉に力を入れつつ、半歩グーリフの背から身を出して名乗った。
けれども家名を名乗る事なく、名前のみ返してきた彼女。視線だけはフェリシアに向けられたので、完全なる無視を決めた訳でもない。──結果的に、視線が合わさったフェリシアのスキル【神の眼】が発動した。
≪名前……フェツィエナ・コノネン
年齢……24歳
種別……ヒト科獣属トラ種
体力…… -C
魔力…… D【雷】
状態……【嫉妬】≫
(え……っ?)
予想もしていなかった文字を見た事で、思わずフェリシアは目を見開く。
フェツィエナのピリピリとした空気は、どうやらステータス異常によるものらしかった。
そして意図せずも『状態』部分へ意識が集中してしまった為、更に深い部分の説明が展開される。
≪【彼の隣はわたくしのものなのに】【わたくしとは並び立ってくれないのに】≫
瞬時にフェリシアの視界を占領する文字は、フェツィエナの内なる想いを嫌と言う程表していたのだ。
その言葉にされないフェツィエナの心の声が、スキルを通じてフェリシアの眼前に晒される。
だが同時に、これ程の強い思いをぶつけられた事は初めてだった。スキルを解放していた事で、それが更に悪い方へ作用する。
これまでフェリシアの視界に映し出される文字は、あくまでも対象の情報だった。そしてそれらに意識を向ける事で詳細を知る事が出来て、かつ表示を最小化させる事も可能である。
つまりは一種のサポート機能であり、フェリシア自身を害する事など有り得ないのだ。──だが今は。
「あ……あぁ……」
フェリシアは目を見開いたまま、絞り出されるように漏れ出た声は苦痛を匂わせる。
しかしながら文字が見えているのは当然フェリシアだけで、何が起きているか分からないグーリフとライモが困惑を見せた。
だがフェリシアには周囲の様子など全く見えない。何故ならば、視界一面に広がるのは文字だけだったのだ。
≪【わたくしが彼の妻のに】【わたくしの方が彼を愛しているのに】【わたくしが】【わたくしが】【わたくしが】【わたくしが】【わたくしが】≫
視線をフェツィエナから外したいのに、それすらも出来ない。
否──対象を見ている訳でなくとも、既に視界にはスキルの文字しか映っていないのだ。そして脳のキャパオーバーにより、身体が硬直したように麻痺している状態である。
これまで自然と視界に映るスキル【神の眼】の文字は、フェリシアにとって当たり前のものだった。逆にそれを利用して、周囲の環境に順応してきたのである。
それが今回は異常だった。
スキルの暴走ともいえる事態。
過去一度たりとも他者の感情を文字として読み取れた事などなく、そもそも悪感情をぶつけられるような相手もいないのだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「やめろっ!」
〈フェル、しっかりしろ!〉
グーリフが叫びながらフェリシアを抱き締める。
腕の中の彼女は瞳を潤ませたまま見開いて微動だにせず、スキル【以心伝心】にも反応がなかった。
だがグーリフの制止の声に、これまで場を包んでいた威圧感が薄れる。
「……大丈夫か?」
「フェルに触れるんじゃねぇ」
突然様子のおかしくなった少女に、怒りを顕わにする少年。幾つもの戦場で生き残ってきたライモにとっては、この程度でしかないのだろう。
そもそもが妻であるフェツィエナから向けられたものを、殺気として認識すらしていないだろう態度だった。
グーリフもフェツィエナの威圧を毛程も感じていなかったのだが、フェリシアにとっては毒でしかなかったようである。
「お前、いい加減にしろよ?」
ライモがフェリシアを気に掛けた瞬間、再度向けられた圧。今度はフェリシアを腕に抱いていたからか、グーリフにもありありと感じられた。
手を伸ばすライモを制した後、グーリフは振り返ってフェツィエナに鋭い視線を向ける。そしてその怒りから、己が持つ本来の魔獣たる気配が僅かに溢れ出た。
ザザッ!
ライモが戦闘態勢へと瞬時に移行し、フェツィエナを背へ庇う。
そしてそのままグーリフに向け、腰の長剣を抜刀して正面に構えた。
訪れた静寂。
グーリフが魔獣の気配を見せたのは一瞬だったが、長年国の刃として様々な戦いに立っていただろうライモにしてみれば明確な抜刀理由なのだろう。
五歳児にしか見えない外見など、魔法やスキルで幾らでも騙せるかもしれなかった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「あ~、ビックリした~」
一触即発の空気を破ったのは、フェリシアののんびりとした声だ。
その場の視線が全てフェリシアに集まる。
グーリフの腕の中で深呼吸をするフェリシアは、ふと自分に集中する視線に気付いた。
〈え?何、何?どうしたの?〉
〈……大丈夫なのか、フェル〉
〈え?う、うん。ちょっとスキルが暴走して……って、それよりこの状況は何?何で大将さん、こっちに剣を向けてる訳?〉
困惑するフェリシアだったが、先程までの諸々を思い返してみる。
大将ライモから奥方フェツィエナの紹介を受け、フェツィエナの鋭い感情を向けられてスキルが暴走。
グーリフに抱き留められている現状から、フェリシアが倒れたか何かでグーリフがキレた。
ライモが戦闘態勢になっている事から見ても、キレたグーリフがヤバかった事は推測出来る。
結論、マズイ。
〈ちょっと何やってるの、グーリフ!〉
〈いや待て。何故俺が悪いと即座に結論付けた〉
〈大将さんが剣を抜くって事はそういう事じゃないのっ?〉
〈……まぁ、間違ってはねぇな〉
〈おいっ?!〉
スキル【以心伝心】で尋問しながらも、既に物理的にグーリフの胸ぐらを掴んでいる状態のフェリシアだ。
最も強力な護衛ではあるが、裏を返せば最も危険な爆弾のような存在である。
当然ながらそれはフェリシアにとってではなく、『フェリシア以外の全てに対して』だ。
「ご、ごめんなさいっ」
「すまなかった」
同時に謝罪が飛ぶ。
そして一拍後、口にしたフェリシアとライモが二人して驚きの表情で目を合わせた。
下げた頭部を半端に持ち上げた状態で、視線を交わらせる事、数秒。
「あ、の……グーリフは危険じゃないから、その……」
「あぁ……、すまない。私とした事が、客人に刃を向けるなど」
謝罪戦後の微妙な空気。
けれども誰からも殺気や威圧感は発せられていない今は、グーリフに対して多少の警戒心を持ちつつ、ライモは静かに剣を鞘に納めた。
グーリフを警戒するライモと、その背に守られつつもフェリシアに良い感情を持っていないらしきフェツィエナである。
(何か………………帰りたい)
フェリシアは現状の空気を何とかしなくてはならない義務感に気が重く、内心で溜め息を吐いた。
スキル【神の眼】を通して、目の前の三人の状態が見えるフェリシア。
グーリフは【怒り】、ライモは【警戒】。フェツィエナはもっと複雑で、【嫉妬】【喜色】【困惑】である。
先程の例もあり、フェリシアは状態異常の詳細を見る事への恐怖心もあった。
しかしながら他に解決策が分からないと共に、可及的速やかに対処しなくてはならない現状なのである。現実逃避をしたい本音を圧し殺しつつも、フェリシアは心を決めて深く息を吸った。
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