説明書があれば良いと思ってるのか~異世界転生獣耳物語~

まひる

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第2章──少年期5~10歳──

043 八歳は幼女ではありません

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 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

ようやく八歳になった)

 涼しくなってきたネアンクタヴテは過ごしやすく、今はソドン時間サッドで軽食を食べ終えた頃だ。
 ほぅっと深く息を吐きながら、フェリシアはいつものテラスから中庭へ視線を移す。そこでは同じく八歳体型のグーリフが、十歳になったエリアスと組み手をしていた。
 屋敷内の護衛とも鍛練と称しておこなっているのだが、やはり体格の違いから相手が手加減をする。エリアスはそれが気に入らないようで、最近ではグーリフに絡んでくる事が多かった。
 明らかにエリアスの方が頭一つ分程大きいのだが、グーリフの身体能力は体格に影響されるような程度ではないらしい。おそらく彼ならば、大人相手でも変わらない身のこなしをするだろうとも思われた。

「っで!……ズルいっ、グーリフ。足、引っかけたっ」
「ふふん。おろそかになっている場所を教えてやったんだ、感謝しろ」

 短く切り揃えられた草の上に転ばされたエリアスが、笑みを浮かべたグーリフから見下ろされて牙を剥いている。
 身体能力が高いので、この程度では怪我をしないエリアス。それでも転べば当然痛いので、打ち付けたらしき左肘をさすっていた。

 このエリアスも来ロミには十一歳になり、王都クワシーゼへ行ってしまう。
 今は長兄のガウリイルと次兄であるマルコが学園に所属している為、とうとうフェリシアを残して兄達全てがいなくなってしまうのだ。──つまりは一ロミ間、屋敷内の子供はフェリシアとグーリフだけになる。二ロミ後ガウリイルが卒業して戻ってくるが、その一ロミ後にはフェリシアが学園生となるのだった。

(年齢差が大きすぎるよ。子供って辛い……)

 フェリシアが思い返せば、ミアが専属侍女になったのも確か彼女が成人してからである。
 ミアと出会った時は学園入学前であり、卒業してから見習いとしてラングロフ邸に幾度も足を運んでいたものの、それでもクタヴテに二ワイア程度だった。
 結局、十五歳となって成人してからでないと、独り立ちが認められないという事のようである。

「次、魔法あり!」
「バカか。そんなもの、中庭ここで出来るか」
「何でっ?」
「フェルが危ねぇだろうが。少しは考えろ、単細胞」
「うっ……。ごめん、シア」

 頭に血がのぼったようで、エリアスは噛み付くように叫ぶ。だがそれを冷静にグーリフから指摘され、項垂れるエリアスだ。
 エリアスはヨアキム父親に似て、かなりの脳筋資質を持っている。考えるよりも先に手が出てしまう為、これまでも幾度となくガウリイルとマルコから注意をされていた。

「大丈夫だよ、エリ兄。悪気はないって分かってる」
「甘いぞ、フェル。もう少し分からせた方が良い。こんな考えなし、学園に行ったら思い切り使い走りにされるぞ」
「ならないっ」
「親に力があっても、子供だけの世界では個人の資質が物をいう。最終的には親の立場が当然加味されるが、かげで小狡い事をする者は頭が良い。自分の立場を悪くせず、かつ自分の思い通りに事を成そうとするからな」

 八歳児に説教される十歳児だが、並び立つ姿はグーリフが項垂れるエリアスを見上げる状態となっている。
 フェリシア的にはこの世代の大きさが可愛いと思うのだが、そこに並べばさらに自分が小さい事を露見するようで嫌だった。

 ともあれ、グーリフがエリアスに告げる言葉に偽りはない。常々ガウリイルとマルコが注意していたが、エリアスの猪突猛進は治らなかったのだ。
 そして兄達が学園へ行ってしまってからは、邸内で他に注意を出来る者がいない。
 ナディヤ母親も基本的に仕事をしている為だが、そばにいても注意をする事はなかった。『バカな子程可愛い』のか、一番下のフェリシアが手の掛からない子供である為、殊更ことさらエリアスを甘やかしている。

 エリアスは家族以外に興味がない為、他者へ暴力を奮ったり悪事を働いたりしない事も要因の一つだった。フェリシア至上なのは他の兄達と変わらないが、冷徹な判断力をもったガウリイルや知略をめぐらすマルコと比べれば穏和な方だろう。
 フェリシアが絡まなければ、仮に使い走りにされていても気付かなさそうだ。それでも、素直に他者に使われるような付き合い自体をしなさそうでもある。

「もう少し頭を使うんだな。三兄さんけいが脳筋では、フェルがおとしめられる要因になるだろうが」
「シアがバカにされるのは嫌だ」

 結局グーリフの言いたい事は、フェリシア至上の兄達と変わらなかった。
 末姫であるフェリシアが不利にならないよう立ち回るガウリイルとマルコは、己の得手を活かして着実に学園での足場を固めている──らしい。
 バンガクタヴテの長期休暇に帰省した際、第三学年になったガウリイルが副会長ゲクスに選抜されたのだと言っていた。

 学園の生徒会ヴィデアン会長ヴィート副会長ゲクス会計セガン書記サーベリ庶務ツシナの五名が代表で、下に各役員アマーソナがあり毎クタヴテ定例議会コンタパルを開く。
  生徒会ヴィデアン代表者は成績優秀者の中から教員が推薦し、選挙で全学園生から投票のうえ決定するのだ。

「それならば考えろ。チビ銀もチビウサも、現時点で確実にお前よりフェルの役に立つ。使えない奴は、フェルの足を引っ張る前に俺が排除してやる」
「っ!おれはシアのそばにいるっ」
「だったら使える存在になるんだな。まぁ、体力面では他のチビより使えそうだが」
「おれ、使える?」
「それでも、チビ銀の方が今のお前より能力高いだろ」
「うぅ~っ」

 十歳の少年に、随分な物言いのグーリフである。
 しかしながらこの世界は、フェリシアの記憶する前世とは違ってかなり弱肉強食な世界だ。能天気な考えではすぐに潰され、搾取される側に堕ちる。
 この屋敷でさえ、外部からの侵略行為が毎クタヴテに数件あるとグーリフから聞いているのだ。領地全体を把握しているのはヨアキム──というより補佐のベルナール──だろうが、平穏な毎イトネというのは決して続かない事をフェリシアも嫌という程気付かされている。

「最近ではまたかどわかし事件が増えてきているらしいからな」
「ん。誘拐、最悪」
「対象は子供だ。分かるか?フェルが狙われる可能性は高いぜ?」
「シアはおれが守る」
「ふん。こんなに軟弱なお前に、何処まで出来るか見物だな」
「シア、守る。おれ、もっと強くなる」

 グーリフのあおりに負けず、エリアスは拳を握り締めてみせた。

「……休憩だ」

 グーリフはエリアスのその言葉に言い返す事なく、中断を宣言してフェリシアの方へ歩いて来る。
 エリアスも異存はないようで、金色の尾を左右に振りながら、楽しそうにその後をついてきた。

 誘拐事件といえば実際、過去にもフェリシアが被害にあっている。その後からは容易にラングロフ邸内部へ侵入出来ないよう、魔力での個人認証をおこなっているくらいだ。
 しかしながら、当然フェリシアも屋敷の外へ出る。基本的にグーリフが一緒にいるとは言えども、来ロミからは確実に守りが薄くなるのだ。

「可能ならば、すぐにでもかどわかし事件を解決しておきたいがな」
「それ、おれにも出来る?」
「……まぁ、金色狼も稀少価値は高いな」
「ちょっと、グーリフ。エリ兄におとりは無理だからね」
「あ~……突撃するだけじゃなぁ。内部調査とか情報収集とか、そういったのは鳥が得意なんだが。さすがに年増相手じゃ、今回の囮には向かねぇなぁ」
「誰が年増だって言うんですか」

 グーリフとエリアスに新しいお茶を出していたミアは、グーリフに鋭く言葉を返す。
 現在十八歳のミアは、ラングロフの忠犬である護衛三人衆よりは年少だ。しかし、目の前で話す子供達と比べてしまえば明らかに年長者である。

「ふん、お前だよ。かどわかし対象が子供……しかも、十歳未満だ。倍近いお前が年増ってのは、間違っちゃいねぇだろ?」
「い、言い方ってものがあるじゃないですか」
<それを言うなら、グーリフは二百歳を越えてるじゃない>
<俺はヒト型をフェルに合わせてるから問題ねぇんだ。実際、カワイイだろ?>
<それは否定しない>
「鳥はフェルの守りと、他の情報収集だ」
「分かっています」
「それじゃあ、シアとグーリフがおとりする?」

 誘拐事件が許せるものではないのは当然だ。領地内の事でもあるので、フェリシアも出来れば何とかしたい。さすがに一人で乗り込む勇気はないが、グーリフと一緒ならば何とでもなる気がしていた。
 そう思い至っての言葉だったのだが──お茶に口をつけていたエリアスは思い切り吹き出し、ミアは有り得ない程に目を見開いている。そして極めつけ、グーリフの大きな溜め息だ。

「あのなぁ……。周囲が何の為にフェルを守ろうとしているか考えろよ」
「……そ、それは分かっているけど。でも、早期解決におとり捜査が有効なのも分かるし」
「だからといって、シア様が率先して飛び込む事は避けて下さいませんか」
「ゲホ……、ホントだよ。危ないのはおれがする」

 一斉に皆から反対され、腑に落ちないフェリシアである。
 いつも守られてばかりで、まだ自分が幼い事は理解しているものの、納得出来る訳ではないのだ。

「シアも何かしたいっ」
「ダメだ」
「何でっ?」
「危ねぇ」
「……グーリフがいても?」
「うっ……」

 必殺技、潤んだ瞳で上目遣いである。
 いつもならばここまで粘ったりはしないのだが、来ロミからエリアスもいなくなってしまう寂しさが尾を引いていた。
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