説明書があれば良いと思ってるのか~異世界転生獣耳物語~

まひる

文字の大きさ
44 / 60
第2章──少年期5~10歳──

044 おねだりとオトリ

しおりを挟む
<何処でそんな技を覚えてくるんだ>
<前に食堂裏で、侍女のお姉さんが料理長にしてた。それで揚げ菓子をもらってた>

 フェリシアにしてみれば、前世記憶の創作物で知識としてあった。自らが実行に移した事は初めてだったけれど、他者がおこなって通用しているのを見て、この世界でも『おねだり』の方法としては間違ってはいないと思っている。
 額に手を当ててうめくグーリフだったが、そのいつもと違う彼の反応から『有効性が高い』とも判断された。

「か、可愛いですぅぅ~」

 ミアに至っては頬を赤らめ、潤んだ瞳で両手を胸の前に組み、その場で昇天しそうな程に緩んだ表情をしている。
 ちなみにエリアスは目と口をぱかりと開けたまま、鼻血を垂らしていた。

「え、エリ兄が大変っ」
「チッ。金色、しっかりしろ」
「え……あ?」

 グーリフから額を軽く弾かれ、ようやくエリアスが我に返ったようである。
 しかしながら何故鼻から出血しているのか理解出来ていないようで、そばにいた侍女からされるがままに顔をぬぐわれていた。

<フェル。それ、他の奴がいる前でするの禁止な>
せぬ……>
「はぁあああ~……ったく、仕方ねぇな」
「え?」
「だがその前に、もっと事前調査をする事が第一条件だ。行き当たりばったりで、他のかどわかしにあってる余裕はねぇ。それともう一つ、銀色に要報告。事を起こす前にな」
「え~」
「え~、じゃねぇだろ。次はマジでキレるぞ、あれは。クマの時の事を思い返してみろ」
「うっ……」

 グーリフの言葉に一喜一憂するフェリシアである。
 クマ大将邸での事故・・は、今でもラングロフ一家の中で苦汁を飲まされたものとして禁句となっていた。

 結果だけを言うならば、ライモ・コノネンがヨアキム・エルッキ・ラングロフに非公式とはいえども謝罪をおこなった事により、双方痛み分けとしている。
 だが全く何事も変わっていない訳ではない。フェリシアはそれ以降一切の社交の場に参加せず、同様にマット・コノネンが社交に出たとの話も聞かなかった。

 何度かライモ側から茶会の招待状が来たらしいが、それすら一度としてフェリシアの所まで届く事はなかった。それらを情報としてミアから聞いているが、フェリシア自身は欠片も気持ちが動かない。
 恐らく一度でもフェリシアが何処かの社交に出たならば、それがマットへの許しの承諾になるのだという意味も分かっている。そしてコノネンの嫡子であるマットにとって、七歳の現時点でも社交に出られない事が汚点である事も。

「フェルの事を聞いた銀色のやつ、執務室を大破させてたからな」
ヨアキムの補佐官オスマン様執事ネリンガ様の、二人掛かりで取り押さえていらっしゃいました。それでもヨアキム旦那様の執務室は全壊と言っても良い程の有り様であり、半クタヴテ程の間は別室で執務をおこなっておりました」
「あ~……、そうだったね」

 ヨアキムは脳筋ゆえか、一度スイッチが入ると、ほぼ狂人化バーサク状態になる。そしてそうなってしまえば、ヨアキムの意識を奪う事でしか止まらないのだ。

 ちなみに、スキル【怪力】を持つヨアキムを落とす事の出来る人物はほとんど皆無である。スキル【見極め】を持つ執事のノルト・ネリンガと、スキル【先見】を持つベルナール・オスマンがいて成り立つ。──ベルナールだけでも不可能ではないのだが、これまで一度も無傷で終える事は出来なかった。
 線の細さを活かした、素早い動きが特徴のベルナールである。筋肉隆々のヨアキムがさらにスキルで底上げされた上で繰り広げる力業に、速さだけではどうにもならない壁にぶち当たるのだ。

「って事で、俺のこの二つの条件を呑むってぇならな。放っておいて勝手に動かれても困るってぇのが本音だが、俺と一緒なら銀色も頭ごなしに一蹴いっしゅうはしねぇだろ。とりあえずきちんと筋を通せ」
「あぅ~……。グーリフと一緒にってのは、勿論シアからもお願いしたいけど。シアの言う事、父様は聞いてくれるかな」

 彼が味方になってくれるのは心強いのは当然だが、銀色ヨアキムに報告するのは嫌だった。絶対に反対される。──説得するのも面倒だ。
 けれども結果がどうであれ、最後には確実にヨアキム父親の耳に入る。黙って自ら飛び込んだ事が判明したら、それ以降は屋敷で軟禁状態になるだろうとも予想されるのだ。──最悪、学園にも通わせてもらえなくなるかもしれない。

「返事は?」
「う…………わ、分かった」
「よし」

 グーリフから返答を強要され、躊躇ためらいつつもフェリシアは承諾するしかなかった。
 手間を惜しんで後々悪手となるよりは、当たり前だが正攻法でいった方が余程大きな利になる。それに領地内の犯罪行為をこのまま放置するヨアキムではないし、確実に証拠が揃えば骨も残らない程に犯人側を叩き潰すだろう。

「鳥。銀色が帰ってくるのはいつだ」
「三イトネ後です」
「それまでに裏を調べられるな」
「勿論です」
「フェルはウサギに頼んで、魔道具を作ってもらえ。恐らく銀色も持たせてくるだろうが、フェル用に合わせて作られた物は相性がパネェからな」
「ん?母様に?」

 次々に指示を出すグーリフだ。
 諜報能力に優れたワシ種レンナルツで生まれ育ったので、ミアにそういった類いの調査を依頼するのは分かる。しかしながら、ウサギ母親に魔道具製作の依頼をする事に理解が追い付かなかった。

「何だ、呆けた顔をして。意味が分からないって感じか?」
「う、うん。確かに母様は、魔道具を趣味で作ってるけど」
「くくく、趣味で?それ、本気で思ってるところがフェルの可愛いところだよな」
「えぇっ?」
「シア様。魔道具を作製するには繊細な魔力操作と強い魔力が必要です。そして使用する魔法石は傷がなく、色が濃いものでなくてはなりません。そういった品は通常、かなりの高額で売買されています。一般的に、『趣味』でおこなえるようなものではありません」
「え?でも母様、趣味でって言ってたし」

 グーリフとミアから指摘され、フェリシアは混乱する。
 生活必需品である魔道具に対し、ラングロフ邸内にありふれている事実もあって、とても親しみがあったのだ。

 そも前世の記憶があるからか、魔核の化石魔法石を使って魔道具を作る事が出来る世界観に異存はなかった。科学の代わりに魔法があり、道具に電気ではなく魔力を使う事にも理解が出来る。
 冷蔵庫や洗濯機のような物が魔道具で存在するのだから、一般的に使われているのだと思い込んでいた。──市井しせいに出た事はないが。

「シア。母様の趣味は、特殊なんだ」
「え、エリ兄まで?」
「片手間に作れるものじゃねぇ。高い魔力、リンナの素質、摩道具を作る事が出来る腕前。まぁ、何だ。ウサギの能力が搾取される側になくて良かったな」
「な、何それ……。父様だけじゃなくて、母様も稀少価値プレミアついてるって事?」
「だからラングロフここは、いつも狙われている」
「ラングロフに嫁ぐ前の奥方様は、軍内部の医療機関に身を置く事で、御自身を守られていらっしゃったそうです」
「な、何だか色々、いっぱい初耳なんだけど」

 どうやらエリアスは、魔道具の稀少価値を理解しているようだ。
 そして銀狼の女性である事がフェリシアの一番の狙われる部分ポイントだが、稀少性の高いリンナの魔力を持つ事。母親ナディヤと繋がる血筋。それらを含めると、最早グーリフと共にいる以外に安全な居場所はないのかもしれない。

「何かもう、シアってば美味しい味付け肉な感じだね」
「肉……シア、旨い?」
「いや待て、金色。噛み付くのも舐めるのもダメだ」
「言葉のあや……言い回しです。ただの表現ですから、実際の事柄ではありません。舐めたい気持ちは分かりますが、シア様に嫌われてしまいますよ」
「嫌われるの嫌だ。舐めない。噛まない」
「鳥がおかしいのは既に分かってるが、フェルのいる場所で変態発言はやめろ」
「何を言っているのですか。シア様が食べたいくらいお可愛らしくて、いつまでもスンスン匂いを嗅いでいたい程「やめろって言ってんだろうが。さばくぞ、こら」」

 エリアスの発言からしておかしかったが、続けられたミアの言葉はもっとおかしかった。
 フェリシアが何度か右に左にと小首をかしげていると、突然グーリフから両耳を塞がれる。頭頂部の獣耳をペシャリと潰され、驚いて目を見開いている間に話が終わっていた。
 口をつぐんだミアを見て、ようやくフェリシアの耳を解放してくれたグーリフである。

「あ、そういえば。ミアもリンナの魔力を狙われて、ラングロフここまで逃げてきたんだっけ」
「はい。ツル種ヴァングにはリンナを持つ者が比較的多いと聞いていますが、ワシ種レンナルツネアンソドン等の速度向上重視です。私の祖母がツル種ヴァングだったので、私にもその血が引き継がれたようです」
「おぉ~、ミアの系譜ルーツ、初耳」
「鳥は鳥からつがいを選ぶからな」
「そうなの?」
「はい。国内の鳥種が少ない事がおもな理由ですが、獣種と交わるとどうしても血統的にそちらの血が濃く出るようなのです」

 伴侶を自由に選べないとは、何とも不自由なものだ。──否、フェリシア自身もそうなのだろう。
 この世界には、自由恋愛等と言う平和的権利はほとんど存在しないのだから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

転生後はゆっくりと

衣更月
ファンタジー
貧しい集落で生まれたリリは、生まれた瞬間から前世の記憶があった。 日本人特有の”配慮”に徹した赤ん坊を演じていたことで、両親から距離を置かれた挙句、村人からも「不気味な子」として敬遠されることに…。 そして、5才の誕生日に遠くの町に捨てられた。 でも、リリは悲観しない。 前世の知識チートは出来ないけど、大人メンタルで堅実に。 目指すは憧れのスローライフが出来るほど、ほどほどの守銭奴としてリリは異世界人として順応していく。 全25話(予定)

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】

きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
【毎週火木土更新】 自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ――― 当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。 なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。

傷物転生令嬢マグダリーナと原初の魔法使いエステラの幻想譚-女神とスライムの光とともに- (旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる―― ※他サイトでも掲載しています ※ちょいちょい手直ししていってます 2026.12.14 タイトル変更 旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

構造理解で始めるゼロからの文明開拓

TEKTO
ファンタジー
ブラック企業勤めのサラリーマン・シュウが転生したのは、人間も街も存在しない「完全未開の大陸」だった。 ​適当な神から与えられたのは、戦闘力ゼロ、魔法適性ゼロのゴミスキル《構造理解》。 だが、物の仕組みを「作れるレベル」で把握できるその力は、現代知識を持つ俺にとっては、最強の「文明構築ツール」だった――! ​――これは、ゴミと呼ばれたスキルとガラクタと呼ばれた石で、世界を切り拓く男の物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...