説明書があれば良いと思ってるのか~異世界転生獣耳物語~

まひる

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第2章──少年期5~10歳──

058 ベルナールの行動方針

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 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 ベルナールは手元の書類をまとめ、ヨアキムの執務机へ置く。そうして未処理箱の一山ひとやまが更に成長したのだ。

「あぁああぁ~~~………………」
「吠えていないで手を動かして下さい、ラングロフ中将」

 ここ最近はラングロフ領地の邸宅で執務をおこなう事が多く、どちらかと言えば王都クワシーゼおもむく事を避けている様子の上司──ヨアキムである。
 彼の補佐官であるベルナールも当然、ラングロフに腰を据える形になっていた。それもリンナクタヴテの途中からだから、かれこれ三クタヴテになる。

 ここまで長く領地に留まる事は本当に珍しいのだが、ヨアキムが率いる第三師団の半数以上は王都クワシーゼだ。
 基本的に一つの連隊がラングロフ領地を守護。更に一つが王都クワシーゼを守護する。残り一つの連隊がシュペンネル国内を廻り、任務の為に活動していた。

「一つ屋根の下にフェルといるのに、何故だか顔を見てないイトネが続いている俺の悲しい気持ちはどうするのだっ」
「ラングロフ中将。御言葉ですが、中将令嬢も二ロミ後の学園生活の為に勉学に励んでおられます。毎イトネお忙しく過ごしていらっしゃいますと、私からも報告をさせていただいている筈です」
「それは知っている、分かっているっ。だがしかしぃ!アレも……、アレも一緒に勉強しているとかっ」
「……グーリフ殿は既にヒトとして存在を認められていますので、本当に今更ですよね」

 目に見えて頭を抱えているヨアキムに対し、ベルナールはいつものように淡々と事実のみを口にする。
 希望や要望などを口にするのは勝手だが、ベルナールにしてみれば行動をせずに言う・・だけならば『その程度』という判断だ。

 ラングロフ領地でヨアキムが過ごす理由は、説明された為に理解をしている。だが、納得はしていなかった。
 その理由たるや。学業の為、領地内に子息が不在ゆえ。しかしながら、『それがどうした』と言いたいベルナールである。
 ラングロフ領地内の防衛自体は、常に連隊が。邸内ですら暗殺専門の私兵がいて、一番狙われるであろう中将令嬢のそばにはグーリフ魔獣がいるのだ。

「だがっ」
「口を動かす暇があるならば、その数倍手を動かして頂きたいです。腰を据えて事務処理が出来る事などあまりありませんので、この機会にこれまでの未処理案件を全て解決するくらいはして頂きたいですね」
「うぐっ…………そ、それは……」
「三クタヴテ掛けて、いまだこの程度の処理速度ですからね。全て片付けば残りの時間サッドを御好きに過ごして構わないと何度も御伝えしています」
「お、終わらないんだもんっ!」

 ベルナールの言葉に我慢の限界が来たのか、ダンッと執務机を掌で叩いたヨアキムである。
 一応の加減は出来ていたようで、机を木っ端微塵にする事だけはなかった。──その分、書類の山が一つ崩れて床に散らばったが。

「……はぁ」
「ご、ごめん」

 あからさまな溜め息をいたベルナール。
 ヨアキムは自分に非があった事は確かなので、バツが悪そうに視線を彷徨さまよわせつつ小声で謝罪する。

 ベルナールにしてみれば、ここまで効率が悪くなっている状況に対して溜め息が出た。
 普段ならば机に向かう時間サッド自体嫌うヨアキムなので、この三クタヴテはまだ我慢した方である。

「ここは私が片付けますので、ラングロフ中将は休憩されて構いません。そろそろソドン時間サッドですから、中将令嬢も御休憩を取られる頃合いかと思われます」
「っ!?い、良いのかっ?」
「はい。バンガ時間サッドより再開致しましょう」
「ありがとうベルナール!」

 言い終わる前には既に走り去っていたヨアキムだ。
 ベルナールはこめかみを指でほぐしつつ、子犬のように駆け出したあるじを思う。──『アメとムチ』は使いようだ。
 そうして、ヨアキムが散らかした書類を拾い上げ初める。

 ネコ種のベルナールは常々考えているのだが、オオカミ種の──イヌ系統の種の者は概ね本能的行動が目につく。
 獣属ゆえなのかもしれないが。多種多様なヒトの中で、種の根幹は揺るがないものかと達観した心持ちになった。

 床の上から全ての書類を拾い上げたベルナールは、その中の一枚を取り出して改めて視線を向ける。それは昨ロミに起こった中将令嬢誘拐事件の続報だ。
 中将令嬢の専属侍女からの報告書を見た時、いくらワシ種レンナルツ家門の者でもと甘く考えていたのである。だが実際には外部へ漏らす事もなく、本当にあの侍女が収集した情報だった。
 彼女はワシ種の特徴である高速移動を駆使し、中将令嬢の身の回りの手伝いをおこたる事なく。それ以外の時間サッドを使い、本当に情報を集めていたのである。しかも個人で。

 頭が痛くなりそうだが。あの中将令嬢は、間違いなく『ヒトほいほい』である。それも有能な人材ばかりを掌中に収める。──かといって本人にその考えがないのか、駒のように使うでもないのだ。
 皆で楽しくルンラララなど、脳内御花畑的な人種がする事。ベルナールならばそれこそ、使えるものはヒトの死肉でも使う。

「私も休憩、しますか」

 再度大きな溜め息をき、ベルナールは書類をヨアキムの執務机に置いた。
 ラングロフの持つ情報網を使って半ロミ掛け、ようやくあの時の専属侍女が集めた情報の裏が取れたのである。

 情報に偽りがない事。
 レンナルツ外部に一切漏れていない事。
 そして何より──情報の速度。
 情報は生きている。ゆえに鮮度が命であるのは当然の事、正確で私情の挟まれていない純度が必要だ。
 あの時の報告書は、それらを全て網羅していたのである。──信じられなかった自分に落ち度があると、今更ながらに悔やまれた。

 結局一ロミ前、ベルナールの考えた『団員内の子息令嬢おとり作戦』は見事なまでに失敗と終わった。
 団員達の子息令嬢に何もなかった事は、この先々を考えれば良いのだろうが。狙っていた主犯格が、ただの小児愛者だったとは。──否。あれはただの・・・ではなかった。
 こじれた性癖が更に苛虐思考へ結び付き、被害者達は人形として扱われていた。言葉を奪われ、手足をもががれ。ヒトとしての尊厳も、生命体としての自由も存在していなかったあの空間。

 思い出しただけで腹の奥が沸々と怒りにとらわれそうになり、ベルナールは大きく深呼吸をする。
 中将令嬢の専属侍女が、あのような超回復魔法を使えて本当に良かった。それでなければ──被害者の子供達に慈悲の刃・・・・を向けていただろうと、ベルナールは今でも思う。
 ちなみにその被害者達は全て本人の希望を聞き、親元やラングロフ直営の孤児院に連れていった。
 ラングロフが直接管理している孤児院は、成年した際子供達が路頭に迷う事がないようにと、最低限の教育をおこなっている。食うに困って犯罪に走る事を防ぐ為、中将の奥方がそのように取りはからっていたからだ。

 そして今回、続報自体の内容は重くない。モコクタヴテを終えて孤児院を卒業した元被害者の行く末と、領地内を巡回する査察官の報告だ。卒業生は教育を受けていた為、各商店からの求人で働き先がすぐに決まり、今は見習いとして勤め始めている。
 査察官は以前からいたが、ウゲイン・ワカーの件が発覚してから再度制度が見直しになった。そして複数人が無作為かつ、不定期に巡回する事と決定。これには当然、査察官と領地官吏官の癒着も防ぐ意味合いがある。
 順位不動。秩序なく選抜するのはヨアキムで、さいの目を振るかのように気が向くまま変更するのだ。その為、各査察官はいつでも異動が可能なようにする義務がある。──出来ないと言うのならば罷免ひめんされるだけだ。

ソドン・エゼ・ミード

 ベルナールは執務室の戸締まりをすると、その扉へ進入防止結界を張った。これは普段から重要性のある部屋にベルナールがしている事だが、こうすると設定した彼とヨアキム以外れられなくなる。
 ラングロフ邸内の使用人には周知済みの為、間違っても誰も扉に触る事はない。
 ちなみにれれば電気が走ったように痺れて動けなくなる。麻痺時間は一イトネ。対象者は目だけ動かせるが、それ以外声も出せない状態。術者への警報機能付き。高度な術式なのだ。──これはソドンサジルの魔力属性を持つベルナールだからこそなせるものである。

 実力主義のシュペンネルこの国だが、逆に言えば他者を蹴落とさんと誰もが狙っている殺伐とした国でもあるのだ。
 特に上に立つ者は常に隙を見せられない。例え身内であっても──否、身内であれば尚更だ。ベルナールがヨアキムの子息達を警戒する、一番の理由でもあった。
 血族を含め他者を信用していないベルナールだからこそだが、彼の中で絶対であるのはあるじさだめたヨアキムだけ。それ以外は、それ以外でしかない。──しかもそうしている自身の考え方が特殊である事を、ベルナールは分かった上で行動していた。
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