1,551 / 1,560
1550 動揺と困惑、そして信頼
しおりを挟む
帝国首都ベアナクール。
その北側に位置する場所では、クインズベリー軍軍団長のバーナード・ロブギンス率いる軍団が、首都を覆う闇を睨みながら、突撃の合図を待っていた。
辺り一帯は赤茶色の砂しか見えない砂漠地帯である。
雪こそ降らないが冬の砂漠は冷える。口から吐く息は白く、並び立つクインズベリー兵士達の体から、体温を奪っていた。
そして彼らが睨む、高い城壁に囲まれた帝国首都の北側の門の前には、帝国兵達がずらりと並び立っていた。
黒い鎧を身に付けているのは体力型の兵士達、黒いローブを纏っているのは魔法兵達、その数はざっと見渡しただけでも数万を数えるだろう。
帝国もこちらの動きを察して、すでに配置を済ませている。
両軍まだ距離はあるが、いつ開戦になってもおかしくない緊張感が漂っていた。
「ルナ、どうした?なにかあったのか?」
ゴールド騎士フェリックス・ダラキアンは、立ち尽くしたまま固まっているルナを、怪訝な表情で見た。
闇の巫女のルナは、その体に流れる闇の魔力を持って、帝国首都ベアナクールを覆う闇を封じている。
それは見事に成功し、こちらに向かって来ようとした闇は、まるで静止画のように動きを止めていた。
しかしルナの様子が変だった。闇の動きを止めると、何かに驚いたように、目を見開いて絶句したのだ。
ルナの傍に立っているフェリックスは、いち早くルナの異変に気付いた。
フェリックスの役目はルナの護衛だが、それだけではない。ルナが完全に闇を押さえた事を確認してから、首都へ突撃をかける号令も出すのだ。しかしルナがこの状態では突撃の合図は出せない。
「ルナ!どうしたんだ!?しっかりしろ!」
自分の声が聞こえていない。呆然と立ち尽くすルナを見て、フェリックスはルナの肩を掴んだ。
それでようやくルナは、錆びたゼンマイ人形のようなぎこちない動きで首を回して、フェリックスに顔を向けた。
「・・・イ、イリーナが・・・・・」
やっと絞り出したか細い声は、激しい動揺と困惑で満ちていた。
そして黒い瞳は、すがるようにフェリックスを見ている。
「イリーナ?・・・それは確か、ルナの友人の名前だよね?」
そう言葉を返すと、ルナはしがみつくように、ガバッとフェリックスの両肩に手をかけた。
「イ、イリーナです!あの闇からイリーナの魔力を感じました!ああ、どうしよう!どうしよう!あれは、あの闇は・・・あの闇はイリーナの闇なんです!」
「ル、ルナ!?」
ルナの取り乱しように、フェリックスもたじろいだ。フェリックスから見て、ルナは芯の強い女性だった。出会ったばかりの頃は少し気弱で控えめな印象だったが、最近では慣れてきたのかゴールド騎士の自分にも、遠慮ない物言いをするようになってきたし、誰に対してもハキハキと受け答えをしている。
そのルナが、ここまで取り乱すとは思わなかった。
目にいっぱいの涙を溜め、力いっぱいに自分の肩を掴み、人目をはばからずに声を上げている。
「・・・ルナ、あの闇・・・あの帝国を覆っている闇は、イリーナの闇なんだね?」
ルナの黒い瞳をじっと見つめながら、フェリックスは一言一言、確認するようにハッキリと口にして尋ねた。
「は、はい!イリーナです!間違えるわけがありません!あの闇からはイリーナの魔力を感じます!ああ・・・どうしよう、どうしよう、まさかイリーナはもうトバリに・・・そうなったら、私・・・私・・・」
あの日、イリーナは自分を逃がすために、我が身を犠牲にして帝国の追手スカーレット・シャリフに立ち向かった。
絶対に助ける。そう誓ってここまで来た。けれど、もうイリーナは闇の主トバリに・・・・・
そう考えると胸が張り裂けそうになる。どうしようもない絶望が心に広がり、気が狂いそうだった。
「分かった。心配しないでいいよ、僕がイリーナを助ける」
当たり前のように話された言葉に、ルナは、え?と小さく言葉を漏らし、フェリックスを見た。
「ルナ、キミの友達は僕が助ける」
もう一度、ルナの瞳を見て言葉にする。
その顔には一切の迷いは無く、見る者を納得させる自信だけがあった。
「・・・フェリックス様・・・」
我を忘れていたルナだったが、フッと不思議なくらいに心が落ち着いた。
そしてその言葉を何の疑いもなく信じる事ができた。
「フェリックス様・・・お、お願いします、イリーナを・・・助けて・・・」
「もちろんだよ、ルナ」
ルナの瞳からこぼれた涙を、そっと左手の指先で拭うと、フェリックスは右手を上げた。
「全軍突撃!クインズベリーの力を見せてやれ!」
帝国に向かって右手を振り下ろす。
今、決戦の号令が発せられた!
その北側に位置する場所では、クインズベリー軍軍団長のバーナード・ロブギンス率いる軍団が、首都を覆う闇を睨みながら、突撃の合図を待っていた。
辺り一帯は赤茶色の砂しか見えない砂漠地帯である。
雪こそ降らないが冬の砂漠は冷える。口から吐く息は白く、並び立つクインズベリー兵士達の体から、体温を奪っていた。
そして彼らが睨む、高い城壁に囲まれた帝国首都の北側の門の前には、帝国兵達がずらりと並び立っていた。
黒い鎧を身に付けているのは体力型の兵士達、黒いローブを纏っているのは魔法兵達、その数はざっと見渡しただけでも数万を数えるだろう。
帝国もこちらの動きを察して、すでに配置を済ませている。
両軍まだ距離はあるが、いつ開戦になってもおかしくない緊張感が漂っていた。
「ルナ、どうした?なにかあったのか?」
ゴールド騎士フェリックス・ダラキアンは、立ち尽くしたまま固まっているルナを、怪訝な表情で見た。
闇の巫女のルナは、その体に流れる闇の魔力を持って、帝国首都ベアナクールを覆う闇を封じている。
それは見事に成功し、こちらに向かって来ようとした闇は、まるで静止画のように動きを止めていた。
しかしルナの様子が変だった。闇の動きを止めると、何かに驚いたように、目を見開いて絶句したのだ。
ルナの傍に立っているフェリックスは、いち早くルナの異変に気付いた。
フェリックスの役目はルナの護衛だが、それだけではない。ルナが完全に闇を押さえた事を確認してから、首都へ突撃をかける号令も出すのだ。しかしルナがこの状態では突撃の合図は出せない。
「ルナ!どうしたんだ!?しっかりしろ!」
自分の声が聞こえていない。呆然と立ち尽くすルナを見て、フェリックスはルナの肩を掴んだ。
それでようやくルナは、錆びたゼンマイ人形のようなぎこちない動きで首を回して、フェリックスに顔を向けた。
「・・・イ、イリーナが・・・・・」
やっと絞り出したか細い声は、激しい動揺と困惑で満ちていた。
そして黒い瞳は、すがるようにフェリックスを見ている。
「イリーナ?・・・それは確か、ルナの友人の名前だよね?」
そう言葉を返すと、ルナはしがみつくように、ガバッとフェリックスの両肩に手をかけた。
「イ、イリーナです!あの闇からイリーナの魔力を感じました!ああ、どうしよう!どうしよう!あれは、あの闇は・・・あの闇はイリーナの闇なんです!」
「ル、ルナ!?」
ルナの取り乱しように、フェリックスもたじろいだ。フェリックスから見て、ルナは芯の強い女性だった。出会ったばかりの頃は少し気弱で控えめな印象だったが、最近では慣れてきたのかゴールド騎士の自分にも、遠慮ない物言いをするようになってきたし、誰に対してもハキハキと受け答えをしている。
そのルナが、ここまで取り乱すとは思わなかった。
目にいっぱいの涙を溜め、力いっぱいに自分の肩を掴み、人目をはばからずに声を上げている。
「・・・ルナ、あの闇・・・あの帝国を覆っている闇は、イリーナの闇なんだね?」
ルナの黒い瞳をじっと見つめながら、フェリックスは一言一言、確認するようにハッキリと口にして尋ねた。
「は、はい!イリーナです!間違えるわけがありません!あの闇からはイリーナの魔力を感じます!ああ・・・どうしよう、どうしよう、まさかイリーナはもうトバリに・・・そうなったら、私・・・私・・・」
あの日、イリーナは自分を逃がすために、我が身を犠牲にして帝国の追手スカーレット・シャリフに立ち向かった。
絶対に助ける。そう誓ってここまで来た。けれど、もうイリーナは闇の主トバリに・・・・・
そう考えると胸が張り裂けそうになる。どうしようもない絶望が心に広がり、気が狂いそうだった。
「分かった。心配しないでいいよ、僕がイリーナを助ける」
当たり前のように話された言葉に、ルナは、え?と小さく言葉を漏らし、フェリックスを見た。
「ルナ、キミの友達は僕が助ける」
もう一度、ルナの瞳を見て言葉にする。
その顔には一切の迷いは無く、見る者を納得させる自信だけがあった。
「・・・フェリックス様・・・」
我を忘れていたルナだったが、フッと不思議なくらいに心が落ち着いた。
そしてその言葉を何の疑いもなく信じる事ができた。
「フェリックス様・・・お、お願いします、イリーナを・・・助けて・・・」
「もちろんだよ、ルナ」
ルナの瞳からこぼれた涙を、そっと左手の指先で拭うと、フェリックスは右手を上げた。
「全軍突撃!クインズベリーの力を見せてやれ!」
帝国に向かって右手を振り下ろす。
今、決戦の号令が発せられた!
0
あなたにおすすめの小説
私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~
Ss侍
ファンタジー
"私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。
動けない、何もできない、そもそも身体がない。
自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。
ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。
それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!
俺! 神獣達のママ(♂)なんです!
青山喜太
ファンタジー
時は、勇者歴2102年。
世界を巻き込む世界大戦から生き延びた、国々の一つアトランタでとある事件が起きた。
王都アトスがたったの一夜、いや正確に言えば10分で崩壊したのである。
その犯人は5体の神獣。
そして破壊の限りを尽くした神獣達はついにはアトス屈指の魔法使いレメンスラーの転移魔法によって散り散りに飛ばされたのである。
一件落着かと思えたこの事件。
だが、そんな中、叫ぶ男が1人。
「ふざけんなぁぁぁあ!!」
王都を見渡せる丘の上でそう叫んでいた彼は、そう何を隠そう──。
神獣達のママ(男)であった……。
正しい聖女さまのつくりかた
みるくてぃー
ファンタジー
王家で育てられた(自称)平民少女が、学園で起こすハチャメチャ学園(ラブ?)コメディ。
同じ年の第二王女をはじめ、優しい兄姉(第一王女と王子)に見守られながら成長していく。
一般常識が一切通用しない少女に友人達は振り回されてばかり、「アリスちゃんメイドを目指すのになぜダンスや淑女教育が必要なの!?」
そこには人知れず王妃と王女達によるとある計画が進められていた!
果たしてアリスは無事に立派なメイドになれるのか!? たぶん無理かなぁ……。
聖女シリーズ第一弾「正しい聖女さまのつくりかた」
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
武装法人二階堂商会 ―― 企業買収(M&A)で異世界を支配する!
Innocentblue
ファンタジー
日本で企業買収の最前線を駆け抜けてきた敏腕社長・二階堂漣司。
裏切りにより命を落としたはずの彼が目を覚ましたのは、
剣と魔法が支配する異世界の戦場だった。
与えられたスキルは《企業買収(M&A)》。
兵士も村も土地も国家さえも、株式として評価・買収・支配できる異能の力。
「ならば、この世界そのものを買い叩く」
漣司は《武装法人二階堂商会》を設立。
冷徹な参謀にして最強の魔導士リュシア、獣人傭兵団、裏社会の戦力――
すべてを子会社として編成し、経済と武力を融合した前代未聞の経営戦争へと踏み出す。
弱小の村を救済し、都市と契約を結び、裏切り者を切り捨て、敵対勢力を力で買収する。
交渉は戦争、戦争は経営。
数字が命運を決め、契約が国境を塗り替える。
やがて商会は、都市国家・ギルド・貴族・宗教勢力すら巻き込み、
世界の価値そのものを再定義する巨大企業へと変貌していく。
これは、剣ではなく契約で世界を制圧する男の物語。
奪うのではない。支配するのでもない。
価値を見抜き、価値を操り、世界に値札を付ける――
救済か、支配か。正義か、合理か。
その境界線を踏み越えながら、蓮司は異世界そのものを経営していく。
異世界×経済×武力が激突する、知略と覇道の武装経営ファンタジー。
「この世界には、村があり、町があり、国家がある。
――全部まとめて、俺が買い叩く」
【完結】奪われたものを取り戻せ!〜転生王子の奪還〜
伽羅
ファンタジー
事故で死んだはずの僕は、気がついたら異世界に転生していた。
しかも王子だって!?
けれど5歳になる頃、宰相の謀反にあい、両親は殺され、僕自身も傷を負い、命からがら逃げ出した。
助けてくれた騎士団長達と共に生き延びて奪還の機会をうかがうが…。
以前、投稿していた作品を加筆修正しています。
巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった
ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。
学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。
だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。
暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。
よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!?
……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい!
そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。
赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。
「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」
そう、他人事のように見送った俺だったが……。
直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。
「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」
――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる