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1288 険しく細い道
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山中で火魔法を使う時は、山火事の恐れを考えなきゃならねぇ。
だから炎の杖を使う時でも周囲に気を配って、炎の範囲も考慮して慎重に使っていた。
けどな、もうここを切り抜ける方法はこれしか思いつかねぇ!
炎の杖に込めた魔力を、いくつもの塊として分ける。それらを空中に発散し炎へと変換する。
天から降り注ぐ炎の雨は、国に仇をなす愚か者を焼き滅ぼす。
「これが炎の杖の奥義、裁きの炎だ!」
空を赤く染める無数の炎の塊を見て、帝国兵達は言葉を失い、ただ立ち尽くし眺める事しかできなかった。
そしてフィゲロアが頭上に掲げる炎の杖を振り下ろすと、炎の球が流星の如く降り注いだ!
「焼け死ぬがいぃーーーーーッツ!」
樹々をへし折り大地にぶつかった炎の球は、爆音を響かせ大地を焼き焦がす。着弾した帝国兵は抗う事さえできず消し炭となり、逃げ惑う帝国兵達の悲鳴が山中に響き渡った。
帝国軍の青魔法使い達は、かろうじて結界で防ぎ凌いでいる。
だが止むことなく頭上から降り注ぐ炎の雨に、一歩も動く事ができず釘付けにされていた。
もし一瞬でも結界を解いてしまえば、炎の着弾の前に、辺り一帯を焼いている炎の熱で、喉や肺を焼かれてしまうだろう。
「ハァッ、ハァッ・・・よし!今のうちだ、行くぞアゲ・・・っ!」
辺り一帯が火の海に変わると、フィゲロアは傍らで倒れているアゲハの体を起こした。
そしてその顔を見て息を飲んだ。
血の気が失せた顔は青白く、唇は色を失っている。やはりナイフを抜いた事で出血量が増したのだろう。
呼吸も浅く、もはや腹部の腐敗が全身に広がるよりも、失血による死が先かもしれない。
フィゲロアは脳裏によぎった、死、という言葉を打ち消すように首を横に振った。
そしてアゲハを背負うと、自分に言い聞かせるように言葉に力を込めて発した。
「・・・くっ、だ、大丈夫だ!アゲハ、大丈夫だからな!あきらめんじゃねぇぞ!」
しかしアゲハからは何一つ反応は返ってこない。返事はおろか、頷く事も指の一本も動かす様子がない。
完全に意識を失っているのだろう、体を投げ出すように背負われているアゲハは、両手を肩へ回す事もなく項垂(うなだ)れ、両手はダラリと下げられていた。
・・・まずいな。
言葉を口にこそしなかったが、フィゲロアはアゲハの容態がいよいよ危険な状態に陥ったと理解した。
もう本当に時間の猶予は無い。今すぐクアルトに見せて処置を施してもらわなければ、アゲハの命は・・・・・
「ここから全力で走れば・・・」
今から全力で拠点まで走れば・・・・・
間に合うのか?・・・いや、考えている暇はない、俺には走る事しかできないんだ。
アゲハ・・・お前は俺の代わりに刺されたようなものだ。
俺がジャロン・リピネッツに何もできなかったからお前は一人で・・・・・
お前が俺のために戦ったわけじゃないのは分かってる。だが俺は・・・俺はあの時、自分がジャロン・リピネッツと戦えていればと思ってしまうんだ。
相性が悪かったってのは言い訳にもならねぇ。俺は自分の力不足が許せねぇ。
だからアゲハ、一対一であのジャロン・リピネッツに勝利したお前は尊敬に値する。
そして俺はお前に命を救われたんだ。だから俺はお前を助ける。
「・・・走るんだ・・・絶対に助けてみせる!」
間に合わないんじゃない!間に合わせるんだ!
決して落とさないようにアゲハをしっかりと背負うと、俺は燃える山中を駆け抜けた。
魔力の大半を込めた裁きの炎は、いまだ止まずに地上に降り注いでいる。
すでに辺りは火の海と化し、帝国兵は己の身を護る事に精一杯だ。自分が生きるか死ぬかの状況で、俺達にかまっている余裕などないだろう。
このまま逃げ切れる・・・・・そう思っていた。
「うおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーー!アゲハァァァァァァーーーーーーーーーーッツ!」
「ッツ!?」
背後からの怒声に振り返ると、さっき俺にアゲハの身柄を渡せと言った帝国の部隊長が、身体の半分を炎に焼かれながら、剣を振り上げて飛び掛かってきた。
「よぐも!よぐもやっでぐれだながァァァァァーーーッツ!ぎざまだけは殺してやるらァァァァァーーーーーーーーーーッツ!」
口が裂ける程に開けて憎悪を叫び、身体を焼かれる痛みさえも超越して襲い来る!
「くそっ!」
この男、なんて執念だ!どうする!?アゲハを背負ったまま躱すなんて、魔法使いの俺には不可能だ。
炎の杖で受ける事もできない、くそっ!結界しかない!
「ガァァァァァァァーーーーーーーーーーッツ!」
部隊長の剣が振り下ろされると、硬い金属音が鳴り響いた。
「くっ!お、重い!」
この男、伊達に部隊を率いていない!
結界で受け止めはしたが、結界越しに伝わってくるこの威力!・・・想像以上だ!
「ウオォォォォォォォォォーーーーーーーーッツ!」
俺が結界で剣を受け止めると、部隊長の男はもう一度剣を振り上げ叩きつけてくる!
「ぐっ!こ、こいつッツ!まさか力ずくで結界を破る気か!?」
二度でダメなら三度、三度でダメなら四度、もう一度!もう一度!もう一度!
「グオォォォォォォォォォーーーーーーーーーッツ!」
身体を炎に焼かれながら目を血走らせ、口の端に泡を溜めて叫ぶその姿は、もはや同じ人間とは思えなかった。
こ、この男っ!本気だ!生きようなんて思ってねぇ!全身を炎に焼かれて死ぬ前に、俺とアゲハを道連れの死ぬ気だ!くそっ、裁きの炎で魔力の大半を使っちまったから、結界を維持するだけの魔力がたりねぇ!このままじゃ・・・・・
「ウォォォォォォォォーーーーーーーーッ!ぶっ殺してヤルァァァァァーーーーーーッツ!」
ひときわ大きい金属音が鳴り響き、とうとう結界に亀裂が入った!
「くそっ!ま、魔力さえ、魔力さえ残っていたら・・・っ!」
どうする!?もう結界はもたねぇ、次の一撃で結界は破られる・・・こうなったらアレをやるしか・・・・・
魔力が底をついた魔法使いの最後の手段。
失った魔力の代わりに命を燃やして抗えば、こいつを倒す事はできる!
後は運しだいだが、アゲハを拠点に連れて行くまで維持でもこの命を持たせてやる!
「やってや・・・っ!?」
「フィ・・・ゲ、ロア・・・だめ、だ・・・・・」
背中から微かに聞こえたか細い声に思わず振り返った。
「アゲハ・・・」
お前・・・・・
僅かに開いた瞼から見える黒い瞳は、確かに俺を見ていた。
完全に意識を失ったと思っていた。いや、実際に意識を失っていたはずだ。
あれだけ血を失い、腹部からは腐敗も広がって、今アゲハを襲う苦痛は想像を絶するはずだ。
それなのに意識を取り戻したというのか?
まさか命を燃やそうとした俺の魔力を感じとったのか?
「お前・・・・・」
俺を止めるために・・・・・また俺を助けようとして・・・・・
「フィゲロア・・・それだけは、ダメだ・・・・・」
もう一度アゲハの声が俺の耳に届いたその時、結界が割れる破壊音が響き渡った。
「アアアアアアーーーーーーッツ!殺してやるァァァァーーーーーッツ!殺してやるぞォォォォォーーーーーッツ!」
部隊長はもう一度剣を振り上げた。一瞬の後、俺もアゲハも斬り殺されるだろう。
もう魔力は残っていない。
俺にはこいつの剣を止める力は無いし、逃げる事もできない。
あきらめかけたその時、ふと自分が今どこに立っているのか、その足場が目に入った。
どうやら最後の最後で、俺には生きる道が残されていたようだ。
それはとても険しくか細い道だが、勇気と覚悟があれば渡り切れるはず・・・・・
迷っている時間はなかった。
「うおぉぉぉぉぉぉーーーーーーッツ!」
俺はアゲハの頭を胸に抱え込むと、後ろに広がる絶壁の如き坂道に飛び込んだ!
アゲハ・・・絶対に生きて帰るぞ・・・・・
だから炎の杖を使う時でも周囲に気を配って、炎の範囲も考慮して慎重に使っていた。
けどな、もうここを切り抜ける方法はこれしか思いつかねぇ!
炎の杖に込めた魔力を、いくつもの塊として分ける。それらを空中に発散し炎へと変換する。
天から降り注ぐ炎の雨は、国に仇をなす愚か者を焼き滅ぼす。
「これが炎の杖の奥義、裁きの炎だ!」
空を赤く染める無数の炎の塊を見て、帝国兵達は言葉を失い、ただ立ち尽くし眺める事しかできなかった。
そしてフィゲロアが頭上に掲げる炎の杖を振り下ろすと、炎の球が流星の如く降り注いだ!
「焼け死ぬがいぃーーーーーッツ!」
樹々をへし折り大地にぶつかった炎の球は、爆音を響かせ大地を焼き焦がす。着弾した帝国兵は抗う事さえできず消し炭となり、逃げ惑う帝国兵達の悲鳴が山中に響き渡った。
帝国軍の青魔法使い達は、かろうじて結界で防ぎ凌いでいる。
だが止むことなく頭上から降り注ぐ炎の雨に、一歩も動く事ができず釘付けにされていた。
もし一瞬でも結界を解いてしまえば、炎の着弾の前に、辺り一帯を焼いている炎の熱で、喉や肺を焼かれてしまうだろう。
「ハァッ、ハァッ・・・よし!今のうちだ、行くぞアゲ・・・っ!」
辺り一帯が火の海に変わると、フィゲロアは傍らで倒れているアゲハの体を起こした。
そしてその顔を見て息を飲んだ。
血の気が失せた顔は青白く、唇は色を失っている。やはりナイフを抜いた事で出血量が増したのだろう。
呼吸も浅く、もはや腹部の腐敗が全身に広がるよりも、失血による死が先かもしれない。
フィゲロアは脳裏によぎった、死、という言葉を打ち消すように首を横に振った。
そしてアゲハを背負うと、自分に言い聞かせるように言葉に力を込めて発した。
「・・・くっ、だ、大丈夫だ!アゲハ、大丈夫だからな!あきらめんじゃねぇぞ!」
しかしアゲハからは何一つ反応は返ってこない。返事はおろか、頷く事も指の一本も動かす様子がない。
完全に意識を失っているのだろう、体を投げ出すように背負われているアゲハは、両手を肩へ回す事もなく項垂(うなだ)れ、両手はダラリと下げられていた。
・・・まずいな。
言葉を口にこそしなかったが、フィゲロアはアゲハの容態がいよいよ危険な状態に陥ったと理解した。
もう本当に時間の猶予は無い。今すぐクアルトに見せて処置を施してもらわなければ、アゲハの命は・・・・・
「ここから全力で走れば・・・」
今から全力で拠点まで走れば・・・・・
間に合うのか?・・・いや、考えている暇はない、俺には走る事しかできないんだ。
アゲハ・・・お前は俺の代わりに刺されたようなものだ。
俺がジャロン・リピネッツに何もできなかったからお前は一人で・・・・・
お前が俺のために戦ったわけじゃないのは分かってる。だが俺は・・・俺はあの時、自分がジャロン・リピネッツと戦えていればと思ってしまうんだ。
相性が悪かったってのは言い訳にもならねぇ。俺は自分の力不足が許せねぇ。
だからアゲハ、一対一であのジャロン・リピネッツに勝利したお前は尊敬に値する。
そして俺はお前に命を救われたんだ。だから俺はお前を助ける。
「・・・走るんだ・・・絶対に助けてみせる!」
間に合わないんじゃない!間に合わせるんだ!
決して落とさないようにアゲハをしっかりと背負うと、俺は燃える山中を駆け抜けた。
魔力の大半を込めた裁きの炎は、いまだ止まずに地上に降り注いでいる。
すでに辺りは火の海と化し、帝国兵は己の身を護る事に精一杯だ。自分が生きるか死ぬかの状況で、俺達にかまっている余裕などないだろう。
このまま逃げ切れる・・・・・そう思っていた。
「うおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーー!アゲハァァァァァァーーーーーーーーーーッツ!」
「ッツ!?」
背後からの怒声に振り返ると、さっき俺にアゲハの身柄を渡せと言った帝国の部隊長が、身体の半分を炎に焼かれながら、剣を振り上げて飛び掛かってきた。
「よぐも!よぐもやっでぐれだながァァァァァーーーッツ!ぎざまだけは殺してやるらァァァァァーーーーーーーーーーッツ!」
口が裂ける程に開けて憎悪を叫び、身体を焼かれる痛みさえも超越して襲い来る!
「くそっ!」
この男、なんて執念だ!どうする!?アゲハを背負ったまま躱すなんて、魔法使いの俺には不可能だ。
炎の杖で受ける事もできない、くそっ!結界しかない!
「ガァァァァァァァーーーーーーーーーーッツ!」
部隊長の剣が振り下ろされると、硬い金属音が鳴り響いた。
「くっ!お、重い!」
この男、伊達に部隊を率いていない!
結界で受け止めはしたが、結界越しに伝わってくるこの威力!・・・想像以上だ!
「ウオォォォォォォォォォーーーーーーーーッツ!」
俺が結界で剣を受け止めると、部隊長の男はもう一度剣を振り上げ叩きつけてくる!
「ぐっ!こ、こいつッツ!まさか力ずくで結界を破る気か!?」
二度でダメなら三度、三度でダメなら四度、もう一度!もう一度!もう一度!
「グオォォォォォォォォォーーーーーーーーーッツ!」
身体を炎に焼かれながら目を血走らせ、口の端に泡を溜めて叫ぶその姿は、もはや同じ人間とは思えなかった。
こ、この男っ!本気だ!生きようなんて思ってねぇ!全身を炎に焼かれて死ぬ前に、俺とアゲハを道連れの死ぬ気だ!くそっ、裁きの炎で魔力の大半を使っちまったから、結界を維持するだけの魔力がたりねぇ!このままじゃ・・・・・
「ウォォォォォォォォーーーーーーーーッ!ぶっ殺してヤルァァァァァーーーーーーッツ!」
ひときわ大きい金属音が鳴り響き、とうとう結界に亀裂が入った!
「くそっ!ま、魔力さえ、魔力さえ残っていたら・・・っ!」
どうする!?もう結界はもたねぇ、次の一撃で結界は破られる・・・こうなったらアレをやるしか・・・・・
魔力が底をついた魔法使いの最後の手段。
失った魔力の代わりに命を燃やして抗えば、こいつを倒す事はできる!
後は運しだいだが、アゲハを拠点に連れて行くまで維持でもこの命を持たせてやる!
「やってや・・・っ!?」
「フィ・・・ゲ、ロア・・・だめ、だ・・・・・」
背中から微かに聞こえたか細い声に思わず振り返った。
「アゲハ・・・」
お前・・・・・
僅かに開いた瞼から見える黒い瞳は、確かに俺を見ていた。
完全に意識を失ったと思っていた。いや、実際に意識を失っていたはずだ。
あれだけ血を失い、腹部からは腐敗も広がって、今アゲハを襲う苦痛は想像を絶するはずだ。
それなのに意識を取り戻したというのか?
まさか命を燃やそうとした俺の魔力を感じとったのか?
「お前・・・・・」
俺を止めるために・・・・・また俺を助けようとして・・・・・
「フィゲロア・・・それだけは、ダメだ・・・・・」
もう一度アゲハの声が俺の耳に届いたその時、結界が割れる破壊音が響き渡った。
「アアアアアアーーーーーーッツ!殺してやるァァァァーーーーーッツ!殺してやるぞォォォォォーーーーーッツ!」
部隊長はもう一度剣を振り上げた。一瞬の後、俺もアゲハも斬り殺されるだろう。
もう魔力は残っていない。
俺にはこいつの剣を止める力は無いし、逃げる事もできない。
あきらめかけたその時、ふと自分が今どこに立っているのか、その足場が目に入った。
どうやら最後の最後で、俺には生きる道が残されていたようだ。
それはとても険しくか細い道だが、勇気と覚悟があれば渡り切れるはず・・・・・
迷っている時間はなかった。
「うおぉぉぉぉぉぉーーーーーーッツ!」
俺はアゲハの頭を胸に抱え込むと、後ろに広がる絶壁の如き坂道に飛び込んだ!
アゲハ・・・絶対に生きて帰るぞ・・・・・
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