異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎

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1321 手の平の上

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「ハッ!」

ラクエルは地面スレスレまで腰を落として左手を着くと、右足で地面を蹴って体を浮かし、ヴァネッサの足首を刈り取るように蹴りを繰り出した。

「チィッ!」

憎々し気に舌を打ち、ヴァネッサは後ろに飛び退く。

「この!さっきからちょこまかと鬱陶しい!」

苛立ちを露わにして、ヴァネッサはラクエルを睨みつける。

「よっと」

蹴りが空振りすると、ラクエルは軸とした左手で地面を押すようにして飛び上がり、体を一回転させて軽やかに地面に着地をした。
右手に持つ白い刃のナイフをヴァネッサに向け、油断なく見据えているが、その表情にはヴァネッサと違い余裕が浮かんで見えた。

「あんたさ、その盾に頼って相手の攻撃を無効化して、ナイフで仕留めるってパターン?今までそればっかだったんでしょ?だから腰から下、特に足元狙われると全然ダメ。パワーはアタシよりあるし、スピードも五分ってたけど、もう動かなくなってきたんじゃない?」

ラクエルの指摘にヴァネッサは表情を険しくさせ、強く歯噛みした。


対峙して睨み合う二人の姿は対照的だった。

ヴァネッサは腰から上、上半身はほぼ無傷だった。それは両腕の丸い盾でラクエルの攻撃のほぼ全てを受け流していたからなのだが、今は右腕には丸い盾は装備されておらず、左腕のみとなっている。

なぜか?
これは戦闘中にラクエルの氷結のナイフを右の盾で受け流そうとしたのだが、触れた物を凍らせる氷結のナイフの力は、ヴァネッサの盾さえも凍らせたのである。
急速に氷漬けになっていく自分の盾を見て、ヴァネッサは腕まで凍らされる前に盾を投げ捨てたのだ。

そして下半身は相当のダメージの受けていた。
両足に付けていた鉄の脛当てはヒビ割れており、膝や腿は赤く腫れていた。内出血もあるだろう。
これは上半身への攻撃がまるで通じなかったがゆえに、ラクエルが下半身への蹴りを主体に攻め立てた結果であるが、意図せずヴァネッサの弱点を突く形となった。


対するラクエルも無傷ではない。
ヴァネッサの両手に握られるナイフによって、肩や腕、脇腹や額までも斬られて血が流れている。
しかしダメージのほとんどが上半身に集中しており、下半身は全くの無傷だった。
これはラクエルの指摘通り、ヴァネッサが特定のパターンの戦いに慣れている事を証明していた。

事実ヴァネッサは身体能力は優れていた。
男の兵士に負けない腕力、そして抜きんでたスピード。この二つがあれば、相手の攻撃を盾で受け流し、そのままナイフで仕留める。これだけで大半の相手には勝てていた。
そのためガルバンとの手合わせ以外で苦戦をした事も、戦いを長引かせた事もなかった。

必勝のパターンを生み出したがゆえに、それが通用しなかった時の対策ができていなかった。

ラクエルの指摘によってそれに気づかされたヴァネッサは、自分が窮地に追い込まれている事を自覚し、
その背に冷たい汗を掻いていた。

「・・・ふん、だからどうしたって言うのさ?足ばっかり狙って勝てるとでも思ってんのかい?あんたのそのナイフを私は絶対にくらわない。ペチペチ蹴ってばかりで戦いに勝てると思ってんじゃないよ!捕まえたら私の勝ちだ!」

じわじわと体を蝕んで来るような、嫌な気配を振り払うようにヴァネッサは叫んだ。
確かに追い込まれている。それは認めよう、しかし気迫で負けるわけにはいかない。精神的遅れをとれば、その時点で敗北を喫する事になる。

ギラリと目を光らせてラクエルを睨みつけ、両手に持つナイフを握り直して構えた。


「へぇ~・・・ここで立て直すんだ。やるじゃん?でも、もう遅いよ。虚勢を張ったってその足じゃもう無理だね。アタシの氷結のナイフで氷漬けにしてやるよ」

ジリっと一歩足を前に出し、ラクエルも右手に握る氷結のナイフを構えた。

得物は互いにナイフである。
だが右手に一本だけナイフを握るラクエルに対し、ヴァネッサは両手に持ち、尚且つ左腕には盾も付けている。装備だけを比較した場合ヴァネッサの方が有利に見えるが、実態はそうではない。

触れた物全てを凍らせる氷結のナイフに対して、ヴァネッサのナイフも盾も、特殊能力のある魔道具ではない。刃を打ち合わせるだけでも氷漬けにされてしまう以上、躱しながら戦うしかないのだ。

ラクエルとしても簡単な戦いではない。
だが相手に防御さえ許さない、氷結のナイフを持っている優位性はあった。


「・・・かかってきな」

ヴァネッサが静かに言葉を発する。短い一言だが、己が上であると含みを持たせ物言いに、ラクエルは呆れ小馬鹿にするように笑った。

「なにかっこつけてんだか?足が動かないだけでしょ?それを隠すためにかかってこいって?超ダサくない?まぁいいけどさ・・・行ってやるよ!」

金茶色の瞳を鋭く細め、言葉の最後に力を込めて右足で強く地面を蹴った。
そしてラクエルが飛び出した次の瞬間、ヴァネッサも合わせるようにして飛び出して来た。


「ッ!?」

動けないと思っていたヴァネッサが向かって来た事で、ラクエルは意表を突かれ目を見開いた。

ヴァネッサの足に、どれだけのダメージを与えたかは認識していたつもりだった。
全く動けない程ではないが、腫れや内出血を見れば、素早い動きが難しいのは一目で分かる。
だからヴァネッサが挑発するように、かかってこい、と口にした時は虚勢だと笑ったのだが、どうやら敵の策にまんまと乗せられたようだ。


速い!こいつ、まだこんなに動けたのか!?
くそっ、前に出られて距離感を潰された!こいつ直情的だと思ったらけっこう考えてやがる!
アタシに足が限界だと思わせておいて、ここで隙を突くつもりだったんだ。
下半身への攻撃に対処できないから、それを逆手にとってこの状況を作りだしたってんならとんだ策士だよ。

今更後ろには下がる事も、回り込む事もできない、このまま正面からやってやる!

「ハァァァァーーーーーッツ!」

右手に持つ氷結のナイフを握り直し、ラクエルは叫んだ!




かかった!

そうだ、お前の言う通り、私はお前の攻撃に対応できなかった。
だがお前が私の足を奪うつもりなら、私はそれを逆手にとる事もできる。
足を引きずり、フラフラと安定しない動きを見せれば、お前は自分が望んだ通りの状況を作り出せたと満足するだろう?

そして私がお前の動きに付いて行けなくなった時、お前は必ず止めにナイフを使う。
なぜか?お前も分かっているはずだ、足を潰せても命を取る事はできない。部下達は今は大人しく戦いを見ているが、いつ参戦してくるかわからない。この状況ではできれば早めに決着をつけたいはずだ。

ならばチャンスがあったらそこで一気に決め来るはずだ!
私はお前が望む通りの演出をして、お前が乗ってきたところを返り討ちにする。
そう、これは私の筋書き通りなんだよ。

動けないはずの私が動いた。足のダメージは確かに大きい、無理をすれば本当にダメになる。
だが振り絞れば一度限りはお前に届く速さが出せる。

私は狙い通りこの状況を作り出した。しかしお前は面食らっただろう?一瞬でも集中を乱されれば、それが致命傷となるんだ。

この戦い・・・・・

「私の勝ちだァァァーーーーーー!」



両者の距離が腕が届くまでに詰まった時、先手を取ったのはヴァネッサだった。
ラクエルの首筋に狙いをつけて、右のナイフを真っすぐに突き出す!


「ッ!」

やっぱり隙を突かれた分、一瞬だけこいつの方が速い!だけど狙いはあまい!
アタシが右手にナイフを持ってるから、左を狙って来るってのは予想してたんだ。
ここで躱す事は難しくない。けれど頭や上体を動かせば、次の手もこの女に譲る事になる。
二の手、三の手まで取らせたら防戦になるだけだ。だったらこれしかないね!

ラクエルは左拳を握り締め、内側から外へ振り払った!



ハッ、バカめ!何をしてくるかと思えば、その細腕で私の腕を払えると思ってんのかい!?
私は男にも負けないくらいの腕力を持ってるんだ!このままあんたの首を突き刺して・・・!?

その時、ヴァネッサの右腕、肘の内側に突き刺すような鋭く貫通力のある衝撃が走った。

「なッ!?」

想定以上の威力に、ヴァネッサは驚き目を向けた。

それはラクエルの左の肘だった。ヴァネッサは腕をぶつけて払ってくると見ていた。
しかしそれではパワー不足だと判断したラクエルは肘を使い、体当たりをするようにして体重を乗せた一撃を叩き込んでいた。
更に言えば肘の内側を狙ったのも、より効果的にダメージを与え、右の軌道を逸らす狙いがあった。

そしてラクエルの思惑通りヴァネッサの右腕は弾かれた。
それは右半身ががら空きになった事を意味する。


もらった!

その隙を見逃すラクエルではない。
左足を前に出して踏み込むと、右の胸に狙いを付けて真っすぐにナイフを突き出した!
体勢を崩したヴァネッサにこの一撃を躱す術はない。そして防御方法も極めて限られていた。


肘を使って来るとはやってくれる!だがまだだ!
そう、ラクエルの突きを防ぐにはこれしかない。残った左腕、ヴァネッサはそこに渾身の力を込めてナイフを振るった!

「ラァァァァァーーーーーーッツ!」

金属同士が打ちあう高い音が響き、ラクエルの氷結のナイフが横から弾かれた!
ビリビリと腕に響く強烈な衝撃にナイフを落としそうになるが、きつく握り締めて耐える。
しかし腕を外に大きく振られ、今度はラクエルの体が無防備にさらけ出された。


「チッ!」

ヴァネッサは左手に持っていたナイフを投げ捨てた。
ラクエルのナイフを弾く事はできた。しかし触れた物を凍らせるラクエルのナイフは、弾かれたとしてもヴァネッサのナイフを氷漬かせていた。握り続けていれば左手までも氷に固められていただろう。


触れた物全てを凍らせるナイフがこれほどとはな!
だがまだ一本残っている!

「これで終わりだぁぁぁぁぁーーーーーーーーーッツ!」

左足で一歩深く踏み込む!叫び声と共に、右手に握るナイフをラクエルの頭に振り下ろした!


決まった!
体制は崩した、このタイミングじゃ絶対に躱せない!

私の勝ちだぁぁぁーーーッツ!




・・・・・ヴァネッサのナイフはラクエルの頭を叩き切った・・・・・はずだった。



「なっ・・・!?」

確かに斬った、斬ったはずだった。
振り下ろしたナイフは頭に食い込み、ラクエルを斬り裂いた。

しかし斬ったと思った直後、目の前の金髪の女の姿が二重、三重にぶれ始め、風に溶けるように消えたのだ。


「・・・勝ったと思ったかい?残念、幻だ」

背後に聞こえた声に振り返ろうとしたその時、冷たい感触がヴァネッサの喉を貫いた。

「ガッ・・・グ、ァ・・・・・ッ!」

白いナイフから発せられる冷気が、ヴァネッサの喉を氷漬かせる。

うめき声とともに口から血を吐き出すヴァネッサの耳元で、ラクエルは囁いた。


「魔道具、幻視(げんし)の音色(ねいろ)・・・さっきあんたがアタシのナイフを弾いた時に、この音を紛れさせといた。使用条件が厳しいからてこずったけど、あんたはアタシの手の平の上だったってわけ」


首を固めた氷はそのまま全身に広がっていき、やがてヴァネッサを氷の彫像へと変えた。


「どう?これが魔道剣士の戦い方さ・・・って、もう聞こえてないか」
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