異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎

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1360 ルーシーの交渉

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ラザレナ・シールズは、歓喜と困惑を同時に感じていた。

もっとも戦闘に向かないと言われる白魔法使いが、自分を吹き飛ばす程の一発を撃って来たのだ。
戦闘を好むラザレナにとって、強者の出現は望むべき事であり喜びだった。

しかしこのオレンジ色の髪の女は、自分の瞳の力によって体内に高温を宿し、倒れていたはずだった。
ヒールによって回復する事は可能だが、ラザレナの熱は体を内側から焼く。それは呼吸を困難に陥らせ、高熱によって意識を朦朧とさせ、やがて死に至らしめる。

魔法を使おうにも、とても集中などできるはずがない。

ではあの状態からどうやって回復したのだ?状況だけを見れば、オレンジ色の髪の女が自分の治癒魔法で回復したと見るべきなのだろう。だがラザレナはこの女が、熱でもがき苦しみ倒れるところを目にしている。だからこそ、そこから自力で回復できたとは思えなかったのだ。

疑問ではあった。しかしそんな疑問は、ラザレナにとって大して重要ではなかった。

ラザレナにとっては強者との戦いこそが最優先される事である。
不可解な現象が起きたとしても、今自分の目の前に、強い魔力を持った相手が立ちはだかった。
それこそが全てであり、他はどうでもいい些末な事なのだ。



「その白い羽、魔導具かしら?上級魔法と遜色のないすごい風だったわ。ちょっぴり怪我もしちゃったし、あなた大人しいみかけによらず、結構強いのね?」

ラザレナは前髪を描き上げると、カチュアを品定めするように頭のてっぺんから爪先まで、じっくりと視線を送った。

体に纏わりつく、ねっとりとした視線に嫌なものを感じたが、カチュアは白い羽を握ったまま、ラザレナを強く睨みつけて言葉を返した。

「私は強くなんてありません。レイジェスのみんなや、クインズベリーの沢山に人達に助けられてばかりです。でも、強くならないといけない。頑張らないといけない。泣いてばかりいられない。そう思ってます」

「あら?ふふふ、なによ・・・すごく素敵じゃない。あなたの血も美味しそうね」

ラザレナは一瞬意外そうに目を丸くしたが、すぐに口角を上げて楽しそうに笑った。

カチュアの言葉に裏表はない。だがラザレナがカチュアから感じた印象は、一人の人間として芯の強さを持った者の言葉だった。

深紅の刃に血を吸わせるに足る獲物と認識したラザレナは、血を求める赤い剣を構えて今まさにカチュアに飛び掛かろうとした。

その時だった。


「そこまでだ!」


突然背後からぶつけられた声にラザレナが振り返ると、そこには四勇士ルーシー・アフマダリエフによって地面に組み伏せられ、喉元に水の刃を当てられた皇帝の甥、ノーマン・ブルーナーの姿があった。

「ぐうぅ・・・は、離せ!ぐぁぁッ!」

「おっと、あまり動かない方がいいぞ。私がもうひと捻りするだけで、お前の肩や肘が砕けるからな」

怒りと苦痛に顔を歪ませながら、ノーマンは何とかルーシーの拘束を逃れようと砂の上で身を動かす。

しかしノーマンの力でルーシーの拘束を解けるはずもない。ルーシーが押さえつける力を強めると、ノーマンは苦痛に叫び声を上げて抵抗を止めた。押さえつけられる右腕に走った強烈な痛み、それはあともう少しでも無理に動かせば、腕が破壊されると思う程だったからだ。
背中に乗せられた膝も胸を圧迫し、呼吸をする事も辛くなる。そしてなにより、喉に当てられて冷たい刃が皮膚を裂き、これ以上は本当に自分の命が危ういと感じたのだ。



「大人しくなったな?そう、それでいいんだ。他ならぬお前の体がかかっているんだからな。さて・・・」

ノーマンが抵抗を止めると、ルーシーはノーマンを組み伏せたまま、ラザレナに向き直った。

「あら、怖い顔ね?それで、ノーマンを人質にして何がしたいのかしら?」

視線が合うと、ラザレナは興味深そうにルーシーに問いかけた。おそらくルーシーは自分とノーマンの会話、やりとりを見ていたのだ。
そしてノーマンが皇帝の血縁者であると知り、交渉に使えるとふんだのだろう。

この状況でルーシーが何を要求してくるのか、ラザレナはある程度の勘がついていた。


「ラザレナ・シールズと言ったな?私の要求はただ一つだ、この戦場から退け」


ルーシーの要求はラザレナの撤退だった。
そしてそれはラザレナにとって想定外では無かった。むしろこの状況で人質をとってまで要求する事など、それ以外には考えられない。

「・・・つまらないわね。それって、私に勝てないからよね?だからここから立ち去れだなんて、冷めるわ。あなたは強くて素敵だと思ったのにガッカリよ」

ラザレナの表情から笑みが消え、興味を無くした玩具でも見るように、何の感情も籠らない目をルーシーに向けた。

「そう思うか?私は別に貴様に勝てないなんて思ってはいない。これはむしろ、貴様のための提案でもあるんだぞ?」

「提案?・・・どういう事かしら?」

ルーシーが眉一つ動かす事もなくラザレナに言葉を返すと、ラザレナの声にわずかに力が入った。

「フッ、少しは周りを見たらどうだ?この戦場はもはやクインズベリーの勝ちだ」

ニヤリと笑うルーシーの指摘に、ラザレナは首を回して辺りに目を向ける。そしてルーシーの言わんとする事を理解した。

「・・・なるほどね、あなたの言いたい事は分かったわ。それで?私は別に一人で戦いを続けてもいいのよ?」

当然の事だがここは戦場であり、戦っているのはラザレナ達だけではない。
こうしている間にも、当然他の兵達も戦っているのだ。

クインズベリー軍は総大将であるバーナード・ロブギンスが控えており士気も高い。
対する帝国軍は、師団長のシャンテル、副団長のカカーチェ、戦力の要となるガルバンにヴァネッサ、主力を総じて失っている事が大きく影響し、クインズベリー軍に押されていた。

そして敗色が濃厚となったところで、ルーシーから退けと提案を受けたのだった。

退けという言葉がなぜ提案なのか?
それは一見クインズベリーが優位に立っているようでいて、ラザレナがここにいる限り、かなり際どい状勢だからである。

ゴールド騎士のフェリックスが手玉に取られた事を考えれば、誰であろうと、一対一ではラザレナに勝つ事は厳しいだろう。
しかしこの場にいる主力の全員でかかれば話しは変わって来る。

だがしかし、勝てたとしても全員が無傷で終わる事は無いだろう。何人かは犠牲になる。いや、あるいはこの戦場に立つクインズベリー兵達までも、甚大な被害が及ぶ可能性は十分にある。

戦いはまだ続く。ここで多くの兵達を失うわけにはいかない。

ルーシーの目的は、ラザレナとノーマンを見逃す事で、この戦場でクインズベリー軍の被害を最小限に抑える事だった。

「あんたさ、帝国がこの戦争で勝っても負けても、どうでもいいんでしょ?」

「・・・そうね、否定はしないわ。で、それがどうかしたのかしら?私が退く事と関係あるの?」

「私との決着がまだだよね?ここじゃない、誰にも邪魔をされないとこでやろうじゃないか?」

ルーシーがラザレナに提示したもの、それは自分との決着だった。まさかそんな事を言ってくるとは思っておらず、ラザレナも一瞬目を開いた。だが、すぐに嬉しそうに笑うと、身を乗り出すようにして話しだした。 

「へぇ・・・あなた、私に勝てると思ってるのかしら?さっきまでの私ならともかく、今の私はちょっとすごいわよ?あなたに私と戦える力があるとでも?」

ラザレナの赤い瞳が妖しく光る。
立ち昇る闘気が赤い髪を逆立たせ、足元の砂を吹き飛ばし空気を震わせる

ラザレナのこの言葉は己の力を過信したものでも、ルーシーを軽んじてのものでもなかった。
向かい合っているだけでも分かる。現実として両者の力量には、埋めがたいくらいの大きな開きがあると。

しかし、それを分かった上で、決着をつけようと口にするルーシーに、ラザレナは強い興味をそそられた。


「さっき見せたものが、私の全てだと思うなよ?貴様を倒すとっておきがあるんだ」

「・・・ふぅん、それは楽しみね。そこまで言うのだから、当然私を満足させてくれるのよね?」

「ああ、もちろんだ。次にお前と相見えた時、私の全身全霊でお前を叩き潰す」

ラザレナの赤い闘気を正面からぶつけられても、ルーシーは目を背けなかった。
ビリビリと肌を打つプレッシャーにも、一切怯む事はない。そこには虚勢ではない本物の自信があった。

「・・・うふふ、いい・・・すごく素敵よ、あなた。いいわ、その口車にのってあげる。あなたの言う通り、この戦場はクインズベリーの勝ちが濃厚だしね」

満足そうに口角を上げて笑う赤い女。ラザレナにとっては、帝国が負けようとも、本当にどうでもいいのだ。自分を満足させる者がいる。それだけが全てだった。

「・・・交渉成立、だな」

ルーシーは目を逸らさずに、静かに呟いた。



深紅の片手剣を腰の鞘に納めると、ラザレナはルーシーが砂の上に押さえつけている、ノーマンに顔を向けた。

「じゃあ、そこのノーマンを離してもらおうかしら?見捨ててもいいんだけど皇帝の甥だから、一応生かしておいた方が良さそうなのよね」

「いいだろう、連れて行け。念を押しておくが、貴様がおとなしく引き下がるなら、こちらも何もしないし、私も約束は守る。ああ、それとこの男、気を失ったようだが生きては入るぞ」

そう言ってルーシーがノーマンの背の上から立ち退くと、ラザレナは片手でノーマンの腕を掴んで担ぎ上げた。

「うふふ、生きてるなら別にいいわよ。どうでもいいヤツだけど、一応皇帝の血縁者だからね。とりあえず回収していくわ」

そしてラザレナの体から赤い炎が吹き出すと、その体がゆっくりと上昇していった。

「じゃあ、行くわ。ルーシー・アフマダリエフ、再会を楽しみにしてるわ」

頭上から見下ろす赤い女に、ルーシーも顔を上げて応えた。


「ああ、いずれまたな、ラザレナ・シールズ」
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