俺と友と追放と

理太郎

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27 祈り

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あの日、確かに私は一度死んだ

雪女は死んだ後どうなるか、それは雪となって消えるだけ

でも、その雪には一欠けら一欠けら、雪女の魂が宿っている

そしてその雪の一欠けらでも、新しい器に宿る事ができれば、雪女は生き返る事ができる

ただ、この生き返りは、確率としては非常に低い

器とは死体であり、それも状態が良くなければならない
例えば首の骨が折れていては、生き返ったとしても再びの死は免れない

つまり生き返った時に、活動ができる状態でなければならない


私は運が良かったのだろう

風に乗って粉のように飛ばされた雪の一欠けらは、あの森の近くの崖下で、雪に埋もれて凍死していた村娘を見つけた。そしてその器に入る事ができた

何らかの理由で森に入り、足でも滑らせて崖下に落ちてしまったのだろう
降り積もった雪が緩衝材としての役割を果たし、外傷はほとんどなかった。
気を失ったまま凍え死んだというところだと思う。

器になった体は、雪女の体に作り替えられるので、凍死に関しては生き返りに何も影響はない



生き返った私には、この娘の記憶も受け継がれる

どうやらこの娘は十日程前に亡くなったようだ
私の予想通り、ふらふらと森をさまよい歩いていたところ、足を滑らせがけ下に落ちたらしい


生前の娘の記憶が私の頭に流れてくる


娘は16歳で父親と仲が悪かった
ろくに働きもせず酒浸りで、娘の稼ぎを使い潰す生活をしているようだ

母親はすでに他界しており、兄弟も頼れる親戚もいない
だから村を出て行くこともできず、日々、心を殺し生きてきたようだ


この日は酒を買い置きしていなかったせいで、父親に頬を強く張られ、そのまま家を飛び出した

そして命を落とす事になった



生き返りは初めて経験したが、なんとも言えない不思議な感覚だった

主人格は雪女のものだが、娘の生きた16年の人生が、まるで自分が経験したかのように心と体に残っているのだ


今の私は、死ぬ前の私と本当に同じ雪女なのだろうか・・・・・


【・・・ねぇ、聞こえる?あなたは誰?】


ふいに頭の中に声が聞こえた

体の内側から呼びかけられるような、奇妙な感覚だった

【・・・ねぇ?聞こえたら返事をして】

私が黙っていると、声は再び話しかけてきた
少し心配そうな声色だ

「・・・私は、雪女・・・あなたは?」

【あ、聞こえてるんだ!良かった・・・え?雪女!?うそ!あなたがあの雪女!?】

「そうよ、すごい驚きようね?それで、可愛い声のあなたはどなた?」

【えぇっと・・・私は、この体の持ち主って言うか、気付いたら自分の体なのに、あなたが動かしてるって言うか・・・です】

「ふふ・・・そっか・・・じゃあ、私達の事、お話ししましょう」


実に不思議な会話だった

私は娘の記憶を持っていて、娘は私の記憶を持っている

一つの体に、二人の人格が入っていて、しかもお互いにお互いの記憶を全て知っているのだ

しかし、感情だけは別だった

お互いに全て知っているけれど、それに対して私と娘の考え方は必ずしも同じではなかった


「・・・あなたはこれからどうしたい?」

この体は私が主人格になっているけれど、元は娘のものだ
そして娘の意識がある以上、これからの行動は二人で決めていこうと思う


【・・・もう村には帰りたくない。雪女が決めていいよ。私は行きたいところは無いし・・・あのお兄さんの事、気になってるでしょ?追いかけなくていいの?】


お兄さん・・・・・
最後まで私を大切にしてくれたお兄さん・・・・・


「・・・・・会いたいわ。でも、今私が追いかけて行って、旅の邪魔になったらって思うと・・・あのお兄さんは、魔王退治の旅をしているから」

【・・・それって、関係ないと思うよ。だって、恋愛と魔王退治は別でしょ?】

予想外の言葉に、私はすぐに言葉を返せず、目をぱちくりさせた」

【いいじゃん!追いかけても!だって雪女がそうしたいんなら、誰にもそれを止める権利なんてないんだよ!行っちゃいなよ!】

「・・・あなた、けっこう強引で逞しいのね」

【一回死んで吹っ切れたの。せっかくもう一度人生やり直せるんだから、今度は言いたい事は言って、やりたい事をやるって決めたの】

記憶の中にある娘は、いつも父親に怯え言いなりになっていた
だけど生き返ってからのほんの数時間で、まるで別人のように心が強くなっていた

【なんだかね・・・自分は自分のままのつもりなんだけど、生まれ変わったような気分なの。今まで下を向いて我慢していたのがなんなんだろうって、これってあなたのおかげなのかもね】

私も自分の中の変化を感じていたけれど、まだそれは表面には出てきていなかった。
きっと彼女は私が入った事、生き返った事によって、私以上に強い影響を受けているのだろう。
性格がガラリと変わるほどに。

「ふふ、そうかもしれないわね・・・じゃあ、お兄さんに会いに行きましょうか?あなたと話していたら、悩んでいた事が小さく思えてきたわ」

【ふふーん、そうでしょ?その方が人生きっと楽しいよ!じゃあ、出発だね!】



彼女の掛け声を合図に私は空に舞った

樹々を見下ろす程高く飛んで、これまで過ごしてきた森、そしてあの村を眼下に見る


いつも一人ぼっちだった
村人とも、結局お友達になる事はできなかった

でも、最後にお兄さんに会えた事は、この寂しい森に住んでいてできた、たった一つの大切な宝物だ


【・・・不思議だね・・・もうこの村に戻ってくる事はないってなんとなく分かるの。それでね、なんでか分からないけど、あんな父親なのに、あんな酷い事ばかりされたのに、お母さんが生きていた時の・・・家族みんなが楽しく笑い合えていた事の・・・楽しかった事ばっかり思い出すの・・・ねぇ、なんでかな?なんでなのかな・・・・・お父さん、私がいなくなって・・・大丈夫かな?】


「・・・優しい子・・・あなたは家族を大切に想ってきたのね。その気持ちは大切にしなさい。あなたは愛されていた。お母さんが無くなって、お父さんはそれを受け止めきれず、お酒に逃げたのね。悲しい事だわ・・・でも、あなたは確かに愛されていたの。私には分かるわ。あなたはもう戻る事はできない・・・お父さんはこれから一人で生きていかなくてはならない。辛い事ね・・・」


娘の父親は、今はまだ現実から目を背けているだろう

けれど、いつまでも娘が帰って来ない事実を、いつか直視しなければならない時が必ず来る

母親を亡くした苦しみから、酒に逃げて娘を傷つけてきた

今日まではそれでなんとかやってこれたのだろう

しかしその娘もいなくなった

・・・そう遠くないうちに父親は現実を見る事になる
その時父親が立ち上がれるか・・・

「・・・せめて祈りましょう」

【・・・うん】

もう日は暮れかけている
僅かに道を照らす程度の明かりを雪が捉え、迷わないようにと小さく輝き標となっている

さぁ、もう行こう・・・
私もあなたも、ここには辛い記憶が多すぎる・・・



私達はその後父親がどうなったかは知らない

ただ、娘を愛してくれた時が、家族を大切に護ってくれた時が確かにあった

だから、小さくても、ささやかでも、幸せを見つけて生きて欲しいと思う
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