お家の大精霊さんのまったり異世界暮らし

観測オニーちゃん

文字の大きさ
5 / 23
第一章 気まぐれな白き虎

05話 ボロボロの二人組

しおりを挟む
 【大精霊の宿木亭】と書かれた木製看板は優によって旅館の入口頭上に設置された。流れるような木目と深い色味が、森の風景にしっとりと馴染んでいる。

 ジンはというと食後の運動がてら森を散策しに出かけた。今度は遭難しないよう木に切り傷をつける等マーキングをしながら。

「旅館といえば看板犬とかも欲しいよな」

 旅館における看板猫・看板犬の存在は、新規のお客様・リピート利用のお客様をもたらす福の神と言われている。しかし優にとってお客様を増やしたいからという目的ではなく単に旅館といえばこんなイメージだろうという思いつきで発言したに過ぎない。

「やっぱり異世界ならではの動物が良いよな」

 ドラゴンやユニコーン、カーバンクルあたりが良い。

「看板動物募集中の張り紙出しとこ」

 瞬きの間に書き上げた募集ポスターをA型看板に貼り付け旅館の入口付近に設置する。相手側が文字を読める読めないかは別にして一種のエクステリアとして旅館の見た目をより華やかにすることが目的だったりする。

「よし!夕飯の支度でもしようかなっと……ん?」

 後ろからズズズっと何かを引きずる音が聞こえた。
 振り返ると木の間からジンさんがひょこりと顔を出しその後ろからお互いに肩を組んで歩くボロボロな2名の男女がいた。

「ユウ!すまないが部屋を一つ貸してくれないか?」

 緊急事態発生である。

 怪我人2名を医務室へと案内しお家魔法の一つ《大精霊の救急箱》を用いて打撲箇所には湿布を、擦り傷には消毒液と絆創膏で処置を施した。すると処置した場所が白く淡い光に包まれると絆創膏と湿布が肌に溶け込み一瞬のうちに全ての傷が治ってしまった。

「これが大精霊様の御業か」

「あ、ありがとう御座います」

 2名は驚きのあまり口をあんぐりと開けるがそれを成した当の本人も驚きのあまり硬直してしまった。

 なにこれ。絆創膏と湿布どこにいっちゃったの?逆に怖いんだけど。あくまで魔法ではあるから治りに関しては早いのかなと思っていたけど、こんな早く治るだなんて予想外だ。

 優は平然を装い二人を客室【ベゴニア】へ案内した。

「すごい!本当にここで泊まって良いのか?」

「私たち実は死んだんじゃない?」

 二人は客室の内装を見て感嘆する。

「靴はちゃんと脱いでね」

「はい」っと元気な返事をし早速とばかり客室へ入って行った。

「夕食は18時00ごろを予定してるからフロント脇にある宴会場大広間に来てください」

「本当に何から何までありがとうございます」

「貴方は俺たちの命の恩人だ」

 素直な感謝に頬を赤く染める優は「お礼ならジンさんに」と一言添えぺこりとお辞儀をし退出した。
 その後、優はジンさんのいる客室【ルピナス】へ向かいジンさんから事のあらましを聞いた。

 曰く、彼らは冒険者ギルド【暁の星】に所属しているAランク冒険者でAランクモンスターであるキングボアの討伐依頼を引き受けこの森にやってきたらしい。

「討伐が完了し、城塞都市クラークへ帰る途中2匹目のキングボアに襲われたらしい」

「番だったって事だね」

「そうだ。そのキングボアの片割れに不意を突かれたと言っていたな」

「よく生きてたよね。ジンさんが助けてあげたの?」

「たまたま、あいつ等が襲われているところに遭遇してな」

「手ぶらで出て行ったよね?」

「一応俺はSランク冒険者だからな。キングボア程度なら素手で充分だ」

 そういえばこの人高位ランクの冒険者とか言ってたっけ?

「ジンさんって実はすごいんだね」

「ハハ、まぁな」

 複雑そうな表情で苦笑をこぼすジンを見て優は彼の「称賛されるべき人じゃない」という言葉が脳裏に浮かんだ。それでも、すごいことを成し遂げた人にすごいと言えないのはすこし悲しい。褒められるのは誰だって嬉しいはずだからだ。でも、これ以上はやめとこう。嫌われたらなんか嫌だし。

「そうだ。冒険者について色々聞きたいな」

 優は話を変え、当時の約束通りジンさんから冒険者について聞き出す。

「あぁ、約束だからな。一から説明してやろう」

 ジンは、冒険者やギルドについて詳しく説明してくれた。

 まず、冒険者ギルドとは全体の機関及び冒険者ギルドを統括する自治組織である全機関統括議院に認められた独立組織のことを意味するらしい。ちなみに大陸規模の自治組織であるため全機関統括議院はかなりの権威を有している。そして、冒険者はダンジョンの攻略及び様々な依頼に対する成功報酬を収入源とし言わば便利屋みたいなものとして世間から認知されている。因みにかなり人気度の高い職種だ。

 ここセントレイヤ大陸に存在する正規のギルドの数は200を超えており、各国々にはトップギルドと言われる冒険者ギルドが存在している。

・暁の星 ライベリア王国
・暴嵐の牙 風の国アルスフィード 
・自由の翼 スカイハイ共和国 
・巨神の足跡 巨王国ディナーグ 
・福福  小人の国エケ 
・匠   鍛治の国へファイスト 
・不壊の剣 獣王国バラムハート 
・終わりなき詩 本の国シューペリア
・真実の眼 ダブラード王国 
・悪魔のツノ 魔帝国クロウリー 
・精霊の戯れ 精霊法王国ティアーラ 
・海竜の鱗 海洋国家ジベラール 
・聖導 聖皇国アルターニ

 この13のギルドが現在のトップギルドとなっている。

 あの二人がトップギルドと言われるギルドの一つに所属していたことにはとても驚いたがジンさんも【悪魔のツノ】所属と聞いてさらに驚いたよ。とは言っても所属すること自体は誰にでもできるらしい。

 しかし、上位のギルドになるほどランクが上がりにくくなっているため所属する時は注意が必要だ。ランクを上げるには依頼の達成数等の実績を積まなければならないがトップギルドの依頼となると難しいものが多い。他所のギルドではSランク推奨の依頼がトップギルドになるとBランク推奨の依頼として受理される。因みに所属替えも可能だが移籍するギルドに応じてランクの降格や昇格をされることもあるらしい。それがトップギルドの場合自身の現時点のランクから2段階の降格が義務付けられている。

「えーと、つまり冒険者になるには何処かのギルドに所属しなきゃいけないんだね」

「そうなるな。他所のギルドの依頼を受けれないようにするために必要なんだ。受けて良いのは自身の所属するギルドが提示する依頼のみ。まぁ、安全面の配慮って奴だな」

 昔は何処のギルドでも依頼を受けれていたらしいがあまりにも死傷者の数が多過ぎたためより依頼難易度の細分化を図ったようだ。その結果、多くの独立したギルドが誕生し今のような複雑なランク規定が定められているのだそうだ。

「僕も冒険者になりたいんだけど初心者専用のギルドってあります?というか大精霊でもなれますか?」

「なれるぞ。大精霊が冒険者になる事例は珍しくはあるが過去にいなかったわけじゃないからな。それとDランクまでなら何処のギルドでも同じ難易度設定されてるからそれまでは近場のギルドに所属すれば良いと思うぞ。例えば、あの二人組が所属する【暁の星】とか良いんじゃないか?」

「ここから近いの?」

「【暁の星】は城塞都市クラークに本拠地を置いてあるからな。此処からすぐだ。因みに俺もクラークからこの森に来たんだぜ?」

「なのに遭難したんですか」

「地図が逆さまだって気づいた時にはもう遅かったんだ」

 よく今まで生きてこられたのか不思議だ。方向音痴もそこまでいったら最早呪いの域だと思うんだけど。

「ジンさんはこの森にどういった要件で来られたんですか?」

「とある秘宝を探すためだな。ハハ、冒険者らしいだろ?まぁ酒場で聞いた噂話だから当てにはならんが……」

 秘宝か……なんか良い響きだ。ファンタジーって感じでとてもワクワクする。

「あると良いですね」

「あぁ」

 ふと、時計を見るとすでに16時を過ぎていることに気づいた優は冒険者についての話を一旦切り上げる。

「もう16時なんで夕飯の支度をしてきますね」

「またなんか聞きたいことがあればいつでもいってくれ」

「はい」

 優はルピナスをあとにし台所へ向かった。

 

 

 

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

グミ食べたい
ファンタジー
現実に疲れた俺が辿り着いたのは、自由度抜群のVRMMORPG『アナザーワールド・オンライン』。 選んだ職業は“料理人”。 だがそれは、戦闘とは無縁の完全な負け組職業だった。 地味な日々の中、レベル上げ中にネームドモンスター「猛き猪」が出現。 勝てないと判断したアタッカーはログアウトし、残されたのは三人だけ。 熊型獣人のタンク、ヒーラー、そして非戦闘職の俺。 絶体絶命の状況で包丁を構えた瞬間――料理スキルが覚醒し、常識外のダメージを叩き出す! そこから始まる、料理人の大逆転。 ギルド設立、仲間との出会い、意外な秘密、そしてVチューバーとしての活動。 リアルでは無職、ゲームでは負け組。 そんな男が奇跡を起こしていくVRMMO物語。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

処理中です...