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第一章 気まぐれな白き虎
04話 旅館の名前
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朝の10時を過ぎ、少し早めだが昼食を作ろうと優は台所へ向かった。宿泊客第一号であるジンはというと一階にある客室【ルピナス】で荷解きをしている。
「腹が空き過ぎて気持ちが悪い」
生まれてから何も口にしていない優の空腹度は限界突破していた。まな板がクッキーに見え始めたらそれはもう末期だろう。
「炒飯作るか」
ただし、ただの炒飯じゃない。
海老炒飯だ。
優は中華鍋を創造し調味料召喚と食材召喚を駆使して僅か5分程度で海老炒飯を作り出した。
因みにお家魔法の一つ《調味料召喚と食材召喚》から取り出したものは皆、地球にあるどこかのスーパーから召喚されている。ただし、召喚されたものは最初から無かったものとして扱われ召喚されるスーパーは全国的にランダムで行われる仕組みだ。
「少し作り過ぎたけどジンさんに食べさせれば良いか」
優は二人前の炒飯をお盆に乗せ宴会場大広間へと向かう。その途中にジンさんの客室に寄り、宴会場に来るよう促した後移動が面倒になったため転移で宴会場に移動した。家の中なら優は魔力を用いずともどこにでも転移可能なのである。
宴会場内は相変わらず殺風景だが今回はテーブルが二つ用意されている。
「先に食べちゃうか。いただきます」
テーブルに炒飯を置きレンゲで炒飯を掬う。
絶妙なパラパラ加減のためドーム状に模った炒飯が崩れてしまうがお構いなしだ。
パクッと一口。
口の中が幸せで満たされていく。海老のプリッとした感じがもうたまらない。空腹は最高のスパイスだとよく言うがまさにその通りだ。具材は卵とネギと海老しか入っていないがシンプルなのがまた良い。
「お!美味そうな匂いだな。それにまた珍妙な料理だ」
宴会場に到着したジンは先程のような怪し気な格好ではなく黒の革ジャンにカーゴパンツと、とてもラフな格好をしていた。
「どうぞ。海老炒飯です。ジンさんのお口に合うかわかりませんが」
優は別段料理人というわけではない。仕事のせいで帰りの遅い両親の代わりに夕飯の準備や弟の面倒をしていたただのオカン系高校生に過ぎないのである。そのおかげか家事スキルは異様に高いが料理方面に関しては一般的な家庭料理しか作れない。
つまり、万人受けする味付けというものを優は知らないのである。家庭料理とは家庭の数だけ独自の味付けがある。因みに優は濃口派だ。
「少ししょっぱいかも」
「濃ければ濃いほどウメェーだろう?」
どうやら杞憂に終わったらしい。流石に濃すぎるのも問題だけど本人がそういうなら大丈夫か。
ジンのガツガツと食べる姿はとても見ていて気持ちが良い。優も負けじと炒飯を口に運んだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇
その後炒飯を完食した二人は仰向けになり食休みをとっていた。
「牛の大精霊になりそう」
食後ということもあり頭がぼーっとする。くだらないことしか考えられないほどに。
「こんな美味い料理、生まれて初めて食ったよ」
「流石にそれは言い過ぎじゃない?」
一体どんな食生活を送ってきたのだろうかと優は心配する。
「いや、高級料亭顔負けの旨さだと思うぞ」
だとしたらこの世界って実はかなり食文化の水準が低いのかな。
「料理の大精霊とかいないの?」
「いないな。残念ながら」
これはかなり深刻な問題なのかもしれないな。生まれていないってことは料理や食に由来する概念がかなり希薄ということだ。
大精霊は概念が強まることで自我が芽生え誕生する。優の場合はかなり特殊で【家】自体の概念はとても強かったが何故か自我だけが芽生えない状態が続いていた。故に、既に自我が形成されていた優は【家】という概念に適合したのかもしれない。
「そうですか」
結構期待してたんだがな異世界グルメ。
「まぁ、ユウが生まれたんだ。いずれ料理の大精霊も生まれるって」
「どういうことですか?」
「ユウの料理が世界に広まればその概念が強まるだろ?」
そういうことね。だけど広める手段がないんだよな。ここは森の中だし。
それに、調味料や食材だって地球と同じものがあるのかわからないしな。
「料理革命はまだ先の話になりそうだ」
すまない、料理の大精霊さん。君の爆誕はもう少しだけ待っていてくれ。
「そうだ、ユウに聞きたいことがあったんだ」
ジンは起き上がりユウの正面に座りなおす。
「なんですか?」
「この旅館に名前ってあるのかなって思ってな」
ふむ、名前か。そういえば決めてなかったな。
「居候旅館」
「やっぱり金払おうか?」
「冗談ですよ。やっぱり名前が無いと気になりますか?」
「まぁな。ここまで立派な旅館だし名前が無いのはすこし寂しい。それに、友人にも教えてあげたいしな」
「なるほど。因みにジンさんが付けるとしたらどんな名前が良いですか?」
急な無茶振りにジンはすこしの間黙考する。そして閃いたのか優に案を述べた。
「【暗黒亭】!」
「わかりました。【大精霊の宿木亭】にします」
「もう少し悩めよ」
「悩みましたよ、3秒ぐらい。てかどういう思考回路で暗黒亭が出てきたんですか?」
「カッコ良いだろ?」
ドヤ顔で言い切れるあたり自身のネーミングセンスの無さを自覚していないらしい。優は今後名付に関してはジンに頼らないことにした。
「早速看板作ろうっと」
「……暗黒亭」
まだ言ってるよこの人。
「腹が空き過ぎて気持ちが悪い」
生まれてから何も口にしていない優の空腹度は限界突破していた。まな板がクッキーに見え始めたらそれはもう末期だろう。
「炒飯作るか」
ただし、ただの炒飯じゃない。
海老炒飯だ。
優は中華鍋を創造し調味料召喚と食材召喚を駆使して僅か5分程度で海老炒飯を作り出した。
因みにお家魔法の一つ《調味料召喚と食材召喚》から取り出したものは皆、地球にあるどこかのスーパーから召喚されている。ただし、召喚されたものは最初から無かったものとして扱われ召喚されるスーパーは全国的にランダムで行われる仕組みだ。
「少し作り過ぎたけどジンさんに食べさせれば良いか」
優は二人前の炒飯をお盆に乗せ宴会場大広間へと向かう。その途中にジンさんの客室に寄り、宴会場に来るよう促した後移動が面倒になったため転移で宴会場に移動した。家の中なら優は魔力を用いずともどこにでも転移可能なのである。
宴会場内は相変わらず殺風景だが今回はテーブルが二つ用意されている。
「先に食べちゃうか。いただきます」
テーブルに炒飯を置きレンゲで炒飯を掬う。
絶妙なパラパラ加減のためドーム状に模った炒飯が崩れてしまうがお構いなしだ。
パクッと一口。
口の中が幸せで満たされていく。海老のプリッとした感じがもうたまらない。空腹は最高のスパイスだとよく言うがまさにその通りだ。具材は卵とネギと海老しか入っていないがシンプルなのがまた良い。
「お!美味そうな匂いだな。それにまた珍妙な料理だ」
宴会場に到着したジンは先程のような怪し気な格好ではなく黒の革ジャンにカーゴパンツと、とてもラフな格好をしていた。
「どうぞ。海老炒飯です。ジンさんのお口に合うかわかりませんが」
優は別段料理人というわけではない。仕事のせいで帰りの遅い両親の代わりに夕飯の準備や弟の面倒をしていたただのオカン系高校生に過ぎないのである。そのおかげか家事スキルは異様に高いが料理方面に関しては一般的な家庭料理しか作れない。
つまり、万人受けする味付けというものを優は知らないのである。家庭料理とは家庭の数だけ独自の味付けがある。因みに優は濃口派だ。
「少ししょっぱいかも」
「濃ければ濃いほどウメェーだろう?」
どうやら杞憂に終わったらしい。流石に濃すぎるのも問題だけど本人がそういうなら大丈夫か。
ジンのガツガツと食べる姿はとても見ていて気持ちが良い。優も負けじと炒飯を口に運んだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇
その後炒飯を完食した二人は仰向けになり食休みをとっていた。
「牛の大精霊になりそう」
食後ということもあり頭がぼーっとする。くだらないことしか考えられないほどに。
「こんな美味い料理、生まれて初めて食ったよ」
「流石にそれは言い過ぎじゃない?」
一体どんな食生活を送ってきたのだろうかと優は心配する。
「いや、高級料亭顔負けの旨さだと思うぞ」
だとしたらこの世界って実はかなり食文化の水準が低いのかな。
「料理の大精霊とかいないの?」
「いないな。残念ながら」
これはかなり深刻な問題なのかもしれないな。生まれていないってことは料理や食に由来する概念がかなり希薄ということだ。
大精霊は概念が強まることで自我が芽生え誕生する。優の場合はかなり特殊で【家】自体の概念はとても強かったが何故か自我だけが芽生えない状態が続いていた。故に、既に自我が形成されていた優は【家】という概念に適合したのかもしれない。
「そうですか」
結構期待してたんだがな異世界グルメ。
「まぁ、ユウが生まれたんだ。いずれ料理の大精霊も生まれるって」
「どういうことですか?」
「ユウの料理が世界に広まればその概念が強まるだろ?」
そういうことね。だけど広める手段がないんだよな。ここは森の中だし。
それに、調味料や食材だって地球と同じものがあるのかわからないしな。
「料理革命はまだ先の話になりそうだ」
すまない、料理の大精霊さん。君の爆誕はもう少しだけ待っていてくれ。
「そうだ、ユウに聞きたいことがあったんだ」
ジンは起き上がりユウの正面に座りなおす。
「なんですか?」
「この旅館に名前ってあるのかなって思ってな」
ふむ、名前か。そういえば決めてなかったな。
「居候旅館」
「やっぱり金払おうか?」
「冗談ですよ。やっぱり名前が無いと気になりますか?」
「まぁな。ここまで立派な旅館だし名前が無いのはすこし寂しい。それに、友人にも教えてあげたいしな」
「なるほど。因みにジンさんが付けるとしたらどんな名前が良いですか?」
急な無茶振りにジンはすこしの間黙考する。そして閃いたのか優に案を述べた。
「【暗黒亭】!」
「わかりました。【大精霊の宿木亭】にします」
「もう少し悩めよ」
「悩みましたよ、3秒ぐらい。てかどういう思考回路で暗黒亭が出てきたんですか?」
「カッコ良いだろ?」
ドヤ顔で言い切れるあたり自身のネーミングセンスの無さを自覚していないらしい。優は今後名付に関してはジンに頼らないことにした。
「早速看板作ろうっと」
「……暗黒亭」
まだ言ってるよこの人。
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