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思いも寄らない問いかけ
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小さな四角い箱の中に、それらは仲良く収まっていた。白とピンクの小さな花、そして大きめな黄色の花。本物と遜色ない見た目をしたお菓子に対して、感嘆の言葉を重低音が紡ぐ。
「おお……なんとも可愛らしいのうっ! これが食べられるとは……」
「本物みたいですよね。だから、一気に食べちゃうのは勿体ないなぁって……バアルさんと少しずついただいてるんですけど」
「ましゅまろ……ふぉんだんと、じゃったか?」
「はい、溶かしたマシュマロに粉砂糖を加えて、色を付けるらしいです。粘土みたいになるから、好きな形を作りやすいとか……ですよね?」
今朝の俺と全く同じ反応をし、興味津々にテーブルの上に置かれた箱を見つめているサタン様。
真っ赤な瞳を輝かせているお方に、俺は、バアルさんから受け売りの説明を一言一句そのまま伝えた。
ちゃんと伝えることが出来たご褒美なんだろうか。白い手袋に包まれた手で、バアルさんが俺の頭を優しく撫でてくれる。
「ええ、貴方様の仰る通りです」
ご褒美だった。綺麗に整えられた白い髭が似合う口元をふわりと綻ばせ「良く出来ましたね」と俺にしか聞こえないように、耳元で褒めてくれたのだ。
柔らかい声色と嬉しい言葉に、胸がウキウキ躍り出す。浮かれた熱で、すっかり思考回路がぽやぽやしてしまったせいだ。
ほっほっほと小さく笑う愉快な声が耳に届くまで、ずっと俺はだらしなく緩みきった顔を晒してしまっていた。
それだけじゃない。やらかしてしまっていたのだ。
もっと撫でてもらおうと、俺より一回り大きな手のひらに頭を擦り寄せるという、小さな子供か犬猫のような強請り方をしてしまっていたのだ。サタン様が、微笑ましそうに見つめているにも関わらず。
「あ……ぅ…………その、ですからっ……いつものお花と一緒に、素敵なお菓子までいただいてしまったんで、お返しにカップケーキを……焼いて、いたんです……」
今更、誤魔化せる訳もない。が、せめてツッコまれる前にはと、俺は無理矢理説明を続けていた。
「ふむ、成程のう。しかし、お返しのお返しとは……アオイ殿も律儀じゃのう」
サタン様はやっぱり優しい。穏やかに微笑んだまま、俺のみっともない行動に一切触れることなく、話に乗ってくれたんだから。
「いえ、そんな……いつも良くしていただいてますから……出来れば、直接お礼を言いたいんですけどね」
恥ずかしさにバクバクと煩くなってしまっていた胸を撫で下ろしたのも、つかの間だった。
「それは、その者に会ってみたい……ということかの?」
「はい、そう……ですけど」
空気が変わっていく。和やかで柔らかかったのに、ピシリと引き締まっていく。
サタン様は、何か考えを巡らせているらしかった。太い指を顎髭に当て、眉間に深いシワを刻んでいる。
「ところで、アオイ殿……」
「はい……」
大柄な身体をまっすぐ伸ばしたサタン様の表情は、いつになく険しい。真逆だ。ついさっきまで浮かべていた、仏様のような笑顔とは。
強く引き結ばれていた大きな口が開く。
「死神の二人を…………おぬしを誤って地獄に落としてしまった者達のことを……どう、思っておる?」
重々しい声で問われた、思いも寄らない内容に全身が強張っていく。まるで波が引くように、足元から身体の熱が、一気に失われていくような気がした。
「おお……なんとも可愛らしいのうっ! これが食べられるとは……」
「本物みたいですよね。だから、一気に食べちゃうのは勿体ないなぁって……バアルさんと少しずついただいてるんですけど」
「ましゅまろ……ふぉんだんと、じゃったか?」
「はい、溶かしたマシュマロに粉砂糖を加えて、色を付けるらしいです。粘土みたいになるから、好きな形を作りやすいとか……ですよね?」
今朝の俺と全く同じ反応をし、興味津々にテーブルの上に置かれた箱を見つめているサタン様。
真っ赤な瞳を輝かせているお方に、俺は、バアルさんから受け売りの説明を一言一句そのまま伝えた。
ちゃんと伝えることが出来たご褒美なんだろうか。白い手袋に包まれた手で、バアルさんが俺の頭を優しく撫でてくれる。
「ええ、貴方様の仰る通りです」
ご褒美だった。綺麗に整えられた白い髭が似合う口元をふわりと綻ばせ「良く出来ましたね」と俺にしか聞こえないように、耳元で褒めてくれたのだ。
柔らかい声色と嬉しい言葉に、胸がウキウキ躍り出す。浮かれた熱で、すっかり思考回路がぽやぽやしてしまったせいだ。
ほっほっほと小さく笑う愉快な声が耳に届くまで、ずっと俺はだらしなく緩みきった顔を晒してしまっていた。
それだけじゃない。やらかしてしまっていたのだ。
もっと撫でてもらおうと、俺より一回り大きな手のひらに頭を擦り寄せるという、小さな子供か犬猫のような強請り方をしてしまっていたのだ。サタン様が、微笑ましそうに見つめているにも関わらず。
「あ……ぅ…………その、ですからっ……いつものお花と一緒に、素敵なお菓子までいただいてしまったんで、お返しにカップケーキを……焼いて、いたんです……」
今更、誤魔化せる訳もない。が、せめてツッコまれる前にはと、俺は無理矢理説明を続けていた。
「ふむ、成程のう。しかし、お返しのお返しとは……アオイ殿も律儀じゃのう」
サタン様はやっぱり優しい。穏やかに微笑んだまま、俺のみっともない行動に一切触れることなく、話に乗ってくれたんだから。
「いえ、そんな……いつも良くしていただいてますから……出来れば、直接お礼を言いたいんですけどね」
恥ずかしさにバクバクと煩くなってしまっていた胸を撫で下ろしたのも、つかの間だった。
「それは、その者に会ってみたい……ということかの?」
「はい、そう……ですけど」
空気が変わっていく。和やかで柔らかかったのに、ピシリと引き締まっていく。
サタン様は、何か考えを巡らせているらしかった。太い指を顎髭に当て、眉間に深いシワを刻んでいる。
「ところで、アオイ殿……」
「はい……」
大柄な身体をまっすぐ伸ばしたサタン様の表情は、いつになく険しい。真逆だ。ついさっきまで浮かべていた、仏様のような笑顔とは。
強く引き結ばれていた大きな口が開く。
「死神の二人を…………おぬしを誤って地獄に落としてしまった者達のことを……どう、思っておる?」
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