【完結】間違って地獄に落とされましたが、俺は幸せです。

白井のわ

文字の大きさ
97 / 1,566

不安と期待が混ざる瞬間

しおりを挟む
 誕生日ケーキといえば、やっぱりロウソクだ。

 しかし彼の年の分だけ刺そうとすると、紅茶とチョコのパウンドケーキが、あっという間にカラフルなハリネズミへと変わってしまうだろう。

 大きいロウソクに変えても、82本刺さないといけなくなるからな。だから、数字のロウソクを使うことにしたんだ。

 まだ温かいケーキにロウソクを刺し、彼の名前とお祝いのメッセージを書いたプレートを乗せる。

 溶かしたチョコで書いた文字は、ところどころはみ出したり潰れたりしているが……大体雰囲気で読めるから大丈夫だろ、うん。

 気持ちは込めるだけ込めたし、味見もちゃんとしたからな。

 完成した頃には、すでに部屋の内装は元に戻っていた。いつも二人で座るソファーで待つ、彼のもとへケーキを運ぶ。

 早速3本のロウソクに火をつけて、バースデーソングを歌おうとしていた俺の鼻先に、ポンッとキラキラ光る緑の粒が。バアルさんの従者であるハエのコルテが現れた。小さな小さな彼専用のヴァイオリンを得意げに、針より細い手足でじゃじゃーんと掲げて。

 青く透き通る石で作られた、シャンデリアの明かりが不意に消える。

 言わずもがな、彼の術によるものだろう。窓から差し込む光でも十分に明るかったはずの室内が、すぐ隣に座る彼の顔さえ見えにくくなるほど暗くなっていく。

 ロウソクの光が静かに揺れる中、ホタルのように瞬いていたコルテが、弾むようなリズムでお馴染みのバースデーソングを奏で始めた。

 それにしても、いくら家族でも友達にでもなく……初めてのす、好きな人に贈るからって。真っ直ぐに見つめてくる彼の柔らかい眼差しに、心臓を鷲掴みにされたからって。

 あの短い歌詞の間で、よくもまぁ……何度も噛んだり、つっかかったり出来たもんだと思う。勿論、一切褒められることではないけどさ。

「おめでとうございますっ、バアルさん」

「ありがとうございます、アオイ様、コルテ」

 どうにかこうにか歌いきった俺の頭を、大きな手が優しく撫でてくれる。

 彼が一息にロウソクの火を消してから、すぐに室内が明るくなった。同時に、ぱぱんっと弾けた音がして、色とりどりの細い紙テープと紙片が舞う。

 音の正体は、いつの間に持ち替えていたのか、小さなコルテの身体よりも大きなクラッカーだった。

「ありがとうコルテ、一緒にお祝いしてくれて。じゃあ早速、皆でケーキ食べようか」

 ぴるぴるとガラス細工のような羽をはためかせていたコルテの身体が、激しく瞬き始める。

 抱えていたクラッカーを手品のように消してから、今度は「やったぁっ!」と大きく丸文字で書かれたスケッチブックを取り出した。

「ふふ、ちょっと待っててね。切り分けるから」

 ケーキからロウソクを退けていると、すかさず白い手袋に覆われている手が、丈夫そうな紙を広げて待機してくれていたので、お礼を言ってからその上に。

 ナイフとフォークを駆使して、一先ずチョコと紅茶味を一切れずつ、バアルさんと俺の皿に乗せた。

 そこまでは良かったんだが。小さな小さなフォークを持って、ウキウキと宙でふりこみたく揺れているコルテのお皿は、なんちゃらファミリーのお人形さん方が使うようなサイズだ。

 とてもじゃないが、ぶきっちょな俺が、そのお皿に乗るように切り分けるのは不可能に近い。

 ニ種類のケーキの前でナイフを構えたまま、困り果てていた俺の肩をバアルさんが優しく叩く。

 ケーキ作りに取り掛かる前、彼に向かって今日は「俺がしますからっ」と意気揚々と宣言していたが……今回ばかりは、手伝ってもらった方が良さそうだ。

「……お願いしても、いいですか?」

「ええ、お任せください」

 鍛え上げられた胸に手を当て、柔らかく微笑んだ彼の指先が、空中に線を一本引くようにスッと動く。

 すると、ひとりでに二つのケーキが5ミリ程の薄さにカットされた。さらにその一部分が、丁度お皿に2枚乗る程度のミニチュアサイズへと切り分けられた。

「わぁ、スゴイ……ありがとうございますっ、バアルさん」

 いえ……と軽く頭を下げてからバアルさんは、白い髭が素敵な口元をふわりと綻ばせる。

 ちょこんと乗せられた、お人形さんサイズのパウンドケーキのお皿の前に、コルテが一目散に飛んできた。フォークをふりふり揺らしながら、くりくりとした瞳を輝かせた。

 待ち切れない様子の小さな彼から、視線を横にちらっと移す。俺の考えを察してくれているのか、バアルさんが小さく頷いて微笑んでくれる。

「いいよ、コルテ……召し上がれ」

 光沢のあるボディを輝かせ、小さな手足で器用にフォークを使いながら、コルテがケーキを頬張る。

 途端に輝きを増した小さな彼から「おいしいっ」と大きく書かれた、シンプルで一番嬉しい感想をもらえて、胸がほっこり温かくなっていく。

「……よかった。バアルさんも、はいっ、どうぞ」

 お誕生日プレートが乗ったお皿のケーキを一口サイズにフォークで切って、彼の口元へと運ぶ。

 柔らかい笑みを浮かべていた唇が、花のように甘い紅茶の香りが漂うケーキをそっと食んだ。

「どう……ですか?」

 味見はしたし、コルテからも太鼓判を押してもらえたんだけど……やっぱり、この瞬間が一番緊張してしまう。

 大丈夫かなっていう小さな不安と、美味しいって言ってくれるかなっていう大きな期待が混ざって、心臓が壊れそうなくらいに高鳴ってしまう。

「……美味しいですよ。とっても」

 穏やかな低音が、俺が一番欲しかった言葉を紡いでくれる。喜びがあふれそうな笑みを湛えた彼に、よしよしと頭を撫でてもらえて、目の奥がじわりと熱くなった。

「……よ、よかったです。あ……こっちもどうぞ」

 慌てて目元を拭い、今度はチョコ味のケーキを差し出しせば「こちらも絶品ですね」と彼が褒めてくれる。

 ますます胸がいっぱいになって、こぼれてしまいそうになっているっていうのに。

「素敵なプレゼントをありがとうございます」

 微笑みかけてくれて、俺の目尻に優しく触れてくれたもんだから、一気にポロポロとこぼれ落ちてしまったんだ。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)  インスタ @yuruyu0   Youtube @BL小説動画 です!  プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです! ヴィル×ノィユのお話です。 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけのお話を更新するかもです。 名前が  *   ゆるゆ  になりました。 これからもどうぞよろしくお願い致します! 表紙や動画はAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

過労死転生した公務員、魔力がないだけで辺境に追放されたので、忠犬騎士と知識チートでざまぁしながら領地経営はじめます

水凪しおん
BL
過労死した元公務員の俺が転生したのは、魔法と剣が存在する異世界の、どうしようもない貧乏貴族の三男だった。 家族からは能無しと蔑まれ、与えられたのは「ゴミ捨て場」と揶揄される荒れ果てた辺境の領地。これは、事実上の追放だ。 絶望的な状況の中、俺に付き従ったのは、無口で無骨だが、その瞳に確かな忠誠を宿す一人の護衛騎士だけだった。 「大丈夫だ。俺がいる」 彼の言葉を胸に、俺は決意する。公務員として培った知識と経験、そして持ち前のしぶとさで、この最悪な領地を最高の楽園に変えてみせると。 これは、不遇な貴族と忠実な騎士が織りなす、絶望の淵から始まる領地改革ファンタジー。そして、固い絆で結ばれた二人が、やがて王国を揺るがす運命に立ち向かう物語。 無能と罵った家族に、見て見ぬふりをした者たちに、最高の「ざまぁ」をお見舞いしてやろうじゃないか!

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

氷の騎士団長様の悪妻とかイヤなので離婚しようと思います

黄金 
BL
目が覚めたら、ここは読んでたBL漫画の世界。冷静冷淡な氷の騎士団長様の妻になっていた。しかもその役は名前も出ない悪妻! だったら離婚したい! ユンネの野望は離婚、漫画の主人公を見たい、という二つの事。 お供に老侍従ソマルデを伴って、主人公がいる王宮に向かうのだった。 本編61話まで 番外編 なんか長くなってます。お付き合い下されば幸いです。 ※細目キャラが好きなので書いてます。    多くの方に読んでいただき嬉しいです。  コメント、お気に入り、しおり、イイねを沢山有難うございます。    

処理中です...