奴隷少女は騎士となる

灰色の街。

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やっぱり

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ひたすら馬を走らせる。結構スピード出してるけど、かなり離れていたせいか、中々拠点が見えない。

「ちっ…視界も悪いし…ライ、どこまで見える?」

「木々とかもあるのでそこまでは…精々二十メートル位です」

水である程度臭いを落としたとはいえ、気配に敏感な魔物とかはそのまま追ってきているし、走ることをやめたらヤバい。そんな状況が続いている。

「仕方無いか…誰か一人が…」

何となくその先何を言うのか分かったその時、前方にいるガリウス先輩の無線が音を立てる。この時間に連絡してくるのは限られてくるし…きっとカール班長からだ。案の定、ガリウス先輩は馬の速度を落とし、並列して会話が聞けるようにしてくれた。

「はい。第一班のガリウスです」

『おう、カールだけど。例の件聞いてきた。今、言っていいか?』

「はい。大丈夫です」

『まず、結論から言うとバッジの紛失届は出てない』

「え…」

『だが、全くの部外者でもバッジを手に入られる方法はある。恐らくだがそいつはその方法でバッジを手に入れた』

「その方歩って…」

『簡単だよ。拾ったんだ。落ちていたのを』

「え、でも紛失届は出てないと…」

『ああ…出ていない…拾ったのは死人の、だ』

「はい?」

「…っ…」

思わず声が出そうになるのを飲み込み、次の言葉を待つ。背中には冷や汗が流れる。理解したくないのに、無駄に理解力の高い脳味噌は勝手に理解していき…伝えられた現実はあまりにも信じがたいものだった。

『第六班に限った話ではないが、魔物に襲われて死ぬ奴は少なくないよな?魔物に殺されると死体どころか身に付けていたもの全て見つからない何て事も時にはある。それが魔物退治を専門としている班なら尚更そういうのは多いだろう』

「…まさか」

『そいつは魔物に殺された奴が持っていたバッジを拾ったんだ。確率的には低いが…さっき調べたところによると、二年前に魔物に腕を食い殺された状態で見つかった三年目の第六班班員が…バッジをつけていない状態で見つかったそうだ』

「…成る程」

『部屋とか探してもそいつのバッジは無かったから、その時は魔物に食われたと思われていたが…そいつが殺された死体からバッジだけを取っていったと考えれば辻褄が合う』

「しかし、バッジには発信器がついている筈ですよね?」

『まあ、魔物に食われたって思われてたからな…魔物だって縄張りはある程度決めているだろうがすぐに移動する奴らもいる。発信器は役に立たないって思ってたんだとよ。まさか人に取られてるなんて思いもしなかったらしい。確認不足だったがこればかりは予想できなかった事だ』

「まあ、それはそうでよね。夜遅くにありがとうございます。わざわざすみません」

『おう。頑張れよ。引き続き俺も調べてみるわ。何かあったら連絡しろ。んじゃ、お疲れ』

「お疲れ様です」

死体から、ねぇ…
普通、死体見つけたら騎士団うちに連絡入れないか?バッジだけを持っていったってことは死体に動じなかったってことだよな…少なくとも、普通の一般人じゃないよな…
でも、戦い方とか、普段から剣を握ってるって訳でもなかったしな…あいつはいったい何がしたかったんだ?しかも私達に見つかっても強気な態度だったし…ますます疑問が増えるな。

もう処分し終わった事だから別にいいが…あの感じ、上にも誰か居そうなんだよな。というか、あいつは完全に下っ端だ。だからこそ私達はコント君を早々に処分したのだから。

「やっぱり盗んだ奴だったな」

「死体の物をとは…中々にえげつないよね」

「よくそんな事しようと思いましたよね…騎士団にばれたら終わりだというのに…あれ?」

喋ってて気づいた。私達の使っているバッジは街にポスターが貼られていて、大雑把ではあるがバッジの性能とかも書かれている。
普通はバッジに発信器がついてることも知ってるから盗もうとする筈ない…どういう事だ?
まさか…魔物に食べられたとこちらが予想するところまで読めていた?そうだとすると相当厄介だぞ…若しくは単純になにも考えてない?…私的にはこれが一番気持ちが楽なのだが…そう簡単に上手く行かないだろう。

先輩達も気づいたのか、険しい顔をする。

「…ちゃんと考える必要があるな」

「確かに…言われてみればって感じだわ…ありがとう、ライ。お陰で重要なことに気づけた」

いづれにせよ私達の影で大きな力が働いていることには変わりない。あわよくば…その力が爆発しませんように…なんて…そんなことは夢物語か。力は大きかろうが小さかろうが爆発はする。避けることのできない自然の摂理。それに逆らうことは生物の力では無理だ。
今の内から被害が最小限になるよう、手を打っとかないとな。まあ、何が来るのか分からないから手探り状態にはなるだろうが…やらないよりましだろう。

「さて…考えてても仕方無いし…魔物の気配も近づいてきた。ちょっとスピード速めるよ」

「おう。ライ…準備はいいか」

「大丈夫です」

色々困惑するところがあったのでだいぶ馬のスピードを遅くしていたせいで、魔物がかなり近くまで来ていた。今一度気を引き締め、私達は馬を走らせた。
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