尽くした男に捨てられ悪に堕ちた令嬢は悪役ハーレムを築き上げ復讐する

秋風ゆらら

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アミティナ編

悪いのは貴方じゃないわ

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 ロキは静かに自分の過去を語り始めた。


「僕がイーディス王国の騎士として最後に出た戦場。そこで戦果を上げれば『王家の守護者』の勲章を与えられることになっていたんだ。」


「『王家の守護者』の勲章って以前授与者が出たのが10年以上前のことよね。すごいことじゃない。」


「ああ。戦争には勝利して、僕は勲章に値するだけの戦果を上げた。だけど、魔力も持たない平民上がりの僕があの勲章を受けるのを面白くないと思ったんだろうね。貴族…それも複数の者が王に訴えたんだろう。戦争の後、王の命でしか動かないはずの暗殺部隊が派遣されてきた。」


 嘘でしょ、とアンナは思わず声を漏らした。ゲームの中で、ロキが王国に恨みを抱いた原因は詳細には触れられていなかった。


「僕らは必死で抵抗したさ。だけど、怪我を負った仲間を庇いながらの戦闘。動ける者も戦闘の後で当然疲労もあった。しかも相手はプロの暗殺集団。……最終的に、僕だけが生き残った。
僕はその場から逃げ出し、近くの集落へ駆け込んだ。僕はそれなりに顔を知られているし、人目につく場所では殺せない。王国は方針を転換し、僕が国を裏切り仲間を殺したということにした。」


 沸々と怒りが湧き上がってきた。息子も息子なら親も親だ。


「その後は君も知っての通りだ。僕は投獄され、死を待つばかりだった。」


 命懸けで国のために戦ってきたロキに対してなんて酷い仕打ちだろう。
 アンナは腹の底から湧き上がるようなどうしようもない怒りを感じていた。十分な力があるなら今すぐでも、王の元に行って、大魔法の一つや二つ放ってやりたい気分だった。
 今のロキは全てを疑い、何も信じないようにしているように見えるけれど、きっと元々は優しい人だったのだろう。だからこそ罪悪感で押し潰されそうになっている。


「……貴方は自分を責めているのでしょう?自分のせいで仲間が殺されたって。
でもはっきり言うわ!貴方は何も悪くない!悪いのは貴方を捨てたこの国よ!
ふざけるなっていってやりましょうよ!許さないって叫びましょう!
貴方の力があればそれができるの!」


「……確かに君の言うとおりなのかもしれない。」


 ロキは相変わらず悲しげな表情のまま俯いていた。

 
「だけど、僕は大切な人を全て失って、これから独りで生きていくことに耐えられそうもないんだ。女手一つで僕を育ててくれた最愛の母も…国を裏切るような騎士を育てた罪として、拷問され、殺されたと聞いた。
僕に残ったのは剣の腕と強い憎しみだけ。守るものもないこの世界で何を成せばいいのか……」


 アンナは言葉に詰まった。今まで打算でロキに近づいていたけれど、今は違う。ロキの心の痛みを少しでも取り除くことができたらと、純粋に願わずにはいられなかった。


「……ねぇ、もしも貴方が、貴方の仲間と同じ立場に置かれたら、どう思う?」


「そうだな。……自分の分も生きてほしいと思うかもしれないな。」


「そうね。私も同じ立場だったらせめて生き残った貴方には幸せに生きてほしいと願うわ。」


 アンナは少しずつ明るくなってきた空を見上げた。くすんだ色の空の中を雲がゆっくりと流れていく。


「貴方には時間が必要だと思うわ。現実を受け入れ、この先を考えるための時間が。
だけど敵は待ってくれない。貴方に残った最後のもの。貴方の命を奪おうと画策してる。
でもね、貴方も私も命を狙われてるけど、まだ生きてる。戦う力もある。」


 アンナは一歩ロキに近づくと、その赤い目で真っ直ぐにロキを見つめて言った。


「無理強いはできないけど、貴方はどうしたい?
私はこのムカつく王国の体制に一矢報いないと気が済まないって、貴方の話を聞いてますます思ったけど。」


 ロキの瞳に少しだけ光が戻った。


「……そうだね。うん。母と仲間の仇は打ちたい。君の言葉を借りるなら、僕もこのムカつく王政に一矢報いないと、死んでも死にきれない。」


「それならよかった。」


 アンナはそれと、と付け加えた。


「貴方と一緒にいても、私は死んだりしないから心配しなくていいわよ。だって私、強いから。」


「ハハッ、本当に逞しいお嬢さんだな。」


 ロキが笑った。無表情でいる時は近づいただけで斬りかかってきそうな冷たい雰囲気だけれど、笑うと随分印象が変わる。


「君は凄いな。大切な人に捨てられて、殺されかけたのにそれでも前を向いて。
悪かった。君を騙すようなことをして。
君に協力するよ。えっと……」


「アンナ。私はアンナ・リリスよ。」


「アンナ……」


「初めて名前、呼んでくれたわね。」


  なんだかくすぐったくって、誤魔化すようにアンナは笑った。


 さっきまで説得することに必死で気が付かなかったけれど、日の光を弾いて輝く銀髪に締まった身体。アンナは興味がないけれど、女性受けしそうな魅力的な容姿をしている。


「これからどうする?僕は剣を取り戻したし、君の魔法も強力だけれど、このまま王国と戦うのは無謀だ。」


 アンナは頷く。


「わかってる。だから協力してくれる人を集めるわ。心当たりがあるの。
ルーハドルツを目指すわ。」


「あの魔法学園都市か。」


 あの街にも悪役がいる。あの色ボケ男がどうやったら協力してくれるのかわからないけれど、ともかく会いに行くしかない。


「夜が明けたわね。本格的に私達の捜索が始まるかもしれない。先を急ぎましょう。」


 そう言って歩き出そうとすると、アンナ、と呼び止められた。


「ありがとう。僕のために怒ってくれてすごく嬉しかった。」


 夜明けの日差しの下、優しい眼差しを向けられて胸が跳ねたのはきっと驚いたせいだろう。呆けた顔を元に戻して、どういたしましてと言うと、アンナは足早に歩き出した。



✳︎✳︎✳︎


「そういえば、王都の知り合いから面白いうわさ聞いたんだよね。」


 アンティークの家具で揃えられた豪華な部屋。磨き上げられた床の上には、その部屋に似合わない
、女性物の服が散乱している。その中から拾い上げた下着を身に付けながら少女は話す。


「……へぇ。」


 ベットの上に座っている男が答えた。何気なく出した声にもどこか色香がある。


「死刑囚が脱獄して今も逃亡中らしくて。で、その死刑囚っていうのが、闇の魔法で何人も兵士を倒した恐ろしい魔女なんだって。
勇者様をたぶらかしたって噂もあるし。」


 男の口角が持ち上がる。美しい顔をしているが、その表情には獲物を見つけた蛇のような怪しさがあった。


「是非、会ってみたいな。この腕に抱いたら、どんな声で鳴くんだろうね。」

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