関西桃産太郎

なおちか

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絶望と決心

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太郎は負傷した箇所を手で押さえ、右ひざを地面につきました。押さえた手の平は真っ赤に染まりましたが、力は入るので問題ないと太郎はホッとし再び立ち上がりました。言葉で誘導が出来ず、戦っている中でも隙は作れそうにない。存在がバレた以上は奇襲も出来ない。太郎は勝てる道筋を見出せずにいました。

赤鬼と太郎が対峙している時、サスケは鬼の右側の岩の上、ハナは左側の岩の下にいました。ハナは倒れていたマルを岩の後ろに引きずって行き隠し、岩の上に登りました。そこで鬼の方を見た時、反対側にいるサスケと目が合いました。サスケが身振り手振りでハナに考えを伝え、ハナは頷きました。

その後すぐにハナは鬼の左側で遠吠えをしました。それと同時にサスケが右側から飛び上がります。太郎は赤鬼の意識が一瞬遠吠えに向いたことに気付き、サスケの動きも視野に捉えました。2匹の狙いはサスケの動きにあると理解した太郎は自身の右側にやや移動し、鬼の意識をさらにサスケから遠ざけました。サスケは鬼の右肩に飛び移ると、そこを足場にまた飛び上がり鬼の顔の前に出てきました。赤鬼の視線が太郎からサスケに向いた瞬間、握っていた砂を鬼の目に投げつけ鬼は両目を閉じました。

赤鬼が左目をうっすらと開けた時、太郎はもう目の前にいて、刀は赤鬼の心臓を貫きました。鬼はそのまま仰向けに倒れて口からは血が流れ出ました。

「よっしゃー!!」と着地したサスケが叫びました。「太郎はん!よう気付いたな!」サスケはそう太郎に言いましたが、太郎は倒れた鬼の胸の上に飛び乗り鬼の傷を観察しました。貫いた左胸からは血が流れ出し、傷が塞がる様子はありません。太郎はその場所から鬼に話しかけました。

「おい。今まで殺してきた人間の事覚えてるんか?」

「ゲホッゲホッ・・・覚えている人間もいる」赤鬼は答えます。

「150年ほど前にお前が襲った人間の事は?」

「オレたちがこの島に封印される前だな。覚えている」

「・・・神社で身ごもった女を殺したことは?」

「あぁ、覚えてる。そういう人間は・・・珍しいから」鬼は苦しそうに話します。

「その人がオレの母親や。オレもお前と同じように封印されてたみたいでな、お前を殺す為に生まれた」太郎は刀を持つ手に力を込めました。

「そうか・・・。人を殺したオレは人に殺されるのか・・・」鬼の声が弱くなっていきます。

「お前たちは、オレのお父はんもお母はんも殺し、さらに多くの罪のない人の命を奪った!なんでや!」太郎の目は怒りに染まっています。

「・・・」赤鬼は何も言わないまま目を閉じ、首の力が抜け、呼吸が止まりました。

太郎はしばらく鬼の顔を見ていましたが、後ろを向き、「サスケ、マルの様子を見てくれ」と頼みました。その時、太郎は足元からわずかに振動を感じました。すぐにそれは鼓動だと気付き飛び避けようとしましたがすでに遅く、赤鬼の左手が太郎の左腕を捉え、肩から大量の血が流れました。鬼の胸から転げ落ちた太郎が傷を見ると、太郎の左腕は大きな爪が刺さった跡があり、ほとんど動かす事が出来なくなっていました。

赤鬼はゆっくりと立ち上がると同時に、転がっていた岩の破片を手に取りハナに向かって投げました。直撃はしなかったものの、乗っていた岩が崩れ、破片がいくつも身体を襲い、ハナは地面に落ち気を失いました。

「ハナ!」太郎は叫び赤鬼を睨みつけます。

「不死身とはいえ、刺されたり斬られると痛い。やめてもらいたいね」鬼は両手をパンパンと叩き、砂汚れを落としました。

「お前、死んだんやないんか・・・」太郎が左腕を押さえながら言います。

「胸の傷は治さず心臓だけを治した。人間は見た物だけを信じるから単純で助かる。おかげでゆっくり治療が出来た」鬼はにこやかに笑って言いました。「あぁ、そうだ。さっき、殺した人間を覚えていると言ったがあれも嘘だ。お前の親だとか言っていたが、奴隷以下の人間どもを覚えている訳ないだろ」

太郎は歯を食いしばり、右手の拳を握りしめ、全身が震えるほど怒りました。

「なぜ人間を殺すのかとも聞いて来たな。殺す時に良い顔をするからだ。熊や鹿などは表情があまり変わらないからつまらないだろ?お前も楽しませてくれるんだろ?」赤鬼はそう言いながら太郎に向かって歩き出しました。

太郎は地面を見つめながら右手だけでどう戦うか考えますが思い浮かびません。頭を落としても、心臓を貫いても再生する赤鬼を殺す事など不可能だと思いました。それでも、鬼を倒すと誓った太郎は諦めず最後まで戦うと心に決めました。そして、刀を構えて顔を上げ鬼を見ると、裏側にサスケとマルが隠れている岩の前に赤鬼はいました。

「邪魔だから殺しておくか」赤鬼は思い切り右腕を振り抜くと岩を破壊し、砕けた岩が雪崩のように落ち、大きな砂煙が舞い上がりました。
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