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2、記憶と僕と俺

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目は閉じている(いた)と思う?
なぜなら目の前は真っ暗だからだ。
目を閉じただけの暗闇が、なぜだか
やたらと暗く感じ、"こんな年"なのに
怖いと感じた。……んっ、あれ?
"俺"はなんともいえない違和感を感じた。
ポッカリとした暗闇の中に、さらに
深い闇が口を開けていた。
そこにのみ込まれないように、必死に
逃れようとしたが、なぜだか下から
迫りくる深い闇にのまれるように
落ちていく感覚?そして浮遊感がした。
私("俺")たちは死ぬ覚悟をした。
また、あっけない人生だった。
「……?」
「……んんっ?」
あれ、また?また…何?
………キィン……ブゥォン……。
暗い。
何かが聞こえた気がしたが、耳鳴りなのか
何の音なのか、何が起きたのか
何もわからなかった。
しばらくすると暗闇からだんだんと
闇が薄まり明るくなっていった。
ググッ、ガタガタンッ……ドスッ!!
すごい衝撃と何かの音。
「ウッ……。」
目が覚めると身体がひどく重たくて、
頭もボーッとしていた。
まともに寝たのはいつだろうか?
昨日も徹夜をして深夜の2時すぎに
時計をみた記憶はある。
深夜の2時すぎ、丑三つ時かぁ
お化けの時間だなぁと
思いながらさらにパソコンの打ち込みを
黙々としていた…よな?
あれ、記憶があやふやだ……やばい、えっ?
過労死するぅ~ってまり姉が言ってたが
マジ、俺の方が過労死したのか?
なんだかおかしい?なぜ?
ぼやける視界に、太陽とうっすら白い月が
1、2、3、んっ?3つ?
目がぼやけてるんだよな?
夢を…見てるのか……。

俺は、ほぼ家族経営の老舗旅館で働いている。
鈴木 直樹(なおき)と、姉は鈴木 茉莉(まり)。
若女将の姉(年齢、言うと殺される)と
双子の弟が俺、経営担当。
母が女将、父が料理長。
よし。覚えてる。大丈夫だ。これは夢だ。
少人数ながら従業員もいた、はず?
パソコンを使えない?いや、使えるが
パソコン操作がめんどくさいと言って
事務作業を嫌がった姉の代わりに、
俺が経営学を学び……えーと、あれ?
老舗旅館、若女将、双子の姉と俺……。
姉は剣道を…身体の弱かった俺は……
あれ?今、ココは…どこ?
ダメだなぁ。今日は、早く寝よう。
夢見心地が悪すぎだろう、コレ。
夢占いでもしようかな?
「………。」
「ちっさ!!何だこれ手、ちっさ。」
「うー、うるさい。うー頭、痛いわ。」
俺たちはほぼ同時に目を覚ました。
「まり姉?」
「んっ?かわいい子どもがいる?えっ、
何?声、声が…えっ?」
痛む身体を起こして、手や足を動かした。
やはり、夢じゃない。
俺と姉であるまり姉は子ども、しかも
日本人ではあり得ない整った顔立ちで
かわいい子どもが目の前にいた。

グーパーグーパーと2人は小さな手を動かしていた。
「まり姉?」
「んっ、何、なおき?」
「「!!!」」
「「えっ!!」」
さすが双子、驚きも一緒だった。
だが、声も身体ももちろん手足も
小さくて可愛くなっていた。
前世では三十…ゴホッゴホッ、
こっわ!怖っ!!考えただけで姉である
まり姉から殺気が飛んできた。
2人ともそこそこいい……ゴフッ!!
子どもの拳が、お腹に…入った、痛い。
「なおき、あんた変な事考えなかった?」
「うっ、そんな事考えてませんでした、ハイ。」
「……まあ、いいわ。」
「……。」
恐ろしい。一卵性双生児だった俺たちは
考え方も似ていたが、鋭い感と運動神経も
姉であるまり姉はよかった。
それに対して俺は小さな頃から、すぐ
風邪を引いたりして身体がなぜか弱かった。
さらに、運動神経があまり良くなかった。
趣味も違っていた。俺は読書が好きだが、
姉は文字を見ると眠気が襲ってくる、とか
これは眠りの呪文よとか言い、必要最低限の
文章しか読まなかった。
スポーツ好き、体育祭など張り切るタイプで、
ワクワクし過ぎて夜眠れず、朝眠いまま
イベントをこなすような姉だった。
いわゆる脳筋……ゴフッ。
「なおき!!」
「ま、まり姉……うっ!」
俺はなぜだか、まり姉に胸ぐらをつかまれていた。
そういえば、さっきから上が騒がしい。

「マリー様、キオナ様御無事で、
ま、間に合わず申し訳ございません。
つきましてワタクシメのお命を
詫びがわりに腹をかっさばきますので
ヒラにヒラにお赦(ゆる)しを……。」
ここ、洋風なのに戦国時代なの?
しかも、まり姉、この人が急接近した時
俺を盾がわりにしたよね?
この髭もじゃの人…え~と名前、
なんだかすごい身長も高いし圧迫感ありすぎだ。
この人も俺たちもだが、着てる服装も
見たところ洋風だよね?
俺たちは馬術で着るような格好していた。
目の前の人は、皮の簡易的な防具を
身につけている筋肉の人……え~と名前は、
「……護衛騎士のエイダンさん(よね?)」
そうそう、そんな感じの名前。
まり姉、ナイスゥ。
「ワタクシメの名前ごときを、マリー様に
呼んでいただけるなんて、何と光栄な…
ありがたき幸せ。この幸せを胸に、
このまま腹をかっさば…
「「バカないで下さい。」」」
「エ、エイダンさん、あ、あのー。」
「あのキオナ様まで、ワタクシメの
いえ、ワタクシごときのお名前を呼んで
下さるなんて、もう思い残す事なんて
「「ありすぎです。勝手に死なないでください。」」」
「お腹カッさばいたら、私たち
それこそトラウマになるわ。」
「とら、うま?とら?トラの獣人族と、
馬になるのですか?」
トラウマは、通じなかった。
それより、エイダンさん"あの"キオナ様って
言ったよね?
"あの"キオナ様ってどういう意味だろうか?

時代劇に出てきそうな言葉が混じる
髭もじゃで(日に焼けたのか)褐色の肌の
エイダンさんは、(確かこの身体の持ち主である)
マリーとキオナの父親が俺たちに付けてくれた
護衛騎士の中で1番強い剣の使い手だ。
そして俺たちの剣術の先生だ。
年齢的には30代後半か40代前半?
身長はとにかくデカい。
あと筋肉のかたまり。
ボディービルダーってかんじだ。
ここまで筋肉付けたいとは思わないが
そこそこの筋肉は欲しい。
前世では、まともな腕立てふせすら
出来なかった覚えがある。
うん。前世……まり姉と俺は
過労死したのか?
やはり、もう1人ずつは信用できる事務と
仲居さんを雇えばよかったかもしれない。
身体を少しは鍛えようかな?
今のこの身体は腕立てふせが
出来るのだろうか?

まり姉は→マリー、そして直樹だった俺は
なおき→キオナになっていた。
しかもこの後、驚くべきことが
発覚するのだった。
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