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4、お茶会の前

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お茶会当時の早朝、俺は文字通り
叩き起こされてしまった。
「"マリー姉上"早く起きて下さい!!」
「……んんっ?ま(り姉)…ゴフッ。」
中身まり姉である俺の身体から伸びた
手にクッションがあり、そのクッションで
俺は喋れなくなった。
「可愛い弟である"僕"が"マリー姉上"を
起こしにきましたよ。ほら今日は、
お昼過ぎに王妃様のお茶会ですから
"マリー姉上"は今から、支度してもらって下さいね。」
凄(すご)みある笑顔に、俺は一気に目が覚めた。
俺たち中身が入れ替わってるんだった。
今日も、女性としてまり姉…マリー姉上として
過ごさなきゃならないんだ……。
俺はこっそりため息をついた。
「……はい。お、おはようございます"キオナ"。」
「おはようございます、マリー姉上。」
ニコッ。
ギギギっと油が切れた機械の様な動きで
挨拶をすませると、どこに潜んでたんだ?
と思えるほどの使用人たちに
取り囲まれてしまった。

数人がかりで、湯浴み、
マッサージ、手足から身体、そして顔
髪のお手入れまでしてもらった。
老舗旅館でマッサージを呼ぶとかなりの
高額だが、数人がかりでのマッサージは
ほぼほぼ高級エステと言っても過言じゃない。
だけど、こういう事に慣れてない俺は
気持ちはいいのだが、なぜだかかなり疲れてしまった。身体がだる重っ!!
香り高い紅茶(いつもより少なめ)と
朝ごはん(いつもより軽め)を食べた。
ナイトドレスから、朝食用のドレスに
着替えたのに、食べ終わるとまた
お手入れするとやらで、爪やら
お肌、髪を結い直しまた、ちがうドレスに
着替えさせられてしまった。
昼過ぎからのお茶会なのに、なんで
こんなに早いのだろうかと思っていたが
あれこれ準備をしていたら、行く予定の
時間になってしまった。
お昼ご飯は、お腹がならない程度の
さらに軽食で飲み物も一口か二口しか
飲むことは出来なかった。
お茶会当日の前準備は、極力水分を
取らないようにしなければならないと
マリー姉上たちと教育係に言われてしまったのだ。
グゥ~
「……。」
馬車に乗る前に、お腹がなってしまった。
仕方なく侍女たちは、小さなクッキーを
一枚と一口だけの紅茶を飲ませて
もらえたのだった。
お茶会の前って、みんなこんな苦労してるのかな?
念の為トイレ…ゴホッ、お花摘みをすませた。
ハッキリ言ってかなりお腹すいたし、
小さなクッキー一枚じゃたりない。
喉もカラカラだ。
あまりにも悲しげに見つめてしまったのか
侍女が、こっそり紅茶を入れてくれたのだった。
美味しい。うるおう~。

ごとごとと、そこそこの乗り心地の良い
馬車に揺られながら到着した王宮は
想像以上に大きかった。
語彙力(ごいりょく)はない。
白くて上品で、お庭もすごいとしか
言えないほどの広さときれいさだ。
前世の老舗旅館の何十軒分の広さだろうか?
いや、何百単位か?
馬車を降りてからもしばらく歩いて
控え室に到着した。
王妃様主催のお茶会の時間中に
お花摘みに行くのはダメと言われてしまい
ダメって言われたら水分制限していても
行きたくなってしまうのだ。
案の定、俺はマリー姉上(外見は弟であるキオナ)
に睨まれながら控え室のすぐ近くにある
化粧室に行ったのだ。
ドレスで着飾っているので、侍女も
一緒にきてくれている。
ありがたいが、恥ずかしい。
無事、お花摘みと化粧直しを終え
一つ上の兄姉と中身がマリー姉上でる
キオナがいる控え室に戻ったのだった。
父と母は王妃様たちとお話があるとの事で
馬車も別で俺たちより早めに着いていた。

コンコン

「誰だろう?」
「まだ、早いわよね?」
「……。」
俺たち上の兄姉の双子とマリー姉上である
キオナと顔を見合わせた。
侍女が王城の使用人に確認すると
「王太子殿下と王女殿下が御成りです。」
「「「「……。」」」」
お茶会前に王太子殿下と王女殿下がぁぁ!!
内心バクバクしていたが、気づけば
ここ数日練習を重ねたカーテシーをし
挨拶を交わした。
兄上が、みんなの名前を紹介してくれたので
言葉を発しないまま頭を下げていただけだった。

艶やかな紺色の髪に王族に多い紫の瞳。
同じ10歳とは思えない様な大人びた
王太子殿下はオザーム・フゥーリー・ベルブック。
そして、懐かしさを感じる黒い髪には
光の加減で天使の輪というものが出来ていた。
王太子殿下と同じく紫の瞳だった。
王女殿下はふんわりとした感じの可愛さをもち
9歳ながらもやはり大人びた顔立だった。
ルカ・ジュネ・ベルブックは、淡い
レモンイエローのふわふわのドレスを
着ていてとても似合っている。

「ウワサのベルウッド侯爵家のご子息、
ご息女に逢えて嬉しいよ。」
「ウワサ、ですか?」
「そう、ウワサ。」
王太子殿下と兄上が微笑みあってるのに
なぜか怖い感じがした。
同じ部屋にいるはずなのに、なぜか
兄上と姉上たちの声が聞こえてこない?!
なぜ?!
視線は感じるのに、何を話してるのか
わからないのだった。
口は動いてるのに、なぜ?
キオナ(中身まり姉)が小さなカードに
羽ペンでサラサラと何かを書いた。
"口唇術、王宮は基本魔法禁止。"
「……。」
唇の動きで会話を読み取るのだが
俺は、ほとんど会得していなかったのだ。
キオナ(中身まり姉)たちに、俺は
首を振ったのだ。
その後も何か口をぱくぱくさせながら
口唇術を使いながら会話をしていたが、
オザーム王太子はチラチラとマリー(中身は俺)を
見ながら会話し、そしてオスカル兄上たちは
なんとも言えない表情をしていた。
     ***
『失礼しました。王太子殿下、ならびに
王女殿下申し訳ございません。本日
"マリー姉上"は少々、体調不良でして
口唇術に"集中"出来きないので
申し訳ございません。』
『体調不良?本当に大丈夫なのか?』
『王太子殿下、我が2番目の妹と弟は
約1週間前ガケから落ちましたが、幸いな事に
軽傷ですみました。ですが、おそらく
女性特有の月のモノも重なり、本日
体調不良となっているようです。』
「……。」
*『』口唇術での会話の為、外見マリー姉上
(中身キオナ)には口をパクパクさせてる
ようにしか見えてません。

キオナ(中身まり姉)王太子殿下、そして
兄上の順で口をぱくぱくさせた口唇術
とやらで会話しているのだが、俺には
さっぱりとわからなかった。
まり姉、勉強をサボって覚えてないのか?
うグッ?!
鋭い視線が刺さったが、これは間違いなく
キオナ(中身まり姉)だ。
『今回、体調不良なマリーちゃんは
大事をとって、"純粋に"お茶会を
楽しんで欲しいわ。』
『ありがとうございます王女殿下。』
『私たちだけでなんとか対処してみます。』
姉上が王女殿下に答えたあと
キオナ(中身まり姉)が答えていた。
『頼みます。』
『いつもすまないな。ベルウッド侯爵家には
本当に感謝する。』
王女殿下と王太子殿下は、優しげな
微笑みをし10歳と9歳には見えないくらい
大人びた態度で堂々としていた。
『もったいなきお言葉……。』
「堅苦しいのは嫌だから、やめてくれ。
おっと、あぶない。マリー嬢無理しないでくれ。
さあ、そろそろイイ時間になったな。」
臣下のポーズをとった兄上のボウ・アンド
・スクレープに続き、慌てながらも
俺もボウ・アンド・スクレープ……
じゃなくてカーテシーをした。
兄上のように片方の手を胸にもう片方の手を
斜め下に向け、片膝曲げようとしたが
今の俺はマリー姉上だった事を思い出し
慌ててカテーシーに切り替えたのだった。
慌てていたからか少し体制を崩し
不恰好なカーテシーになってしまったのだ。
うわぁ、あとでキオナ(まり姉)に何か
言われてしまうと、身構えでしまった。
ふらついた俺を優しく支えたのは
何と王太子殿下で、不覚にも
かっこいい!!って思ってしまった。
それにしても、生理って毎月あるみたいだし
女って大変だあ。
血が足りないのか、頭痛いしなんだか
ふわふわする……。
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