鈍色(にびいろ)

カヨワイさつき

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秋高し(あきたかし)

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秋高し(あきたかし)
昨夜の出来事が嘘のように、私の心は
雲一つなく澄み渡り、潤さんの声と
顔が焼き付いていた。
朝礼の間もしばらく上の空だったかもしれない。

朝礼が終わるとプリントアウトされた資料と
この山積みの仕事があった。
あっ、あの子また、ここミスってる。
見直してから、私にチェックお願いしてよね。
まあ、気分いいから大目に
みてあげないことも、ないことはな……。
ダメじゃん、私……。
何、浮かれてりのかしら。
この夢は、仕事終わりの夕方とともに
消えるのよ?
私は仮面をさらにかぶり、いつも通り
間違い箇所に付箋をし、後輩の子に
「ここなおしといてね。」と言った。
「いつまでにですか?」
「なるべく早く。」
「今、手を付けたばかりの書類は
後回しにした方がいいですか?」
ピキピキッ。
「キリのいいところで、今日中、
出来れば昼までにお願いね。」
「それなら、そうと言って下さい。」
ピキピキッ、ピキッ。
「間違いがないか、見直してから
持ってきて下さいね。2度手間、
3度手間はアホらしいので、
貴方が責任持ってやり直して下さいね。」
「……。」
私が去った後に、聞こえよがしに
何かを言うのがわかっていながら
何度も間違える彼女に、私なりに、
いつも通り言ったつもりだった。

ミスを見逃して、それを彼女に言わず
手直しするのは簡単だけど、
それをやり続けたら、彼女のためには
ならないと思っていた。

人に注意したりするのは疲れる。
平社員より2000円高いだけの
"主任"。
部下がミスると上からも下からも
言われる位置。
もう、辞めたい。
なんのために働いているのかも
わからなくなってきた。
"結婚しないのか?"
"行き遅れ。"
"おつぼね様"
会社に10年近く在籍してるだけの
中間管理職にも満たない正社員。
"主任"。
残業は、サービス残業が当たり前の会社。
私は歌が歌いたいだけ。
歌手になりたい。
小さくてもいいから、スタジオを
作り、そこで音楽と触れ続けたいだけ。
お金を貯めるには、手っ取り早く
地道に働いているだけ……。
まだ、大丈夫なの?
もう、ダメなの?
私の心の中は、ズタズタになりそうだった。

いつもならアイツが営業から帰ってきて
私をフォローしてくれるのだけれど
今日は、タイミングよく?直帰だった。
残念なようで、ホッとした?
同期のアイツの彼女になった子は
ちがう部署の営業部門。
お昼に時間を合わせるか、
月に数回、皆で飲みに行く時くらいしか
顔を合わせなくてすむ。

朝の夢のような出来事を思い出しながら
なんとか、半日を乗り切れそうだった。
あと少しでお昼。
いつもなら駅前のコンビニで
お弁当でも買うつもりが買い忘れたので
ストックしているカップ麺でも
食べようかと考えていた。
「!!!」
社内メールを開いたとたん、
タイミングよくコールがなった。
「……はい、はい、わかりました
すぐ、伺います。」
マジか!!
あの子、やりやがった!!!

約1時間弱、部長にネチネチ文句を
言われながら目の前で、後輩の
ミスっている書類、ノーチェックの
書類を提出BOXから取り出し
やり直していた。
嫌がらせなのかミスをなおしてない
数枚の書類が目の前にあった。
後輩に振り分けた仕事だった。
いや、なおしたところが更に間違えてるのと
新たな書類も、私に回さないまま、
直接、部長に書類を回したのだった。
「……(ありえないよ)。」
よりによって言い訳も聞かない事で有名な
ネチネチ文句言う部長の書類だった。
他にも書類あったはずなのに
ワザととしか思えなかった。
「最近の若い子は、チェックもしないで
余計な仕事を増やすんだからな。
私の身にもなってくれよな。君のサインも
入ってないし、直接私に逢いたいから
わざとミスをして、呼び出しに
応じたのか?」
「……は?」
「君は独身だし、こんな簡単な計算を
見逃すほどチェックも何もかも
緩いのか?部下を使って、わざわざ
回りくどいことしたのかな?」
この人、何が言いたいの?
悔しくて拳を握りしめて耐えようとした。
ポケットに入れたままの、携帯に
手があたりそっと、操作した。
「……部長、仰る意味がわかりません。」
「朝早くに電車で、わざわざ入口付近に
立っていたらしいじゃないか?」
「……?」
「まぁ、君があいつを蹴落としてくれたから
お礼しようじゃないか。今夜あたりどうだ?」
「はっ?」
「とぼけているのか?それとも、
じらしてるとか、朝だけじゃ物足りないのか?」
「!!!」
にやけきった顔、あやしい手つき
生娘?なら泣いたり、わめいたりするけど
耐えていた。
部長の手が、私の肩に乗っかっているけど
まだ…大丈夫……。
早く逃げなきゃ。
早く、なんとかしなきゃ。

「ぶ、部長仰る意味がわかりません。」
「とぼけてるのか?朝、君チカンにあって
お尻とか気持ちよくしてもらったんだろ?
そして、若い男と、途中下車した
らしいじゃないか?」
「ど、どうしてそれを?」
「第3課の部長がチカンで捕まったらしく
本日付けで会社を退職したんだよ。」
「……!!」
「君もやるね。君のおかげで私は
上にいきやすいからね。同期でライバル
だったからチカンで退職、思わず
笑ってしまったよ。」
ともは、どういう表情を作ればいいのか
わからないまま、後輩の書類を訂正した。
「部長、こちらの書類訂正終わりました。
ノーチェックだった事はお詫びします。
こちらも責任持って、早急に手直しします。
では、失礼します。」
「待て!ここでゆっくりなおしたらいいよ。
時間はたっぷりあるんだ。部長の
私に呼ばれてるという口実で
のんびりしたらしいい。実は前から
君の事、専属秘書にしたいくらい
優秀だし気に入ってるんだよ。
君さえよければプライベートでも
付き合いしようじゃないか?」
「申し訳ございません。お、お断りします。」
「はぁ?今まで面倒みてやってるのに、
主任降ろされたいのか?」
"主任"の肩書きなんか要らないわよ。
この、クソジジイ。
気持ち悪い。殴ってもいいかな?
きゃ~!!って叫んでみようかな?
でも、第3課の部長もチカン、
第2課の部長も私に手を出したとなると
偶然同じ日となっても、私が何かしたと
上司に思われるかも。
誰か助けてよ!!
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