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第1章 無字姫、入学す
第29話 真の肆言
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頭上から、多数の魔力の刃が降り注ぎます。
1つ1つが強大な威力を誇っていて、まともに受ければ消し飛びそうですね。
しかし……今のわたしは、1人じゃありません。
一色くんから力を授けられた『葬命』を駆使して、全ての攻撃を凌ぎ切りました。
余波で街の建物が破壊されてしまっていますけど、こればかりは許して下さい……。
流石に、そこまで気にする余裕はないので。
その代わりと言いますか、人がいない方にガイゼルを誘導出来ているので、亡くなった方はいません。
ただ、逆に言えばそれだけです。
相手が空を飛んでいることもあって、わたしは逃げ惑うのみ。
圧倒的に有利な立場にあることがわかっているのか、ガイゼルは余裕たっぷりに笑って、大剣を振り回しています。
完全にふざけていますね……。
悔しいですけど、今はそれで構いません。
わたしの目的は、時間稼ぎ。
なんとかして、一色くんや天羽さんたちと合流出来るまで、やり過ごせたら……。
そう考えていましたが、どうやら甘かったらしいです。
「悪いが、お遊びはここまでだ。 いい加減、時間がなくなりそうだしな」
邪悪な笑みを浮かべたガイゼルが、大剣にそれまで以上の魔力を送り込みました。
何かが来ます……!
警戒の度合いを、極限まで引き上げたわたしの目に飛び込んで来たのは――
「死ねやッ!」
極大の炎刃。
なんて熱量でしょう……!
これは恐らく、エニロとゾースの魔術の融合ですね。
いえ、もしかしたら逆でしょうか。
ガイゼルの魔術の一部を、エニロたちが使えている……その方がしっくり来ます。
視界を埋め尽くす炎の刃を前にして、瞬時に判断しました。
それと並行して、先ほどから考えていたことを、実行に移します。
わたしだって、このままで済むとは思っていませんよ。
足に集めた魂力を噴射しつつ、跳び上がりました。
通常では考えられない高さに辿り着き、ガイゼルの頭上を取ります。
予想外だったのか、彼から驚いた気配が漂って来ましたが、知ったことじゃありません。
隙を見せてくれるなら、遠慮なく突かせてもらいましょう。
わたしが『葬命』を大上段から振り下ろすのと、ガイゼルが顔を振り上げるのはほぼ同時でした。
このタイミングなら……!
逸る気持ちを抑えて、最速で刃を振り抜きます。
ところが、やはりそう簡単には行きません。
「ふん。 やるじゃねぇか」
鼻で笑ったガイゼルが、軽く身を仰け反らせました。
それだけでわたしの斬撃を紙一重で避け、そのときには大剣を引き絞っています。
大味な攻撃ばかりだと思っていましたが、見切る力や剣技の練度も流石ですね……。
思わず感心してしまいましたけど、そんな場合じゃありません。
彼と違って飛べないわたしは、空中だと行動が大きく制限されます。
そこにガイゼルは大剣を突き出して、貫かれそうになりましたが、これくらいは想定内でした。
「はぁッ!」
「おぉ?」
宙に浮いたまま、再び足から魂力を発して、真横に加速します。
わたしは空を飛べませんけど、駆けることは出来るんですよね。
反動は大きいですが、『十魔天』を相手に出し惜しみする訳には行きません。
大剣とすれ違うようにして、ガイゼルの懐に飛び込みました。
か、かなり際どかったです……。
反射的に安堵しかけましたけど、ここからが勝負……!
竦みそうになる自分に喝を入れて、『葬命』でガイゼルに斬り掛かりました。
当たって下さい……!
懸命に振り切った切先は、狙い違わず胴に吸い込まれましたが……浅いですね。
全身甲冑を斬り裂いて、本体にもダメージを与えた感触はあったものの、決定打には程遠いでしょう。
結論付けたわたしは、すぐさまその場を脱して近くの屋根に降り立ち、間髪入れずに頭上を振り仰いで構えました。
てっきり、ガイゼルが追撃を掛けて来ているかと思ったんですけど……様子が変です。
黙って斬られた胴に手を当てて、付着した血を凝視していました。
一見すると隙だらけですが……不気味ですね。
言い知れぬプレッシャーを感じたわたしが、油断なく備えていると――
「……ッ!?」
目の前に大剣が迫っていました。
速い……!
考えるより先に体が動いて、『葬命』で受け止めます。
目と鼻の先には、感情が抜け落ちたガイゼルの顔がありました。
生理的な恐怖を抱いたのか、全身から冷や汗が噴き出ます。
怖くて仕方ありませんけど……退きません……!
なんとか鍔迫り合いに持ち込むべく、両手に力を込め――
「おぉッ!」
鬼神のような形相で、大剣を振り切るガイゼル。
僅かに抗うことも出来ず、強引に吹き飛ばされました。
信じられない力です……!
戦慄が迸りますが、なんとか空中で体勢を整え……いない……!?
いったいどこに……と、考えるまでもなく、彼の魔力を感じました。
背後から。
「らぁッ!」
「う……!」
総毛立つような風切り音を奏でて、振り上げられる大剣。
体を捻じ切るほどの勢いで反転したわたしは、辛くも『葬命』を割り込ませましたが、到底堪えることは出来ません……!
ピンポン玉のように上空に弾かれつつ、痺れる腕で強引に構えを取りました。
ところが、ガイゼルの猛攻はまだ続きます。
いつの間にか背後に回っていた彼が、凄まじい殺気を撒き散らしながら、大剣を繰り出しました。
く……付いて行くのがやっとです……!
弱音を吐く暇も与えられず振り向いて、際どいところで受けましたが、今度は地上に叩き付けられました。
全身に細かな傷が付いて、粉々になったような激痛が走ります。
た、立てるでしょうか……?
いえ、立たないと……!
途切れそうになった意識を無理やり繋ぎ止め、歯を食い縛って立ち上がる……なんて、悠長なことを言っている場合ですか……!
バネ仕掛けのように飛び起き、状況を確認する間も惜しんで全力疾走。
直後、背後にガイゼルの炎刃が飛来し、炎と衝撃に襲われました。
ち、直撃じゃなかっただけ助かりましたけど、体が悲鳴を上げています……。
このままだと、意識はあっても、意志があっても、物理的に戦えなくなりそうですね……。
燃え盛る街並みを見て、ゴクリと唾を飲み込んでしまいます。
そこで視線を感じて目を向けると、厳しい顔付きのガイゼルと目が合いました。
これが、『十魔天』……。
わかっていたつもりですけど、1人で止めるだなんて、土台無理だったんでしょうか……。
弱気になったわたしがそう思っていると、彼は重々しく口を開きます。
「自分の血を見たのなんか、何百年ぶりかわかんねぇぜ」
「……これから、もっと見ることになりますよ」
「強がんなよ。 無字の割にやることは認めるけどよ、所詮は無字だ。 言魂のない言魂士なんか、俺の敵じゃねぇ」
「……誰かが言っていましたね。 言魂だけで判断するのは、視野の狭い証拠だと」
「はん、綺麗事だぜ。 どこのどいつか知らねぇが、そいつは馬鹿だな。 その証拠にテメェらは、『肆言姫』や『参言衆』に頼ってるじゃねぇか。 二文字以下は、何人いようが変わんねぇしな」
嘲笑を浮かべるガイゼル。
彼の言っていることは、ある種の真実と言えます。
それでも――
「取り消して下さい」
「あ?」
「彼は馬鹿じゃありません。 愛想は悪いですし、言葉遣いも刺々しいですけど……ご飯を作ったら美味しいと言ってくれますし、いつも気に掛けてくれますし……とても賢くて……素敵な人なんです」
柳眉を逆立てて、言い返しました。
怒りと恥ずかしさで、顔が真っ赤になるのを実感します。
ですが……これが本心。
なんでかわかりませんけど、一色くんを馬鹿にされるのは嫌でした。
もっとも、わたしの気持ちがガイゼルに響くことなどないです。
「あー、ウゼェ。 馬鹿を馬鹿と言って、何が悪いんだよ? どうしても撤回して欲しいってんなら、無字のお前が俺を倒してみやがれってんだ」
「……わたしが勝てたら、撤回してくれるんですね?」
「おう、約束してやる」
「その言葉……忘れないで下さい」
ニヤニヤと笑って腕を広げるガイゼルと、改めて向き合いました。
自分でもビックリするほど落ち着いていて、余分な力が抜けています。
体中が痛いですが、それが何だと言うんですか。
手も足も、動きます。
体力だって、魂力だって残っています。
まだ、戦えます。
自然とそれらの言葉が胸に落ち、浸透して行きました。
『葬命』に手を掛け、力強く地面を踏み締めます。
頭上に浮かんでいるのは、遥か格上の存在。
いざ――
「参りますッ……!」
「来いよ、身の程知らず!」
魂力を練り上げて、大ジャンプ。
今度は頭上に向かうのではなく、直接ガイゼルに突撃しました。
先ほどの傷は既に癒えているらしく、血も止まっています。
あれは……ミンの回復力ですか。
そうなると、わたしの攻撃で仕留めるには、一気に決めるしかありません。
跳躍の勢いも乗せて『葬命』を振り抜き、首を狙います。
いくらなんでも、首を落とされて生きていられるとは考え難いので。
しかし、そんなわたしの考えなど筒抜けらしいです。
「そう来ると思ってたぜ!」
軽々と大剣を操ったガイゼルが、余裕を持って斬撃を受け止めました。
更に、すぐさま力を込めて、またしてもわたしを地上に押し返そうとします。
ですが、一色くんに挑み続けて来たわたしの、先を読む力を侮らないで下さい。
「こちらのセリフです」
タイミングを合わせて刃を引くことで、ガイゼルの体を前に流しました。
それと同時に、魂力の噴射を用いて宙を走り、彼の背後を取りつつ逆袈裟に斬り上げます。
我ながら見事な一撃だったと思いますけど、ガイゼルの反応速度が上回りました。
超速で振り向いた彼はバックステップを踏んで、ギリギリのところで逃れようとしましたが……させませんよ……!
「ふッ……!」
「む!?」
『葬命』の峰から魂力を発することで、強引に斬撃の速度を上げる、わたしの奥の手。
移動の為に使うよりも繊細な制御が必要な上に、体に掛かる負荷も段違い。
使うとしても、必殺だと思えるときに限定していたんですけど……今回ばかりは、そうも言っていられません。
時間稼ぎするだけならともかく、『十魔天』を単独で倒すには、無理を通さなければ。
加速した刃がガイゼルを捉え、全身甲冑に斜めの斬線を引きました。
血飛沫が舞い、痛みと悔しさからか、彼の顔が歪みます。
わたしも、ダメージが蓄積された体に、より一層の苦痛が加わりましたけど、止める気はありません。
振り切った『葬命』からもう1度、魂力を放出しました。
その勢いを使ってその場で縦に1回転し、下からの斬撃を繰り出します。
通常ではあり得ない動きに、ガイゼルであっても驚きを禁じ得ないようでした。
今度は回避されましたが、大きく体勢を崩すことには成功。
ここが勝負ですね……!
振り上げた刃を巧みに操って、斬り下ろす構えを作りました。
間髪入れずに魂力による斬撃の加速を行い、ガイゼルに斬り掛かります。
ところが――
「いい加減、慣れたぜ!」
どれだけ速かろうが、同じ速度では通用しない。
光凜さんの言魂と似た欠点を突いたガイゼルは、崩れた体勢のまま攻撃範囲から脱出しました。
やはり『十魔天』、対応力も並ではありません。
ただし、そんなことは織り込み済みです。
「なッ……!?」
振り下ろしている途中の『葬命』の、刃から反対に魂力を噴出させました。
それによって急ブレーキが掛かり、斬撃が途中で止まります。
腕や肩、全身に強烈な衝撃が走りましたが、無視しました。
まさかの事態に目を見開くガイゼル。
今しかありません。
いろいろと限界になりつつあるわたしは、最後の力を振り絞って、両足から魂力を噴き上げました。
「やぁッ!」
体当たりするような勢いで、『葬命』をガイゼルに突き出します。
狙いは心臓。
瞬く間に距離をゼロにした切っ先は、全身甲冑を撃ち砕き――
「がはッ……!」
貫通。
ガイゼルの左胸を穿ち、背中まで貫きました。
盛大に吐血した彼の全身から力が抜け、俯いています。
た、倒した……のでしょうか……?
無理の連続で朦朧とする意識の中、わたしはそう願っていましたが――
「やってくれたな……無字がぁッ!!!」
「う……!」
顔を上げたガイゼルが、憤怒の形相で叫びました。
そんな、確かに心臓を貫いたはずなのに……!?
信じられない現実を前にして、わたしはパニックに陥る寸前。
しかし、ガイゼルはお構いなしに行動に出ました。
「オラァッ!!!」
「かはッ……!?」
胸に『葬命』を突き刺したまま、わたしの鳩尾に拳を叩き込みます。
反射的に後方に跳びましたが、それでも尋常じゃない破壊力……!
骨が軋み、体が爆発四散するかと思いました。
受け身を取ることも出来ず、地上に落下します。
ここまで……かもしれません……。
諦めたくはないですけど、もう抗う術は……。
地面に横たわったまま、閉じそうになる目を必死に開けて、上空のガイゼルを見つめます。
今も胸を貫かれたままなのに、苦しんでいるような様子はありませんけど、憎悪に塗れた眼差しを向けて来ていました。
何事でしょう……?
疑問が脳裏を過りましたが、それどころじゃありません。
なんとか立ち上がろうとしても、どうしても体が言うことを聞いてくれませんでした。
やはり限界のようですね……。
わたしは、少しでも皆さんの役に立てたのでしょうか。
答えを得ることは出来ないと知りながら、考えてしまいます。
すると、『葬命』を胸から引き抜いたガイゼルが、地面に放りました。
わたしの宝物……雑に扱わないで下さい。
文句を言いたくて仕方ありませんけど、声が出て来ません。
そんなわたしを睥睨したガイゼルは、苛立ちを隠そうともせずに吐き捨てました。
「くそったれ。 この俺が、無字ごときにやられるとはな……。 【インフェルノ・アナスタシス】の、復活能力を使っちまったじゃねぇか。 100年経たねぇと、再発動出来ねぇのによ」
【インフェルノ・アナスタシス】……炎と復活、と言ったところでしょうか……。
彼の言葉が本当なら、1度は倒せたんですね。
それだけでも頑張ったとは思いますが、発言を撤回させるには至りませんか……。
悔しいです。
諦念とともに、涙が溢れて来ました。
学院長、橘先生、入学を認めてくれたのに、すみません。
早乙女さんたちは心配いらないと思いますけど、もう1度くらいは話してみたかったですね。
折角、天羽さんたちとも仲良くなれたのに、お別れなのも悲しいです。
何より――
「一色、くん……」
弱々しいながらも、なんとか言葉にすることが出来ました。
彼に追い付き、追い越すと言う目標は、志半ばで終わりそうです。
最初から無理難題だったとは思いますけど、出来ることなら目指し続けたかったですね……。
いえ、それは後付けの理由かもしれません。
本当は、わたしはただ彼と一緒に……。
「ちッ! ムカつくが、終わったことはしょうがねぇ。 とにかく、まずはテメェをぶっ殺して、【聡明叡智】を始末してやる」
ガイゼルの大剣に、膨大な魔力が収束するのを感じます。
ですが……怖くありません。
わたしはここで命尽きるでしょうが、彼なら……一色くんなら、必ず勝てますから。
少なくとも、ヒノモトは守られます。
心底安堵して、息をつきました。
母上、今からそちらへ行きます。
怒られるかもしれませんけど……わたしなりに、頑張ったんですよ?
思わず苦笑して、涙を流しながら最期のときを待ちました。
「じゃあな、無字。 燃え尽きろやッ!」
大剣を振り切ったガイゼルが、極大の炎刃を放ちました。
迫り来る獄炎を前に、静かに瞳を閉じます。
走馬灯のように映像が浮かぶことはなく、呆気なくわたしはこの世を……あら?
一向に熱さや痛みを感じませんね……?
あ、もう死んでしまったんでしょうか。
だとすれば楽に逝けて良かったですけど……それにしては、体の感覚がリアルです。
いったい、何が起こっているんでしょう……?
不思議に思ったわたしは、おっかなびっくり目を開き――
「え……?」
思わず、間の抜けた声をこぼしました。
仕方ないじゃないですか。
だって目に映る光景が、理解出来ないんです。
辺り一面は、ガイゼルによって吹き飛んでいますけど、わたしの周りだけは全くの無事でした。
まるで、ここだけ別世界かのように。
ポカンとしたわたしは、体の痛みも忘れて身を起こします。
すると、頭から何かが落ちました。
これは……桜の髪飾り……?
粉々になっていますけど、間違いありません。
まさか、これが身代わりになってくれたとでも言うんですか……?
考え難いですが、それくらいしか思い付かないです。
しかし、店売りの商品である髪飾りに、そんな効果があるはず……あ……。
これを付けてくれたのは、一色くん。
もしかして、あのときに何かしていたんでしょうか……?
いえ、彼の言魂は【刀】。
『葬命』ならまだしも、髪飾りに影響を与えられるとは思えません。
でも……万が一、そうだとしたら……わたしは、彼に命を救われたことになります。
ならば、諦める訳には行きませんね。
何としてでも、お礼を言わないと。
消えかけていた闘志を漲らせ、休息を訴える体の悲鳴を無視して立ち上がりました。
そして、ガイゼルに視線を向けたのですが……何やら様子がおかしいです。
「ば、馬鹿な……。 なんで、テメェが……!?」
あらんばかりに目を見開いて、愕然としているガイゼル。
何を言っているんでしょう?
意味不明でしたが、お陰で少しばかり体の自由が戻って来ました。
これなら、行けるかもしれません。
自分に言い聞かせたわたしは、懐に手を入れました。
『葬命』がない今、これを使うしかないです。
意を決して取り出したのは……1本の筆。
そのときになって、ようやくガイゼルも立ち直りつつあったようですが、もう遅いです。
数瞬瞑目したわたしは、呼吸を整えて――
「【一筆魂書】」
呟きました。
わたしを中心に荒れ狂う、魂力の波動。
一瞬唖然としたガイゼルですが、噛み付かんばかりの勢いで喚き散らしました。
「テメェ! やっぱり、無字ってのは嘘だったのか!?」
「嘘じゃないですよ。 わたしは、言魂を持っていません」
「適当なこと言ってんじゃねぇぞ! それはどう見ても、言魂だろうがッ!」
「だから、違いますよ。 言魂は、これから創るんです」
「言魂を創る、だと……?」
混乱を体現したかのようなガイゼルに構わず、わたしは魂力を高めました。
さぁ、始めましょう。
わたしの、本当の戦いを。
ゆらりと筆を持ち……書きました。
「がッ……!?」
ガイゼルの右腕が全身甲冑ごと断ち切られ、地面に大剣が突き刺さります。
傷口を左手で押さえた彼は、魔力で塞いだようでした。
この辺りの対処の早さは見事ですが、未だに平静を失っていますね。
それも致し方ないでしょう。
何故なら、わたしが書いた文字は【斬り裂く風】。
そう、五文字です。
文字数が増えれば威力が別次元になるのは、言魂の大原則。
ひらがなが含まれていようが、そこに違いはありません。
天羽さんの【花鳥風月】を超える風の刃を放った訳ですが、これだけじゃないですよ。
筆に魂力を送り込み、次なる一手を打ちました。
宙に文字を綴り……わたしの姿が掻き消えます。
「んだとッ……!?」
ガイゼルが口を開いたときには、彼の頭上を取っていました。
今回書いたのは、【この身は雷】。
文字通り、雷の速度を得たと言うこと。
それでもガイゼルは反応していましたけど、わたしの攻撃の方が速いですね。
既に振り被っていた左拳を振り下ろす直前に、新たな文字を書きました。
「ごッ……!?」
完璧に顔面を殴打し、クレーターが出来るほどの勢いで、ガイゼルを地面に叩き付けます。
使ったのは、【無双の一撃】。
利き腕じゃなかったですが、関係ありません。
作った言魂によって増幅した威力は、彼であっても耐えられるものではなかったようです。
先ほどのわたしと同じように、地面に倒れ込んでいました。
立とうとしているらしいですけど、体が付いて来ないんでしょうね。
気持ちはわかりますよ。
【浮遊】の文字を書いたわたしは、宙に留まり続けて、ガイゼルを見下ろします。
すると彼は、血を吐いて痛みに顔を顰めながら、要領を得ないことを言い始めました。
「まさか、テメェが『核』だってのか……!? いや、言魂を自分で創るなんざ、それしか有り得ねぇ……! クソが! 無字がそうだなんて、誰がわかるんだよ!」
「核……? 何を言っているんですか……?」
「ざけんなッ! なんで隠してやがった!? それだけの力がありながら、『無字姫』なんて揶揄され続けたのは何故だ!?」
前半は良くわかりませんでしたけど、後半に関してはれっきとした理由があります。
でも、正直に話すつもりはありません。
「貴方には関係のないことです。 それより、そろそろ終わらせましょう。 これ以上、街を壊されるのは困りますから」
「ま、待て!」
「何ですか?」
「と、取引しねぇか!?」
「取引?」
「そうだ! 俺とテメェが手を組めば、全てを手に入れられる! 人間も魔族も関係ねぇ! だから――」
聞こえたのは、そこまででした。
書いた文字は、【完全なる消滅】。
つまりは、そう言うことです。
静かになった街並みを見渡したわたしは、遠くの気配を探りました。
どうやら、他の魔物も軒並み掃討し終わったようですね。
これでもう大丈夫――
「あ……」
視界が揺らぎ、全身から力が抜け、地面に落ちてしまいました。
当然ですね……。
五文字を3つに、六文字まで書いたんですから。
【一筆魂書】は、固有の言魂を持たないわたしに、母上が授けてくれた……禁断の技法。
ただし、極力使わないと言う条件で。
それこそ、母上の命を救う為にすら、使わせてもらえませんでした……。
具体的な効果は、自分自身で言魂を創作することで、一時的にその言葉の力を得ると言うもの。
それだけ聞けば、ほとんど無敵に思えるかもしれませんが、いくつか制約があります。
1つは、必ず筆を用いて書かなければならないこと。
この筆自体は特別な物じゃなくて、そう言う制約を作ることで、実現可能にしました。
そして、もう1つなんですけど……こちらが主な問題です。
【一筆魂書】で創った言魂を発動するのに必要なのは、通常の言魂と同じく魂力。
ただし、言魂を創作する為に消費されるのは、別のものです。
それは……命そのもの。
強力な言魂を創れば創るほど、代償も大きくなります。
恐らく、此度の戦いでわたしは、自身の命を使い果たしました。
濃密な死の香りがしますけど、後悔はありません。
『十魔天』の1人を倒せたんですから、万々歳でしょう。
……すみません、嘘です。
本当は、心残りがありました。
一色くんにお礼が言いたかったですし、ハンカチも返していません。
残念で仕方ありませんが、今度こそどうしようもないですね……。
「ごめんなさい、一色くん……。 来世で会うことがあれば……」
それ以上、口は動いてくれませんでした。
地面に伏したまま瞼が落ちて、暗闇に包まれます。
最期って、こんな感じなんですね……。
そんなことを思いつつ、僅かに残っていた意識を手放しそうになった、そのとき――
「そんなに待てない」
どこまでも真っ直ぐで、可愛げがなく……落ち着く声が耳朶を打ちました。
あぁ、彼です。
もう目を開く力もありませんけど、声を聞けて嬉しくなりました。
辛うじて残っていた感覚が、自分が抱き抱えられていると伝えて来ます。
何と言いますか……満足ですね。
指1本動かせませんが、そう思いました。
ですが、それを許せない人がいるようです。
「絶対に、死なせない」
熱のこもった言葉が耳に入り……唇に、何かが押し当てられました。
少しふっくらとしていて、柔らかい……?
何でしょう、これ……?
見えないのでわかりませんけど、何故だか胸が高鳴ります。
戦いの残り香が強く感じられますが、それに反して気持ちが和らぎました。
それだけではなく、唇から何かが送られて来ている気がします。
血のように全身を巡り、少しずつ力が戻って来ました。
そんな、信じられません……。
【一筆魂書】の代償は、癒すと言う概念では取り戻せないはず……。
何が起こったのかわからず困惑したまま、ゆっくりと目を開けました。
真っ先に視界に飛び込んで来たのは、一色くんの端正な顔。
無表情ですけど、こちらの様子を窺うように覗き込んでいて、どこか必死に見えました。
そ、それはともかく、近いです……!
しかし、思った通り抱き抱えられており、逃げられません……!
ど、どうしたら良いんですか……!?
頬が朱に染まるのを自覚しながら、硬直していると、ようやくして一色くんが口を開きました。
「どこか、おかしなところはないか?」
心臓が爆発しそうです……!
そう思いましたが、当然口に出したのは別の言葉でした。
「だ、大丈夫です……! もう平気です……! で、ですから……」
「今の今まで死にかけていたんだ、無理をするな。 大人しくしていろ」
「うぅ……は、はい……」
強い口調で窘められて、つい返事してしまいました。
せ、せめて、体勢を変えさせて欲しいんですけど……。
ところが彼は微動だにせず、しっかりとわたしを抱えたままです。
は、恥ずかしい……。
誰も見ていませんよね……?
借りて来た猫のように、縮こまっていたわたしですが――
「良く生き残った。 無茶をしたのは、いただけないが」
「あ……」
「今はゆっくり休め。 安心しろ、俺が傍にいる」
「……はい、有難うございます……」
頭を優しく撫でられて、緊張の糸が切れました。
急激に睡魔に襲われましたが、敢えて逆らうことはしません。
微笑を浮かべたわたしは、深い眠りに落ちます。
その直前に見た一色くんが微笑んでいた気がしますけど……夢でしょうか?
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
次回、「第30話 魂の筆」は、明日の21:00公開予定です。
読んでくれて有難うございます。
♥がとても励みになります。
1つ1つが強大な威力を誇っていて、まともに受ければ消し飛びそうですね。
しかし……今のわたしは、1人じゃありません。
一色くんから力を授けられた『葬命』を駆使して、全ての攻撃を凌ぎ切りました。
余波で街の建物が破壊されてしまっていますけど、こればかりは許して下さい……。
流石に、そこまで気にする余裕はないので。
その代わりと言いますか、人がいない方にガイゼルを誘導出来ているので、亡くなった方はいません。
ただ、逆に言えばそれだけです。
相手が空を飛んでいることもあって、わたしは逃げ惑うのみ。
圧倒的に有利な立場にあることがわかっているのか、ガイゼルは余裕たっぷりに笑って、大剣を振り回しています。
完全にふざけていますね……。
悔しいですけど、今はそれで構いません。
わたしの目的は、時間稼ぎ。
なんとかして、一色くんや天羽さんたちと合流出来るまで、やり過ごせたら……。
そう考えていましたが、どうやら甘かったらしいです。
「悪いが、お遊びはここまでだ。 いい加減、時間がなくなりそうだしな」
邪悪な笑みを浮かべたガイゼルが、大剣にそれまで以上の魔力を送り込みました。
何かが来ます……!
警戒の度合いを、極限まで引き上げたわたしの目に飛び込んで来たのは――
「死ねやッ!」
極大の炎刃。
なんて熱量でしょう……!
これは恐らく、エニロとゾースの魔術の融合ですね。
いえ、もしかしたら逆でしょうか。
ガイゼルの魔術の一部を、エニロたちが使えている……その方がしっくり来ます。
視界を埋め尽くす炎の刃を前にして、瞬時に判断しました。
それと並行して、先ほどから考えていたことを、実行に移します。
わたしだって、このままで済むとは思っていませんよ。
足に集めた魂力を噴射しつつ、跳び上がりました。
通常では考えられない高さに辿り着き、ガイゼルの頭上を取ります。
予想外だったのか、彼から驚いた気配が漂って来ましたが、知ったことじゃありません。
隙を見せてくれるなら、遠慮なく突かせてもらいましょう。
わたしが『葬命』を大上段から振り下ろすのと、ガイゼルが顔を振り上げるのはほぼ同時でした。
このタイミングなら……!
逸る気持ちを抑えて、最速で刃を振り抜きます。
ところが、やはりそう簡単には行きません。
「ふん。 やるじゃねぇか」
鼻で笑ったガイゼルが、軽く身を仰け反らせました。
それだけでわたしの斬撃を紙一重で避け、そのときには大剣を引き絞っています。
大味な攻撃ばかりだと思っていましたが、見切る力や剣技の練度も流石ですね……。
思わず感心してしまいましたけど、そんな場合じゃありません。
彼と違って飛べないわたしは、空中だと行動が大きく制限されます。
そこにガイゼルは大剣を突き出して、貫かれそうになりましたが、これくらいは想定内でした。
「はぁッ!」
「おぉ?」
宙に浮いたまま、再び足から魂力を発して、真横に加速します。
わたしは空を飛べませんけど、駆けることは出来るんですよね。
反動は大きいですが、『十魔天』を相手に出し惜しみする訳には行きません。
大剣とすれ違うようにして、ガイゼルの懐に飛び込みました。
か、かなり際どかったです……。
反射的に安堵しかけましたけど、ここからが勝負……!
竦みそうになる自分に喝を入れて、『葬命』でガイゼルに斬り掛かりました。
当たって下さい……!
懸命に振り切った切先は、狙い違わず胴に吸い込まれましたが……浅いですね。
全身甲冑を斬り裂いて、本体にもダメージを与えた感触はあったものの、決定打には程遠いでしょう。
結論付けたわたしは、すぐさまその場を脱して近くの屋根に降り立ち、間髪入れずに頭上を振り仰いで構えました。
てっきり、ガイゼルが追撃を掛けて来ているかと思ったんですけど……様子が変です。
黙って斬られた胴に手を当てて、付着した血を凝視していました。
一見すると隙だらけですが……不気味ですね。
言い知れぬプレッシャーを感じたわたしが、油断なく備えていると――
「……ッ!?」
目の前に大剣が迫っていました。
速い……!
考えるより先に体が動いて、『葬命』で受け止めます。
目と鼻の先には、感情が抜け落ちたガイゼルの顔がありました。
生理的な恐怖を抱いたのか、全身から冷や汗が噴き出ます。
怖くて仕方ありませんけど……退きません……!
なんとか鍔迫り合いに持ち込むべく、両手に力を込め――
「おぉッ!」
鬼神のような形相で、大剣を振り切るガイゼル。
僅かに抗うことも出来ず、強引に吹き飛ばされました。
信じられない力です……!
戦慄が迸りますが、なんとか空中で体勢を整え……いない……!?
いったいどこに……と、考えるまでもなく、彼の魔力を感じました。
背後から。
「らぁッ!」
「う……!」
総毛立つような風切り音を奏でて、振り上げられる大剣。
体を捻じ切るほどの勢いで反転したわたしは、辛くも『葬命』を割り込ませましたが、到底堪えることは出来ません……!
ピンポン玉のように上空に弾かれつつ、痺れる腕で強引に構えを取りました。
ところが、ガイゼルの猛攻はまだ続きます。
いつの間にか背後に回っていた彼が、凄まじい殺気を撒き散らしながら、大剣を繰り出しました。
く……付いて行くのがやっとです……!
弱音を吐く暇も与えられず振り向いて、際どいところで受けましたが、今度は地上に叩き付けられました。
全身に細かな傷が付いて、粉々になったような激痛が走ります。
た、立てるでしょうか……?
いえ、立たないと……!
途切れそうになった意識を無理やり繋ぎ止め、歯を食い縛って立ち上がる……なんて、悠長なことを言っている場合ですか……!
バネ仕掛けのように飛び起き、状況を確認する間も惜しんで全力疾走。
直後、背後にガイゼルの炎刃が飛来し、炎と衝撃に襲われました。
ち、直撃じゃなかっただけ助かりましたけど、体が悲鳴を上げています……。
このままだと、意識はあっても、意志があっても、物理的に戦えなくなりそうですね……。
燃え盛る街並みを見て、ゴクリと唾を飲み込んでしまいます。
そこで視線を感じて目を向けると、厳しい顔付きのガイゼルと目が合いました。
これが、『十魔天』……。
わかっていたつもりですけど、1人で止めるだなんて、土台無理だったんでしょうか……。
弱気になったわたしがそう思っていると、彼は重々しく口を開きます。
「自分の血を見たのなんか、何百年ぶりかわかんねぇぜ」
「……これから、もっと見ることになりますよ」
「強がんなよ。 無字の割にやることは認めるけどよ、所詮は無字だ。 言魂のない言魂士なんか、俺の敵じゃねぇ」
「……誰かが言っていましたね。 言魂だけで判断するのは、視野の狭い証拠だと」
「はん、綺麗事だぜ。 どこのどいつか知らねぇが、そいつは馬鹿だな。 その証拠にテメェらは、『肆言姫』や『参言衆』に頼ってるじゃねぇか。 二文字以下は、何人いようが変わんねぇしな」
嘲笑を浮かべるガイゼル。
彼の言っていることは、ある種の真実と言えます。
それでも――
「取り消して下さい」
「あ?」
「彼は馬鹿じゃありません。 愛想は悪いですし、言葉遣いも刺々しいですけど……ご飯を作ったら美味しいと言ってくれますし、いつも気に掛けてくれますし……とても賢くて……素敵な人なんです」
柳眉を逆立てて、言い返しました。
怒りと恥ずかしさで、顔が真っ赤になるのを実感します。
ですが……これが本心。
なんでかわかりませんけど、一色くんを馬鹿にされるのは嫌でした。
もっとも、わたしの気持ちがガイゼルに響くことなどないです。
「あー、ウゼェ。 馬鹿を馬鹿と言って、何が悪いんだよ? どうしても撤回して欲しいってんなら、無字のお前が俺を倒してみやがれってんだ」
「……わたしが勝てたら、撤回してくれるんですね?」
「おう、約束してやる」
「その言葉……忘れないで下さい」
ニヤニヤと笑って腕を広げるガイゼルと、改めて向き合いました。
自分でもビックリするほど落ち着いていて、余分な力が抜けています。
体中が痛いですが、それが何だと言うんですか。
手も足も、動きます。
体力だって、魂力だって残っています。
まだ、戦えます。
自然とそれらの言葉が胸に落ち、浸透して行きました。
『葬命』に手を掛け、力強く地面を踏み締めます。
頭上に浮かんでいるのは、遥か格上の存在。
いざ――
「参りますッ……!」
「来いよ、身の程知らず!」
魂力を練り上げて、大ジャンプ。
今度は頭上に向かうのではなく、直接ガイゼルに突撃しました。
先ほどの傷は既に癒えているらしく、血も止まっています。
あれは……ミンの回復力ですか。
そうなると、わたしの攻撃で仕留めるには、一気に決めるしかありません。
跳躍の勢いも乗せて『葬命』を振り抜き、首を狙います。
いくらなんでも、首を落とされて生きていられるとは考え難いので。
しかし、そんなわたしの考えなど筒抜けらしいです。
「そう来ると思ってたぜ!」
軽々と大剣を操ったガイゼルが、余裕を持って斬撃を受け止めました。
更に、すぐさま力を込めて、またしてもわたしを地上に押し返そうとします。
ですが、一色くんに挑み続けて来たわたしの、先を読む力を侮らないで下さい。
「こちらのセリフです」
タイミングを合わせて刃を引くことで、ガイゼルの体を前に流しました。
それと同時に、魂力の噴射を用いて宙を走り、彼の背後を取りつつ逆袈裟に斬り上げます。
我ながら見事な一撃だったと思いますけど、ガイゼルの反応速度が上回りました。
超速で振り向いた彼はバックステップを踏んで、ギリギリのところで逃れようとしましたが……させませんよ……!
「ふッ……!」
「む!?」
『葬命』の峰から魂力を発することで、強引に斬撃の速度を上げる、わたしの奥の手。
移動の為に使うよりも繊細な制御が必要な上に、体に掛かる負荷も段違い。
使うとしても、必殺だと思えるときに限定していたんですけど……今回ばかりは、そうも言っていられません。
時間稼ぎするだけならともかく、『十魔天』を単独で倒すには、無理を通さなければ。
加速した刃がガイゼルを捉え、全身甲冑に斜めの斬線を引きました。
血飛沫が舞い、痛みと悔しさからか、彼の顔が歪みます。
わたしも、ダメージが蓄積された体に、より一層の苦痛が加わりましたけど、止める気はありません。
振り切った『葬命』からもう1度、魂力を放出しました。
その勢いを使ってその場で縦に1回転し、下からの斬撃を繰り出します。
通常ではあり得ない動きに、ガイゼルであっても驚きを禁じ得ないようでした。
今度は回避されましたが、大きく体勢を崩すことには成功。
ここが勝負ですね……!
振り上げた刃を巧みに操って、斬り下ろす構えを作りました。
間髪入れずに魂力による斬撃の加速を行い、ガイゼルに斬り掛かります。
ところが――
「いい加減、慣れたぜ!」
どれだけ速かろうが、同じ速度では通用しない。
光凜さんの言魂と似た欠点を突いたガイゼルは、崩れた体勢のまま攻撃範囲から脱出しました。
やはり『十魔天』、対応力も並ではありません。
ただし、そんなことは織り込み済みです。
「なッ……!?」
振り下ろしている途中の『葬命』の、刃から反対に魂力を噴出させました。
それによって急ブレーキが掛かり、斬撃が途中で止まります。
腕や肩、全身に強烈な衝撃が走りましたが、無視しました。
まさかの事態に目を見開くガイゼル。
今しかありません。
いろいろと限界になりつつあるわたしは、最後の力を振り絞って、両足から魂力を噴き上げました。
「やぁッ!」
体当たりするような勢いで、『葬命』をガイゼルに突き出します。
狙いは心臓。
瞬く間に距離をゼロにした切っ先は、全身甲冑を撃ち砕き――
「がはッ……!」
貫通。
ガイゼルの左胸を穿ち、背中まで貫きました。
盛大に吐血した彼の全身から力が抜け、俯いています。
た、倒した……のでしょうか……?
無理の連続で朦朧とする意識の中、わたしはそう願っていましたが――
「やってくれたな……無字がぁッ!!!」
「う……!」
顔を上げたガイゼルが、憤怒の形相で叫びました。
そんな、確かに心臓を貫いたはずなのに……!?
信じられない現実を前にして、わたしはパニックに陥る寸前。
しかし、ガイゼルはお構いなしに行動に出ました。
「オラァッ!!!」
「かはッ……!?」
胸に『葬命』を突き刺したまま、わたしの鳩尾に拳を叩き込みます。
反射的に後方に跳びましたが、それでも尋常じゃない破壊力……!
骨が軋み、体が爆発四散するかと思いました。
受け身を取ることも出来ず、地上に落下します。
ここまで……かもしれません……。
諦めたくはないですけど、もう抗う術は……。
地面に横たわったまま、閉じそうになる目を必死に開けて、上空のガイゼルを見つめます。
今も胸を貫かれたままなのに、苦しんでいるような様子はありませんけど、憎悪に塗れた眼差しを向けて来ていました。
何事でしょう……?
疑問が脳裏を過りましたが、それどころじゃありません。
なんとか立ち上がろうとしても、どうしても体が言うことを聞いてくれませんでした。
やはり限界のようですね……。
わたしは、少しでも皆さんの役に立てたのでしょうか。
答えを得ることは出来ないと知りながら、考えてしまいます。
すると、『葬命』を胸から引き抜いたガイゼルが、地面に放りました。
わたしの宝物……雑に扱わないで下さい。
文句を言いたくて仕方ありませんけど、声が出て来ません。
そんなわたしを睥睨したガイゼルは、苛立ちを隠そうともせずに吐き捨てました。
「くそったれ。 この俺が、無字ごときにやられるとはな……。 【インフェルノ・アナスタシス】の、復活能力を使っちまったじゃねぇか。 100年経たねぇと、再発動出来ねぇのによ」
【インフェルノ・アナスタシス】……炎と復活、と言ったところでしょうか……。
彼の言葉が本当なら、1度は倒せたんですね。
それだけでも頑張ったとは思いますが、発言を撤回させるには至りませんか……。
悔しいです。
諦念とともに、涙が溢れて来ました。
学院長、橘先生、入学を認めてくれたのに、すみません。
早乙女さんたちは心配いらないと思いますけど、もう1度くらいは話してみたかったですね。
折角、天羽さんたちとも仲良くなれたのに、お別れなのも悲しいです。
何より――
「一色、くん……」
弱々しいながらも、なんとか言葉にすることが出来ました。
彼に追い付き、追い越すと言う目標は、志半ばで終わりそうです。
最初から無理難題だったとは思いますけど、出来ることなら目指し続けたかったですね……。
いえ、それは後付けの理由かもしれません。
本当は、わたしはただ彼と一緒に……。
「ちッ! ムカつくが、終わったことはしょうがねぇ。 とにかく、まずはテメェをぶっ殺して、【聡明叡智】を始末してやる」
ガイゼルの大剣に、膨大な魔力が収束するのを感じます。
ですが……怖くありません。
わたしはここで命尽きるでしょうが、彼なら……一色くんなら、必ず勝てますから。
少なくとも、ヒノモトは守られます。
心底安堵して、息をつきました。
母上、今からそちらへ行きます。
怒られるかもしれませんけど……わたしなりに、頑張ったんですよ?
思わず苦笑して、涙を流しながら最期のときを待ちました。
「じゃあな、無字。 燃え尽きろやッ!」
大剣を振り切ったガイゼルが、極大の炎刃を放ちました。
迫り来る獄炎を前に、静かに瞳を閉じます。
走馬灯のように映像が浮かぶことはなく、呆気なくわたしはこの世を……あら?
一向に熱さや痛みを感じませんね……?
あ、もう死んでしまったんでしょうか。
だとすれば楽に逝けて良かったですけど……それにしては、体の感覚がリアルです。
いったい、何が起こっているんでしょう……?
不思議に思ったわたしは、おっかなびっくり目を開き――
「え……?」
思わず、間の抜けた声をこぼしました。
仕方ないじゃないですか。
だって目に映る光景が、理解出来ないんです。
辺り一面は、ガイゼルによって吹き飛んでいますけど、わたしの周りだけは全くの無事でした。
まるで、ここだけ別世界かのように。
ポカンとしたわたしは、体の痛みも忘れて身を起こします。
すると、頭から何かが落ちました。
これは……桜の髪飾り……?
粉々になっていますけど、間違いありません。
まさか、これが身代わりになってくれたとでも言うんですか……?
考え難いですが、それくらいしか思い付かないです。
しかし、店売りの商品である髪飾りに、そんな効果があるはず……あ……。
これを付けてくれたのは、一色くん。
もしかして、あのときに何かしていたんでしょうか……?
いえ、彼の言魂は【刀】。
『葬命』ならまだしも、髪飾りに影響を与えられるとは思えません。
でも……万が一、そうだとしたら……わたしは、彼に命を救われたことになります。
ならば、諦める訳には行きませんね。
何としてでも、お礼を言わないと。
消えかけていた闘志を漲らせ、休息を訴える体の悲鳴を無視して立ち上がりました。
そして、ガイゼルに視線を向けたのですが……何やら様子がおかしいです。
「ば、馬鹿な……。 なんで、テメェが……!?」
あらんばかりに目を見開いて、愕然としているガイゼル。
何を言っているんでしょう?
意味不明でしたが、お陰で少しばかり体の自由が戻って来ました。
これなら、行けるかもしれません。
自分に言い聞かせたわたしは、懐に手を入れました。
『葬命』がない今、これを使うしかないです。
意を決して取り出したのは……1本の筆。
そのときになって、ようやくガイゼルも立ち直りつつあったようですが、もう遅いです。
数瞬瞑目したわたしは、呼吸を整えて――
「【一筆魂書】」
呟きました。
わたしを中心に荒れ狂う、魂力の波動。
一瞬唖然としたガイゼルですが、噛み付かんばかりの勢いで喚き散らしました。
「テメェ! やっぱり、無字ってのは嘘だったのか!?」
「嘘じゃないですよ。 わたしは、言魂を持っていません」
「適当なこと言ってんじゃねぇぞ! それはどう見ても、言魂だろうがッ!」
「だから、違いますよ。 言魂は、これから創るんです」
「言魂を創る、だと……?」
混乱を体現したかのようなガイゼルに構わず、わたしは魂力を高めました。
さぁ、始めましょう。
わたしの、本当の戦いを。
ゆらりと筆を持ち……書きました。
「がッ……!?」
ガイゼルの右腕が全身甲冑ごと断ち切られ、地面に大剣が突き刺さります。
傷口を左手で押さえた彼は、魔力で塞いだようでした。
この辺りの対処の早さは見事ですが、未だに平静を失っていますね。
それも致し方ないでしょう。
何故なら、わたしが書いた文字は【斬り裂く風】。
そう、五文字です。
文字数が増えれば威力が別次元になるのは、言魂の大原則。
ひらがなが含まれていようが、そこに違いはありません。
天羽さんの【花鳥風月】を超える風の刃を放った訳ですが、これだけじゃないですよ。
筆に魂力を送り込み、次なる一手を打ちました。
宙に文字を綴り……わたしの姿が掻き消えます。
「んだとッ……!?」
ガイゼルが口を開いたときには、彼の頭上を取っていました。
今回書いたのは、【この身は雷】。
文字通り、雷の速度を得たと言うこと。
それでもガイゼルは反応していましたけど、わたしの攻撃の方が速いですね。
既に振り被っていた左拳を振り下ろす直前に、新たな文字を書きました。
「ごッ……!?」
完璧に顔面を殴打し、クレーターが出来るほどの勢いで、ガイゼルを地面に叩き付けます。
使ったのは、【無双の一撃】。
利き腕じゃなかったですが、関係ありません。
作った言魂によって増幅した威力は、彼であっても耐えられるものではなかったようです。
先ほどのわたしと同じように、地面に倒れ込んでいました。
立とうとしているらしいですけど、体が付いて来ないんでしょうね。
気持ちはわかりますよ。
【浮遊】の文字を書いたわたしは、宙に留まり続けて、ガイゼルを見下ろします。
すると彼は、血を吐いて痛みに顔を顰めながら、要領を得ないことを言い始めました。
「まさか、テメェが『核』だってのか……!? いや、言魂を自分で創るなんざ、それしか有り得ねぇ……! クソが! 無字がそうだなんて、誰がわかるんだよ!」
「核……? 何を言っているんですか……?」
「ざけんなッ! なんで隠してやがった!? それだけの力がありながら、『無字姫』なんて揶揄され続けたのは何故だ!?」
前半は良くわかりませんでしたけど、後半に関してはれっきとした理由があります。
でも、正直に話すつもりはありません。
「貴方には関係のないことです。 それより、そろそろ終わらせましょう。 これ以上、街を壊されるのは困りますから」
「ま、待て!」
「何ですか?」
「と、取引しねぇか!?」
「取引?」
「そうだ! 俺とテメェが手を組めば、全てを手に入れられる! 人間も魔族も関係ねぇ! だから――」
聞こえたのは、そこまででした。
書いた文字は、【完全なる消滅】。
つまりは、そう言うことです。
静かになった街並みを見渡したわたしは、遠くの気配を探りました。
どうやら、他の魔物も軒並み掃討し終わったようですね。
これでもう大丈夫――
「あ……」
視界が揺らぎ、全身から力が抜け、地面に落ちてしまいました。
当然ですね……。
五文字を3つに、六文字まで書いたんですから。
【一筆魂書】は、固有の言魂を持たないわたしに、母上が授けてくれた……禁断の技法。
ただし、極力使わないと言う条件で。
それこそ、母上の命を救う為にすら、使わせてもらえませんでした……。
具体的な効果は、自分自身で言魂を創作することで、一時的にその言葉の力を得ると言うもの。
それだけ聞けば、ほとんど無敵に思えるかもしれませんが、いくつか制約があります。
1つは、必ず筆を用いて書かなければならないこと。
この筆自体は特別な物じゃなくて、そう言う制約を作ることで、実現可能にしました。
そして、もう1つなんですけど……こちらが主な問題です。
【一筆魂書】で創った言魂を発動するのに必要なのは、通常の言魂と同じく魂力。
ただし、言魂を創作する為に消費されるのは、別のものです。
それは……命そのもの。
強力な言魂を創れば創るほど、代償も大きくなります。
恐らく、此度の戦いでわたしは、自身の命を使い果たしました。
濃密な死の香りがしますけど、後悔はありません。
『十魔天』の1人を倒せたんですから、万々歳でしょう。
……すみません、嘘です。
本当は、心残りがありました。
一色くんにお礼が言いたかったですし、ハンカチも返していません。
残念で仕方ありませんが、今度こそどうしようもないですね……。
「ごめんなさい、一色くん……。 来世で会うことがあれば……」
それ以上、口は動いてくれませんでした。
地面に伏したまま瞼が落ちて、暗闇に包まれます。
最期って、こんな感じなんですね……。
そんなことを思いつつ、僅かに残っていた意識を手放しそうになった、そのとき――
「そんなに待てない」
どこまでも真っ直ぐで、可愛げがなく……落ち着く声が耳朶を打ちました。
あぁ、彼です。
もう目を開く力もありませんけど、声を聞けて嬉しくなりました。
辛うじて残っていた感覚が、自分が抱き抱えられていると伝えて来ます。
何と言いますか……満足ですね。
指1本動かせませんが、そう思いました。
ですが、それを許せない人がいるようです。
「絶対に、死なせない」
熱のこもった言葉が耳に入り……唇に、何かが押し当てられました。
少しふっくらとしていて、柔らかい……?
何でしょう、これ……?
見えないのでわかりませんけど、何故だか胸が高鳴ります。
戦いの残り香が強く感じられますが、それに反して気持ちが和らぎました。
それだけではなく、唇から何かが送られて来ている気がします。
血のように全身を巡り、少しずつ力が戻って来ました。
そんな、信じられません……。
【一筆魂書】の代償は、癒すと言う概念では取り戻せないはず……。
何が起こったのかわからず困惑したまま、ゆっくりと目を開けました。
真っ先に視界に飛び込んで来たのは、一色くんの端正な顔。
無表情ですけど、こちらの様子を窺うように覗き込んでいて、どこか必死に見えました。
そ、それはともかく、近いです……!
しかし、思った通り抱き抱えられており、逃げられません……!
ど、どうしたら良いんですか……!?
頬が朱に染まるのを自覚しながら、硬直していると、ようやくして一色くんが口を開きました。
「どこか、おかしなところはないか?」
心臓が爆発しそうです……!
そう思いましたが、当然口に出したのは別の言葉でした。
「だ、大丈夫です……! もう平気です……! で、ですから……」
「今の今まで死にかけていたんだ、無理をするな。 大人しくしていろ」
「うぅ……は、はい……」
強い口調で窘められて、つい返事してしまいました。
せ、せめて、体勢を変えさせて欲しいんですけど……。
ところが彼は微動だにせず、しっかりとわたしを抱えたままです。
は、恥ずかしい……。
誰も見ていませんよね……?
借りて来た猫のように、縮こまっていたわたしですが――
「良く生き残った。 無茶をしたのは、いただけないが」
「あ……」
「今はゆっくり休め。 安心しろ、俺が傍にいる」
「……はい、有難うございます……」
頭を優しく撫でられて、緊張の糸が切れました。
急激に睡魔に襲われましたが、敢えて逆らうことはしません。
微笑を浮かべたわたしは、深い眠りに落ちます。
その直前に見た一色くんが微笑んでいた気がしますけど……夢でしょうか?
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
次回、「第30話 魂の筆」は、明日の21:00公開予定です。
読んでくれて有難うございます。
♥がとても励みになります。
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