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「フォンさんこんばんは。・・・どうしたんですか?ソワソワしてますね。」
「よ、よお、ヨル。今日は大事な方・・・じゃなくて、友人が来るんでな。」
「もしかして恋人ですか・・・?!」
「ちっ!違うぞ!?そういう大事じゃなくてだな・・・あっ、ほら!お前の番だぞ!」
「あ、本当だ。では、フォンさん!恋人さんは後で紹介してくださいね!ふふっ」
「・・・言うようになったな、ヨル。」
悪戯顔のまま、手を振るのは薄い紺色の衣装を纏ったヨルこと、リシェル。
いつもと立場が逆転だ。
毎日のように夜会用のダンスを練習してきたが、ついに夜会は三日後、アグリアの王族が到着するのは明日になった。
つまり、しばらくの間この店には来れない。
店主にそれを伝えた時の、それはもう落胆したあの顔。
「また来ますから」とリシェルは店主に声をかけたが「売上が・・・」と悲しげな声を聞くと、リシェルは何も悪くないのに何とも申し訳ない気持ちになったのである。
「さて、と。今日は一段と張り切っちゃおう!」
心の中でそう呟き、軽くパンパン、と両手を叩き、祈るように目を瞑る。
腕輪についた小さな鈴が、ちりん、と音を立てた。
これはリシェルが踊る前に必ずするおまじないみたいなものだ。
南方の踊りを教えてくれたリシェルの母、ナーシーもいつもこうしていたから、いつのまにか癖になってしまった。
リン、リン、と鈴を鳴らしながら、あの丸いステージに立つ。
くるりと、一周客を見回すようにターンすると、薄暗い店内であの狐の獣人、ジュードの姿も見えた。
「こんばんは」と、伝えたくてそちらに向け、リシェルは小さくお辞儀をする。
するとそのジュードの隣に座っていた獣人が物凄い勢いで立ち上がり、椅子がガターーーン、と倒れた。
木製の椅子が倒れる大きな音は、店内に響き渡り、客の視線が一斉にそちらを向く。
勿論リシェルの視線もそちらを向いている訳だが、薄明かりの中、その急に立ち上がった獣人とずっと目が合っている気がして、逸らすことができなくなってしまった。
「・・・えっ、と・・・・・・だ、いじょうぶ、ですか・・・?」
相手の顔ははっきり見えないが、立ち上がったきりちっとも動かない相手が心配になり、リシェルは思わずそう声を掛けた。
その声でハッと意識が戻ったような動きをしたその獣人は、今度は物凄い勢いでリシェルが呆然と立っている丸いステージに近づいて来る。
あまりの気迫に、リシェルは「ひっ」と小さな悲鳴をあげ、後退りをした。
「~~~っ!俺の番がこんなところにいたなんて!!!!」
近寄ってきた獣人の頭には、マダラ模様の入った耳。
そう、あの豹の獣人、ハザックだったのである。
焦茶色の瞳は喜びと希望に満ち溢れたように輝いていて、うっすら涙まで浮かんでいる。
一方のリシェルは、初対面の美丈夫に、いきなり目の前で片膝をつかれ、両手を握られ、よく分からないことを言われ。
どうしていいのか分からず、固まっている。
「だ、だれです、か?手、は、離し、」
「君は人間なんだな?!そうか・・・番と分からないのか・・・、俺はアグリアの、むがっ!!ふぁにふんひゃ!はふゅー!(何すんだ!サリュー!)」
「貴方何をやってるんですか!!!これがお忍びだって分かってます?!!!」
背後から慌ててハザックの口を覆うサリューは、必死でハザックをリシェルから引き離しにかかる。が、ハザックも一向に離れない。
「ふぁはへ!!!ふぉのふぉはふぉへふぉ、(離せ!!!この子は俺の、)」
「何言ってるんですか!?貴方、それでも一国のおう、」「ぼ、僕、今日は・・・・・・帰ります!!!!!」
「「へっ!?」」
獣人達の突然の争い(じゃれ合い)に耐えきれなくなったリシェルが、思い切りそう叫ぶと、この店に来る時と同じように転移魔法を発動させ、一瞬でステージから消えた。
残された大の大人二人と、店内の客達。
何とも言えない空気がしばらく漂ったのはご想像の通りだろう。
この後、高度な魔法をリシェルが使った驚きと、本日のメインイベントとも言えるリシェルの出番がなくなったことで、大騒ぎになった。
必死に客を宥めるハザックの側近や護衛騎士。
全員に好きな料理と酒を振る舞うことでその場は何とか治まったのだが・・・。
そして、番を見つけたのにも関わらず、一瞬にして目の前から消えてしまい、呆然と座り込むハザック。
その大きな手に残されたのは、リシェルの腕輪についていたあの小さな鈴だけだった。
「よ、よお、ヨル。今日は大事な方・・・じゃなくて、友人が来るんでな。」
「もしかして恋人ですか・・・?!」
「ちっ!違うぞ!?そういう大事じゃなくてだな・・・あっ、ほら!お前の番だぞ!」
「あ、本当だ。では、フォンさん!恋人さんは後で紹介してくださいね!ふふっ」
「・・・言うようになったな、ヨル。」
悪戯顔のまま、手を振るのは薄い紺色の衣装を纏ったヨルこと、リシェル。
いつもと立場が逆転だ。
毎日のように夜会用のダンスを練習してきたが、ついに夜会は三日後、アグリアの王族が到着するのは明日になった。
つまり、しばらくの間この店には来れない。
店主にそれを伝えた時の、それはもう落胆したあの顔。
「また来ますから」とリシェルは店主に声をかけたが「売上が・・・」と悲しげな声を聞くと、リシェルは何も悪くないのに何とも申し訳ない気持ちになったのである。
「さて、と。今日は一段と張り切っちゃおう!」
心の中でそう呟き、軽くパンパン、と両手を叩き、祈るように目を瞑る。
腕輪についた小さな鈴が、ちりん、と音を立てた。
これはリシェルが踊る前に必ずするおまじないみたいなものだ。
南方の踊りを教えてくれたリシェルの母、ナーシーもいつもこうしていたから、いつのまにか癖になってしまった。
リン、リン、と鈴を鳴らしながら、あの丸いステージに立つ。
くるりと、一周客を見回すようにターンすると、薄暗い店内であの狐の獣人、ジュードの姿も見えた。
「こんばんは」と、伝えたくてそちらに向け、リシェルは小さくお辞儀をする。
するとそのジュードの隣に座っていた獣人が物凄い勢いで立ち上がり、椅子がガターーーン、と倒れた。
木製の椅子が倒れる大きな音は、店内に響き渡り、客の視線が一斉にそちらを向く。
勿論リシェルの視線もそちらを向いている訳だが、薄明かりの中、その急に立ち上がった獣人とずっと目が合っている気がして、逸らすことができなくなってしまった。
「・・・えっ、と・・・・・・だ、いじょうぶ、ですか・・・?」
相手の顔ははっきり見えないが、立ち上がったきりちっとも動かない相手が心配になり、リシェルは思わずそう声を掛けた。
その声でハッと意識が戻ったような動きをしたその獣人は、今度は物凄い勢いでリシェルが呆然と立っている丸いステージに近づいて来る。
あまりの気迫に、リシェルは「ひっ」と小さな悲鳴をあげ、後退りをした。
「~~~っ!俺の番がこんなところにいたなんて!!!!」
近寄ってきた獣人の頭には、マダラ模様の入った耳。
そう、あの豹の獣人、ハザックだったのである。
焦茶色の瞳は喜びと希望に満ち溢れたように輝いていて、うっすら涙まで浮かんでいる。
一方のリシェルは、初対面の美丈夫に、いきなり目の前で片膝をつかれ、両手を握られ、よく分からないことを言われ。
どうしていいのか分からず、固まっている。
「だ、だれです、か?手、は、離し、」
「君は人間なんだな?!そうか・・・番と分からないのか・・・、俺はアグリアの、むがっ!!ふぁにふんひゃ!はふゅー!(何すんだ!サリュー!)」
「貴方何をやってるんですか!!!これがお忍びだって分かってます?!!!」
背後から慌ててハザックの口を覆うサリューは、必死でハザックをリシェルから引き離しにかかる。が、ハザックも一向に離れない。
「ふぁはへ!!!ふぉのふぉはふぉへふぉ、(離せ!!!この子は俺の、)」
「何言ってるんですか!?貴方、それでも一国のおう、」「ぼ、僕、今日は・・・・・・帰ります!!!!!」
「「へっ!?」」
獣人達の突然の争い(じゃれ合い)に耐えきれなくなったリシェルが、思い切りそう叫ぶと、この店に来る時と同じように転移魔法を発動させ、一瞬でステージから消えた。
残された大の大人二人と、店内の客達。
何とも言えない空気がしばらく漂ったのはご想像の通りだろう。
この後、高度な魔法をリシェルが使った驚きと、本日のメインイベントとも言えるリシェルの出番がなくなったことで、大騒ぎになった。
必死に客を宥めるハザックの側近や護衛騎士。
全員に好きな料理と酒を振る舞うことでその場は何とか治まったのだが・・・。
そして、番を見つけたのにも関わらず、一瞬にして目の前から消えてしまい、呆然と座り込むハザック。
その大きな手に残されたのは、リシェルの腕輪についていたあの小さな鈴だけだった。
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