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番外編 パウロの話 7
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僕は今『サリーの店』でいつものミルクティーを飲んでいる。砂糖は入れない。いつも代わりに焼き菓子を頼む。ラピ兄さんが焼いたやつ。
ハニルさんとのデートの定番だ。
なぜか目の前にはさっきまで僕を担いでた獅子獣人がニコニコ笑ってコーヒー飲んでるけど。あ、僕の榛のクッキー勝手に食べた。
「うんまっ。ここの焼き菓子本当美味しいよねぇ。俺も好きなんだ。」
「・・・・・・ありがとうございます。」
「何で君がお礼言うの~?無理やり連れてこられてさっきまで固まってたじゃん。」
「・・・それ僕の家族が作ってるから・・・嬉しくて。だから、お礼言ったの。」
「はっ?!そうなの!?だからいつもここ来てるの?!」
「・・・あなた僕のこと知ってますよね?」
「・・・んー、それはまだ内緒。お迎えが来たら話してやろっかな。ま、食べなよ。甘いもの落ち着くし。・・・涙は止まったみたいで安心した。」
「・・・・・・いただきます。」
ラピ兄さんの作ったクッキーが口の中でサクッとほぐれる。いつもの味だ。何か安心する。僕がサクサク食べていると、目の前の獅子獣人は満足げにうんうん、と頷いた。悪い人・・・では無さそうだ。僕の運び方はアレだったけど。お迎え・・・誰だろう。一応迷子だから騎士団の人でも来るのかな。何か嫌だな。知ってる人だったら尚更だ。さっさと帰ったほうが良いかも。
そんなことを考えながら、ミルクティーを口に含んだ時。店のドアベルが「リリン」と大きく鳴った。結構お客が多い店だから、僕は特に気にしない。しかも入口は背中側だから見えないし。こくり、こくり、とミルクティーを飲む。
すると、ぶわり、と嗅ぎ慣れたあの甘い匂いが背中側から香って来た。いつもより濃い匂いだ。ドクンドクン、と心臓が騒ぎだす。約束の時間まではまだあるし・・・というか、もう僕には用無しのはずだからここには来ないんじゃ・・・。
変な汗までかいてきて、僕は隠れるように俯いた。
「遅かったね、ハニル。顔が何か凄いことになってるけど、俺のせいじゃないからね?お前のせいだろ。」
「・・・・・・返す言葉もありません、ディック様。私の番がご迷惑をおかけしました。連れて帰ります。」
「・・・帰るわけないじゃん。ほっといて。浮気者。」
「嫌われてやんの。こんなに可愛い子ならこのままで俺とデートでもいいよ。ね?リスちゃん。」
「・・・パウロ。誤解だ。・・・帰ろう?」
「・・・絶対嫌。」
「・・・はぁ。パウロは本当頑固だな。もういい。」
もういい。
ハニルさんに、もういい、って言われた。
僕はまた涙がじわっと出てくる。でもハニルさんがいなくなるまで我慢だ、我慢。泣くもんか。ぐっと奥歯に力を入れて瞬きを我慢した。
「無理にでも連れて帰る。」
「・・・は?」
ぶすっと脇にハニルさんの手を突っ込まれ、次の瞬間には僕の身体は宙に浮いていた。横抱きにされ、スタスタ店の外に向かって歩いていく。
僕は足をバタバタ動かし、激しく抵抗した。
「~~っ、離して!僕のことはほっとけばいいでしょ!この浮気者!!」
「・・・パウロの真っ直ぐなところは好きだが、今日は厄介だな。」
「な!何言ってんの!!離してってば!」
「・・・ちょっと黙れ、パウロ。」
がぶり、と噛み付かれた。口に。まだ店の中だけど?!何してくれてんの、この人!!
僕はびっくりして口が開いてしまった。するとにゅるん、とハニルさんの熱い舌が入り込んできた。今までぜっっったい、入れてくれなかったくせに!今なの?!
僕は「んんー!んーーー!」と声を上げ抗議したが全く聞いてもらえなかった。言葉にもなってないし。
舌、意外と柔らかい。あと、甘い?気がする。ハニルさん、体温高いから舌もこんなに熱いんだな。バタバタ足と手を動かしたまま、そんなことを考えていると、口が離れていった。ハニルさんと至近距離で目が合う。
「パウロにしかこんなキスしたことないぞ。ちょっと黙って抱っこされてろ。連れて行きたいところがある。」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「お前、俺がいることすら忘れてない?まあ、いいや。保護したんだから、今度礼ぐらいしろよ。」
僕が睨んだまま黙っているとさっきの獅子獣人の声がした。ハニルさんは軽くお辞儀をしている。しかも保護って聞こえたけど、一体何なの。もう、このキスと言い、意味がわかんない。
むすっとした僕を抱えたまま、店を出て、ハニルさんは走り出した。相変わらず速い。
しばらくすると、街外れの草原の近くにやってきた。サルマンでもポズに近いところだ。
ハニルさんは速さを落とし、一軒の青い屋根の家の前で止まった。少し古いけど三角屋根の可愛い家だった。赤い家の形のポストまである。
ハニルさんは自分のポケットを漁る。取り出したのはあの広場で見た大きめの鍵だ。「あっ」と小さな僕の声が漏れる。あの場面を思い出して涙も出てきそうだ。
その鍵はこの家の鍵だったようで、ハニルさんは鍵穴に差し込むとゆっくり回した。カチャリ、と控えめな音がして鍵が開く。
「パウロ。今日からここが俺たちの家だ。・・・・・・俺に、ただいまって言いなさい。」
今度はハニルさんが少しムスッとしている。
僕はとんでもない勘違いをしていたことに、ようやく気づき顔が真っ青になった。
「ただいま・・・・・・ハニルさん。・・・・・・ひっく。ごめ、ごめんなさい・・・」
見られたくなかった涙が今度は止められなくて、ポタポタ溢れる。
ハニルさんは僕の涙を着ていた長袖の袖で拭き取ると「全く・・・もう」と、呆れたような、笑っているような、優しいため息をついた。
ハニルさんとのデートの定番だ。
なぜか目の前にはさっきまで僕を担いでた獅子獣人がニコニコ笑ってコーヒー飲んでるけど。あ、僕の榛のクッキー勝手に食べた。
「うんまっ。ここの焼き菓子本当美味しいよねぇ。俺も好きなんだ。」
「・・・・・・ありがとうございます。」
「何で君がお礼言うの~?無理やり連れてこられてさっきまで固まってたじゃん。」
「・・・それ僕の家族が作ってるから・・・嬉しくて。だから、お礼言ったの。」
「はっ?!そうなの!?だからいつもここ来てるの?!」
「・・・あなた僕のこと知ってますよね?」
「・・・んー、それはまだ内緒。お迎えが来たら話してやろっかな。ま、食べなよ。甘いもの落ち着くし。・・・涙は止まったみたいで安心した。」
「・・・・・・いただきます。」
ラピ兄さんの作ったクッキーが口の中でサクッとほぐれる。いつもの味だ。何か安心する。僕がサクサク食べていると、目の前の獅子獣人は満足げにうんうん、と頷いた。悪い人・・・では無さそうだ。僕の運び方はアレだったけど。お迎え・・・誰だろう。一応迷子だから騎士団の人でも来るのかな。何か嫌だな。知ってる人だったら尚更だ。さっさと帰ったほうが良いかも。
そんなことを考えながら、ミルクティーを口に含んだ時。店のドアベルが「リリン」と大きく鳴った。結構お客が多い店だから、僕は特に気にしない。しかも入口は背中側だから見えないし。こくり、こくり、とミルクティーを飲む。
すると、ぶわり、と嗅ぎ慣れたあの甘い匂いが背中側から香って来た。いつもより濃い匂いだ。ドクンドクン、と心臓が騒ぎだす。約束の時間まではまだあるし・・・というか、もう僕には用無しのはずだからここには来ないんじゃ・・・。
変な汗までかいてきて、僕は隠れるように俯いた。
「遅かったね、ハニル。顔が何か凄いことになってるけど、俺のせいじゃないからね?お前のせいだろ。」
「・・・・・・返す言葉もありません、ディック様。私の番がご迷惑をおかけしました。連れて帰ります。」
「・・・帰るわけないじゃん。ほっといて。浮気者。」
「嫌われてやんの。こんなに可愛い子ならこのままで俺とデートでもいいよ。ね?リスちゃん。」
「・・・パウロ。誤解だ。・・・帰ろう?」
「・・・絶対嫌。」
「・・・はぁ。パウロは本当頑固だな。もういい。」
もういい。
ハニルさんに、もういい、って言われた。
僕はまた涙がじわっと出てくる。でもハニルさんがいなくなるまで我慢だ、我慢。泣くもんか。ぐっと奥歯に力を入れて瞬きを我慢した。
「無理にでも連れて帰る。」
「・・・は?」
ぶすっと脇にハニルさんの手を突っ込まれ、次の瞬間には僕の身体は宙に浮いていた。横抱きにされ、スタスタ店の外に向かって歩いていく。
僕は足をバタバタ動かし、激しく抵抗した。
「~~っ、離して!僕のことはほっとけばいいでしょ!この浮気者!!」
「・・・パウロの真っ直ぐなところは好きだが、今日は厄介だな。」
「な!何言ってんの!!離してってば!」
「・・・ちょっと黙れ、パウロ。」
がぶり、と噛み付かれた。口に。まだ店の中だけど?!何してくれてんの、この人!!
僕はびっくりして口が開いてしまった。するとにゅるん、とハニルさんの熱い舌が入り込んできた。今までぜっっったい、入れてくれなかったくせに!今なの?!
僕は「んんー!んーーー!」と声を上げ抗議したが全く聞いてもらえなかった。言葉にもなってないし。
舌、意外と柔らかい。あと、甘い?気がする。ハニルさん、体温高いから舌もこんなに熱いんだな。バタバタ足と手を動かしたまま、そんなことを考えていると、口が離れていった。ハニルさんと至近距離で目が合う。
「パウロにしかこんなキスしたことないぞ。ちょっと黙って抱っこされてろ。連れて行きたいところがある。」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「お前、俺がいることすら忘れてない?まあ、いいや。保護したんだから、今度礼ぐらいしろよ。」
僕が睨んだまま黙っているとさっきの獅子獣人の声がした。ハニルさんは軽くお辞儀をしている。しかも保護って聞こえたけど、一体何なの。もう、このキスと言い、意味がわかんない。
むすっとした僕を抱えたまま、店を出て、ハニルさんは走り出した。相変わらず速い。
しばらくすると、街外れの草原の近くにやってきた。サルマンでもポズに近いところだ。
ハニルさんは速さを落とし、一軒の青い屋根の家の前で止まった。少し古いけど三角屋根の可愛い家だった。赤い家の形のポストまである。
ハニルさんは自分のポケットを漁る。取り出したのはあの広場で見た大きめの鍵だ。「あっ」と小さな僕の声が漏れる。あの場面を思い出して涙も出てきそうだ。
その鍵はこの家の鍵だったようで、ハニルさんは鍵穴に差し込むとゆっくり回した。カチャリ、と控えめな音がして鍵が開く。
「パウロ。今日からここが俺たちの家だ。・・・・・・俺に、ただいまって言いなさい。」
今度はハニルさんが少しムスッとしている。
僕はとんでもない勘違いをしていたことに、ようやく気づき顔が真っ青になった。
「ただいま・・・・・・ハニルさん。・・・・・・ひっく。ごめ、ごめんなさい・・・」
見られたくなかった涙が今度は止められなくて、ポタポタ溢れる。
ハニルさんは僕の涙を着ていた長袖の袖で拭き取ると「全く・・・もう」と、呆れたような、笑っているような、優しいため息をついた。
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