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番外編
ハニルの災難
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屋敷から工房までは馬車で二十分ほど。
ナディルを車箱に乗せ、ハニルは御者台で馬を操る。
工房が見えてくると、ハニルは頭を抱え始めた。
見覚えしかない三人が工房の窓を覗き込んでいる。
ナディルに気づかれる前に片付ける案件だと判断して、馬車を一旦止め車箱の外から「すぐ戻ります」と一言ナディルに声をかけた。
怒りを含んだ足取りで昨日ぶりの三馬鹿の元へ向かったのである。
「・・・・・・牢屋にぶち込まれてえか、馬鹿共。」
ドスの効いたハニルの声に飛び跳ねた三つ子は壊れた玩具のようにぎこちなく背後を振り返る。
振り返った先に仁王立ちで立っていたハニル。
昨日と違って騎士服を着ているハニルは、私服姿よりもずっと迫力があって恐ろしい。
三つ子の丸みのある獣耳がぴくぴくと様子を窺うように小さく動いた。
「ど、どうしてここに・・・仕事中だろ・・・?」
「ああ、仕事だ。お前らこそこんなところで何してんだ。ここが誰の家か知ってんだよなあ?」
「・・・っ、お、俺たち帰る前にひと目だけでもいいから、彼を見たくて・・・!」
「でも中には誰もいないみたい・・・・・・もしかして屋敷なんじゃねーの?あのでっかい屋敷!」
「確かに!お前頭良いな!」
「へへへへ」
「・・・・・・お前らな・・・っ!」
「「「ヒィッ」」」
お気付きだろうがこの三つ子、馬鹿なのだ。
裏表無く正直で明るいが、馬鹿。そう、玉に瑕。
こいつらが小さい時もよく見たな、この光景。
ハニルが怒りを通り越して呆れ返っていた時、背後から今一番聞こえてはいけない人の声がした。
「ハ、ハニルさん・・・どうかしましたか?その方々は・・・」
「い、いけません!ナディル様!馬車へお戻りくだ」
「「「あ゛────!」」」
「?!えっ、」
ハニルの体を押し除けて、まさに獲物を見つけた肉食動物の如く走り出す三人。
ナディルはあっという間にその三人から囲まれてしまい、ハニルを見失ってしまう。
「あの子、だ!か、可愛い!そのまんまじゃん!」
「あ、えっ、」
「あの時は吹き飛ばしちゃってごめん!」
「ふ、吹き飛ば・・・?!」
「は────・・・めっちゃいい匂い・・・!威嚇の匂いも一緒にするけど・・・」
「この子の番、よっぽどじゃん。まあ、この可愛さなら仕方ないか・・・」
「へっ、えっ、あの・・・っ!?」
さすがに勝手に触りはしないものの舐めるように自分を見てくるハイエナ獣人にナディルは戸惑いを隠せない。
ハニルに助けを求めたいところだが、巨体に囲まれていてはどこに彼がいるのかもわからず、おろおろするだけ。
一方、ハニルは怒りが沸々湧き上がり、爆発寸前。
三馬鹿の元へドスドスと足を踏み鳴らしながら向かっていた。
しかし馬車の更に奥から凍りつくような恐ろしい威圧感と共に馬の蹄男が聞こえてきたことに気づき足を止め、その場で片膝をついて頭を下げた。
下手に近づかず、顔を上げない方が得策だろうと考えたからだ。
そしてその判断は、適当だった。
「俺の番に何か用か?」
ナディルを囲んでいた三人は経験したことのない威圧感に冷や汗が噴き出る。
自分たちから少し離れたところにいるハニルに泣きつくと、大好きな従兄弟からグーで頭を殴られた。
「「「申し訳ありませんでした・・・」」」
「本当にな。」
深く深く下がった三つの頭。
背後で一緒に頭を下げたハニルは、もう一度三人の頭を小突いた。
「私からもよく言い聞かせますので、どうかお許しください。」
「あ、その、だ、大丈夫ですよ!ちょっとびっくりしたただけで」
「俺はナディルと先に馬で屋敷に戻る。」
「畏まりました。」
「ひゃっ、ど、どこ触ってるの?!へっ、えっ!えええ!?」
お怒りモードのランドルフに抱えられ、場所ではなく馬に乗せられ屋敷に戻っていくナディル。
その姿を見送る三人はランドルフの威圧にまだ怯えていた。
「番の威圧ってすごいんだな・・・」
「・・・ちょっとちびったかも」
「俺、体鍛えよう・・・」
身を寄せ合う騎士見習いの三人にはちょうどいい刺激になっただろう。
ランドルフの威圧は獣人の中でも特に強い。
ぴよぴよ、ひよっこ騎士たちにとってはトラウマもの。
いい気味だ、とハニルは甥っ子に内心悪態をついていた。
そして次の日、人騒がせな親戚一家は隣街に帰っていった。
平穏な日常(?)が戻り、ハニルは嬉しいのだが・・・?
「・・・俺も可愛い番が欲しい・・・」
ランドルフとナディルが羨ましい。
仕事獣人の自分が、そんな風に思うようになるとは考えもしないこと。
誰にも聞かれることのないハニルの願望は、風に乗って消えていく。
そしてハニルはこの約二年後、可愛い、可愛いリスと出会うことになる。
ナディルを車箱に乗せ、ハニルは御者台で馬を操る。
工房が見えてくると、ハニルは頭を抱え始めた。
見覚えしかない三人が工房の窓を覗き込んでいる。
ナディルに気づかれる前に片付ける案件だと判断して、馬車を一旦止め車箱の外から「すぐ戻ります」と一言ナディルに声をかけた。
怒りを含んだ足取りで昨日ぶりの三馬鹿の元へ向かったのである。
「・・・・・・牢屋にぶち込まれてえか、馬鹿共。」
ドスの効いたハニルの声に飛び跳ねた三つ子は壊れた玩具のようにぎこちなく背後を振り返る。
振り返った先に仁王立ちで立っていたハニル。
昨日と違って騎士服を着ているハニルは、私服姿よりもずっと迫力があって恐ろしい。
三つ子の丸みのある獣耳がぴくぴくと様子を窺うように小さく動いた。
「ど、どうしてここに・・・仕事中だろ・・・?」
「ああ、仕事だ。お前らこそこんなところで何してんだ。ここが誰の家か知ってんだよなあ?」
「・・・っ、お、俺たち帰る前にひと目だけでもいいから、彼を見たくて・・・!」
「でも中には誰もいないみたい・・・・・・もしかして屋敷なんじゃねーの?あのでっかい屋敷!」
「確かに!お前頭良いな!」
「へへへへ」
「・・・・・・お前らな・・・っ!」
「「「ヒィッ」」」
お気付きだろうがこの三つ子、馬鹿なのだ。
裏表無く正直で明るいが、馬鹿。そう、玉に瑕。
こいつらが小さい時もよく見たな、この光景。
ハニルが怒りを通り越して呆れ返っていた時、背後から今一番聞こえてはいけない人の声がした。
「ハ、ハニルさん・・・どうかしましたか?その方々は・・・」
「い、いけません!ナディル様!馬車へお戻りくだ」
「「「あ゛────!」」」
「?!えっ、」
ハニルの体を押し除けて、まさに獲物を見つけた肉食動物の如く走り出す三人。
ナディルはあっという間にその三人から囲まれてしまい、ハニルを見失ってしまう。
「あの子、だ!か、可愛い!そのまんまじゃん!」
「あ、えっ、」
「あの時は吹き飛ばしちゃってごめん!」
「ふ、吹き飛ば・・・?!」
「は────・・・めっちゃいい匂い・・・!威嚇の匂いも一緒にするけど・・・」
「この子の番、よっぽどじゃん。まあ、この可愛さなら仕方ないか・・・」
「へっ、えっ、あの・・・っ!?」
さすがに勝手に触りはしないものの舐めるように自分を見てくるハイエナ獣人にナディルは戸惑いを隠せない。
ハニルに助けを求めたいところだが、巨体に囲まれていてはどこに彼がいるのかもわからず、おろおろするだけ。
一方、ハニルは怒りが沸々湧き上がり、爆発寸前。
三馬鹿の元へドスドスと足を踏み鳴らしながら向かっていた。
しかし馬車の更に奥から凍りつくような恐ろしい威圧感と共に馬の蹄男が聞こえてきたことに気づき足を止め、その場で片膝をついて頭を下げた。
下手に近づかず、顔を上げない方が得策だろうと考えたからだ。
そしてその判断は、適当だった。
「俺の番に何か用か?」
ナディルを囲んでいた三人は経験したことのない威圧感に冷や汗が噴き出る。
自分たちから少し離れたところにいるハニルに泣きつくと、大好きな従兄弟からグーで頭を殴られた。
「「「申し訳ありませんでした・・・」」」
「本当にな。」
深く深く下がった三つの頭。
背後で一緒に頭を下げたハニルは、もう一度三人の頭を小突いた。
「私からもよく言い聞かせますので、どうかお許しください。」
「あ、その、だ、大丈夫ですよ!ちょっとびっくりしたただけで」
「俺はナディルと先に馬で屋敷に戻る。」
「畏まりました。」
「ひゃっ、ど、どこ触ってるの?!へっ、えっ!えええ!?」
お怒りモードのランドルフに抱えられ、場所ではなく馬に乗せられ屋敷に戻っていくナディル。
その姿を見送る三人はランドルフの威圧にまだ怯えていた。
「番の威圧ってすごいんだな・・・」
「・・・ちょっとちびったかも」
「俺、体鍛えよう・・・」
身を寄せ合う騎士見習いの三人にはちょうどいい刺激になっただろう。
ランドルフの威圧は獣人の中でも特に強い。
ぴよぴよ、ひよっこ騎士たちにとってはトラウマもの。
いい気味だ、とハニルは甥っ子に内心悪態をついていた。
そして次の日、人騒がせな親戚一家は隣街に帰っていった。
平穏な日常(?)が戻り、ハニルは嬉しいのだが・・・?
「・・・俺も可愛い番が欲しい・・・」
ランドルフとナディルが羨ましい。
仕事獣人の自分が、そんな風に思うようになるとは考えもしないこと。
誰にも聞かれることのないハニルの願望は、風に乗って消えていく。
そしてハニルはこの約二年後、可愛い、可愛いリスと出会うことになる。
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