【完結】バングル売りのナディル 〜俺のつがいは獅子獣人の次期領主様〜

N2O

文字の大きさ
14 / 15
番外編

ハニルの災難

しおりを挟む
屋敷から工房までは馬車で二十分ほど。
ナディルを車箱に乗せ、ハニルは御者台で馬を操る。


工房が見えてくると、ハニルは頭を抱え始めた。
見覚えしかない三人が工房の窓を覗き込んでいる。
ナディルに気づかれる前に片付ける案件だと判断して、馬車を一旦止め車箱の外から「すぐ戻ります」と一言ナディルに声をかけた。
怒りを含んだ足取りで昨日ぶりの三馬鹿の元へ向かったのである。





「・・・・・・牢屋にぶち込まれてえか、馬鹿共。」





ドスの効いたハニルの声に飛び跳ねた三つ子は壊れた玩具のようにぎこちなく背後を振り返る。
振り返った先に仁王立ちで立っていたハニル。
昨日と違って騎士服を着ているハニルは、私服姿よりもずっと迫力があって恐ろしい。

三つ子の丸みのある獣耳がぴくぴくと様子を窺うように小さく動いた。




「ど、どうしてここに・・・仕事中だろ・・・?」

「ああ、仕事だ。お前らこそこんなところで何してんだ。ここが誰の家か知ってんだよなあ?」

「・・・っ、お、俺たち帰る前にひと目だけでもいいから、彼を見たくて・・・!」

「でも中には誰もいないみたい・・・・・・もしかして屋敷なんじゃねーの?あのでっかい屋敷!」

「確かに!お前頭良いな!」

「へへへへ」

「・・・・・・お前らな・・・っ!」

「「「ヒィッ」」」




お気付きだろうがこの三つ子、馬鹿なのだ。
裏表無く正直で明るいが、馬鹿。そう、玉に瑕。

こいつらが小さい時もよく見たな、この光景。
ハニルが怒りを通り越して呆れ返っていた時、背後から今一番聞こえてはいけない人の声がした。






「ハ、ハニルさん・・・どうかしましたか?その方々は・・・」

「い、いけません!ナディル様!馬車へお戻りくだ」

「「「あ゛────!」」」

「?!えっ、」





ハニルの体を押し除けて、まさに獲物を見つけた肉食動物の如く走り出す三人。
ナディルはあっという間にその三人から囲まれてしまい、ハニルを見失ってしまう。





「あの子、だ!か、可愛い!そのまんまじゃん!」

「あ、えっ、」

「あの時は吹き飛ばしちゃってごめん!」

「ふ、吹き飛ば・・・?!」

「は────・・・めっちゃいい匂い・・・!威嚇の匂いも一緒にするけど・・・」

「この子の番、よっぽどじゃん。まあ、この可愛さなら仕方ないか・・・」

「へっ、えっ、あの・・・っ!?」






さすがに勝手に触りはしないものの舐めるように自分を見てくるハイエナ獣人にナディルは戸惑いを隠せない。
ハニルに助けを求めたいところだが、巨体に囲まれていてはどこに彼がいるのかもわからず、おろおろするだけ。


一方、ハニルは怒りが沸々湧き上がり、爆発寸前。
三馬鹿の元へドスドスと足を踏み鳴らしながら向かっていた。



しかし馬車の更に奥から凍りつくような恐ろしい威圧感と共に馬の蹄男が聞こえてきたことに気づき足を止め、その場で片膝をついて頭を下げた。
下手に近づかず、顔を上げない方が得策だろうと考えたからだ。


そしてその判断は、適当だった。





「俺の番に何か用か?」





ナディルを囲んでいた三人は経験したことのない威圧感に冷や汗が噴き出る。
自分たちから少し離れたところにいるハニルに泣きつくと、大好きな従兄弟からグーで頭を殴られた。





「「「申し訳ありませんでした・・・」」」

「本当にな。」




深く深く下がった三つの頭。
背後で一緒に頭を下げたハニルは、もう一度三人の頭を小突いた。





「私からもよく言い聞かせますので、どうかお許しください。」

「あ、その、だ、大丈夫ですよ!ちょっとびっくりしたただけで」

「俺はナディルと先に馬で屋敷に戻る。」

「畏まりました。」

「ひゃっ、ど、どこ触ってるの?!へっ、えっ!えええ!?」





お怒りモードのランドルフに抱えられ、場所ではなく馬に乗せられ屋敷に戻っていくナディル。

その姿を見送る三人はランドルフの威圧にまだ怯えていた。




「番の威圧ってすごいんだな・・・」

「・・・ちょっとちびったかも」

「俺、体鍛えよう・・・」





身を寄せ合う騎士見習いの三人にはちょうどいい刺激になっただろう。
ランドルフの威圧あれは獣人の中でも特に強い。
ぴよぴよ、ひよっこ騎士たちにとってはトラウマもの。

いい気味だ、とハニルは甥っ子に内心悪態をついていた。




そして次の日、人騒がせな親戚一家は隣街に帰っていった。

平穏な日常(?)が戻り、ハニルは嬉しいのだが・・・?





「・・・俺も可愛い番が欲しい・・・」




ランドルフとナディルが羨ましい。
仕事獣人の自分が、そんな風に思うようになるとは考えもしないこと。


誰にも聞かれることのないハニルの願望は、風に乗って消えていく。



そしてハニルはこの約二年後、可愛い、可愛いリスと出会うことになる。






しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

短編版【けもみみ番外編】卒業の朝〜政略結婚するつもりで別れを告げた宰相子息ユリウスは黒豹エドワードの策略に嵌る〜

降魔 鬼灯
BL
 銀の髪が美しい銀狼獣人ユリウスは宰相家の一人息子だ。  留学中、同室になった黒豹獣人のエドワードと深い仲になる。  子供の頃からエドワードに想いを寄せていたが、自国では同性の婚姻は認められていない。しかも、文官トップの宰相家と武官トップの騎士団長家の仲は険悪だ。  エドワードとは身体だけの関係。そう言い聞かせて、一人息子のユリウスは、帰国を期にエドワードと別れ政略結婚をする決心をする。  一方、エドワードは……。  けもみみ番外編  クロードとアンドレアに振り回される学友2人のお話。

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

「禍の刻印」で生贄にされた俺を、最強の銀狼王は「ようやく見つけた、俺の運命の番だ」と過保護なほど愛し尽くす

水凪しおん
BL
体に災いを呼ぶ「禍の刻印」を持つがゆえに、生まれた村で虐げられてきた青年アキ。彼はある日、不作に苦しむ村人たちの手によって、伝説の獣人「銀狼王」への贄として森の奥深くに置き去りにされてしまう。 死を覚悟したアキの前に現れたのは、人の姿でありながら圧倒的な威圧感を放つ、銀髪の美しい獣人・カイだった。カイはアキの「禍の刻印」が、実は強大な魔力を秘めた希少な「聖なる刻印」であることを見抜く。そして、自らの魂を安定させるための運命の「番(つがい)」として、アキを己の城へと迎え入れた。 贄としてではなく、唯一無二の存在として注がれる初めての優しさ、温もり、そして底知れぬ独占欲。これまで汚れた存在として扱われてきたアキは、戸惑いながらもその絶対的な愛情に少しずつ心を開いていく。 「お前は、俺だけのものだ」 孤独だった青年が、絶対的支配者に見出され、その身も魂も愛し尽くされる。これは、絶望の淵から始まった、二人の永遠の愛の物語。

神獣様の森にて。

しゅ
BL
どこ、ここ.......? 俺は橋本 俊。 残業終わり、会社のエレベーターに乗ったはずだった。 そう。そのはずである。 いつもの日常から、急に非日常になり、日常に変わる、そんなお話。 7話完結。完結後、別のペアの話を更新致します。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

【8話完結】恋愛を諦めたおじさんは、異世界で運命と出会う。

キノア9g
BL
恋愛を諦め、ただ淡々と日々を過ごしていた笠原透(32)。 しかし、ある日突然異世界へ召喚され、「王の番」だと告げられる。 迎えたのは、美しく気高い王・エルヴェル。 手厚いもてなしと優しさに戸惑いながらも、次第に心を揺さぶられていく透。 これは、愛を遠ざけてきた男が、本当のぬくもりに触れる物語。 ──運命なんて、信じていなかった。 けれど、彼の言葉が、ぬくもりが、俺の世界を変えていく。 全8話。

私の番がスパダリだった件について惚気てもいいですか?

バナナマヨネーズ
BL
この世界の最強種である【バイパー】の青年ファイは、番から逃げるために自らに封印魔術を施した。 時は流れ、生きているうちに封印が解けたことを知ったファイは愕然とする間もなく番の存在に気が付くのだ。番を守るためにファイがとった行動は「どうか、貴方様の僕にしてください。ご主人様!!」という、とんでもないものだったが、何故かファイは僕として受け入れられてしまう。更には、番であるクロスにキスやそれ以上を求められてしまって? ※独自バース設定あり 全17話 ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...