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1 異世界転移
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私は浅間咲良。二十五歳。無職。
高校卒業と同時に入社した会社が業績不振で、希望退職の対象となってしまったのが一ヵ月前。転職先を探して面接を受け、オフィス街を歩いていた、はずなんだけど……。
「ここ、どこ?」
気がついたら原っぱを歩いていた。
見渡す限り、電柱もアスファルトもビルもない。
空は高くて青いけど、のどかというには少し寂れたような風景が広がっていた。
知らないうちに死んだりした? それとも創作によく聞く異世界転移かな。
とりあえず、遠くに村らしきものが見えたので、そちらに向かって歩くことにした。お腹空いたし、ちょっと肌寒いし、反対側の空はあかね色に染まりかけているし。
言葉が通じるといいなぁ。
「若い女か」
村に到着した私は村人たちに「見慣れない人間だ」「よそ者か?」と取り囲まれ、ちょっといい服を着た男性の前に連れてこられた。
言葉は通じた。でも、相手はどう見ても現代の日本人ではない。
中世か近世のヨーロッパテイストな出で立ちだ。村も見渡す限り荒涼な感じ。全体的に灰色や茶色が多いし、野次馬の皆さんも以下同文。
こんなリアリティあふれる天国は嫌だ。異世界転移に軍配が上がる。
「珍しい顔立ちだな。よし、娘。来るがいい。お前を我が主に献上する」
「献上と申しますと……夜のお相手とか、そういう?」
「話が早くて結構」
生け贄じゃなくてよかった。
ほっとした私はちょっといい服の男性に連れられ、村からさらに進んだところにあるお屋敷に入った。
メイドさんらしき人に衣服を取り上げられて、水で濡らした布で身体をゴシゴシ拭かれた。
私を連れてきた男性は衝立の向こうで準備が整うのを待っている。
「ずいぶん落ち着いているな。生娘ではないのか」
「まぁ、そうですね。処女じゃないとダメですか?」
「どちらでも構わない。抵抗はするな。お相手を務めるなら衣食住は保証してやろう」
「本当に?」
それはありがたい。
ここがどこなのかも、帰り方も分からない状況なので、さすがの私も不安だった。
異世界転移後、一時間程度で生活の保障が得られるとは幸運なことだ。
しかもお相手はちょっといい服を来た男性の主。つまり、立場がそれなりの人だ。献上なんて単語を使うような相手。
どこの誰とも知れない不特定多数を相手に……となる可能性は低そうで、その点では安心できた。
「私、がんばります!」
「変な女だな……」
そうこうしているうちに準備が整い、夜になった。
電気はない。油や蝋燭はあるけど貴重品扱いのようで、日本では考えられないくらい真っ暗な中を歩く。
ここで待て、と案内された部屋のベッドの上、すっぽんぽんになってお相手を待つ。
経験豊富というわけではないけど、未経験でもない。多少のご奉仕はできると思う。
変な性癖とかない人だといいなぁとドキドキして待っていたら、待ちくたびれた頃にその人が来た。
背の高い人だった。
月明かりに照らされた濃い茶色の髪は私より長い。同じ色のひげが口元と顎に生えている。
髪やひげはしっかり生えてるけど……眉毛がないね?
それでいて暗い色の瞳が鋭く私を射貫いているものだから、彫りが深くて整った顔立ちのようには見えるけど、ものっすごく人相が悪い。
年齢は人種が違うせいもあってかよく分からない。私よりは年上のおじさまといった感じ。
名前は事前に教えてもらっている。ここバルト地方の領主、ルガード・バルトロア様というそうだ。
まさかの領主。貴族だ。やっぱり異世界転移だ。
「なんだお前は」
「咲良と申します」
あの部下っぽい人から聞いてないのかな?
でもベッドに座る私はすっぽんぽん。領主様はすぐに私が何のためにここにいるのか理解したらしい。
ごくりと喉が動いたのが見えた。電気はないけど月明かりがあるし、喉仏がはっきりしてるので影の動きで丸わかりだ。
そうとなれば話は早い。やることやって、私は衣食住を手に入れる!
「それでは、失礼いたします」
「なっ」
ベッドから降りて領主様の側までいく。近づいてみるとやっぱり背が高い。
とりあえず膝立ちになってガウンに手をかけようとしたら、ぱっとその手を振り払われた。
「こっ、子供のくせに、痴女か!?」
後ずさるようにして距離を取った領主様が叫ぶ。
着ていたガウンを素早く脱いで私に投げつけ、荒々しい足取りで部屋を出て行ってしまった。
夜のお相手が……失敗した……?
領主様が戻ってくる気配はない。失敗が確定した。
失敗したからにはいつまでもこの部屋にいられない。かといってどうしたらいいかも分からない。
とりあえず投げつけられたガウンを羽織って部屋を出た。トボトボ廊下を歩いていたらメイドさんに発見され、使用人の休憩室に連れて行かれる。気がつけば、メイドさんたちにぐるりと取り囲まれていた。
「ああ、よかった。心配してたんだよ」
「何もされなかったんだね?」
「女を道具にしか思っていないようなお方だから」
「女を痛めつける趣味があるらしいじゃない」
「いくらよそ者だからって、ひどいことされていいわけじゃないよ」
「昔いらっしゃった婚約者にもひどいことを言って破談にしたそうでねぇ」
「女に困ってるからってこんな子供まで」
みんなが私を慰めてくれる。優しい。
でも、どんな言葉も私の心には響かない。だって……。
「衣食住が……」
「え?」
「うまいこと抱かれないと、衣食住の保証が……ほかに行く当てもないのに……」
私の両親は、私がまだ子供の頃に離婚した。お父さんの浮気が原因だった。
それから数年後、私が中学三年生の年にお母さんが再婚した。
すぐに異父弟が生まれた。
そうしたら、お母さんの新しい旦那さんではなく、お母さんを裏切った男の血を引いた私は、いらない子になってしまった。
高校を卒業して、就職と同時に家を出た。
以来、実家には帰っていない。連絡もこの七年で三回ほど、生存確認程度にしかしていない。
会社を辞める時には、「ごめんね」「本当はずっといてほしかったんだけど」って何度も言われた。私も辞めたくはなかったけど、結局「まだ若いからすぐに次が見つかるよ」と言われて終わった。
「仕事辞めることになっちゃった」と伝えた次の日には、私のアパートで一緒に暮らしていた彼氏も帰って来なくなっちゃった。
結局、こういう時に選ばれないのが私なんだろうなって。
……というか、あの彼氏は果たして彼氏と呼べる存在だったのだろうか。控えめに言ってヒモだったよね?
とにかく、日本への帰り方も分からないし、帰ったとしても私には何もない。
ここでもダメだった。もう私には、どこにも行く場所がない。
「うっ……うっ……家もお金も仕事も家族も何もないのに……」
領主様に抱かれずに済んで安堵するのではなく、抱かれたかったと言ってシクシク泣く私にメイドさんたちはドン引きしていた。
でも、騒ぎを聞きつけてやって来た領主様の部下(私をスカウトした人)が哀れんでくれて、「ここで下働きでもするか?」と言ってくれた。
私の涙は一瞬で引っ込んだ!
高校卒業と同時に入社した会社が業績不振で、希望退職の対象となってしまったのが一ヵ月前。転職先を探して面接を受け、オフィス街を歩いていた、はずなんだけど……。
「ここ、どこ?」
気がついたら原っぱを歩いていた。
見渡す限り、電柱もアスファルトもビルもない。
空は高くて青いけど、のどかというには少し寂れたような風景が広がっていた。
知らないうちに死んだりした? それとも創作によく聞く異世界転移かな。
とりあえず、遠くに村らしきものが見えたので、そちらに向かって歩くことにした。お腹空いたし、ちょっと肌寒いし、反対側の空はあかね色に染まりかけているし。
言葉が通じるといいなぁ。
「若い女か」
村に到着した私は村人たちに「見慣れない人間だ」「よそ者か?」と取り囲まれ、ちょっといい服を着た男性の前に連れてこられた。
言葉は通じた。でも、相手はどう見ても現代の日本人ではない。
中世か近世のヨーロッパテイストな出で立ちだ。村も見渡す限り荒涼な感じ。全体的に灰色や茶色が多いし、野次馬の皆さんも以下同文。
こんなリアリティあふれる天国は嫌だ。異世界転移に軍配が上がる。
「珍しい顔立ちだな。よし、娘。来るがいい。お前を我が主に献上する」
「献上と申しますと……夜のお相手とか、そういう?」
「話が早くて結構」
生け贄じゃなくてよかった。
ほっとした私はちょっといい服の男性に連れられ、村からさらに進んだところにあるお屋敷に入った。
メイドさんらしき人に衣服を取り上げられて、水で濡らした布で身体をゴシゴシ拭かれた。
私を連れてきた男性は衝立の向こうで準備が整うのを待っている。
「ずいぶん落ち着いているな。生娘ではないのか」
「まぁ、そうですね。処女じゃないとダメですか?」
「どちらでも構わない。抵抗はするな。お相手を務めるなら衣食住は保証してやろう」
「本当に?」
それはありがたい。
ここがどこなのかも、帰り方も分からない状況なので、さすがの私も不安だった。
異世界転移後、一時間程度で生活の保障が得られるとは幸運なことだ。
しかもお相手はちょっといい服を来た男性の主。つまり、立場がそれなりの人だ。献上なんて単語を使うような相手。
どこの誰とも知れない不特定多数を相手に……となる可能性は低そうで、その点では安心できた。
「私、がんばります!」
「変な女だな……」
そうこうしているうちに準備が整い、夜になった。
電気はない。油や蝋燭はあるけど貴重品扱いのようで、日本では考えられないくらい真っ暗な中を歩く。
ここで待て、と案内された部屋のベッドの上、すっぽんぽんになってお相手を待つ。
経験豊富というわけではないけど、未経験でもない。多少のご奉仕はできると思う。
変な性癖とかない人だといいなぁとドキドキして待っていたら、待ちくたびれた頃にその人が来た。
背の高い人だった。
月明かりに照らされた濃い茶色の髪は私より長い。同じ色のひげが口元と顎に生えている。
髪やひげはしっかり生えてるけど……眉毛がないね?
それでいて暗い色の瞳が鋭く私を射貫いているものだから、彫りが深くて整った顔立ちのようには見えるけど、ものっすごく人相が悪い。
年齢は人種が違うせいもあってかよく分からない。私よりは年上のおじさまといった感じ。
名前は事前に教えてもらっている。ここバルト地方の領主、ルガード・バルトロア様というそうだ。
まさかの領主。貴族だ。やっぱり異世界転移だ。
「なんだお前は」
「咲良と申します」
あの部下っぽい人から聞いてないのかな?
でもベッドに座る私はすっぽんぽん。領主様はすぐに私が何のためにここにいるのか理解したらしい。
ごくりと喉が動いたのが見えた。電気はないけど月明かりがあるし、喉仏がはっきりしてるので影の動きで丸わかりだ。
そうとなれば話は早い。やることやって、私は衣食住を手に入れる!
「それでは、失礼いたします」
「なっ」
ベッドから降りて領主様の側までいく。近づいてみるとやっぱり背が高い。
とりあえず膝立ちになってガウンに手をかけようとしたら、ぱっとその手を振り払われた。
「こっ、子供のくせに、痴女か!?」
後ずさるようにして距離を取った領主様が叫ぶ。
着ていたガウンを素早く脱いで私に投げつけ、荒々しい足取りで部屋を出て行ってしまった。
夜のお相手が……失敗した……?
領主様が戻ってくる気配はない。失敗が確定した。
失敗したからにはいつまでもこの部屋にいられない。かといってどうしたらいいかも分からない。
とりあえず投げつけられたガウンを羽織って部屋を出た。トボトボ廊下を歩いていたらメイドさんに発見され、使用人の休憩室に連れて行かれる。気がつけば、メイドさんたちにぐるりと取り囲まれていた。
「ああ、よかった。心配してたんだよ」
「何もされなかったんだね?」
「女を道具にしか思っていないようなお方だから」
「女を痛めつける趣味があるらしいじゃない」
「いくらよそ者だからって、ひどいことされていいわけじゃないよ」
「昔いらっしゃった婚約者にもひどいことを言って破談にしたそうでねぇ」
「女に困ってるからってこんな子供まで」
みんなが私を慰めてくれる。優しい。
でも、どんな言葉も私の心には響かない。だって……。
「衣食住が……」
「え?」
「うまいこと抱かれないと、衣食住の保証が……ほかに行く当てもないのに……」
私の両親は、私がまだ子供の頃に離婚した。お父さんの浮気が原因だった。
それから数年後、私が中学三年生の年にお母さんが再婚した。
すぐに異父弟が生まれた。
そうしたら、お母さんの新しい旦那さんではなく、お母さんを裏切った男の血を引いた私は、いらない子になってしまった。
高校を卒業して、就職と同時に家を出た。
以来、実家には帰っていない。連絡もこの七年で三回ほど、生存確認程度にしかしていない。
会社を辞める時には、「ごめんね」「本当はずっといてほしかったんだけど」って何度も言われた。私も辞めたくはなかったけど、結局「まだ若いからすぐに次が見つかるよ」と言われて終わった。
「仕事辞めることになっちゃった」と伝えた次の日には、私のアパートで一緒に暮らしていた彼氏も帰って来なくなっちゃった。
結局、こういう時に選ばれないのが私なんだろうなって。
……というか、あの彼氏は果たして彼氏と呼べる存在だったのだろうか。控えめに言ってヒモだったよね?
とにかく、日本への帰り方も分からないし、帰ったとしても私には何もない。
ここでもダメだった。もう私には、どこにも行く場所がない。
「うっ……うっ……家もお金も仕事も家族も何もないのに……」
領主様に抱かれずに済んで安堵するのではなく、抱かれたかったと言ってシクシク泣く私にメイドさんたちはドン引きしていた。
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