漆黒帝と呼ばれた男 ~異世界から来たのでステータスやスキルはありませんけど、こちらには科学文明の力があるので最強です~

ねこのにくきう

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第二章 謎の組織、聖王国へ使者として赴く

悪事36 謎の組織、ラティス聖王国の国境に到着する

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 一方、聖王国を目指して馬車で移動していた『統領』たちは何事もなく旅を満喫していた。問題らしい問題と言えば、ニッグと比べて移動速度が激遅ということくらいか。

 ニブルタールの国境を越えてからは馬車で野営をすることも増え、拠点の生活と比べれば不便ではあるのだが、

「もうすぐ日が暮れますから、今日はこの辺に仮拠点を設置します。狭いですが、いつものように女性陣で使ってください。アリスさんは中のお世話をよろしく頼みます」

「十分でございます。後はお任せください」

 そう言って『統領』が平地に投げたのは金属質の立方体。通称、キューブハウス。
 展開することで簡素なコテージを構築する野外活動拠点である。
 武骨な見た目の1LDK程度の規模だが、持ち運びやすさや使いやすさは抜群の性能だ。

 拠点構築と同時にメイドのアリスが中へ入り、それをニッグが追従していった。
 もしもの時の番犬ならぬ番竜である。

「何回見ても凄まじいな。こいつが普及すれば冒険者や旅人の遠出がどれだけ楽になるか」

「その前に王族や貴族が欲しがる。どれだけの金を積んでも手に入れようとするはず。むしろ、殺してでも奪おうとする輩が絶対に出る」

 それを見て感嘆するのはBランク冒険者ガルたち、真実の剣のメンバーである。
 彼らは職業柄頻繁に野営するので、キューブハウスのような持ち運べる拠点があればどれだけありがたいかが人の何倍も理解できてしまう。

「ガルたちになら融通してやらんこともないが、一般に売るのはダメだな。特殊な金属材料を使うので大量生産できない問題がある」

「いや、俺たちも喉から手が出るほど欲しいけどよ。こんなの持ってるだけで、人から狙われそうだから諦めるわ。とても怖くて人前じゃ使えねぇよ。あーあ、勿体ねぇなぁ」

 心底残念という表情でリリーとアリサが最後までガルを見ていたが、命には代えられないということは彼女たちもわかっている。


 拠点の設置が終わった『統領』は、ガルたちと一緒に近くの森へ狩りへと向かい、食肉用の獲物を調達する。

「さすがは冒険者とやらだな。これほどの手際の良さは見たことがないぞ」

「まぁ、これくらいはね。食料の現地調達は基本だからいつものことだし」

 ここではガルたち冒険者が大活躍だった。
 ギルとリリーがあっという間にウサギのような小動物を数匹確保して、獲ってきた獲物はアリサが慣れた手つきで捌いてしまった。大きな獲物を避けたのは、その日で消費し切る必要があるためだ。

 本日の夕食は、たっぷりの香辛料を使ったウサギモドキ肉の串焼き、お湯を入れるだけのフリーズドライのコンソメ野菜スープ、固形完全栄養食(レーション)である。
 スープとレーションは星間航行船で製造している賞味期限が20年以上ある超一般的な保存食なのだが、味はかなり追及されていて相当美味しい部類に入る。

「このクロコショウってやつは肉に合っていいな。ピリってくるのが病みつきになりそうだ。塩も俺たちがいつも使ってるやつとは味が全然違うし、ボスさんの塩は何が違うんだろう?」

「そもそも、この辺では採れないから香辛料は貴重。俺たちが毎回こんなに使ってたら食費だけでお金が無くなる」

「それよりも、このお湯を注ぐだけでスープが出来るのがおかしいです……しかも、こんなにも簡単で美味しいとかおかしいです……」

「このレーションというのもほんのりと甘くておいしいですね。それに、少ない量でお腹がいっぱいになるので、荷物にならなくて素晴らしいです」

 『統領』には有触れた保存食なのだが、ガルたちからすれば革命的なシロモノだった。

「そんなにも良い物か? これくらいのもので良いならお前たちに定期的に融通してやるぞ? なにせ拠点に山ほどあるからな。香辛料は島で採れる種類や量に依るがお前たちが消費する分くらいなら余裕だろう」

「本当か!? 助かるぜ。これがあれば食事の準備に割く時間がかなり短縮できる。活動時間が減るのは実入りに直結するから大変なんだ」

 香辛料は拠点の島で大量に自生しているのだが、犬モフ族たちが好まないので長らく放置され続けていた。コショウの実などは刺激が強すぎて近づきもしない。
 逆に、ハチミツなどはとても好む。彼らにとっては日常で食べる果実に合うことが全ての基準なのだ。

「ふむ、いずれはニブルタール王都に店を出す予定なのだが、武器などは下手に取り扱いしないほうが良いと思っているので、売り物をどうするか困っていてな。こういった保存食に需要があるならリストアップして『参謀』に検討させてみるか」

「おう、値段にもよるが普通の1食以下なら確実に売れると思うぜ。日持ちもするんだろ? 綺麗にまとめられてるし、硬パンや干し肉を持ち歩くより荷物にならないからな」

「私としては、島の果物を販売してほしいところですね。特にアプレットは一度味わったら最後、どれだけ金貨を積んでも買いたいという貴族が出るはずです。お父様も熱烈なファンですし」

 実物のアプレットを知らないガルたちが、これだけを聞くと中毒性のあるとても危ない食べ物にしか思えないのは気のせいだろうか。

「この調子で進めば、明日には聖王国に着きますね」

「そうですね。とは言っても、国境を越えてしばらくは何もありませんから聖都まではもうちょっとかかります。まぁ、この辺は人がいない割には治安がいいほうですね」

 特にやることもないので、その日は交代に休むことになった。



 襤褸切れを被ったいくつもの影が、闇に包まれた平原を連なって歩いて行く。
 星月以外の光がない暗闇にも拘わらず、まるで目が見えているような様子が見て取れる。

 普通の人間ならば、こんな夜に動こうとは思わない。
 余程の止むに止まれぬ事情があるか、もしくは闇に生きるはみ出し者か。

 一行は、一点を目指して歩き続ける。
 まるで行き先には希望があると信じてやまない者のように。
 誰一人一言も発せず、亡者の如く、ただひたすら真っすぐに歩き続ける。



 ニブルタール王国とラティス聖王国の国境は特に壁などで仕切られてはおらず、平地の見晴らしのいい場所に砦が建築されているのみだった。

「はい、ニブルタール王国の越境章を確認しました。積荷は提示された内容に間違いありませんか? もしも申告漏れがあると没収または拘束となりますのでご注意ください」

「え? この子も使者ですか? 竜、ですよね? 大丈夫なんですか?」

 両国から兵士が派遣されているので正式な手続きを行えば越境することは難しくない。

「はい、積荷に問題はありません。あの、竜は本当に大丈夫なんですよね? しつこいかもしれませんが、もし被害が出ると両国間で大問題になりますので……」

 今回はニブルタールの使者なので両国立ち合いの元でラティス側が主導となって検査を行ったが、疚しいことは1つもないので問題が起こることもない。

 こうして、『統領』一行は無事にラティス聖王国へ入国した。
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