華燭の城

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「ここはワシの快楽の部屋。興を愉しむ部屋だ。
 ここに入ったらまず窯に火を入れ、蝋燭を点けろ。
 さぁ、わかったら早くしろ」

 ドンッ……と背中を突かれ、シュリはその部屋へ一歩足を踏み入れた。
 だが無意識のうちに体が拒否しているのか、それ以上、足が前に出ない。

「どうした? 神の子よ。怖いのか?
 ラウム、手伝ってやれ」

 薄嗤うガルシアの声がラウに向けられる。
 ラウは無言のまま小さく頷くと、戸惑うシュリの後ろに歩み寄った。

「シュリ様……こちらです」

 促すように一言だけ告げると、部屋の中へと進み、小さな窯の前で膝をつく。
 立てかけてあった火掻き棒で燃え残っていた古い薪を退け、床を作り、細い薪を積むと火を点けた。
 初めはくすぶり、煙だけを吐き出していたが、やがて薪からチラチラと炎が見え始めると、ラウは慣れた手つきで台の上にあった蝋燭へ次々と火を移し、燭台へと立てていく。
 
 ガルシアはラウの動きを満足気に見ながら、ゆっくりと木台に歩み寄り、その上にあった箱の中から、細く黒い革鞭を手に取った。
 そして長年の埃を払うように、それを振り上げると、小さく床を叩いた。

 ――ビシッ――

 ラウと、その作業を無言で見つめるシュリの後ろで、革の鞭がしなやかに風を切り、音を立てた。
 ラウの背中が一瞬、ピクリと震える。

「ラウム、それが終ったら……わかっているな?」
 ガルシアの声に、ラウがコクンとひとつ頷いた。


 作業が終わり、蝋燭の灯りで照らし出されたその部屋は、まるで牢のようだった。
 囚人を繋ぐための鎖、拷問するための器具……。 
 そして、血の匂い……。
 
 ガルシアの言う興とは……。
 シュリが思わず息を呑む。

 ガルシアはそんなシュリの後ろ姿を見つめ、嬉しそうに笑うと、ラウに “早くやれ” と顎で指図する。
 ラウは小さく息を吐き、黙ったままシュリの手を取り、箱にあった鉄の腕輪……幅広の手錠のような物を、シュリの右腕に掛け、キリキリと締め付け始めた。

「なっ……! 何を……ラウ」
 その冷たさと異様な感覚に、シュリが嫌悪感を露わにする。

「シュリ様、我慢してください」

 ラウはシュリの左腕も同じように締め、部屋の中央に連れて行き立たせると、天井の滑車から下がった鎖を下ろし始めた。
 ガラガラと音を立て下りて来た太い鎖の先には、フック状の鉤金具が付いている。
 その金具にシュリの腕輪を引っ掛けると、再び鎖を引き上げていった。

「ん……っ……!」

 驚いて天井を見上げたシュリの両腕は徐々に持ち上げられ、天井から吊るされる形になっていく。
 滑車の音が止まった時には、両足はつま先立ち、やっと床に届くか届かないか、その程度になっていた。
 不安定な体勢で足の力を抜けば、両腕に体重がかかり鉄輪が喰い込む。

「クッ……!!」

 必死で立とうとするシュリの足首にも、腕と同じ鉄の輪が巻かれ、それは左右に開かれて、少し離れた床から突き出た金具に固定された。

「な……っ……。
 ンッ……!!」

 シュリが揺れる体を保とうと唇を噛む。
 ガルシアの目の前に、天井から鎖で吊るされたシュリがいた。
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