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 真後ろに一人の男が立っていた。
 
 いつの間に……。


「おっ! もう帰って来たか。
 早かったな」

「とりあえずシャワーだ。
 一晩中、ネズミと追いかけっこで汗びっしょりだ」

「あの、俺、一ノ瀬……」

「……いい、さっき聞いた。
 新入りだろ?」

「あぁ、少しは人員補充もしてもらわねーとな」

 さっきって……この人いつから……。


「じゃあ、今度から、昨日みたいな追いかけっこはそいつにやらせてくれ。
 それにがいつまでもそうやってイスを温めてるから、若いのが入らないんだ」

「俺様ぐらいじゃねぇと、お前らみたいなのは、まとめられねーんだよ!
 いいから、さっさとシャワーしてこい!」

「はいはい。クソおやじ様」

 悪態をつきながらも、どこか愉しそうに笑うと、男は部屋を出て行った。



 一晩中追いかけっこで汗びっしょり……と言う割には、スーツをピシリと着こなし、疲れた様子は微塵もうかがえない。
 
 あれで一晩中走ってた……?
 それに後ろを盗られるまで、入って来た事さえ気が付かなかった……。


 半ば呆然と、シャワールームへ向かう男の後ろ姿を見送る匠に、軍人オヤジが声をかけた。

「坊ヤよ。
 さっきアイツが入って来たの、全く気が付かなかっただろ」

「あ、はい……」

「アイツがターゲットなら……お前は今日、殉職だな」

「クッ……」
 何も言い返せなかった。

 この人の言う通りだ……もし敵だったら……。
 武術にも戦闘にも多少の自信はあった。
 ……なのに……。



「お前が何と言われてここに来たかは知らねぇが……」
 オヤジは匠の戸惑いなどお構いなく話し続けた。

「ここは普通の警察組織とは全く違う。
 ……というか、もうサツでもねぇか……。
 ここは完全に独立した一つの機関組織。
 日本国だけに依存してるわけでもねぇし、もちろんFBIでもCIAでもICPOでもねぇ。
 まぁ簡単に言えば……ウラだ。
 世界のどの機関でも葬れないヤツを殺る……。
 そのためだけに創られた集団だ。
 一応、めんどくせー階級なんてモンもあるが、少なくともこの部屋では誰が上司でもなけりゃあ、部下でもない。
 誰かが死ねば、また代わりが送られてくる。
 お前みたいにな。
 そしてまた仕事をする。
 それだけの場所だ。
 それから、この部屋みてぇな拠点は世界中に点在している。
 だがそれを覚える必要もねぇし、もちろんメンバーも覚えることはない。
 いや……逆に覚えない方がいい。
 敵対する組織も、あらゆる手を使って俺達を消そうとしている。
 万が一、誰かが奴等の手に落ちた時、どんな手を使ってでも情報を聞き出そうとするだろうが、端っから知らなけりゃ、吐こうにも吐けない……ってことさ。
 ……とりあえず、生きてここに戻って来い。
 それがお前の仕事だ。
 あ……さっきのヤツは、浅葱恭介あさぎきょうすけ
 それだけ知ってればいい。
 部屋はたくさんあるから好きなトコ使ってくれ。
 武器、弾薬等々……その他の必要な装備は奥の部屋だ。
 後で見て、自分の装備は自分で決めろ」

 
「話は終わったか? オヤジ」

 振り返るとそこにバスローブを着た浅葱が立っていた。

 また後ろ……。


「んぁ? ああ、もういいぜ。
 大して話す事は無いしな。
 ……ああっと! もう一つだけ! 一番大事な事を言い忘れてた!
 これだけは忘れるな!
 その浅葱ってヤツは、めっぽう手が早えぇからな。
 油断するなよ!」
 そう言ってオヤジは豪快に笑った。

「手……って……」


 選抜された者だけがその存在を知り、入ることができるこの組織。
 どんな殺伐とした戦闘集団なのかと思っていたが、手が早えぇって……。
 思春期の中高生じゃあるまいし。
 ……って、俺、男だぞ……。
 それにさっきから、坊ヤ、坊ヤって……。



 その時、PCのランプの一つが点滅し始めた。

「おっ、またお呼びだ」
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