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部屋に戻るとオヤジは忙しなくPCのキーボードを叩いていた。
「帰った」
それだけ言い自室へ戻ろうとする浅葱を、
「ちょいまちー」
オヤジが呼び止める。
「まずは手当てが先だろうよ。奥で待ってろ。すぐ行く」
「かすり傷だ」
「おいおい、お前の為じゃねぇ。坊ヤを助ける為だ」
そう言われると返す言葉がない。
マンションの廊下奥にある一室。
医療器具や薬品棚が並び、中央には椅子と診察台のようなベッド。
そこは診療所と手術室を兼ねたような造りになっていた。
しばらくして入って来たオヤジは入念に手を消毒しながら、
「ほれ、そこに横になって傷、見せてみろ」
顎でクイクイと診察台を指す。
上半身裸になり、ベッドに横たわり無言で左腕を差し出すと、オヤジは小型の無影灯を引き寄せた。
「まぁ……傷はでけぇが、さほど深くは無い。
これぐらいなら縫っとけば大丈夫だろ」
「……オヤジ。匠の発信機はどこで途絶えた?」
自分の傷の話など、まるで聞いていない様子で浅葱が尋ねた。
「ビル横の道へ出てすぐだ。このまま縫合するぞ」
「……車……だな」
「そうだろうな。
あの道はそれほど広くねぇから、特殊装備の大型は無理だ。
発信機の電波を完全に遮断出来る車を、事前に準備してたって事だ……」
オヤジも世間話しでもするように、喋りながら腕の傷を手早く処置し縫合していく。
「やはり最初から一人、もしくは少人数を拉致るためだけの罠。
そう考えるのが妥当だな……。
しかもこっちの動きが筒抜けとなれば……全て仕組まれてたって事か……」
「あぁ、坊ヤの配属当日の、いきなりの出動命令……。
こんな芸当ができるのも……な。
今、応援を召集してる……」
そこまで言うとオヤジの声が一段小さくなった。
「今回は上にナイショで動く。
今までに、俺かお前が組んだことのあるメンツだけに召集をかけた。
信用できる奴だけでな。
大人数って訳にはいかねぇが、少数精鋭ってとこよ」
「わかった。そうしてもらえると有難い」
「礼は坊ヤを連れて帰ってくれりゃあいいんだ……」
そのまましばらく無言の時間が過ぎていた。
どちらも言いたい事があるのに言い出せない……そんな空気だった。
「ほら、いいぜ!
見てみろ~。俺だってまだまだ縫いモンは上手いもんだ」
沈んだ空気を吹き飛ばそうと、縫合を終えたオヤジが無駄に大声を出すが、やはり声は重いままだった。
「…………なぁ……オヤジ。匠は……」
自分の気持ちを落ち着かせるように浅葱が口を開いた。
「……ん? ……ああ……まぁ……どうだろうな……。
とりあえず、お前が行くまで殺しはしないだろうが……。
指の一本や二本……運が悪けりゃ足の一本、腕一本……。
……で、済めばいいがな……」
「……」
「それよりも気がかりは坊ヤの……精神だな……。
壊れなきゃいいんだがよ……」
“何をバカな事を考えてんだ! 坊ヤは大丈夫に決まってんだろ!”
そんなオヤジの言葉を少しでも期待していた自分がいた。
しかしそれは最初から無理なのは判っていた。
奴等の卑劣なやり方は、二人共がよく知っている。
「ここに化膿止めの薬、置いとくぞ。飲んだら時間まで寝てろ。
俺はまだコッチで用がある」
オヤジは指でPCのキーボードを打つ真似をする。
「……いや、少し出かける」
部屋を出て行こうとしていたオヤジは驚いたように振り返った。
「出かけるってぇ……どこにだよ」
「あいつの、匠の車を引き上げて来る」
「そんな事たぁ、下のヤツに任せろや」
「俺が行く。ここに戻った時、愛車が無いと寂しがる」
「……そうか。なら、送りの車だけでも手配するが……」
「いや、念のためタクシーで行く」
それだけ言うと浅葱も部屋を後にした。
「帰った」
それだけ言い自室へ戻ろうとする浅葱を、
「ちょいまちー」
オヤジが呼び止める。
「まずは手当てが先だろうよ。奥で待ってろ。すぐ行く」
「かすり傷だ」
「おいおい、お前の為じゃねぇ。坊ヤを助ける為だ」
そう言われると返す言葉がない。
マンションの廊下奥にある一室。
医療器具や薬品棚が並び、中央には椅子と診察台のようなベッド。
そこは診療所と手術室を兼ねたような造りになっていた。
しばらくして入って来たオヤジは入念に手を消毒しながら、
「ほれ、そこに横になって傷、見せてみろ」
顎でクイクイと診察台を指す。
上半身裸になり、ベッドに横たわり無言で左腕を差し出すと、オヤジは小型の無影灯を引き寄せた。
「まぁ……傷はでけぇが、さほど深くは無い。
これぐらいなら縫っとけば大丈夫だろ」
「……オヤジ。匠の発信機はどこで途絶えた?」
自分の傷の話など、まるで聞いていない様子で浅葱が尋ねた。
「ビル横の道へ出てすぐだ。このまま縫合するぞ」
「……車……だな」
「そうだろうな。
あの道はそれほど広くねぇから、特殊装備の大型は無理だ。
発信機の電波を完全に遮断出来る車を、事前に準備してたって事だ……」
オヤジも世間話しでもするように、喋りながら腕の傷を手早く処置し縫合していく。
「やはり最初から一人、もしくは少人数を拉致るためだけの罠。
そう考えるのが妥当だな……。
しかもこっちの動きが筒抜けとなれば……全て仕組まれてたって事か……」
「あぁ、坊ヤの配属当日の、いきなりの出動命令……。
こんな芸当ができるのも……な。
今、応援を召集してる……」
そこまで言うとオヤジの声が一段小さくなった。
「今回は上にナイショで動く。
今までに、俺かお前が組んだことのあるメンツだけに召集をかけた。
信用できる奴だけでな。
大人数って訳にはいかねぇが、少数精鋭ってとこよ」
「わかった。そうしてもらえると有難い」
「礼は坊ヤを連れて帰ってくれりゃあいいんだ……」
そのまましばらく無言の時間が過ぎていた。
どちらも言いたい事があるのに言い出せない……そんな空気だった。
「ほら、いいぜ!
見てみろ~。俺だってまだまだ縫いモンは上手いもんだ」
沈んだ空気を吹き飛ばそうと、縫合を終えたオヤジが無駄に大声を出すが、やはり声は重いままだった。
「…………なぁ……オヤジ。匠は……」
自分の気持ちを落ち着かせるように浅葱が口を開いた。
「……ん? ……ああ……まぁ……どうだろうな……。
とりあえず、お前が行くまで殺しはしないだろうが……。
指の一本や二本……運が悪けりゃ足の一本、腕一本……。
……で、済めばいいがな……」
「……」
「それよりも気がかりは坊ヤの……精神だな……。
壊れなきゃいいんだがよ……」
“何をバカな事を考えてんだ! 坊ヤは大丈夫に決まってんだろ!”
そんなオヤジの言葉を少しでも期待していた自分がいた。
しかしそれは最初から無理なのは判っていた。
奴等の卑劣なやり方は、二人共がよく知っている。
「ここに化膿止めの薬、置いとくぞ。飲んだら時間まで寝てろ。
俺はまだコッチで用がある」
オヤジは指でPCのキーボードを打つ真似をする。
「……いや、少し出かける」
部屋を出て行こうとしていたオヤジは驚いたように振り返った。
「出かけるってぇ……どこにだよ」
「あいつの、匠の車を引き上げて来る」
「そんな事たぁ、下のヤツに任せろや」
「俺が行く。ここに戻った時、愛車が無いと寂しがる」
「……そうか。なら、送りの車だけでも手配するが……」
「いや、念のためタクシーで行く」
それだけ言うと浅葱も部屋を後にした。
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