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「おいっ!! 匠……! 匠っ……!! 
 しっかりしろ!」
 
 浅葱が匠の首に指を当て、脈を診た時だった。
 触れた手に匠の体がビクン。と反応する。

「……や……やめろ……さわ……るな……」

 腕に顔を埋めたまま、絞り出すような匠の声がした。

「生き……てる……」
 後ろからそれを見ていた深月が、安堵の声を漏らす。

「おい、わかるか、匠! 俺だ……浅葱だ。……匠!」
 小さくうずくまる匠をすくい上げるように抱き起こし、その頬に触れた。


「……!!!! ……ンッッ!!! 
 ……ぁああああ……っっっ!!!!」
 途端に悲鳴に近い叫びが響いた。
 
 その時、浅葱は匠を抱き上げた自分の腕に、何とも言い難い、異様な違和感を感じ取る。
 
 反射的に自分の手を見た。
 掌が赤く染まっている……血だ。

「……ッ…………!」

 咄嗟に体を覆う布を剥いだ。

「何……だ……これは…………」

 あまりの酷さに言葉が出なかった。

 浅葱が見たのは、痛々しく灼けただれた背中。
 その傷の中、匠が声を上げるたびに蠢く蛇と龍。
 人の体に、皮膚に、筋肉に、直接彫り込まれている二体は、まさに血を吐いていた。
 余りにも生々しく、無惨な傷だった。


「浅葱さん……?」 
「……来るなっ……!」

 浅葱の激しい怒りの声がして、深月は一瞬身を引いた。

「……お前は…………見ない方がいい……」
 少しトーンを落とした声で、もう一度浅葱が告げる。

「……えっ……。
 ……は、はい…………」

 それはいつもの冷静な浅葱ではなかった。
 何か重大な事が起こっている……そう直感し、深月は無意識に後退っていた。




「……やめ……ろ……。
 ……さわるな……来るな……」
 
 その間も匠は発作を起こしながら、浅葱の手から逃れようと暴れ続けていた。

「匠! 動くんじゃない!」

 浅葱がいくら声を掛けても、その声を聞こうとしない。

「頼む、じっとしてくれ、匠!」


 すでに正常な意識ではなかった。
 酷く何かに怯え、暴れるたびに傷口が開き出血している。
 それでも匠は抵抗し続け、呼吸はますます荒くなり、痙攣が襲う。

 その様子は、背中の傷だけでは到底説明が付かなかった。
 いったい何がこんなにも匠を怯えさせる……!
 奴等、匠に何をした……!!

 激しい怒りが湧き上がり、浅葱自身、叫び出しそうだった。
 だが今は自分の感情より匠だ。
 クッと唇を噛み、拳を握り締め、その怒りをかろうじて抑え込んだ。


「深月! オヤジのケースを!」
「は、はい……!」
 
 慌てて深月が抱えていたケースの蓋を開ける。

 中にはオヤジが匠のために作った特別な経口補水が数本と、色違いのタグが付けられた薬が数種類、注射器に詰められた状態で整然と並んでいた。 
 浅葱はその中からブルータグの注射器を取り出した。 
 匠はそのケースのカラカラと鳴る音にもひどく反応する。

「……! ……やめろ……!! ……やめろっ……!!!」

 叫び暴れる匠を必死に抱き留める。
 しかし片腕だけで抑え込めるものではない。

「深月! 脚だ! 匠の脚を押さえてろ!!」
「……はい!」

 深月も全身で匠の脚に覆い被さった。


「や……やめろっー!!」
 
 匠の叫びが響いた。
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