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 浅葱の背中を見送ると、オヤジは深月に向き直った。

「流よ……。本当にいいんだな? ここで」
「はい、大丈夫です。よろしくお願いします」
「……前、話してた恭介の事は……少しはわかったのか?」
 その問いに深月の目が一瞬戸惑うように宙を動いた。

「わかった……ような……気はします。
 浅葱さんも匠さんも……。
 いえ……正直言うと……わかりかけたから、もっとここに居たいんです。
 そしていつか、僕も同等に仕事がしたい。
 今回は足を引っ張ってばかりで……」

「……そうか。お前が決めたなら、もう聞かん。ここに居ろ。
 俺もまだまだお前には教えなきゃならん事が山ほどある。
 だが……同等ってのは、いつの事だろうな?」
 そう言って優しい顔で笑った。


「あの……おやっさん……。匠さんの背中って……」
「……ん?」
「浅葱さんがあの時……地下で……『お前は見るな』と言ったんです。
 だから……。
 リハビリって……いったい、匠さんの背中はどうなってるんですか?」
「そうか……恭介がそう言ったのか」

 恭介が「見るな」と言ったのは、緊迫する現場で流を混乱させないためだ。
 あれほどの傷、恭介でさえ気持ちが乱れたはず。
 それが経験のない流なら尚更だ。
 パニックを起こしかねない。
 だから見せなかったんだろう……それは容易に推測できた。

 だが今はもう現場ではない。
 この部屋でなら、流が取り乱してもサポートできる。
 だが……。
 問題は匠自身の心だった。

 ずっとここに居るという流。
 チームだからこそ知っておくべきなのか……いや、チームだからこそ見られたくない……そんな気持ちもあるのではないか……。


 そこまで考え至って、オヤジはゆっくりと口を開いた。

「匠の背中は酷い熱傷を負っている。
 何かで灼かれたんだろうな……。
 その上、かなり傷付けられている。
 だから筋肉が焼け落ち、皮膚が引き攣って、腕が動かない……」

 深月はその言葉に息を呑んだ。

「灼かれた……? ……って……生きてる人間の体を……?
 それに、筋肉が焼け落ち……って……そんな……」

 言葉が出なかった。
 想像しただけで体が震える。

「……怖いか? 流……。
 さっきも言っただろう? 
 ここに居れば、まだまだショックな事があると……。
 今でさえそれだ。
 現場でそれを見ていたら、お前はちゃんと仕事ができたか?」

 そう言われてハッとした。
 何も知らなくても現場で取り乱していた自分を思い出す。

「…………いいえ……」
 深月がうな垂れ呟いた。

「……だな。だから恭介は見るなと言った。
 それ以上の事は……匠本人が決める。
 見せるか見せないか……。
 それは匠自身の戦いでもあるだろうからな……」

「おやっさん……! 僕に何かできる事は……?
 匠さんは……あんな状態でも、撃たれそうになった僕を助けてくれたんです!
 さっきはそんな匠さんがどうして……手首を……自分で自分をって……。
 ショックで……信じたくなかった……。
 だけど、僕に何かできる事があれば……」

「そうだな。
 今のお前にできるのは、そのまま……いつも通りの明るいお前のまま、普通でいることだ」
「普通……?」
「ああ。今回の事では匠も、そしてあの恭介も……何も言わないが、相当参ってる。
 あの二人と一緒に……普通に側に居てやってくれ」
「普通に……」
「ただ、言っておくが……。
 ここででいるって事は、かなり大変だぞ」

 深月は無言で頷いた。
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