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 扉を開けたままの医務室から話し声が聞こえていた。
 内容までは聞き取れないが、シャワーから出た浅葱と匠が話をしているようだった。

「おやっさん、あの二人はもう長いんですか?」
 深月がソファに座りながら尋ねた。

「ん? 長いって、何がだ?」

「コンビと言うか、チームと言うか……。
 一緒に仕事をするようになってからです」

「長さか……。
 一緒に居た時間で言えば、お前の方がよっぽど長いさ、流。
 この件の始まりは、匠がここへ配属された日だ。
 恭介と初めて会った日だから、会ったのは今日で二回目……か」

「に! ……二回目!? まさか!
 だってあの二人、信頼し合ってるっていうか……!
 ううん、そんなもの以上ですよ!
 命だって預けられるって感じだったし、だからもうずっと一緒に居るのかと……」

「そうだなぁ……。
 二人の事は二人にしか、わからんが……。
 “真の強者は、瞬時に相手の技量を見極める”って言うだろ。
 そういう意味で言えば、匠は、ここで初めて恭介に会った瞬間から、相手を認めたんだろうな。
 恭介の“何か”を本能で感じ取ったのかも知れねぇ。
 二人の間に信頼があったと言うんなら、恭介もそれに値する相手だと、匠を認めたってぇ事だ。
 お前のように『浅葱さんがわかりません!』なんて言わなかったぞ。
 だからお前には百年早えぇって言ったんだ」

「おやっさん……もうその話は……。
 僕だって、わかり……かけてはいるんですから……。たぶん。
 ……あ、そういえばおやっさん、いつの間にか匠さんの事『坊ヤ』から『匠』になってますよね?」

「ん? ……ああ……。
 あの匠を見れば、もう坊ヤなんて呼べねぇよ……」
 

 
 その時、医務室から匠を呼ぶ浅葱の声が聞こえてきた。
 いつも冷静な浅葱にしては取り乱した声だ。

「ちょっと様子を見て来る」 
 オヤジは深月に言うと、医務室へ走った。

「どうした! 恭介!」
「オヤジ、また発作だ!」

 匠は発作を起こし、意識を失いかけていた。
 周囲の物音はすでに聞こえていないらしく、ただ激しい呼吸を繰り返し、震えている。

「……わかった、待ってろ」
 オヤジは匠の状態を一瞥すると、手早く二種類のアンプルを注射器に詰め、比較的傷の少ない右腕に針を刺した。

「ンッ……」
 発作を起こした匠は抵抗すらせず、小さく呻いただけだ。

「今までより強い薬だ。鎮痛剤も入れておいた。
 これが効けば少しは楽になるだろう。
 今日だけでかなりの薬を使い過ぎだが、それでも少しは眠らせてやらねぇとな……。
 ……恭介、お前は大丈夫か? 匠、おろすか?」

 浅葱はまだ匠を膝に抱きかかえたままだ。

「いや、俺はいい。……大丈夫だ。
 ……助かった、オヤジ、ありがとう」
「お前が礼とか、嵐が来るぜ。
 ……最初から無理するなよ、先は長げぇんだ。
 それにお前だってずっと眠ってないんだ。
 ほら、これをここに……っと……少し楽にしてろ……」
 そう言いながら、浅葱の背中にクッションを差し入れる。

「やはり、このまま快方へ向かってくれたら……ってのは、少し考えが甘過ぎたかもなぁ……」
 オヤジが小さな溜息を漏らしながら匠の脈をとっていた。

「……全て、俺のせいだ……」
 腕の中の苦しそうな匠を見つめ、浅葱が呟いた。
 その言葉にオヤジの顔が曇る。

「恭介、そういう言い方はやめろ」
 強い語気だった。
 普段は穏やかなオヤジの、いつにない鋭い声に浅葱が顔を上げた。

「お前の後悔や罪悪感、同情……。 
 今、そんなもんを貰っても、匠は喜びはせん。
 特に匠は敏感だ。
 そんな言葉は、今の匠には負担以外のなにものでもねぇんだぞ。
 もう二度と言うな」

「……わかった……」

 ようやく薬が効いたのか、匠は浅い眠りに落ちようとしていた。
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