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「匠……。
 こんな茶番、答えてやる必要はねぇぞ……」
 オヤジの絞り出すような声がする。

 深月はまだ茫然としたまま匠の声を聞き、浅葱は必死に何かをこらえるように、ただじっと目を閉じていた。

「後ろは黙れ。
 言う事を聞かなければ……わかっているな?」

 念を押すような男の低い声で、匠は咄嗟に台のモニターに目をやった。
 画面に映る四人が一斉に胸や喉を押さえ、床にうつ伏し苦しみ始める。

「やめろっ……!
 何度も言われなくてもわかってる……!
 そんなに聞きたければ……話しぐらい……いくらでもしてやる……」

「よろしい。では続けよう。 
 後ろもそういう事だ、以降は黙っていろ」

 すると画面の四人は、何かから解き放たれたように肩で大きく息をし始める。
 その部屋自体に、目立った変化は見られない。
 ガスか……薬か……空気そのものか……。
 その類の物が、この四人のいる部屋で操作されているのは間違い無い。


「催淫剤を打たれ、それから?」
 再び男の声がした。

 匠は四人の無事を確認すると、正面にいるはずの男を睨むように、真っ直ぐに顔を上げた。

「……そのまま全裸にされて、手を鎖で縛られたまま地面に四つん這いにさせられ……その男に……陵辱……された……」

「陵辱……。
 陵辱というのは? どういう事だ?」

 匠がクッと唇を噛み締める。

「……その男に……無理矢理……犯されたんだ……」

 会場内が一斉にざわついた。
 モニターを眺めるハルがクスリと笑う。
 だがその言葉に一番驚いたのは深月だった。

 ……何……?
 匠さんは……何を言って……。

 思わず両隣のオヤジと浅葱を交互に見た。
 だが、二人共が睨むように前を向いたまま押し黙り、驚いた風もない。

 ……え……本当の事……?
 ウソ……だ……ろ……。
 信じられない……。
 信じたくない…………。
 イヤだ……やめろ……っ……!

 体の奥底から込み上げる、爆発しそうな訳のわからない感情。
 深月自身、それをコントロールできずにいた。

「嘘だ! 嘘に決まってる! そんなデタラメ……!
 匠さんも……何、言ってるんですか!
 もう、冗談……やめてくださいよ! 
 …………嫌だ……! 
 そんなの……聞きたくない!!」
 気が付くと、必死にそう叫んでいた。

「やめろ、深月! お前が取り乱してどうする!」
 黙っていた浅葱の叱責が飛ぶ。

「……浅葱……さん……?
 何、言ってんですか……。
 匠さんがあんな酷い事を……嘘ばっか言わされてるのに……!
 なんで止めるんですか……!
 ……でしょ………?
 ……ねぇ……浅葱さん……!
 嘘だって言ってくださいよ…………」

 深月の視線が匠を見ていられなくなり、宙を泳ぐ。
 その声に匠は目を閉じ、唇を噛み締めて俯くだけだった。


 会場内も異様な雰囲気に呑まれていた。
 目の前にいる若く美しい男が、同性の男に無理矢理犯されたと、そう話しているのだ。
 この公の場で、公衆の面前で。 
 ざわついていた会場が、一気に欲望を丸出しにした興味本位の好奇心で満ちていく。


 その光景をモニターで見ていたハルは、あの時の事を思い出しながら嬉しそうに微笑み、大きく映した匠の映像を、まるで実像のように愛しく指で触れた。



「……犯された……ねぇ……」
 そう繰り返す委員長の声もまた、陰湿さを纏おうとしていた。

「そう言われても、男同士で性交渉など本当にできるものなのか、至極真っ当な私や有識者の方々には想像もつかない。
 ……でしょう? 皆さん。
 ぜひ、教えてほしいものだ。
 例えば、私がお前を犯すとして……私のモノを……いったいどうすればいいんだ?」

「…………後ろに……肛門に……挿れる……」

 その小さな声に、傍聴席にいた議員風の女が、汚らわしそうな素振りをし、ハンカチで口元をおさえる。
 だが、その目はしっかりと匠を見ていた。



「ああ、なるほど!
 そうやって犯されたというわけか。
 しかし、これが女性のレイプ事件なら、そこに同意があったのかどうか……が焦点になる。
 ……お前はどうだったのだ?」

 同意……?
 匠はその真意がわからずに、目を細め見えない相手を睨み付け、
「……どういう……意味だ……」
 低く押し殺した声で、それだけを絞り出した。

「感じたのか? ……と聞いている。
 女性と違い、我々男の体は実に正直で判り易い。
 感じればそれなりの結果になる。
 肛門にペニスを突き立てられ、陵辱されたお前は、射精したのか?」

「…………薬を……。
 催淫剤を……打たれていて……」

「打たれていたから……?」

「…………した……。
 でもそれは薬で……」

「ほぅ……したのか……。
 薬のせい、ねぇ……。
 ならば、さぞかし気持ちよかった事だろうな。
 で、それは何回だ?
 拉致されている間に、同じような事が何回あった?」

「覚えてない……。
 何日経っていたかもわからないのに……」

「では、何日にもわたり……2回? 3回? もっとか?
 10回? もっと?」

 初めは面倒臭そうに尋問していた委員長が、今では自ら率先して話を聞き出そうとしていた。
 ハルもその変わりように、思わずフンッ……と鼻で嗤う。


「匠……もう……やめろ!」 
 浅葱の声がした。
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