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前編
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とんでもないミスをした。即日、直属の上司とともに本社へと呼び出された。
食品上場企業に入社して二年目の春。今、俺は面接以来の本社のエレベーターの中で冷や汗が止まらないでいる。
「大丈夫か? お前……」
隣で背中をさすってくれているのは上司の藤野さんだ。三十代半ばで課長にまで登り詰めたエリート中のエリート。俺のような出来損ないを部下に持ったばっかりにこうして状況説明と謝罪に同行させられている。
しかもこの人、俺を庇って「責任はすべて私が取ります」なんて言っちゃったものだから、少なくとも減俸は免れないだろう。最悪一緒にクビだ。
「本当にずびばぜん」
「泣くにはまだ早いぞ」
そう言って取り出した真っ白なハンカチで、一瞬の迷いもなく俺の鼻水を拭ってくれる。なんていい人なのだろう。俺のせいでこの人の輝かしい経歴までダメにしてしまうのかと思うとますます泣けてくる。
「顔が真っ青だ。落ち着け。大丈夫だから」
「ふぁい……」
今は背中に感じる課長の手の温もりだけが俺を現世に繋ぎ止める糧だ。
エレベーターが最上階に着く。着いてしまった。ドアが開くと秘書が待ち構えていて、俺たちを速やかに社長室まで案内してくれた。
「ご到着されました。失礼します」
扉が開かれる。俺は藤野課長の後ろで小さくなりながらおずおずと入室した。
都会を一望できる絶景をバックに、社長が難しい顔をしてゲンドウポーズをしている。
…………終わった。
「藤野くん。それに宮西くん。わざわざご足労どうもね」
「いえ……この度は私どものミスで会社に多大なる損失を被らせてしまい、大変申し訳ございませんでした」
綺麗に頭を下げる課長にならって俺も深く、深く首を垂れる。こんなことで許してもらえるわけはないけれど、謝意の一欠片でも伝わってくれと願った。
「いやあ今回のはすっごいよねえ、たまげた。補填するには数千万かかるよ~」
「申し訳……」
「申し訳ございませんっ!!」
耐えきれず、その場に這いつくばった。だって真に謝らなければならないのは俺だ。藤野課長にばかり謝らせてなるものか。
俺は、俺には、これしかできない。この土下座で、せめて、せめて……!
「責任はすべて俺にあります!! 地下で強制労働でもなんでもしますんで!! 藤野課長は何も悪くないんでっ……この人には何もペナルティを背負わせないでください!!」
「こら、宮西……!」
「ふーん」
床に額を擦り付ける。起こそうとする藤野課長に必死に抗う。
社長の顔は見れないが声がやけに楽しそうだ。いや。はらわた煮えくり返った末のブチギレに決まっているんだけど。
「宮西くん。藤野課長だけは許して欲しいと?」
「はい!」
「いえ社長! 部下の責任は私がっ……」
「二人とも許してあげてもいいんだけどぉ」
「「え!?」」
俺と藤野課長の声が重なる。あわよくばという気持ちが見透かされてしまったようで、気まずくてすぐにかち合った視線を外す。
社長は肩をゆすって笑っていた。その様子は実に穏やかだ。怒って、いないのか……?
「今から言う条件を飲めば今回の件は不問にしてあげよう。今まで通り同じ部署で同じように働いてもらう」
「条件とは……?」
なんとかなるかもしれない。俺たちの心は今間違いなく一つだ。ゴクリと固唾を飲んで社長の言葉を待つ。
彼は傍らの秘書に何か耳打ちする。秘書はこともなげに頷いて速やかに部屋を出て行った。えらく、早足だった。
「まず、君たちの身柄は本社預かりで一か月家に帰れない。そしてこのビルの地下にある施設に、泊まり込みで特別業務をしてもらいたい」
「特別業務……ですか」
ビルの地下だなんて本当に強制労働ではないのか。本社の地下に何か施設が存在するなど聞いたことがない。だがここは都会の一等地、そんなに広くもないだろうから、大掛かりな労働をさせられるとは考えにくい。
“特別業務”という言葉の響きからも、ごく一般的な仕事をさせられるだけのように思う。悪くてクレーム対応の電話番くらいか。
「やらせてください」
土下座の体勢のまま、謹んで答えた。藤野課長も俺の隣に並んで同じように土下座する。
たかが一ヶ月で数千万のミスを許してもらえるなら安いものだ。死ぬこと以外はかすり傷。という言葉を使うのも畏れ多いほどにイージーな条件に感じて、俺は床に面した顔面を早くも緩めていた。
「では案内を頼む、吉野くん」
「承知いたしました」
先程出て行った秘書が気付いたら俺たちの背後に立っている。同じようにビクッと身体を跳ねて、社長に一礼し、秘書の後についていった。
エレベーターで一階まで降りた後、吉野さんはおもむろに俺の目に黒い布をかける。藤野課長も同じようにされているようだ。ややあって説明が始まった。
「施設の場所は極秘裏です。私が藤野課長の手を引きますので、藤野課長は宮西さんの手を引いてあげてください」
「わかりました。宮西、行くぞ」
「はい……」
わざわざこんなふうに目隠しするなんて、本当に強制労働施設行きの前触れみたいじゃないか。思い浮かべてぶんぶんと首を横に振った。
これは現実だ。漫画やゲームの世界じゃない。そんな怖いことに、なるわけがない。
藤野課長の手が俺の手を包む。体温の低い骨ばった感触が新鮮でひどく緊張した。
彼はとても細身でスーツの上からでも全身が骨ばっているのがわかる。今にも折れそうな体躯を見ているといつも心配になるが、溢れ出るしごできオーラは外見の頼りなさを補うのに余りあるものだった。
今だって、藤野課長に手を繋いでもらっているだけで一人じゃないって思える。藤野課長がいてくれるなら、きっと俺はどんな困難でも乗り越えられる。そう、信じられるのだ。
見慣れたロビーから少し歩くと重い扉の開く音がする。そこを通過して長い階段を降りさせられた。非常階段のように足場が小さくて身体を横にしながら慎重に降りていく。
手すりはなくてその代わりに壁があった。もうトンネルのような空間に入っているような雰囲気がした。空気が、今までのものと明らかに違う。やけに澄んでいて、そして、重い。
扉をもう一つ潜ると、ようやく目隠しを取ってもらえた。そこは……小さな生活空間。ソファーとダイニングテーブル、タンス、本棚、テレビ、それに大きなベッドも一台ある。温かみはなく簡素な印象だが、小奇麗で居心地が良さそうだ。家具も自分のような新社会人が一人暮らしするよりはランクが上の部屋にも感じる。
「こちらはトイレ、こちらはバスルームです」
奥の扉を開けて説明してもらう。俺と藤野課長は不動産の内見でもしている気分で「ほー」と感嘆の声を上げながら、他人事のようにそれらを見物していた。
ここで一ヶ月生活するのか。藤野課長と。それはなかなか悪くない。俺にとっては尊敬する上司だし、これを機会にもっと仲良くなれるかもしれない。
藤野課長も安心した表情で俺に笑いかけてくれた。杞憂だった。あんなに怯えていたのが今となっては恥ずかしい。俺も照れ笑いで返して、かしこまる秘書に向き直った。
「社長は寛大なお方です。ただ今一度、我が社の食に対する理念を思い出してもらいたいとも考えていらっしゃいます。あなた方の意識向上のためにこちらで特別カリキュラムをご用意しました」
「では、特別業務というのは……」
「研修みたいなものって、ことですか……?」
「ええ」
泊まり込みで研修。何か山積みでテキストを読まされたり映像を見せられたりするのだろうか。だがそんなことならいくらでもやってみせる。
本来なら身を粉にして取り戻さないといけないところなのに、人材の育成を重んじてこんな機会まで恵んでくれるなんて、社長は本当に寛大だ。こんないい会社に入社できたことを感謝しないと。
「……端的に申し上げます」
俺の感触とは裏腹に吉野さんは憂鬱そうだ。神経質そうに眼鏡を持ち上げて、七三をさらに撫でつけながら俺たちを見据える。そして放った。衝撃の一言を。
「これから一ヶ月の間、どちらかお一方はもうお一方の乳首からしか食事が摂れません」
「は…………」
は?
宇宙猫状態はまさに今の俺たちのことだろう。乳首て。乳首から食事?
俺たちの困惑ぶりを予想していたかのように吉野さんは息をつく。そしてさも面倒そうに付け加えてくれた。
「お相手の乳首の突起部分に乗ったものしか食べられません」
「え……それって、俺か藤野課長の乳首のこと?」
「ええ」
「男の乳首なんて米粒一つも乗らなくないですか?」
「そうですね」
「ええ…………?」
いかん。これ以上の説明なんてないはずなのに、いまだに理解ができない。俺が何も言えないところに、藤野課長がやっと口を開いてくれた。
「これが、我が社の食の理念……ですか?」
「ええ。米粒一つ口にするのがどれほど大変なことか。一粒ずつを味わって食べるのがどれだけ大事なことか。特に今回の件は貴重な食物の廃棄も大量に出ました。然るべき処置かと」
今回の損失についての話を出されると俺は弱い。数千万の補填などできるわけもないのだ、何を言われてもやるしかない。藤野課長は真剣に何か考え込んでいる。
「あの……吉野さん」
「はい?」
「乳首を使用される方の食事はどうなるのでしょうか?」
「そちらの方はご希望分だけ食事を摂っていただけます。こちらで最高級のものをご用意いたしますよ」
「すごい落差だな……」
その吉野さんの回答で、俺の腹は完全に決まった。
藤野課長は眉を下げ、心底困り果てた表情を俺に向ける。
「宮西、どうする。選んでいいぞ。やはりお前は若いしたくさん食べるから自由に食事できるほうがいいだろう。ただ問題は、私がお前の乳首にものを乗せて」
「俺が藤野課長の乳首から食事を摂ります!!!」
一生言うはずがなかったぶっ飛び宣言を、大声で致してしまった。驚く藤野課長と顔色一つ変えない吉野さんが対称的でなんだか可笑しい。だが今は笑っている場合ではない。自己犠牲の強い藤野課長を説得しないと。
「今回の件は疑いようもなく俺に全責任があります。俺がひもじい側になるのは当然です。食の大切さを……忘れていたかもしれません。これを機会に自分を変えたいんです」
自分のへそを覗き込むほどに深く頭を下げる。少し視線を上げると藤野課長のワイシャツの胸元が目に入って、慌てて言葉を足す。
「でもっ、藤野課長の乳首に食べ物を乗せるなんて……お、お嫌ですよね? 俺はどっちでも……やっぱり藤野課長が選んでください」
「いや……わかった。私の乳首を使おう」
またしてもなんというパワーワードだ。堅物な藤野課長がはっきりとそんな破廉恥なことを言うものだから、俺は目を丸くしてじっくりと噛み締めてしまった。そこに吉野さんの乾いた声が割り込んでくる。
「お決まりですね。では藤野課長には毎食二人分の食事をお届けします。そこから宮西さんに分け与えてください」
「二人分もらえるんですか……」
藤野課長の頬が緩む。俺も正直ホッとした。俺のせいで藤野課長の取り分を減らすのは嫌だったから。もっとも、成人男性の一食分をすべて乳首に乗せて食べるなんて途方もない時間がかかってしまいそうだが……。
「あ、不正をしたら即刻バレますのでお気を付けください。二十四時間体制で監視しております」
「え? 監視カメラあるんです?」
「探ってもわからないと思います。巧妙に隠してありますので」
それは……本気を出しすぎなのではないか。下手したら全方位見られているということだよな。どこに隠れて食べても必ずバレるということだ。
「ちなみに不正が発覚したら宮西さんには今回の損失分を全額補填していただきます」
「えっ……どうやって……?」
「幸い社長は他人の身体を使って稼ぐのが得意ですので」
それってどういう意味なの。ねえ吉野さん。いや……知らなくていいや…………。
俺はカスカスの声で「不正は絶対にいたしません」と誓った。断食というわけでもないのだしこれくらい我慢しないと。本来なら強制労働させられてもおかしくない損失額だもんな……。
「ちょうどお昼時ですね。それではさっそくお出しします。お待ちください」
綺麗に一礼をして吉野さんが部屋から出ていく。部屋の外の風景を見ようと身を乗り出すがほとんど見えず、ガチャッ、錠の落ちる音が無機質に響いた。
ハア。想像していたよりも軽い処分だけど、でも、予想の斜め上をいく奇怪さだ……。
とぼとぼと歩いてソファーに倒れ込む。藤野課長が目の前に立ったのでスペースを開けた。隣に座った課長は、複雑そうな表情で俺の顔を覗き込む。
「良かったのか? ひもじい側で」
「それは、もちろん……だって俺が責任をとらないと。それに、」
ヒクッ。喉が引き攣れて変なことを言いそうになった。軌道修正。咳ばらいをして、さりげなく藤野課長の身体つきを見回す。やっぱり、細い。心配になるくらい。
「藤野課長、細すぎます。普段ちゃんと食べてるんですか?」
「ああ。これでもしっかり食べてるんだよ。どうやら太れない体質みたいでな」
「そんなこと言って。よくメシ抜いて根詰めてるところ見ますよ」
指摘すると、気まずそうに視線を逸らされた。俺が気付いていないとでも思っていたのか。意外と見ているんだぞ。課長限定でだけど。
そういえば、俺も今日何も喉を通らなくて朝飯を抜いてた……空腹感に気付くと急にしんどくなってくる。俺こそ日頃は大食漢なのだから、最近は肉付きが良くなりすぎて少し悩んでいたのだ。この機会をダイエットとするのもやぶさかではないか。
「それよりいいのか。私の、その……乳首に、食べ物を乗せて食べるだなんて」
藤野課長の手が胸元のシャツを柔く握っている。筋張った手の甲には存外力が入っているようで、釘付けになってしまった。意識しているのかな。途端に俺も胸の奥が疼く。
「俺は全然ッ……けど、藤野課長に不愉快な思いをさせてしまうかもしれません……なるべく触れないように食べますので……む、無理そうなら食べなくても平気ですしっ」
「いや、大丈夫だ……幸い乳首は私の性感帯ではない。米粒くらいしか乗らんだろうが、こまめに食べてくれたらいいからな。遠慮をするなよ」
「きょ、恐縮です……!」
これから俺は、藤野課長の乳首に乗せたものしか食べられないのか……。
実に不思議な展開だが、世にも奇妙な物語でもこんな題材は取り上げないだろう。だってなんだか卑猥だ。俯いた先でこっそりと課長の胸元を盗み見た。期待で、胸がはちきれそうだ。
コンコン、ガチャ。ノックの後で間を開けずにドアが開く。まったくノックの意味を成さない行為だが、あいにく今の俺たちに文句を言う筋合いはない。
「食べ終わった食器はそちらのボックスに入れてください。自動で回収されますので」
「どこまでハイテクなんだ……」
軽い説明をしながら吉野さんは淡々とテーブルに二人分の食事を並べる。すべてが整うとアッサリ部屋から出て行った。
俺たちはソファを立ってテーブルにつく。目の前にはトンカツ定食。白く艶々と炊き上がった大盛りご飯に、大きく切ったカツが五切れ。カラッときつね色にあがって実に美味しそうだ。これまた山盛りのキャベツの千切りには角切り玉ねぎの混ざったドレッシングがかかっている。
「味噌汁……はまず無理そうだな」
「課長が俺の分も飲んでください」
「腹に余裕があったらな」
汁物は絶対に飲めないのに、きっちりと用意してくる辺りがなんとも嫌味だ。
俺は箸を持つことも許されていない。遠慮する藤野課長に「どうぞどうぞ、召し上がってください」と手を差し出して少し身体を反対に向けると、ようやく手を付け始めた。
ガリッ。サクサク。衣をかじる音やキャベツを咀嚼する音を、目を閉じてじっくり聞いていた。上司の咀嚼音ASMR……これがなかなかどうして、意外にも心地よい。
「宮西、そろそろお前も食べるか」
半分ほど食べたところで課長がそう声をかけてくれる。俺はバクバクと暴れ出す心臓を気合いで抑えつけて、いつもの屈託ない笑みを浮かべた。つもりだ。
課長がワイシャツのボタンを外す。その中からは純白の半袖インナーが姿を現した。眩しい……なだらかな胸元に目をやる。藤野課長は俺から目を逸らしながら、少し恥ずかしそうにして、それでも一息にそれも脱ぎ去った。
想像通りの骨ばった身体に……薄く色づいた胸の突起。その淡い色合いに目が奪われる。ダメだと思うのに、視線を外すことができない。だって、なんてささやかな飾りなのだろう。虫眼鏡で見ないと見落としてしまうくらいには、小さい。
「えっと……やっぱりまずは米粒から挑戦するか……?」
「は、ハイ! お願いします!」
「じゃあ……」
課長が箸に米を一粒挟んでそっと乳首の上に乗せた。明らかに米粒のほうが大きいが、粘着力でちゃんと乗っているように見える。これならセーフだろう。
「ほら、食べろ」
「あ……」
課長の乳首に、米がくっついている。俺に食べさせてくれるために――――。
倒錯的な光景に目が眩んだ。この上、唇を寄せて、その米を口の中に含んでしまっても、いいのか。ゴクリと唾を飲み込む。そのまま身動きできず凝視していると、課長が裏返った声で口走る。
「あー……やはり抵抗があるか? そうだよな……もう一度社長に掛け合ってみよう。これは明らかに罰ゲームだ。条件を緩めてもらえないか私も一緒に頼んでやるから……」
「いえ! 食べたいです! あっいや……」
ヤバイ。変態の発言みたいになってしまった。
「そうか」と恥ずかしそうに俯く課長。だけど俺が顔を寄せると即座にあさっての方向を向いて胸元が目に入らないようにした。きっと課長なりの気遣いなのだろう。
あ、と口を開けて顔に角度をつける。だけれど思ったよりも米粒が小さくて、おちょぼ口に修正、乳首に触れないように細心の注意を払って、唇の先で米粒を摘まむことに成功した。
「ほれは(取れた)……」
「上手いもんだな」
課長の声はまだ緊張している。俺はその米一粒を噛み締めて味わう。ああ、これは……確かに食の大切さに回帰できるな……甘くて瑞々しい……そのくせほろほろと柔らかくて、二、三回咀嚼しただけですぐに粉々になってしまう。
物足りなそうな顔をしていたのだろうか、課長がすぐに新しい米粒を乳首に乗せてくれる。
「ほら」
「あ、ありがとうございます……!」
またしても唇の先で米粒の端っこを挟んで取る。藤野課長はしきりに俺の咀嚼する様子を見つめながら、どんどん米粒を追加してくれた。
これならいつかは腹も膨れるだろうけど、やはり膨大な時間がかかる。藤野課長の食事はまだ半分残っていて、すぐに冷めてしまうだろう。俺は新しい米粒を唇に咥えながら、課長の顔の前に手の平を向けた。
「課長、先に全部食べちゃってください。いつ終わるかわかんないですよこれ」
「空腹のお前を差し置いて私一人食べるなんてできないよ。もう少し食べなさい。私のことは気にしなくていいから」
課長……なんて優しいひとなんだ。
ほろりと泣きそうになるのを堪えて、俺は米粒を咀嚼する小鳥に戻った。
あああ、口いっぱいにこの白米を頬張りたい。だけど課長の乳首を介して一粒ずつしか食べられないのと天秤にかけるなら、断然…………いかん、変なことを考えるな。
むずむずしてきた股間に叱咤して、無心で米粒を食べ続けた。角度を変えて、慎重に。絶対に触れないように。上司の乳首に唇をあててしまった、なんてそんな事故聞いたことない。気を付けないと。
「…………なあ宮西」
「ふぁい?」
「そんなに慎重に食べなくてもいい。少しくらいあたっても構わないから……スピードアップしたらどうだ?」
「え」
少しくらいあたっても構わないから?
あまりの発言に思わず目を点にして課長を見上げてしまう。それを受けてか、課長は急に目を逸らしてどぎまぎとし始める。
「あ、いやっ、宮西だって嫌だよな、私のが口に当たってしまったら……どれだけ時間がかかっても私は構わないんだ、ただお前がもどかしくないかと」
「スピードアップ、お願いします」
「えっ? …………ああ」
藤野課長がこちらを見なくてよかった。
今の俺、たぶん両眼ギンギンだ。だってとんでもないお許しが出たのだ。これは願ってもない、免罪符だ。
藤野課長の両腕を掴む。突然だったからかビクッと揺れるけど、俺が胸元に顔を寄せたらグッと飲み込むような顔をして、乳首に米粒を置いてくれた。
だってスピードアップなのだ。距離を詰めて、テンポ良く食べていかないと。
「あ、」
三粒目くらいで、唇が少し掠ってしまった。だけどスピード重視だから仕方ない。
狼狽える藤野課長に「スミマセン」と小声で謝る。意図していなかったけど、乳首に息があたったらしくて少し、腰が引けている。
「いや、いいんだ。宮西が嫌じゃなければ全然、構わないから」
「ありがとうございます」
今度は息がかからないようにしっかりと顔を見上げてお礼を言う。目が合うと、藤野課長の眼鏡の中の瞳が収縮して、何かに驚いたように見えた。
見ていると、また、目を逸らされてしまう。
無言のままに次の米粒がきた。課長の腕を少しだけ引き寄せて、次々と食べていく。
三粒に一粒くらいは唇に乳首があたってしまう。そのたびに課長が息を詰めるから、なんだか俺は嬉しくなって、そのうちに偶然を装って胸の下の方に顎をあてたり、鼻先で乳首に掠って二往復くらい擦り付けたりした。
課長はその度に少し次の米粒を乗せることに躊躇する。だけど止まりはしない。慈悲の心に感謝してこの異常な行為を続けた。
時間短縮のために唇で米を吸引して口に入れる。その代わりに鼻先で胸をだだくさに擦る。ハアハアハア。息が荒くなっているのは速くたくさん食べたくて頑張っているからだと、自分に言い訳をした。
そのラリーがいつまで続くのかと、互いに疲労困憊になってきた頃――――。
チュッ
「あっ?」
米だけを吸引するつもりが、間違えて乳首ごと吸引してしまった。
慌てて口を離して、今しがた入ってきた米粒を咀嚼する。つい声を上げてしまった藤野課長は、恥ずかしそうに口に手をあてて悶絶している。
「ハア、すみません……ミスりました」
「いっいや……私こそ、変な声を聞かせた……」
「ご馳走様です。もう大丈夫ですから」
「えっ? まだたくさん」
「もう限界でしょう? 藤野課長。俺は大丈夫ですんで」
そうして引き際よく俺はその場を去った。とはいえ部屋の外に出ることはできないから。立ち上がってトイレに入っただけなのだが。
個室に入って鍵を閉めた瞬間、口を抑えて俺も悶絶した。
嘘を吐いた。限界なのは俺のほうだ。だって、さっき俺、藤野課長の乳首を吸っ…………。
「ハアッ……!」
せわしなくベルトを外し、ズボンと下着を一気に下ろした。ボロンとまろび出た逸物は血管を浮き上がらせて硬く反り返っている。俺史上、最高潮だ。
左手を添えて擦り上げる。まだ下に残る藤野課長の乳首の感触を思い出して。ああ、ああ、藤野課長。乳首吸っちゃった。美味しかった。藤野課長の乳首を介した米粒で、俺、今お腹満たされてる。
今起こったことをすべて反芻しながら、音が出ないように高速でズった。最高に気持ち良い。はじめてセックスをシた時より興奮しているし、快楽も比ではない。
「……ッ!」
便座に腰掛けていたので精液は壁に勢いよく飛んだ。飛距離も凄い。自分がいかに興奮していたか思い知って、ニヤニヤと迸る笑みが抑えきれない。
「藤野課長…………エロい……」
舌をレロレロと動かしてあの乳首を好きにいたぶる妄想に溺れる。もう一度竿に手を添えて乱暴に擦り上げながら、チュウチュウと吸う仕草をして己を昂らせる。
間違えて吸っちゃったときの声、エロかった。上擦っていて、余裕がなくて、いつもの藤野課長とは正反対だった。もっとしたらどうなるんだろう。「エロいですね」って言ったら、怒るかな。それとも恥ずかしがって、顔を隠しちゃうかな。
えげつない妄想ですぐに二発目を発射してしまった。これくらいにしておこう。夜も抜きたいし。てか絶対夜も、抜けちゃうし。
「ハア―――――……好き…………」
俺はゲイだ。しかも前々から藤野課長を性的対象として見てきた。こんな人間にとって今のこのシチュエーションは、ご褒美以外の何物でもなかったのだ。
ソワソワしているうちに夜になってしまった。
娯楽はテレビと数冊の雑誌のみ。スマホも入室時に取り上げられてしまったから、俺の頭の中はますます藤野課長のことでいっぱいになってしまっている。
目の前にいるのに。そして今まさにシャツのボタンを開けて、乳首に米粒乗せて差し出してくれているというのに。
ハア、とため息を吐く。あまりの悩ましい光景に、感情を逃がすためにそうした。だけどそうすると藤野課長は何を勘違いしたのか、シャツをすべて脱いでしまう。
「あ、先に風呂に入ってこようか。気が付かないですまんな」
この人、風呂上がりの綺麗な乳首を俺に提供しようとしていんの?
二人でする行為の前に身体を清めるなんて、そんなの…………もうほぼセックスじゃないか。
ガシッと腕を掴む。少々強く握りすぎて、改めてその腕の細さに驚く。
「そのままでいいです」
「だけど、汗とかかいているかも」
「【そのままが】いいです」
しまった失言だ。慌てて口を覆うけど、藤野課長は「そうか?」と呑気に返して曖昧に笑うだけだ。あちらもいっぱいいっぱいなんだろうか。なんにせよ助かった。
夜の献立は南蛮漬けのから揚げにサラダ、デザートに苺のムースまでついている。しかし俺には米粒を一粒ずつ食べることしか許されていない……。
だがその米粒の価値は偉大だ。なんせ藤野課長の乳首を介しているのだ。一度藤野課長の乳首にくっついた米粒。まだ風呂に入っていない、汗をかいているかもしれない藤野課長の肌に触れた米粒……。
欲望を抑え込み、唇で米粒をうまく摘まんだ。本当は乳首が摘まみたかったんだけれど、そんなことして嫌われたら元も子もない。昼みたいに一回でも吸えるチャンスがあればいいけど……。
乳首から米粒を取りながら課長を見上げる。相変わらず恥ずかしそうに目を逸らして、せっせと次の米粒を準備している。俺の視線を感じているのか、意地でも目を合わせようとはしない。
昼はスピードアップとか言っていたが、初めての時と同じ速度の供給になっている。これってやっぱりあれかな。俺が乳首を吸ってしまったから……警戒してる?
「ゆっくりにするなら、課長も食べてください」
「あ、ああ……けど、下手に動いたらと、思うと」
また乳首吸われちゃうかもしれないって?
普段は一切表情の変わらない冷静な顔面が困ったように眉を下げ、サッと頬に紅が射すのを目の当たりにして、俺は心の中で小躍りする。
意識されてる。俺、別に告白とかしたわけじゃないし、そもそもアプローチも何もできていないけど。油断すると乳首を吸ってくるかもしれない男として見られている……! ぐ、興奮するッ。
「じゃあ昼みたいに早くしますか? 課長にもちゃんと食べて欲しいです」
「そ、そうだな……お前は昼もろくに食べていないものな」
俺は課長の心配をしているのに、課長は俺の心配をしているようだ。何これ、相思相愛?
脳内のお花畑でフワフワとスキップしながら、俺はコツンと額を課長の鎖骨の部分にあてた。こうすることで距離が近づいていち早く米粒を摘み取ることができる。けっして密着をしたいわけでも、乳首に少しでも近づきたいわけでも、ないのだ。
俺はそうやって頭を課長にもたれさせたまま、米粒を摘まんでは咀嚼した。わざと熱い息を吐きかけると、少しだけ乳首がピンと勃つ。
舐めたい。シコりたい。必死でそれを我慢して、それでも少しずつ乳首と唇の距離を詰めていく。取る拍子に唇を掠らせる。息を呑む課長の鼓動を肌からじかに感じながら、何度もそれをした。
はあ、一歳児の離乳食分も食べていないだろうに、ものすごく満たされている……課長の乳首ご飯美味しい……課長が俺のために手ずから乳首に米粒くっつけてくれるの、幸福でしかない……。
「なあ、宮西……お前、おかずも欲しいよな?」
声が震えている。ちょっと掠らせすぎたかな。どうやら俺の気を逸らしたいようだ。
別におかずなんてもう眼中になかったけど、少し可哀想だから乗ってやるとしようか。目を合わせてコクンと頷く。無理に微笑む口角が震えていて、グワッと心臓を鷲掴みにされた気がした。
手が伸びる。ピン。俺の供給源である乳首を指先で弾く。やってしまった、でも……そのまま身体を抑えつけて下を脱がさなかっただけでも褒めて欲しい。そんでこの人、驚いた表情までシコすぎる!!!
「でもこんな小さい乳首に乗るわけなくないですか」
「……ッ」
ビクンと身体が跳ねる。だけどはっきりと恥ずかしがるのはプライドが許さないのか、背を伸ばして僅かばかり避けただけ。俺は上司になんてことをしているんだ。思いながらも止まらない。今度は両乳首を人差し指と親指で摘まんで、クニクニと捏ねてみる。
「あ、おっきくなりましたね……もうちょっとタたせていいですか」
「えっ……」
「俺おかず食べたくて……ちょっと昼から目眩するんですよね。栄養摂らないと……」
もっともらしい言い訳をしてみる。藤野課長は何か言いたげだったがグッと飲み込んで、耐えるように下唇を噛むだけに留まった。
俺、今藤野課長の乳首捏ねてる。勃起させるために。この上にから揚げ乗せて食べるために。涎が垂れないようにこまめにコクコクと喉を上下させながら、四本の指で藤野課長の両乳首を愉しむ。
ちっちゃいなあ……乳輪も小さくて薄い色……こんな乳首で健気に俺に物食べさせてくれるんだもん、もうママといっても過言ではないんじゃないか?
ママの乳首コリコリ……ママの乳首コリコリ……ああ~~~~~~たまんね……あとで指舐めよ……へへ、俺の指で硬くしてやがる……可愛い、可愛い…………。
心の中で薄ら笑いを浮かべながらも、真剣な表情を作る。痛そうなほどに張り詰めてきたので、名残惜しかったけど指を離した。「課長、」手を重ねてそう呼ぶと、乳首に気を取られていた課長はハッと我に返り、慌ててから揚げを箸で運ぶ。
「やっぱり乗りそうもないですね……」
「私が千切ってやろう。待っていなさい」
そうだ。米粒くらいの大きさに切ってくれたら、理屈上は乗るだろう。しかしこの部屋にはナイフも何もない。箸でカリカリ衣のから揚げをカットするなど至難の業で、何度も箸の間からから揚げが逃げていってしまう。
「う~~~ん……困ったな……」
「課長の歯で噛み千切ってください」
「へ?」
「課長がそのまま大部分を食べていいから、乳首に乗る分だけ残して噛み千切ってください」
「な、なるほど」
俺の取り分は減るが、少しでも食べれたら御の字だ。というかそれどころではない。俺はまた藤野課長の乳首を捏ねている。乗らないといけないからタたせているだけです。そんなフリをして、至近距離でその光景をガン見しまくる。
藤野課長が箸でから揚げを構える。少し逡巡した後、弱々しい声が降ってきた。
「なあ……俺の噛み千切ったものでいいのか? 気にならないか?」
「そんなこと……今さらでしょう? ここに乗せるんだし」
「アッ、くッ」
示すようにピンピンと強く弾くと、さすがに声が出た。「もういいだろ」と少し怒ったように言われたので大人しくやめる。確かにもうよさそうだな。勃起は衰えることなく、ピンピンに張って今か今かとから揚げを乗せられるのを待っている。
課長が手を震わせながら慎重に乳首に肉片を乗せる……正直味も分からない程に小さいが……久しぶりに味のついたものが口にできると、俺は意気込んだ。嘘です。早く課長の乳首から食べ物摂取したかった。
歯で掴み取る。南蛮タレが乳首に付いているのを見て、つい舌で巻き付いてしまった。チュルッ。課長の身体が大きく揺れる。動かないで。言外にそう訴えるように両腕を掴んで、チュッチュッ。二回ほど吸って、口の中から乳首を解放する。
「うまっ」
「な、なんで、舐め……!」
「タレ付いてたから、かぶれたら申し訳ないなって。美味しいです。もう一回」
「あ、いや……」
課長はまたしても俺と目を合わせない。腕を掴んだ手に力を込めて引き寄せると、乳首が目の前にきた。ハア……ハア……さりげなく息を吐きかける。凄い。触れていないのに、課長の心臓が跳ねまわっているのが、わかる。
「お前、男の乳首を、その……舐めることに、抵抗がないのか……!?」
「俺ゲイなんで。むしろご褒美ってゆーか」
「なっ……!」
「早く。肉、食べたいです」
ねだるように腕を引く。一か八かの賭けだった。これで拒否されたら……俺は潔く餓死する覚悟すらあった。だってこのまま藤野課長に嫌われてクビだなんて生き地獄だ。それならいっそこの異常な空間で藤野課長に見捨てられて死にたい。
俺、もうダメだ。半端に手ェ出しちゃったから……本気で、藤野課長のこと……。
目が合う。藤野課長が、じっと俺の顔を見ている。
諦めたように息をつくと、またもやから揚げを噛み切って乳首に乗せてくれた。むしゃぶりつく。乳首に吸い付きながら咀嚼して、その間も舌でレロレロしたりチュウチュウと吸いつく。
下の方で手を握ると、身体の跳ね方が大きくなった。課長、完全に俺のこと意識してる。エッチなことされてるってわかって反応してるんだ。可愛すぎる!!!
指を絡めて恋人繋ぎにして、ねとねとと口の中で乳首を愛しまくった。反対の乳首も指でコリコリして、そういえばこっちは全然使ってなかったなと思い立ち、そちらも唇で吸いついた。
息を吐きかけながら上目遣いで見上げる。課長も、見てる。俺に乳首舐められているところ……。
「ゲイとか、冗談ですよ……口でシたほうが、課長の乳首大きくなるから……俺にいっぱい食べさせてくれるんでしょ? ねえ課長」
「ンッ……宮西、やりすぎっ……」
「次、こっちの乳首使いましょう?」
唇から解放して、指でコリコリして指し示した。課長は使い倒したほうの乳首を律義にハンカチで拭き取って、新しいほうの乳首に米粒を乗せてくれた。乳首シコりながら食べる。舌先でベロベロと揺らして、米粒を唇にくっつけたまま課長の突起を夢中で吸いまくる。
「んふ……美味しいです……課長」
「おい、ちゃんと食べろ……」
「美味しい、もっと」
何もくっつけていない課長の乳首を吸って、反対も指でカリカリして、完全に開発の体勢に入っていた。
もう我慢できない。俺は興奮して、ハアハア息荒げながら、すっかり上司の乳首にむしゃぶりつく変態だ。軽蔑されてもいい。もっと藤野課長の乳首味わいたい……!
俺を遠ざけようとする手を絡め取って指を組む。結局両方恋人繋ぎになってしまった。だけど両方乳首を弄ってあげたいから交互にチュッチュッチュッチュッと啄んでやる。
課長、目を瞑って必死に耐えてる……見たくないのかな、俺に弄られているところ……それとも、顔、見られたくないのかな……?
「課長~、デザートも食べさせて」
「ハアッ……デザート……?」
両手が塞がっているので顎で卓上を指し示す。
課長が動揺して机にあたると、苺のソースがたっぷりかかったピンク色のムースが魅惑的に揺れる。
「柔らかすぎるだろう……乗らないし、乗っても崩れる」
「一瞬で食べますから、こうやって」
ジュルジュルジュル!!!!!!
しゃぶりついて唾液を塗り付けてやった。藤野課長の手が俺の額を押す。ジュパッ、と音を立てて離れると、脇腹にコツンと拳をあてられた。
エッもしかして今のがお仕置き……? 藤野課長ちょっと優しすぎないか? 部下にいいように乳首しゃぶられてるのにこんだけ!? 無防備すぎる、隙だらけだ! 思いっきり付け込んでしまいたい……!
「課長、早く、食べたい」
めげずに舌をつき出して乳首スレスレでレロレロと動かすと、課長は逃げるように食卓に手を出した。ムースを小さく掬い上げて、そうっとスプーンを傾け……乳首に乗るか乗らないかの絶妙なタイミングで、しゃぶりついた。
ジュジュジュジュジュッ!! ジュジューッ!!
「あ、ああ……やめっ……」
「ダメです、もっと味わいたい」
腕を掴んで引き留め、もう何も残っていない乳首を未練がましくチュパチュパと弾く。俺の唾液が跳ね返ってくるくらいに強くしたからか課長の腰が揺れてる。感じてるのかな。スーツの太腿を擦ると、慌てて手を重ねられた。
「宮西、もう……」
「変な気分になっちゃいましたか?」
「…………」
その沈黙は肯定ととっていいのか。隠すように片手で口元を覆っている。俺が答えを急かすように見つめていると、緩く、首が横に振られた。
「なって、ない……」
「ホント? じゃあこっちの乳首でも味わいたいです」
ムースを乗せていないほうの乳首を指先でピンと弾くと、課長が泣きそうな呼吸をする。俺は勝手にムースの皿を手に取ると、スプーンで課長の乳首に垂らした。それを下から受け止めて味わった。乳首ごと。
乳首に乗せている判定になるかは正直微妙だが、自由に食事もできない環境で俺は十分に食事の大切さを痛感している。だからきっと許容範囲だ。
もっと食べたい。そんで精力つけて、この人を押し倒したい……!
大げさな音を立て続けて、あっという間にムースを乳首越しに飲み干した。
課長の乳首、イチゴ味だし……まるでイチゴみたいに真っ赤に色づいて、可愛い……ずっと、弄ってあげたくなっちゃう……。
交互にジュピジュピと唇の先で吸う。左の乳首のほうがちょっとデカい。確かめるように歯を立てると、「ウッ……!」と悶えて、課長が全力で俺の肩を押し返してきた。怖かったのか、目に涙を浮かべている。
「宮西! 何を考えているんだ……!」
「課長の乳首大きくなって欲しいんです。いっぱい食べたいので」
「だからって……!」
「……スミマセン。空腹で我を忘れてました。今日はもうご馳走様にします」
今日はこのくらいで引き下がっておこう。課長、怒ってる。誰にでも優しいこの人が怒っているところ、はじめて見たかもしれない。…………ゾクゾクする。
昼と同じようにトイレに行こうと席を立つと、下から腕を強く引かれた。藤野課長。じっと俺を睨んでいるけれど、涙を浮かべながらではまったく迫力がない。からかうように指で拭ってやると、俺の腕を投げるようにして解放してくれた。
「課長はたくさん食べてくださいね。細すぎて心配になるので」
ずっと言いたかったけど部下の身では言えなかったことを、思い切って言ってみる。部長はなぜだかクシャッと顔を歪めて、今度こそ泣き出してしまったかと思った。俺は気付かないフリをして、トイレに逃げ込んだ。
それぞれ入浴を済ませて就寝する。
ところで、忘れていたけどベッドは一台だ。超キングサイズだから、男二人で寝ても窮屈なことはないけど……。
「…………」
気まずいので互いに背中を向けて身動きもしない。だけど寝れるわけないって。前から好きだった人がすぐ隣で寝ているんだぞ。これを据え膳と言わずしてなんだというんだ。
そんなこと考えてたらムラムラしてきた。あーーーーー。トイレでもう一回抜いてこようかな……。
動こうとした一秒先に課長がむくりと上体を起こす。俺は息を潜めてその動向を空気の流れで感じ取った。流し場に向かっている。水分補給でもしているのだろうか。というか課長もまだ寝ていなかったんだな。
意外にも蛇口を捻る音はせず、カチャ、と特徴的な音がして課長は部屋に戻ってくる。しかし俺の横たわるベッドをすり抜けて、端っこのソファーに行ってしまったようだ。
もしかして俺との同衾がそんなにいやだったのかな。音をたてないように細心の注意を払ってどん底まで落ち込む。そりゃあ嫌だよな。「乳首大きくしてください」って好き放題舐めしゃぶってくる、失礼極まりない変態部下…………。
課長に嫌われたくない。明日ちゃんと謝ろう。涙目で反省の弁をいくつも考え込む。
そりゃああわよくばという気持ちはあったさ。だけど手を出す前に嫌悪されたら元も子もないのだ。今さらどうにかしてやろうと思わないけど、せめて、せめてここに入れられる前と同じ、適切な距離を保った上司と部下の関係でいたい…………。
「ンッ……」
なに今の悩ましげな声。エッ課長?
寝返りを打つふりをしてソファを向く。衣擦れの音も息遣いも一瞬やむけど、寝ているフリをしていたら元通り、薄暗い寝室に控えめな喘ぎ声が響き渡るようになった。
課長ソファで何しているんだろう。もしかしてオナニー?
期待に胸を膨らませて薄目を開けた。チッ、背中を向けていてよく見えない。しかもズボンは履いている。なーんだ、オナニーじゃないのか。
いい加減寝よう。そう思い瞼を閉じる瞬間、何かが課長の手元でプラプラと揺れていて、俺はもう一度目を凝らした。あれ、課長上は脱いでる……そんで、しきりに手を動かしてる…………。
………………。
もしかして乳首弄ってる????????????????
一気に目が覚めて、物音を立てないように伸び上がって見た。
プラプラと揺れる謎の白い物体は洗濯バサミだ。僅かに腰を揺らす課長の動きに合わせて、あまりにも小さな軸に留められて所在なさげに揺れ動いている。
ち、乳首に、洗濯バサミ挟んでる……!?!?!?!?!?
こうしちゃいられない。ガバッと起き上がってソファに歩み寄る。振り返った課長が慌てて前を隠すけれど、両手首を掴んで無理やり開いた。そこには確かに右乳首を挟む洗濯バサミが。左乳首も指で弄っていたのだろう、しっかりと勃ち上がっている。
こんな。こんな卑猥なシチュエーションがあってたまるか!?!?!?!?!?
「藤野課長、なっなっ何を」
「ち、違うんだ……これは」
「なんで洗濯バサミ?」
思わず手を伸ばすが、またしても前開きのパジャマを閉じられてしまった。
暗闇の中でも課長が耳まで真っ赤にしているのがわかる。息が荒い。ちっとも俺の顔を見ようとはしない。それはある意味普段俺に屈託なく向けられる視線よりも雄弁で、コクリと唾を飲む。
「き、君が、乳首大きいほうが食べやすいと言っていたから……自分で……」
「大きくしてたんスか?」
かなり長い時間をかけて、藤野課長は頷いた。
なんだそれ。なにそれ。今度こそ据え膳だよな?
一気に押し倒してまた両手首を掴みながら開く。白い洗濯バサミがプラプラと揺れている。こんなものまで使って、俺のために乳首大きくしてくれようとしてただなんて……そんなの、愛でしかないじゃないか!!!
「俺も、好きです」
「ハァ? 何を……」
飛躍してしまった感は否めない。けど決してその言葉は嘘ではないので、何も訂正せず洗濯バサミをデコピンで強めに弾いた。振れ幅が大きくなって、課長が「グッ、」と息を詰める。感じてる? まさかな。
「宮西、やめなさい」
「なんで? 俺のためにやってくれてたんですよね? なら呑気に俺だけ寝ていられませんよ」
「お前、ちょっと変だぞ……!?」
「変なのは藤野課長も同じでしょ……!」
「あっ、こらっ」
洗濯バサミに挟まれた乳首を横からレロレロと舐める。こんなにきつく挟まれて可哀想に。けどこの人これを自分からやったんだよな。手拭きタオルが挟んである洗濯バサミが一つしかないから、それを使って、もう片方は指で弄って……なんっていじらしいんだ!!!
もう大丈夫ですよ。あとは、俺が全部してあげる。
ヂュッヂュッ。ヂュゾゾゾゾゾ……。
「ンッ、ちょっ、」
「ハアハア、痛そうだから、消毒ですっ」
「いいってぇ~~……!」
上から洗濯バサミを持って乱暴に回転させる。課長が仰け反る。この人痛いのもいけるタイプなんだ。俺いじめ甲斐のあるネコちゃん大好き。課長は絶対ネコだ。痩せっぽっちのうぶなネコちゃん。
「あ、あ、あ!」
パチン! 強く引っ張りすぎて洗濯バサミが取れた。付いていた右乳首がぷっくりと腫れている。間髪入れずにしゃぶりついて、俺の口の中の唾液の海で泳がせた。
俺の唾が、全部課長の乳首からダシとって乳首ジュースになってる……飲み込むたびに下っ腹が疼いて……ああ、勃起、しちまう……。
「ひははっはへふは?(痛かったですか?)ほへんえ(ごめんね)」
「ああ、今舐めたらっ……ほんと、ダメっ……!」
「ふへぇ」
前髪を掴まれて無理やり顔を上げさせられた。いっぱい溜まっていた唾液がトロリと課長の乳首に全部零れて胸元全体を濡らしていく。それがソファの座面にまでポタポタと落ちて、改めて自分の唾液量に驚く。どんだけ興奮していたんだ、俺。
藤野課長は唾液が胸元から四方に伝っていく感覚に震えて、なぜだかビクビクと胸を上下させている。身動きできなさそうなのをいいことに、俺は手の平をそこにあてがって唾液を塗り広げた。
「課長、大丈夫ですか……? 消毒してますよ~……」
「あっ、やめっ、」
戯れにピロピロと指で乳首を弾くのも忘れない。塗り広げながら指の股で挟んでギュッと捻り上げると、「ひゃんっ」と実に艶っぽい声を上げて、大きく腰をバウンドさせる。
藤野課長、乳首、感じるようになってるじゃん。クスクスと嘲笑するように喉を鳴らすと、課長の息遣いが激しくなる。もう半分泣いている。泣くことないのに。俺のほうが今、恥ずかしいことになってるのに。
パジャマの上から隆起した股間を擦る。課長には見えないように手を突っ込んで扱きながら、ふたたび乳首を唇に挟んだ。
「今度はこっち。さみしかったね」
「ふぁ、あ、ダメッ、てぇ」
左乳首をチュウチュウと愛情たっぷりで吸い上げる。ソフトタッチであやすように。オマケで頭を撫でてやると、途端にくたりと脱力してしまった。
こちらを凝視しているのはわかってるから……煽るように、両手で周りを揉み込んで中心をこれでもかと丁寧に吸い上げる。唇だけで伸ばして、全体をモミモミして、味わうように舌を巻きつける。
「へ、へんたいぃ」
「変態はどっちですか。夜中に洗濯バサミで乳首オナニーなんて」
「こ、これは君の、ために」
「はい、嬉しいです。ありがとうございます。しっかりお手伝いしますね」
そう、俺は変態じゃない。俺のために乳首育ててくれた課長に報いるために、その手伝いをしているだけなんだ。そう頭で言い聞かせながら、徐々に欲望まみれな舌遣いにしていく。
ハアハアとみっともなく息を吐きかけて、目を合わせながら、レロレロと舌で弾く。課長ははくはくと口を開閉しながらも、何も言えずついに目元を手で隠してしまった。
いいんですね課長。あなたの乳首、俺がしゃぶり倒しちゃいますよ。
「右はひどくされて、左はやさしくされて、どっちが気持ちいいですか?」
「どっちもよくないっ……」
「じゃあこっちで勝手に見極めますね」
「アッアッアッ……」
左乳首は変わらず舌と唇で柔く愛撫する。対して右乳首は二本の指できつく摘まみ、天井に向かって引っ張り上げた。課長の両手がシーツを掴んで悶絶する。可愛い。もっといじめたい。グニグニと揉んで伸ばして蹂躙する。
数分後には、すっかり肥大した勃起乳首が二つ。
「ふふ、どっちもよくないじゃなくて、どっちもよかったんですね」
「ち、ちがう……!」
「若干右のほうがデカいかな? 平常時は左のがデカいから、やっぱマゾなんだ」
「ちがうってえ~……!」
拳で胸を叩かれる。だけどそれは暴力にほど遠く、ただ抗議の意を示すだけの弱々しいものだ。こんな失礼なこと言われてもこれだけしか怒らないなんて……マジで聖人か何かじゃないのか。清らかすぎる。
「認めてくださいよ。じゃなきゃ効率的に乳首大きくできないでしょ」
「自分でやるからっ……」
「ダメです。俺にやらせてください」
優しくしていた左乳首に顔を寄せる。ふう、と息を吐きかけただけで全身を震わせる課長。いくらなんでもまだ性感帯にはなっていない筈だが……雰囲気に酔っているのだろうか。
今度はそうっと歯を立てた。撫でていた脇腹が一気に硬直する。
「こっちもマゾ乳首にしてあげる」
「やめっ……それ……!」
「なに?」
「……こわい…………」
そう言って目に涙を浮かべる藤野課長はとても扇情的で。
俺はすぐさま舌を巻きつけて激しく舐めしゃぶった。泣いて嫌がることはしない。歯が嫌なら舌でどれだけでもしてあげたい。ぷっくりと尖った感触、すごく愛しい……米粒三つくらいは乗りそう……って、成長、早すぎだろ……。
「ああ、みや、にし」
「俺の後頭部に手置いて……そう……ああ、求められてる感じして燃える……!」
「たのむ、もう、アアアア~~ッ……」
チュバ! チュバ! チュバ!!!
唇で勢いよく弾いて刺激する。課長の反応は良好だ。というか激しくされて興奮しているみたい。マゾだ。サドの俺と相性バッチリ。いじめる。もういじめ倒す。
ハアハアと息をまき散らして顔を振った。舌を出したまま擦り付けてる。高速で捏ねられて、俺の興奮が伝染したように課長も息を乱す。俺の後ろの髪を縋るようにかき混ぜてくる。もうたまらない。
「課長、ンン~~~……乳首おっきいよ……おっきい……」
「あああ~~~~~~~」
強調するように舌で持ち上げて弾いてやる。課長はもう声が我慢できないみたいだ。太腿を撫でていた手を思い切って股間にあてがった。ビクンと大きく揺れる。だけど、拒絶しない。ずれた眼鏡の奥は物欲しそうに、俺を見つめている……。
「感じてるね、いいよ。そのほうが早く乳首おっきくなりそう」
「あッ、みやにし、やめ、ンッ」
「精一杯奉仕します、俺っ」
ゴシゴシと扱きながら両乳首を交互に吸いまくる。激しすぎて唾液が飛び散るたびに藤野課長はいちいち感じて、身体まで律義な人だと感心した。
俺のやることすべてに感じてくれているみたいだ。興奮しているだけなんだろうけど……これで乳首を弄られることを快感だと教え込めば、この人は黙っていても自主的にまた乳首オナニーするだろう。そうなったら最高だ。絶対にそうなるように調教してやる。
「あっという間にカチカチですね……もう出そう?」
顔を上げて聞くと、課長は歯を食いしばりながら何度も必死に頷く。俺がズボンとパンツいっぺんに引きずり下ろしても拒まない。射精直前のビキビキチンポが出てきて、涎を垂らしながら今か今かとトドメの刺激を待っている。
手の平でゆっくりと包んで、直接、扱き上げた。
「出してください? 乳首も一緒に扱いてあげる」
「フッ、ンッ……」
口元に手を添えて清楚に感じているが、はしたなく勃起させたものを部下に握られて、両乳首を舌と指でいじめられて、もう、最高にみだらな雌にしか見えない。俺にチンポ握られるのを許しちゃってる。ああ。まさかこんな日が来るなんて。
興奮のままに乳首を右も左もわからないくらいしゃぶり倒した。ドクン、手の中で脈打つ。俺は慌ててティッシュをあてがい、なんとか無事に課長の精液を受け止めた。
「ハア……ハア……」
「気持ち良かったね……」
「ううっ……」
くったりとしたその身体を後ろから抱っこして抱き締める。耳元に息だけでそう囁けば、一旦は止まった精液がまたコポ、と先端で泡立って滑り落ちた。エロすぎ。どうしたら感じるのか丸分かりじゃん。
そのままさわさわと上半身を撫でまわしているうちに、俺の下半身が本格的に兆してきた。腰を回して擦り付ける。あ~~気持ちいい。課長、イった余韻で気付いてないみたいだ……。
「じゃあ俺、トイレ行ってきますね」
「あ……」
「ちゃんとベッドで待っててください?」
もう一度耳元への囁きで震えさせて、俺はトイレの個室へと籠った。
静寂。ドアの向こうからは遠く、僅かな衣擦れの音。悪戯心が働いて、俺は「あ、」とわざと大きな声を出す。
「課長、藤野課長……ハア、ハア…………」
衣擦れの音が止む。こちらを窺っている気配。きっと俺の声、聞こえている。
先走りを竿に塗り付けてグチュグチュと音を立てる。
「課長の乳首、美味しい……レロレロ……エロいです……どんだけ舐めても足りない……ハア、ハアっ……!」
宙で舌を高速で動かしてピチャピチャと水音まで出す。課長が息を潜めてこれを聞いている。俺のダダ漏れの欲望を聞いて、多分今きっと、最高潮に俺を意識してる……!
「可愛い、課長、課長、前から、好きでっ……オオッ……」
コプ。先端から濃いのがどろりと垂れ落ちる。今日何回も抜いたのに。マジで今の俺絶倫すぎる。だってあの藤野課長に思う存分密室で欲望をぶつけられるんだ。
藤野課長、俺のことを許してる。きっと少しずつ責めていけば、抵抗されない。
「へへ……」
後始末をして、丁寧に手を洗ってから個室を出た。
ベッドの上にはこんもりとお山が一つ。そそくさと隣に入り込んで、掛布団を剥がし、後ろから抱き締めた。途端に硬くなる身体。俺を意識してもうどうしようもなく火照ったその肌を撫でて、ボタンを外し、ふたたび乳首に指をセットする。
「あ…………」
「課長……聞こえてた? 俺のオナニーの音……」
「う……」
「好きです……いっぱい、触らせてください……」
ついに、言ってしまった。
藤野課長は逃げない。おとなしく俺に乳首を捏ねられて、いじらしくも小さく息を吐いて耐えている。俺はその晩、もう一生分の告白を藤野課長の耳元でした。
「すきだよ」「あいしてる」「エロいね」「かわいいよ」「食べちゃいたい」
何を言っても……課長はその度に肩を震わせるだけで、俺を跳ねのけようとはしなかった。
朝ご飯が運ばれてきた。それを目の前にして動かない課長の肩を支えて、隣に座る俺のほうを向かせた。当たり前のようにパジャマの前をはだける。課長は……俯いたまま、押し黙っている。
「食べる前に、乳首大きくしますね」
肩を擦りながら耳元でそう宣言する。ハアッ……とすでに感じているかのような吐息を返されて、一気にエレクトした。
課長、想像しちゃったのかな。俺に乳首弄られるの。昨日も寝落ちするまで散々していたし。
両乳首を指で摘まんでやさしく捏ねる。課長は顔を覆って泣いているかのように喘ぐ。もうすっかり感じやすくなっちゃってるみたいだ。ほぼ一晩中開発していたものな。
ちゅぽちゅぽちゅぽ。顔を寄せて唇で吸い取る。いかにも乳首を勃起させるための動きに、課長はいやいやと頭を横に振る。だけどその場所はあっという間にぷっくりだ。
「えらいね」
乳首に囁きかけると、弱々しく頭を叩かれた。こんな程度で済むならもっといじめてやりたい。俺は自ら課長の箸を取って、米粒を俺専用の可愛いお皿に乗せた。
チュウウウ。思いっきり乳首ごと吸引する。課長は胸を反らして悦んでいる。脇腹をくすぐって、どんどん食べ物を皿に盛りつけては食べていく。塩鮭を乗せた後はとくに丹念に舐め取った。しょっぱい課長の乳首も、絶品だ。
「美味しいです」
「ウッ……こっち、見るな……」
「顔見たらダメなんですか?」
コク、と頷かれて、俺は改めて課長の乳首を凝視した。乳首なら何も言われないのに。改めて、異様な状態だ。だが俺はこの好機を逃しはしない。
「課長もお腹空いたでしょう。一緒に食べましょう」
「一緒に、って……」
「俺は自分で盛り付けて勝手に食べてるので、課長も俺に構わず食事してください」
「え……えっ」
まずは俺の膳を、俺の座っていた椅子に置く。そして俺自身は机の下に潜り込んだ。課長の足の間に身体を割り込ませて……そして俺の目の前には、また、課長の乳首。
俺は俺の食事を再開した。盛り付けては食べる。離す間際にチュパッと弾いたりレロレロと愛撫するのは忘れずに。課長、その度にガタガタと椅子を揺らして……可愛いな……。
「宮西、これえっ」
「顔見られたくないんでしょう? これなら見えませんよ」
「けど、乳首ィ」
「俺だって食べたいですもん。課長もちゃんと食べて。いっぱい食べないと乳首大きくなりませんよ」
まあ俺がたっぷり可愛がってあげるから大丈夫だと思いますけどね。
とは言わず、ひたすらに盛り付けては食べた。使っていないほうの乳首を爪先でコリコリしてやるのも忘れない。課長は悶絶してしまって食事どころではなさそうだ。くぐもった声から、口元を完全に覆ってしまっているのがわかる。
「課長。早く食べないと片付ける吉野さんに迷惑ですよ」
「じゃ、じゃあっ……せめて、指、やめっ」
「わかりました。ほら、食べてください?」
仕方なく指を外してやった。カチャ。箸を持つ音。だけど俺が乳首に食べ物を乗せるとピクリと反応し、唇をつけるといちいち茶碗を置く。課長が悶えている振動が、テーブルごしに伝わってくる。
すう、ハア。すう、ハア。すう、ハア。深呼吸で必死に自分を落ち着けて食事を進めようとしているのに、俺がチュウチュウ乳首を吸うと……せっかく整い始めていた呼吸が「アア、アア」って喘ぎに変わる。
「このつくだに絶品ですね。ねえ課長?」
ジュッ、ジュッ、ジュッ!
「アア、アア、やあっ~~~!!」
乳首に乗る食べ物で助かる。しかしべっとりとタレが付いてしまったので、俺は善意で綺麗に舐め取った。というか、吸い取った。
唇から出して指先でツンツンと張りを確認する。ハア、可愛い……俺の愛撫でこんなにして……まだ朝なのに。っていうかこれからずっと三食これかよ。何が地下労働だ、天国じゃねえか。
「課長食べてます? 早くしないと……」
「も、もういいっ。ご馳走様だっ」
「ええ? 全然食べてないじゃないですか」
「いいんだっ……」
話しながらも乳首をずっとピロピロ弾いている。課長はそれを怒りもしない。そんなふうに息を切らしてても、乳首弄りを咎めないなんて……期待しちゃうじゃないか。
俺は乳首にご飯をよそって食事を再開した。課長がやめたからって俺はやめない。まだ食べたいし、まだ舐めたい。課長はフーフー言いながら俺に舐められている乳首を凝視している。痛いほどの視線に、なんとなく合点がいった。
「ああ……乳首舐められてるほうに集中したかった?」
「はっ!? ち、ちが」
「いっぱいしてあげますね」
「ちがう~~~~~」
ああ、両手でこけた頬を覆って、可憐すぎる……中年のオッサンのくせに……。
色素の明るい髪はぺたんとしていて、前髪短めでデコ丸出し。首も肩幅も脇腹も、何もかも貧相で……それなのに、俺に舐められている乳首だけは、ビンッビンに勃起してんの最高にエロい……!
「課長、美味しい……ンッンッ」
「みやにしぃ、も、ごちそうさましてぇ~~~~」
「しませーん。ン、おいし、ンン」
チュッポ、チュッポ、チュッポ。
口内の食べ物を咀嚼するのも忘れて、課長の乳首に吸い付いては弾き、吸いついては弾き……シャツを脱がせてまだまだ終わらないことを示唆する。脱がされる感覚だけで課長はブルッと全身で震えて喉を露わに仰け反った。
長い、長い、食事時間の後。
パジャマから楽な部屋着に着替えて、藤野課長は部屋に置いてあるビジネス雑誌に没頭していた。そんなの読んで一体何が楽しいのかわからない。いや、俺といるのが気まずいから読んでいるフリをしているだけかな?
背中を向けられているからイマイチ判別できない。深呼吸。勇気を出して、ローテーブルの前に座る課長の背中にべたりと覆いかぶさる。ブワッ、と体温が上がったような気が、した。
「課長、俺ヒマです」
「お、お前も何か読めばいいだろう……」
「興味ないです。課長の乳首大きくしてていいですか?」
聞きながら、すでに服の中に手を入れてコネコネしている。食事の時間だけじゃ足りない。ずっと、課長に触れていたい。一日中感じさせて、課長、俺のこと好きになっちゃえばいいのに。
課長はしばらく平気なフリしてページをめくっていたけど、全神経を乳首に集中させているのがわかる。どのページも小さな字が詰まっているのに、次のページにいく速度もバラバラで、明らかに読めていない。
藤野課長。
ずっと憧れていたから大きな人に見えていたけど、今は俺の胸にすっぽりと収まっている。女よりも華奢で、骨と皮しかない身体。だけどたまらなく興奮する。性の匂いが一切しないこんな真面目な人が、俺の愛撫に感じてくれているのが何よりうれしい。
「み、みやにし、もう」
「課長……」
「アッ、」
耳元で呼ぶだけでピクンと縮こまってしまう。甘いムードを増幅させるために愛撫もとびっきり優しいものに変えた。乳輪を指の腹で撫でて、乳首には掠らせるだけ。ん? これ優しいのかな。ある意味イジワルか?
「もう、いいだろっ……」
「課長の乳首もっと大きくならないと、俺ずっと腹ペコです」
「~~~~~ッ、わかった、わかっらからっ」
強引に肘で押してきたので、さすがに解放した。課長は乱れた衣服を直して、すくっと立ち上がる。
「じゃあ自分でやる! だからお前はもうかまうな!」
「どこ行くんですか」
「ウッ…………」
歩き出したところを強く腕を引いて阻止した。逃げようったってそうはいかない。
「トイレだよ……トイレで乳首、弄ってくるから……」
「ダメですよ。課長やらないでしょ」
「やるって……」
「じゃあ俺の前でやってください」
見え透いた嘘をつく課長には、お仕置きしたって罰は当たらないだろう。にっこりと笑みを深める俺に、課長は気まずそうに視線を合わせる。課長の腕を掴んだ手に尋常じゃない力を込めた。絶対にやってもらうぞ。逃がさないからな。
課長はうろ、と視線を彷徨わせるが、やがて諦めたようにその場に腰を下ろした。そのまま動かないので、俺が腕を持って乳首へと導いてやった。もちろん、服をまくるのも忘れない。
「はい、どうぞ」
「…………」
胸全体を揉むような仕草。しかしおっぱいどころかぜい肉さえついていないので、何をやっているのかわからない。じっと咎めるように見つめれば、観念したように目を閉じて、課長はついに己の乳首に指を伸ばした。
「ンッ……」
鼻にかかった声。しかしそれ以降は一切声を出さずに、課長は親指と人差し指で両方の乳首を丹念に捏ねている。
脚をぺたんと床につけて女の子座りで乳首オナニーする上司、たまんねえ~~~~~ッ………………乳首を伸ばすようにゆっくりと捏ね上げるその指の動きがどうにもいやらしくて……俺もあの指でいろんなところ触られたいなって、つい想像してしまう……。
「宮西……見すぎだ」
「だって俺も課長の感じるところ覚えておきたくて」
「な、なんで」
「人に触ってもらったほうが感じるでしょ?」
「…………」
否定はしないんだよな、この人。馬鹿正直が裏目に出ていて大変よろしい。
これで俺は堂々とこの人の乳首オナニーを視姦する権利を得たわけだ。テーブルの向かい側に移動し、あえて距離を取ってじっくりと観察する。
課長の手つき、捏ね方、表情、声……五感で感じ取ると、フェロモンなのか甘い匂いまで漂ってきてヤバイ。
俺と目を合わせたくないからしっかりと目を伏せていて、そのおかげで長い睫毛がやけに妖艶だ。ハッハッと小刻みに吐息を漏らす唇、本当は今すぐにキスで塞いでやりたい。捏ね方がだんだん大胆になってきて……ヒクッ、と喉がひきつる瞬間が多くなる。
「気持ち良さそうですね~~」
「うるさいっ……」
「コネコネばっかりもマンネリ化しますし、次は押し潰してみたらどうですか?」
「押し潰す……?」
さりげなく指示してみると、課長はゴクリと唾を飲み込む。やったことがないんだろうな。というかその発想もなかったという顔だ。
この人、もしかして童貞か?
俺が見ているか一度視線を合わせて確認すると、眼差しをキッと強くして睨みつけてきた。全然怖くないんですけどね。部下の前でおっぱい丸出し乳首イジリしてる上司なんか。
課長の指がこわごわと乳首の先端にあてがわれる。ゆっくりと乳輪の中に突起を押し込んで……グリュグリュ。存外強く押し込んだから驚いた。人差し指では力が足りなかったらしく、親指に代えてまで過激な刺激を与えている。
「ンッ、あッ」
胸をつき出したまま下半身がビクンと跳ねた。薄目で俺が見ているのを確認すると、今度は指先でピンピンと弾き出す。その捨て鉢な弾きっぷりに、俺は自分がたらりと直線にヨダレを垂らしていることも気付かなかった。ローテーブルに異様な水溜まりができていく。
ああ課長、もう仰け反っちゃって、無防備にこっちに喉仏突き出して腰振っちゃってるよ……乳首、痛そうなくらいに張り詰めてる……もうぷりっぷりじゃん……なんで俺が触ってる時より大きくなっちゃってんの? そこはちょっと許せない。
「ひィン、ひッ、もう~~~~~~~」
自分でやっているのに自分の意思で止められないみたいだ。無様な泣き顔晒して乳首引っ張る上司なんて今生で見るの最後かもしれない。俺も無様にヨダレ垂らして、目の前の嘘みたいな光景に釘付けになる。
下を寛げて迷わず扱き上げた。課長たぶん乳首だけでイく。俺も一緒にイきたい。今にも達しそうに震える細い喉を見て、焦りながらマッハで自分を追い立てる。
「み、みゃ、みゃに、し、イっ、く……」
「!!!!!!!」
今、俺の名前呼んだ?
なんで…………俺が触っているわけじゃないのに?
あまりの衝撃に、方向も定めず射精してしまった。自分の意識と反して出してしまうなんて生まれてはじめてだ。ローテーブルの裏面はきっとエグいことになっているが、今はそれどころではない。
テーブルに伏せてはあはあと息をついている課長の腕を取って立たせようとする。
「みゃ、や、みゃ、みゃ」
この人は何をミャーミャー言っているんだ。もしかして俺の名前呼んでるの? 可愛すぎて生後1か月の子猫かと思ったわ。頬はほの紅く上気して、潤んだ目は虚ろ、それにこの人も口の端からヨダレが垂れてる…………。
見とれていると、じわりと課長の目に涙が滲む。相変わらずみゃーみゃーと連呼しながら。俺は屈みこんで背中を擦ってやった。課長が俺に何か伝えようとしている。聞いてあげなければ。
「みゃ、にしっ…………」
「どうしたの? 課長……」
「い、言わないで……会社の皆に……私、乳首でこんな、感じてッ…………」
――――プッツン
涙目で乞うてくる藤野課長のエロい顔に、ついに俺の中の理性が切れた。完全に脱力したその身体を正面からわきの下に手入れて抱え上げて、ベッドまで連れて行く。
ひと息に押し倒して、服をまくり、労わるように優しく手のひらで乳頭を撫でる。そんな些細な刺激にさえ、課長は「オッ、オッ」と脚をバタつかせて悦んだ。
こんなんもう、ダメでしょ。きっちり責任とってやらないと、男がすたる。
「素敵でしたよ。課長のあんな姿、誰にも見せたくないです。だから言いません」
「うう、ほんとぉ、に?」
「ええ……だから俺の前では、好きなだけ乱れてくださいねっ……!」
重く、緩く、乳首を弾く。一打ごとに大げさなくらい「きゃうんっ」「ひゃあんっ」と可愛らしく鳴くから俺の息子はふたたびフル勃起だ。心臓が自分のものじゃないと思うほどにうるさい。今すぐに襲い掛かって全部食べちゃいたい本能の俺と、じっくり乳首を苛め抜いてまずは俺の愛撫中毒にしてやりたいという理性の俺が素手で殴り合っている。
己を収めるために、課長の胸元に頬ずりした。至近距離で、横から乳首をガン見して、ゆっくりと弾く。「あ、あ、」と小刻みな声がもう未成年の女子としか思えないおぼこさで、どんどん俺を追い詰めていく。
「課長、気持ちいい? 俺の指ッ」
「あ、やらあっ……」
「気持ちいいんだろ? 押し潰せって言ったらすぐあんなふうになっちゃって」
「ひゃああ~~~~~っ」
グニグニグニ。渾身の力を指先に込めて押し潰してやった。この人ドマゾだ。確信した。激しいほうが感じてる。自分でやってる時もすんごかったもんな……!
抉る勢いで爪の先も使ってこてんぱんに圧してやった。もう再生できないんじゃないかってくらい、押し込んで、ガリガリ潰して、息つく間もなく口で吸い出してまた復活させた。
あまりの凌辱っぷりに課長はもう何回イッてるのかもわからない。ズボンもパンツも履いたままだからさすがに沁みてきた。気付いているぞと言わんばかりに服の上から揉みしだいて羞恥を煽る。
課長は「ああ~~~ッ」と悲鳴を上げてなんと腰を浮かせている。俺に差し出しているのだ。股間を。全部脱がして竿同士で触れ合った。課長、それを首だけ起こして確認すると、「あ、あ」と声を漏らしながら自分から擦ってくる。
もうこれは俺の勘違いじゃないよな? 課長、俺に手を出されたがってるよな?
二本を一緒に手の平に握り込んで擦り上げた。課長が俺の肩に手を回して引き寄せてくる。心臓飛び出るかと思った。可愛すぎる! 可愛すぎるッ……!
「みや、みや、イくっ、イくぅ」
「いいよ、どっちでイく?」
「ふぁああああ」
同時に乳首をピンピン弾いてわけわからなくする。どちらにしろ俺の手でイくんだ。お前は、俺に、可愛がっていた部下に、イかされるんだッ…………!
「あぅあ~~~~~!!!」
「…………ッ!!」
藤野課長が俺をきつく抱き締める。頭から力が抜けて、どろりと脳髄が垂れるような感覚だった。本当に、魂が身体のどこかから漏れ出しているのかと思うくらいの虚脱感。
俺は抱き返すこともできず、課長に全体重をかけてくたばった。ビクンンビクンと密着した身体から跳ねる振動が伝わってくる。愛おしくて、たまらなくて、ようやく頭を抱き込んだ。
可愛い…………上司なのに……中年男、なのに…………綺麗で、細くて、エロくて……放っておけない…………護りたい…………。
「あ、すまないっ……」
急に課長が慌てて俺の下から這い出る。できれば一生抱き締め合っていたかったんだけど。俺は起き上がる気力もなくて、寝そべった状態で横に座る課長を見つめた。
部屋着の上だけ着た状態で、体育座りをして、顔を隠してしまっている。
「こんな体力使ったの、はじめて」
「そうだよなっ……すまなかった」
どうして謝るのだろう。俺、最高に愉しんだのに。
もう一度抱き締めたくて手を伸ばすと、指先が課長の乳首を掠った。課長は声にならない悲鳴を上げる。チョンと触れただけなのに、胸元を抑えてベッドの端まで後ずさる。
「課長…………?」
「少し休むといい、無理をさせた!」
「無理なんて、別に……」
ああ、課長を抱き枕にして、お昼寝、したかったなあ……。
いそいそとトイレにこもってしまう課長を名残惜しく見つめながら、俺は心地よいまどろみに身を委ねる。
ぐらぐら。揺さぶられてハッと覚醒する。
課長の「昼食、きたぞ」の言葉に、そういえばまだ午前中だったと思い返す。朝飯食ってエッチなことして寝落ちなんて自堕落な生活を藤野課長と出来るなんて改めて考えても最高だ。ムードに任せて抱きつくけど、やんわりと手を剥がされてしまう。
「なんもしてないのに食べてばっかでいいんですかねえ」
「お前はほとんど食べてないだろ……」
じゃあお昼は課長の乳首からイッパイ食べたいです、と言いかけてやめた。課長もそう言われるであろうことを予想して、自分の失言を苦い顔で噛み潰していたから。いじめすぎもよくないもんな。こういうのは駆け引きだ。
「じゃあ朝の時と同じように、同時に食べましょっか」
「え? あ~~~~うん……そうだな……」
恥ずかしそうに顔を逸らしている。こういう態度が余計に加虐心を煽るんだって、藤野課長は永遠に気付かないんだろうな。天然で可愛い人なんだから。
課長が席に着く。俺も席に着く。(テーブルの下に座って課長の胸元をめくる)
あ、俺のお皿、もうビンビンに勃起してるや……マジで米粒余裕で三粒くらい乗るようになっちゃったなあ。嬉しい。
挨拶代わりにチュウと吸いつく。すると「ひゃっ!」と課長の身体が飛び上がって、箸がカロンと落ちてくる。拾って顔を出すと、藤野課長は涙目で歯を食いしばっていた。
「課長……? どうしたんですか?」
「いたい、んだ」
「へ……?」
「乳首が……じんじんして、ずっと熱い」
試しに指先でもう一度撫でてみる。課長の悲鳴は感じてるなんて生易しいものじゃない。本気で痛がって泣きべそをかいている。やりすぎたな、と俺は即座に後悔した。
「すみません、俺のせいで……」
「いや……」
「ちょっと吉野さん呼んで相談してみましょうか」
まさかこの状態を押してでも「乳首から食事」だなんて常識はずれな条件を強行させる会社ではない……と、信じたい。
「もしものことがあったら」と教えられていたインターホンを押してみると、吉野さんが面倒くさそうに「はい?」と応答する。
「あの、藤野課長の体調がですね……」
「乳首の痛みの件ですよね。ただいまお薬をお持ちしますので」
どうやら今この時も監視されていたらしい。俺たちの用件がわかっていたからこそ、あんなうんざりした声だったんだろうな。いや、用件がわかっていたからというより、朝っぱらからあんな爛れたことして、それを見せつけられていたんだから……のほうが正しいか。
課長もどうやら同じように考えたらしく、羞恥に絡め取られて頭を抱えている。「おっぱい出しっぱなしですよ」と指摘すると目にもとまらぬ速さで服を下ろした。
この人が俺の前で無防備になっていくの、嬉しいけど……同時になんだか、苦しい瞬間が増えていく。吉野さんにだって課長の乳首を見られたくなくって、今だって慌てて阻止した、俺のほうが複雑な気持ちなの、この人はわからないんだろうな……。
ほどなくして吉野さんが救急セットを持ってきた。体温計や包帯などすべて揃った中から、手書きのラベルが貼られた丸い容器の軟膏が課長に手渡される。
「痛み止め、腫れ止め、殺菌消毒が調合されたものです。朝晩の一日二回、適量を塗布してください」
「はあ……」
あれだけ恥ずかしがったのに、当の吉野さんは驚くほど業務的だ。町医者と話しているかのような安心感に、俺も課長も拍子抜けしている。
そんな俺たちの心を読んだように「いつものことですから」と吉野さんは独り言ちる。いつものことって、どういうことだろう……もしかしてこの地下労働を強いられるのって、俺たちがはじめてではない…………?
「一週間は藤野課長の乳首に触るのを禁止します。社員の方の健康が第一ですからね」
「それは、まあ……でも、じゃあ俺の食事は……? まさか絶食?」
「それこそ健康を害します。もちろん代替案をご用意しております」
「すでに社長にお伺いは立てておきました」と言いながら眼鏡を持ち上げる吉野さんはシゴデキすぎて惚れ惚れするほどだ。普通の業務もこなしながら、俺たちのこんな世話までしてるなんて常人じゃないだろ。あらゆる意味で。
目の前の人物に圧倒されて、俺は今自分が置かれている状況が頭から抜けつつあった。だからすぐには反応できなかった。吉野さんが言い放った【代替案】とやらに。
「それでは本日の昼食より、宮西さんには藤野課長の乳首に代わり、藤野課長の“口”から食事をしていただきます」
「えっ!?」
「そ、それって」
にわかに体温が上がる。胸がドキドキして、本当に胸ってドキドキするんだなんてアホみたいなことしか考えられなかった。だってまともに考え始めたら幸せすぎてどうにかなってしまう。これからは藤野課長の“口移し”で食事ができるなんて……!?
サッと隣を見る。藤野課長は口元を押さえて絶句している。その表情がガチの絶望なのかどうかは、顔の半分が隠れているから俺にはよくわからない。
「せっかくなので二、三回は咀嚼してから与えてあげてくださいね」
「な、なんで……!?」
「乳首より食べやすくなるんです、ペナルティ要素は残しておかないと」
いやそれが、まったくペナルティでもなんでもないんですよね~~。課長の咀嚼した食べ物を、課長が口移ししてくれるなんて……俺にとってはまったくもってご褒美でしかない。こんなにも幸せでいいのだろうか。この部屋を出た瞬間、たぶん俺は事故る。
吉野さんはどういうつもりで言っているのだろう。もうこれが俺にとってペナルティでもなんでもないの、わかっているだろうに。窺うように見つめていると、意味深に視線を合わせた後、フイッと逸らしてそっけなく部屋を出ていってしまった。
気まずい沈黙、だったのだろうと思う。だが俺は浮かれていてその気まずさにすら気付けなかった。今から課長の口移し。いまから課長とキス。乳首の時みたいに勢い余ってディープキスしまくれるかも…………。
にやあと緩む頬を両手で叩いて引き締めた。このままじゃいけない。俺、もう課長に告白したんだ。それなら流されるまま、この幸せを享受するだけじゃダメだ。
ちゃんと、課長とそういう関係になるために、向き合わなくては。
「あの、課長。昼食を再開する前に……」
「うん……?」
「一度、ちゃんとキスしておきませんか」
「は?」
間の抜けた声が響く。本気で理解していないような声色だった。
だけど完全に舞い上がった俺は、そんなことにも気づかず課長の両肩を掴む。指を食い込ませ、逃げようとする身体を手の力だけで引き留めて、グッと顔を近づけた。
「口移しがはじめてのキスなんて、ロマンチックじゃないし……オレ、思い出に残るいいキスできるように頑張るんで」
「ちょっと待て。違うだろ」
「課長、口開けて……舌、出してください……」
「待てって、お前……! やめろ!!」
グイーッ。額に手の平を押し当てられて思いっきり俺の首は仰け反る。本気の力だ。それでも照れているだけだと決めつけて顔をもとの位置に戻すと、今度はパン! と頬を張られた。
そんな……あんなデカいミスしても、課長怒らなかったのに……乳首もあんだけ舐めしゃぶっても許してくれたのに……なんで、なんでこんなに怒ってるんだよ……?
「違うだろう? 私とお前は……そういう関係じゃない」
「えっ?」
今度は俺が素っ頓狂な声を上げた。さっき俺に「キスしよう」と言われた時の課長の声の響きとよく似ていた。そこで俺は、自分の愚かさを思い知ることになる。
「どうしてわざわざキスする必要がある。吉野さんに言われたのは『口からの食事』だ」
「だって……課長、乳首……ヨかった、っスよね……?」
「…………会社命令で仕方なく好きにさせていただけだ。キスなんて必要ない」
ガツンと、ハンマーで頭を横殴りにされた気分だった。
この人はまだそんなところにいるのか。部下に乳首を弄られるのもあくまで会社命令のためであって。オナニーまで一緒にしたのに、あれも業務の内ってことかよ? 「乳首こんなに感じるのバラさないで」って泣いて頼んできたくせに、人格違いすぎるだろう……!?
言葉を失った俺は、しばらく課長とともにフリーズしていた。
俺、もうすっかり課長と恋人同士のような気分でいたのに。ここにきてまさかの拒絶? 望んでいない天然発動? ふりだし?
ぐるぐるする頭で懸命に考えた。ここから巻き返す手はあるのか。何はともあれ、課長が俺に口移しで食事をさせないといけないという事実は変わらない。ただの部下と上司から乳首をチュパチュパできるまでになったんだ、口だってなんとかできるかもしれない。
俺は下心を隠して、ようやく課長の腕を解放する。
「わかりました。じゃあ食事を再開しましょう」
「……ああ。言っておくが唇はつけないからな。お前が下で口を開けて待っているんだ。私が上から落とす」
「はあい……」
なんだか急に強気だな。そこまで俺とキスしたくないのか……。
先程のショックの余韻が抜けないが、ともあれ課長には咀嚼まで課せられている。課長の唾付きご飯が食べられるという保証は揺るがないのだ、ここは焦らずにいこう。
課長が米を口に含む。「俺にくれるならちゃんと咀嚼してくださいよ」と口を挟むと、ムッとした顔で面倒そうに頷かれた。もぐもぐと数回噛み砕いた後で……課長は自分の顔の下を指さす。
しゃがみこんであーんと口を開けると、課長も頭を下げて近付いてきた。それでも到底唇は触れない10センチほどの距離で、白い塊が課長の口から落ちてくる。
「んぐ」
キャッチできた。うまいもんだ。舌に乗せてまずは吸った。バレないように。課長の唾を吸引して、味わいながらゆっっっっくりと飲み干した。搾りかすの米粒は数回咀嚼して適当に飲み込んだ。明らかに俺のメインは米ではなく課長の唾液だ。
なんか、口中が甘い気がする……美味い……米粒よりもだんぜん甘くて……頬の内側も喉の奥も悦びに萌えている……。
「次は何が食べたい?」
課長は自分の咀嚼したものを俺が味わう様を見ていられないのか、誤魔化すようにそう聞いてくる。伸び上がって食卓を確認すると、ふたたび定位置の課長の膝の間に戻る。まるでワンコだ。
「サラダで」
「わかった」
レタスとトマトを一息に口に含んでくれる課長。俺の栄養バランス考えていろいろ食べさせてくれるのマジ感動。緑の赤の綺麗なコントラストが、てらてらと透明の液体に塗れて俺の口の中に落ちてくる……。
俺は驚愕した。美味い。美味すぎる。
まず前提として、俺は野菜が大嫌いだ。葉物も果実も根菜もすべてダメで、普通の料理に入っているものならまあなんてことないが、生野菜のオンパレードであるサラダはいつも食べない。飲食店でセット価格になっていたって購入することはないのだ。
その俺がまさか生野菜を美味しく感じるだなんて。どうしても食べなきゃいけない場面かつごまだれドレッシングがかかっていればギリ……という感じだったのに、今や課長の咀嚼によってドレッシングもほとんど洗い流された状態でまさに「素」の状態でお出しされた生野菜なのに……やはり、甘みが染み渡ってくる。これが恋の味なのか?
世界一美味しいドレッシングを見つけてしまった。敬愛する藤野課長の唾液ドレッシングだ。発売されたら絶対に一生分買いだめするけど、他の奴に味わってほしくないからやっぱり俺にだけこうして欲しい……。
夢見心地で課長の横顔を眺めながら今度は何度も咀嚼する。「生野菜食べれないって言ってなかったか?」なんてとぼけてる課長、わかって言っているのだろうか。ああもう可愛くて憎らしい。
次はハンバーグをお願いした。分厚くてデミグラスソースがかかっている豪華なものだ。先ほどから良い匂いに食欲を刺激されていた。
肉を咀嚼して分け与えてもらえるなんて、なんだかエロスだよな……ああ、牛さんだか豚さんだかわかんないけどごめんなさい。お前らの肉をダシにして俺、課長に口移ししてもらっちゃいます♡
「あ……」
肉の塊が落ちてくると同時に課長の声が漏れた。そして俺は見た。肉を追いかけるようにして、だらりと垂れてくる大量の課長の涎の雫を。
ボタボタボタボタ! 一滴逃さず受け止めた。肉の味は強いのに、課長の味のほうが勝ってる……課長の唾液がなにしろ大量で、何より俺がそちらに神経を集中させているから。ああ美味しい。美味しいのハーモニーが俺の口の中で繰り広げられている。
課長は濡れた口元を慌てて袖で拭う。恥ずかしそうに唇を噛んで、それでもどこか蕩けた瞳で俺の口元を見つめている。……そっか。
「ハンバーグ。美味しすぎてヨダレいっぱい出ちゃったんですね」
「う…………」
「課長も食べてください。俺、少し待っているので」
あまりの旨みに唾液腺が勝手に反応してしまったのだろう。生理現象をもろに喰らってしまったが、俺にとってはラッキーでしかない。まだ課長の味を惜しんで少しだけ唾液を口内に残してある。肉はとっくに喉の奥に流してしまったが。
課長はハンバーグ好きなのかな。子どもみたいで意外だけどやっぱり可愛い。
「すまない」と小声で呟いてハンバーグにがっつく課長。俺を待たせているのを気にしているのだろうか。いいのに。課長が食べてる姿を見ているだけで、俺お腹いっぱいになれちゃうのに。
半分ほど平らげた時点で、課長が念入りに口を拭いてじっと俺を見つめる。俺の食事を再開してくれるのか。ドキドキしながら課長の椅子の横に跪いた。上を向いて口を開ける。課長はなぜだか蕩けた瞳をして、俺の目を見つめながらもぐもぐと咀嚼している。
べ。ぼとりと肉の塊が落ちてきて、舌先から涎も滴る。俺はそれを伸ばした舌で迎えて、唾液と肉をジュルジュルとやかましく啜った。
課長が俺を見ている。舌をしまうのも忘れて、息を弾ませながら……。
俺も課長から目が離せない。惰性で咀嚼しながらも味なんて全然しなかった。ごく、と俺の飲み下す音が際立つ。課長はふらあと目を逸らして、またハンバーグを俺のために咀嚼してくれている。
「課長。肉と白飯一緒に食いたいです」
「ん……」
課長は怒るでもなく、軽く頷きながら肉を落としてくれた。続いて白米も咀嚼して与えてくれる。……大量の唾液とともに。俺は肉と白飯を口に残したまま、あえて唾液を先に飲んだ。ごくっ、ぷはー。課長の太腿が、震えている。
そこに手を置くとびくりと震えて、みるみるうちに股間が膨らんでいく。二人してそれを目撃して、課長はもう誤魔化せるわけもない。俺から守るように手で覆って、半分だけ背中を向ける。
「興奮してるの?」
「し……してない」
「美味しいよ。もっと…………」
舌を伸ばして目を閉じる。するとなんと、どろりと唾液だけが垂れ落ちてくる。もごもごと舌で転がして、口内中に行き渡らせた後でゆっくりと飲み下した。課長が舌なめずりする。勃起がひどくなってる。
「課長…………そんなに俺に唾飲ませたいの?」
「あ、あっ…………」
太腿を両手で撫でさすって背を伸ばすと、課長は慌てて箸を持った。どうやら無意識だったらしい。俺の手の平が薄い大腿筋を往復すると、ピク、ピクと小刻みに跳ねる。落とした箸を両手で丁寧に持たせてやって、そのまま手の平をいやらしく撫でてみる。
「あ……ダメ……」
「箸、拾っただけですよ?」
「ごめ、」
「ヨダレいっぱい出てもいいですから、食べさせて」
「…………うん」
今度はサラダがきた。相変わらずドレッシングはすべて課長の口内に置き去りにされているけど、噛み砕かれた繊維にはべっとりと課長のドレッシングが絡みついている。
自分の唾液を啜って激しい水音を立てた。まるで課長の唾液が過剰に多かったかのように演出したのだ。そうすると課長はごく、と唾を飲んで、また小さく「ごめ」と口走る。
「なんで謝るんですか?」
「その、私、ツバ…………」
「気にしてないですよ。ただ……」
手を課長の内股に少しだけ寄せる。小さく息が乱れたのを聞き逃さず、ほんのりと微笑む。課長、緊張してる。だけど俺が何を言うかが気になって、俺から目が離せないみたい……。
「やっぱり、ぼとって落とされるのさみしいなあ……唇くっつけたらダメ?」
「ダメ、っ」
「そう……じゃあ」
激しく首を横に振る課長をなだめるように両手を握ってやった。ハッとした顔が改めて俺の瞳を見下ろす。すべての指を恋人みたいに絡めて柔く握る。
課長、体温高い。熱があるみたいだ。思わず笑みがこぼれてしまう。なんて可愛い人なんだ。……絶対にオトしたい。
「食べている間、こうやって手を握っててください。そうしたらさみしくないので」
「あ……え……」
「お願いします」
飢えた子犬のようなイメージで、目を大きく開いて見上げる。課長の顔がくしゃっと歪んで、みるみるうちに顔が赤くなった。もう耳まで染まっている。可愛い。可愛いな。
思いを込めて互いの両手の平をすり合わせるように動かすと、課長は顔を逸らして、ようやく、頷いてくれた。
「なら……準備、するから」
「はい」
するりと課長の手が抜けていく。俺はおとなしく課長がハンバーグを口に入れるのを見守った。咀嚼が始まると、すぐさま自由になった両手を捕まえて、いやらしく擦り合わせた。
咎めるような目つきで見返されるが、そんな潤んだ瞳ではまったく怖くない。じきに肉が落ちてくる。遅れて、唾液も。最後の一滴までとろりと舌を滑るのを待って咀嚼した。
課長の手を握る力をだんだん強くしていく。もちろん視線は通い合わせたままで。課長の口を通った食べ物と、課長の唾液をたっぷりと味わいながら、手を握る……甘美な時間に酔いしれながら、ごくりと飲み下した。「ぷはあ、」と息をついて最大限に手に力を込める。課長からも、少し握ってきてる。
なんだか、なんだろう……ものすごく、エロスだ。
「課長、美味しい……」
「……よかったな」
「時間がかかってもいいから、もっと咀嚼してください? 吉野さんに怒られちゃいますよ」
「う……そう、だな……」
食べ物の味や噛み応えがなくなってもいい。
もっと課長の唾液が欲しい。味わいたい。
食事が終わって互いに入浴を済ませる。課長が脱衣所から出てくると、待ち構えていた俺はすかさずソファから飛び起きた。その勢いに課長は面食らったような顔で硬直する。
「な、なんだ」
「遅いですよ」
「先に寝ていればいいだろう」
「いえ。俺にはまだ一つ、重要な仕事が残されているので」
そう言って机の上のものを手に取れば、課長は一瞬ですべてを察したようだ。真っ赤な顔を腕で隠して後ずさる。
俺の手の中にある円柱形の容器。手の平で握り込めば隠してしまえそうなその小さな容器が、俺と課長の命綱であることは言うまでもない。
「これ。朝と寝る前に塗るようにって吉野さんに言われてましたよね」
「ああ……塗る。こちらに渡してくれ」
「俺が塗ります」
悪あがきを笑顔でかき消してやった。俺は悪意がないフリをするのが得意だ。もちろん今の俺には本当に善意しかない。課長の乳首を痛めつけたのは俺だ。俺が責任を持って治してあげないといけない。
悪意……はないけど、下心なら、おおいにある。
蓋を開けて人差し指に適量を取る。課長はグッと唇を噛んで、俺が近寄ると完全に下を向いてしまう。
「からかって、いるんだろう……?」
「違います。俺のせいなんだから俺に塗らせてください」
「ヒリヒリするんだ、まだ」
「ですから俺が、やさしく、塗りますから」
薬をスタンバイしているのとは反対の手で、だらりと下がった手を握り込む。励ますように包み込んで柔く握った。食事の時と同じように、俺の体温を伝えてみる。
禁止されているけど、課長の乳首、触りたいです。少しだけだから。お願い、出してください。
そんな俺の気持ちが通じたかのように、課長は繋いでいない方の手で、もたもたパジャマのボタンを外してくれる。俺の手を払って両手で脱げばいいのに、繋いだままなのはどうしてなんだろう……期待、してしまう……。
「はあ……宮西……」
白い肌着から僅かに乳首のピンクが透けている。俺が胸元に釘付けなのを、課長が見ている気配がする。呆れられている。全然いい。見せてもらえるのなら。
「やさしく、してほしい……」
「し、します! 痛いんですもんね! 塗るだけですから!!」
「頼むぞ」
ついに課長の手によって肌着がめくられた。
半日ぶりの課長の乳首……すでにツンと勃起して、こころなしか少し腫れているように見える……おいたわしや……全部、俺のせいなんですけど。
柄にもなく震える指。課長が痛くないように。痛くないように。軟膏ごしに、そっと先っぽに触れた。「ンッ……」とくぐもった声が漏れて、慌てて離す。
「大丈夫ですか?」
「ああ、冷たくて気持ちいい……大丈夫だ」
今のは冷たくて驚いたのか。課長に「気持ちいい」って言ってもらえるなんて、いいな~~~~お前。指に残った白い塊を羨みながらもう一度触れた。今度は乳首の周り、乳輪に塗り広げるように丸を描く。
課長が息を詰めている。今さら我慢しなくてもいいのに。痛いほど握られている手の力が愛おしくて仕方なくて、あやすようにニギニギしてやる。そうしてついにその突起に少し力を込めて塗り込んだ。
「アッ……」
「はあ…………」
課長の乳首。俺が指で弄って舌で吸いまくって痛めつけた乳首。やっぱり少し熱を持ってる。ごめんなさい。けど俺、こんな場面でもドキドキして……嬉しくて……つい指先に力がこもる。
下から上に緩く押し潰して往復する。繋いでいた手が振りほどかれて、課長の手が縋るように俺の腕を握ってくる。もう一度手を取って、指を絡めた。
「痛い? でもしっかり塗り込まないと」
「も、いい……」
「まだ白いの残っていますよ」
「ああ……ッン……」
膨らみの感触を確かめるようにゆっくりと塗り込む。ああ、早く治ってくれ。また指に挟んでクリクリしてやりたい。思いっきり引っ張って鳴かせたい。夜じゅう口の中に含んで、味わいたい…………。
「みゃ、にし、もう」
「ン……じゃあ反対も」
「えぇ……」
今度はちゃっかり反対の手を繋いで、同じように塗り込んだ。最初は痛がるけど、塗り込み始めると快感もあるらしく、課長も素直に感じているようだった。俺の胸にもたれて脱力してくるのが可愛くて、つい強めに弾いてしまう。
「いや……いたいぃ……」
「ごめんなさい、つい……最後に仕上げしますね」
「あぁう~~」
繋いだ手を離して、両手の人差し指で両乳首を押す。痛くないように、押し込んだ状態でゆっくりと動かして……最後までその感触を愉しむ。耐え切れなくなったのか、課長がずるりと床に落ちてしまったので、慌てて助け起こした。
「終わりにしましょう」
「ばか~~~」
「ごめんなさい。頑張りましたね、えらいえらい」
衝動的に胸の中に抱き締めて、頭をよしよししてしまった。およそ上司に対する態度ではない。だって課長、子どものように泣きじゃくって叩いてくるから、庇護欲が天元突破してしまって。
頭を抱き込んで、まだ少し濡れた髪をずっと撫でていた。やがて課長の腕が俺の背中を抱き返してくれたから、嬉しくて、心臓壊れそうで、もっともっと強く抱き寄せた。
この人、俺を殺す気だろうか。なんでこんなに可愛いの。ヤバイ。
「朝も俺が塗りますからね。勝手に塗っちゃダメですよ……」
「やだ……」
「やだじゃないの。俺が責任とります。とりますから」
マジでこの人に対する責任全部取らせて欲しい。だからメチャクチャにさせてほしい。こんなふうに甘やかして、もっとトロトロにして、俺ナシじゃいられない身体にしてやりたい。乳首も、唇も、全身俺のモノにして……毎晩、チンポハメまくって……休日はデートして……笑い合って……夜はまたエッチして…………
俺、この人の、恋人に、なりたい…………。
昨晩の形のままで目覚めた。俺が課長を後ろから抱き締めて、お腹で手を組み、その上から課長が手をかぶせているというラブラブカップルも真っ青の体勢。どうしてこうなったかというと、俺がいつも通り乳首弄るモードになって後ろから迫ったところで課長に怒られて、すぐさま切り替えたのだ。
「じゃあ朝まで抱き締めていいですか」「俺の手が悪さしないように課長がずっと握ってて」そんなふうに言いくるめて本当に一晩中こうしていた。幸せだった。くっついて眠れることもだけど、何より課長が俺を受け容れてくれたことが。
「ン~~課長……藤野課長」
「ん……?」
うなじに鼻先を埋めて擦り付ける。寝起きの課長、お日様の匂いがする。もう陽射しなんてずっと浴びていないのに。課長は寝ぼけていて何をサレているかまだわかってないみたいだ。めいっぱい嗅ぎまくって、マーキングするみたいに頬を擦り付けてから、満足してベッドを出た。
軟膏を持ってきてすぐに逆戻り。課長の肌着をめくって軟膏を乳首に付けた。刺激にならない程度に……きわめて弱い力で両乳首に塗り込める。課長がむずがって甘い声を漏らす。抵抗は弱い。そのままもうちょっと寝ぼけていてくれ。
「ふぁ、アッ……あ、あン、アァ、ンッ……」
「痛くない? いい子だね……」
「みゃ、み、や」
「ああ好き…………好き、愛してます……本当はもっと、メチャクチャにしたい」
「ああ、あっ、アッ」
課長の脚の間に膝を割り込ませると、ぎゅっと締め付けてくる。もう起きてるじゃん……それでも好きにさせてくれるの……可愛くて、つい指に挟んでコネコネしてしまう。
「気持ちいい? ホントはダメなんですよ、乳首禁止なのに」
「ふァン……アッアッ……いゃ、ン、みや、」
「終わり。続きは治ったらね」
指を外して肌着を下げても、課長は小刻みに震えて動かない。身体がメチャクチャ熱い。俺と同じように興奮してくれてるのかな。耳の付け根にキスすると「ひゃんっ」と叫んでさらに小さく縮んでしまった。
「朝ご飯きてる。先に食べてください」
「あ……うん」
食卓にはサンドイッチが並んでいる。これなら野菜も肉も一気に摂れて効率がいいな。……チェッ。ここでの食事の効率なんて、悪ければ悪いほどいいのに。なんて世にも珍しいクレームは心の中に留めつつ席に着いた。(俺の場合の「席に着く」とは課長の足元に座り込んで課長を見上げるの意だ)
課長はおぼつかない足元で椅子に座る。頬は上気して、目は虚ろで……もしかして本当に熱がある? ふと心配になって手を握るが、それだけでは判断がつかない。課長は俺の手を振りほどこうともせず、俯いたままだし。なんだか昨日から反応が鈍いんだよな……。
「課長。ちょっといいですか?」
「へっ」
ぴと。立ち上がって、中腰で課長と自分の額を合わせた。
やっぱり課長のほうが若干熱い……けど、温い程度だ。発熱というほどではなさそう。寝起きでボーッとしているだけかな。安心して顔を離すと、課長は目を白黒させて「え」「えっ」と息を乱している。
「早く食べましょう?」と促すと、慌ててサンドイッチを口に詰め込んでいく。そんなに急がなくてもいいのに。思いながら口は出さなかった。俺に早く食べさせてやろうと焦って食べる姿、可愛い。俺に説教されるからって頑張って全部食べてるのもいじらしい。俺、いじわるかな。
食べ終わると苦しそうにトントンと胸を叩いている。焦りすぎだよ。小さな子どもにするように背中をさすってやった。
「ちゃんと飲み物飲んでください。注ぎますよ。どれにしますか?」
「えっ……」
食卓に並ぶのはオレンジジュースにミルクに、紅茶のティーバッグ。今朝は洋風とあって選択肢が豊富だ。俺はどれにしよっかな。考えつつ、課長の傍らに立つ。それなのに課長は食卓には目もやらず、なぜだか蕩けた瞳で俺を見上げ続けているではないか。
「課長?」
「あ、その……み、宮西は、どれがいい?」
「えっ?」
今は課長の飲みたいものを用意しようとしているのだが。あからさまに困惑する俺の顔を見て、課長は何か言いたげに唇を開く。だけど結局口ごもって、また俯いてしまって……その様子がやけに扇情的で、俺は気付いたらふたたび課長の背中を撫でていた。
「どういう意味ですか?」
「えっと、その……」
この人のことだからきっと何か意図があるはずだ。最近それもわかるようになってきて、仕事も円滑になり、いいコンビだと取引先にも褒められ浮かれていたけど……今はどれだけ考えたって、課長の言葉の意味がわからない。
課長は口元を手で隠して、こくり、唾を飲み込んだようだ。そんな些細な音に耳を澄まして答えを待つ。ややあって、決心したように、課長が小声で白状した。
「ツバの味が、変わるから……宮西、どれがいいのかなって……」
「え!」
ツバの味が変わるからって……え、課長の……課長の唾の味が変わるから、俺の好みの味にしようとしてくれてるってこと!?!?!? 理解した途端にバクンと心臓が脈打つ。いや撃たれたのかもしれない。今のはそういう類の衝撃だった。
そうだ、口移しだから、今から俺が食べるサンドイッチは課長の口の中の味になるんだよな……そんなの気にしたこともなかった。今まではお茶か水だったから、わりと純粋な課長の唾液の味を愉しめたといえよう。
今日はオレンジジュースかミルクか……紅茶は苦いから却下だが、柑橘系の課長のツバ、いいな…………マイルドなミルク風味も捨てがたい…………グッ、悩ましい……こんな難問、超ハイレベルな入社試験の時でも、難関校受験の時ですらなかったぞ!?
「か、柑橘系で……!」
「えっと、あー……オレンジジュースのことか……?」
「は、ハイ! オレンジジュースがいいです!」
僅差で柑橘系が勝った。というかオレンジジュースがいいですってなんだ俺よ。柑橘系の課長のツバを所望しているのがバレバレではないか。
まあ課長だってそういう意味で聞いたんだもんな……自分の飲みたいものより、俺い与える唾液の味を気にするなんて、本当やさしすぎる……いや、やさしいのか? これ……なんか頭おかしくなってきたかも。俺も、課長も。
「じゃあ……」
課長がごくごくとオレンジジュースを喉に流し込む。一息で飲み干して、俺の分の皿に手を伸ばした。大きな一口も、俺の空腹に気を遣ってのことだろう。いそいそと寄り添って、あーんと口を開ける。
落ちてきた。俺のサンドイッチ、と、課長の唾液。ああ、ちょっとすっぱくてほのかにオレンジの風味が……なんかすげえエロい気持ちになるな、これ…………課長が食べたものがじかに俺の味覚を刺激してくるの……繋がってるって、感じだ……。
うお、パンからも課長の唾液が染み出てくる……!音が立たないようにジュウジュウと口の中で吸いまくる。そんでカチカチになったパンを適当に噛み砕いて喉に流し込んだ。具の味? 知らん。それより課長のオレンジ味のツバもう一回飲みたい。
「課長、もう一回オレンジジュース飲んでからサンドイッチください」
「え……あ、ああ、わかった……」
多分一口ずつ要求することになるので「口を湿らす程度でいいです」と断っておく。課長の瞳はますます潤み、咀嚼している間も、俺の口元をぼうっと見つめている。
「おほふほ(落とすぞ)……」
「ハイ、お願いします」
いやらしく舌を伸ばして先っぽをクイクイと誘導するように動かす。ビチャ。サンドイッチの塊が落ちてきた。……ただし、口の中にではない。俺の唇も舌も掠らない、俺の鼻筋に。
一瞬何が起こったかわからなかった。課長が目を見開いて俺の顔に手を伸ばしてきたので、反射的にその手を取った。
「ごめ、宮西っ、外したっ」
「大丈夫ですから! 課長、これ口に戻して……それで改めて俺の口にください?」
「え……」
「口で与えなきゃでしょ? 手で触ったらノーカンになっちゃうから」
「あ、う、あ、わ、かった」
課長は動揺している。当然か。自分がグチャッと噛み砕いたものを部下の顔面のド真ん中にぶちまけてしまったのだ。正直汚らしい見た目になっていると思うが、俺はいっこうに気にしていない。むしろ……いや、みなまで言わすな。わかるな?
とにかく俺はそんな課長の慌てっぷりに付け込んで法外な要求をした。間違えて俺の鼻の上に落ちたサンドイッチを口で回収しろという言葉を、課長は何の疑いもなく受け入れたようだ。あーんと口を開けて近付いてくる。
はぷっ。
濡れた唇に鼻筋をねとりと覆われて、俺は思わず吐息を漏らした。せっかく課長とすごく近いのに、緊張して目をきつく閉じてしまう。離れるのが惜しくて手探りで手首を掴むと、唇を指でなぞられる。そんなわけないのに、俺の心臓は今度こそ飛び出してどっかいっちゃいそうになった。
反射的に口を開ける。そして課長の吐息を感じる距離で、サンドイッチが口の中に入ってきた。とろりとオレンジ味の唾液が後を追って滑り落ち、俺はごくごくとそのまま飲み込む。味わいたかったけど、至近距離でそれはさすがに気が引けた。
まだ、課長の吐息が鼻の下にかかっている。近い。なんでそんなにも近くで俺の咀嚼見てるの。俺としたことが、まだ目を開けられない。
ドッ。限界は突然きた。俺は課長の唇の位置におおよそのアタリをつけてチュッと啄む。一瞬の触れ合いに……途端に課長の呼吸が爆発する。泣いているみたいにしゃくりあげているから慌てて目を開くと、わなわなと唇を震わせながら、正真正銘、泣いていた。
「す、すみませ、課長」
「いや……私こそ……すまない、汚してしまった」
手元にあったナプキンを手に取り、俺の鼻の上をやさしく拭ってくれる。母のようにやさしいその手つきに、俺の頭はまた熱暴走する。いけないって。泣かせてしまったのに。でも、でも。俺まで呼吸が震えてしまう。
課長は鼻を拭き終わると、今度は俺の口元も手で拭ってくれた。汚れていたのかな。もしかしてヨダレ垂れていたかもしれない。課長とキスできたのが、嬉しすぎて。
ヤバイ。目が合わせられない。怒っているかな。いやでもさっき謝罪した時に課長もなぜか謝罪してきたし。俺の鼻汚すくらい全然いいのに。むしろもっと汚して……。
「次からはもっと近くで受け渡しする」
「あ……ハイ」
「こっち、座ってくれ」
隣の椅子に勧められるままに腰掛けた。どうやら俺はもう課長の足元に跪いて、上を向き口を開けてスタンバイしていなくてもいいらしい。これってランクアップか? 一体どのくらいの距離でくれるんだ!?
課長は律義にオレンジジュースを一口流し込んでから俺のサンドイッチを咀嚼する。そしてなんと俺の肩に両手をかけてきたではないか。
「ふぉあ(ほら)……」
「あ、あ、あ」
課長が、ほとんどキスの体勢で、サンドイッチの塊を舌で押し出して……俺を、見つめている……………………。
あまりに倒錯的な光景に目眩を起こして首がかくんと下がる。いやクラクラしている場合じゃない。課長と疑似キスできる一世一代のチャンスぞ、俺。
課長の目を見つめ返して唇を開く。サンドイッチを挟んで、取ろうとすると……安定していないから床に落ちそうになる。咄嗟にお互い舌を伸ばして支えた。
舌先が、触れ合った。
「あ……」
俺は動けなかった。いや、動きたくなかったんだ。俺も課長の肩を掴んで、そのまま数秒間停止した。俺から舌を動かさなければキスにはカウントされないと思ったから。今触れ合っているのはこれは事故だから。せめてこの瞬間が長く続くようにと、課長の感触を舌先で感じながら、じんと噛み締めていた。
柔らかいのに、硬く尖らせていて……自分はすでに特殊な形の愛撫を受けているのではないかと卑猥な気分になる。力が入ったその舌先で、自分の舌どころか股間を舐められているような感覚に襲われて、触れてもいないのにエレクトする。
ああ、せめてこのまま唇を塞いでこの舌吸いまくりたいナア。でも、そんな妄想は妄想だけでいい。妄想だけでヌける。思い浮かべると息が荒くなって、やがて課長が居心地悪そうに目を逸らして俺の肩を押した。
事故で触れ合った舌先から、銀糸が、垂れ落ちる。
「課長、俺……」
「宮西……もっと、近くで受け渡さないと……危なかったな」
「は、はい……!」
あれより近いってことは、もしかして。
押し寄せる期待を唾液と一緒に飲み込んで、課長の咀嚼をじっとりと見つめる。次は一体どんなに近くで……あ、課長、オレンジジュース飲んでない……生のツバの味、するんだろうな…………。
課長がまた俺の肩を持つ。俺も、課長の肩に手を置く。傍から見れば完全にキスするであろう体勢で、俺たちは角度をつけて唇を…………
くっつけた。
くっついた、のだ。俺は寸止めにした。だけど課長が唇で飛び込んできて、隙間が無くなるくらいにくっついた。サンドイッチの塊が移動してくる。だけどそんなのお構いなしに、俺は課長の唇を感じるために、ムチムチと動かして、課長の肩をひたすら強く掴む。
それから、ただの口移しでは説明のつかないような長い時間が流れた。体感は数十秒だったけど、たぶん二分くらい経ってた。だって課長のヨダレで俺、溺れそうだった。ごくごく飲んで、そのたびに課長の目が蕩けていって、だけど二人ともそれ以上にアクションはしなくて……ただ、見つめ合って、少しだけ唇を動かして、互いを挑発していた。
俺が先にその誘惑に負けた。自らその甘美な時間を終わらせて、睨みつけるほどに強く課長の瞳を覗き込む。色素の薄い課長の虹彩はもうとっくに蕩けて、原形を失っている。
「課長、俺……もう我慢できない」
「…………」
「いい?」
最初の時みたいに、怒られるのも覚悟してた。だけど課長は何も言わず、それどころか薄く唇を開いて目を閉じるものだから……!
ここまできたらおれの勘違いじゃないよな? キス、してもいいんだよな!?
飢えた野獣のように、ぱくりとかぶりついた。唇の感触が恋しかった。いっぱい味わいたい。チュパチュパと弾いては何度でもくっつける。課長は嫌がらない。それどころか俺の首の後ろに手を回して、こころなしか引き寄せてくる。
漫画だったら絶対俺の全身からハートマーク出てたと思う。それくらいご機嫌でしつこく課長の唇を味わった。薄くて存在感ないのが儚げだ。たけどちゃんと柔らかくて……それにすごく熱い。震えるような吐息を感じてたまらない。
このまま先に進んでしまいたかったけど、課長があまりにも大人しいから、また泣かせてしまうかもと怖くてそれだけで口を離した。課長は俺をポーッと見つめた後で「あ」と気付いたように、また、サンドイッチを咀嚼する。そして大胆にも、べ、と見せつけるように舌先に乗せて差し出してきた。
当然、俺はむしゃぶりついた。サンドイッチに、課長の舌ごと。
グチャグチャグチャ。俺の舌によって課長の口内でサンドイッチがグチャグチャになる。俺が食べさせてもらう予定だったのに。課長の手はいつの間にか俺の胸元に移動してギュッて服を掴んできていたから、慌てて中身を舌で回収する。
飲み込んだ。味なんてしなかった。それより課長。課長とキスしてる。この間も唇は一切離さず、わずかに残る卵ペーストを塗り広げるように、課長の口内をくまなく舐め回した。
ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ。止まんねぇ。腰を抱き寄せて舌を絡ませる。課長はされるがままだ。上の歯茎をぬとぬとと舐めて、同じ動きで腰を撫でまわす。そうすると身体が硬くなって緊張が伝わってきた。可愛い。こんなの絶対誰にも渡したくない。
俺はどうしても聞きたくて、唐突に唇を離した。課長が飲み損ねたヨダレが垂れ落ちる。驚いた表情の課長にまたグッと顔を近づけて、耳元で囁いた。
「もしかしてキス……はじめて?」
「あっ」
「はじめてで玉子グチャグチャのキスがしたかったの? 変態」
ゾクゾクゾクッ。抱き込んだ背から課長の衝動が伝わってきて、俺までゾクゾクしてしまった。もっと変態なことしたい。変態は俺だ。けど、課長も変態って言われて喜んでる。俺にツナサンド詰め込まれても、体勢変えずにポーッと俺の口見つめてる。
「モグモグして」
「ン……」
言われた通りに、目を伏せて咀嚼する課長。俺が両頬を包んで顔を上げさせると、サンドイッチを舌先に乗せて献上しつつ、ツナまみれの口内をあーんと見せつけてきた。
あーもう。ヤバイって。どうしよう。勃起収まらねェ。クセになったらどうしよう。こんなプレイして、メシ食うたび好きな人とのキス思い出すようになっちゃったらとかそれどんな拷問? 一生ムラムラしてなきゃダメじゃん。
今後の自分の人生に危機感を覚えつつ、それでも今目の前にぶら下がっているエサを無視できない。つくづく俺って愚か者だ。
大きく口を開けて、また、かぶりついた。視覚的暴力がすごいので目は閉じた。それでも課長の中で混ざるツナの味と感触が、背徳的で……レタスなんてもう、もともと嫌いなもんだから邪魔でしかなく、課長の口に押し込んで退かした。「食べて」って言ったら唇が触れたまま咀嚼して、俺の目を見つめてきて…………なんでこんなにも従順なの、射精しそう……。
「ん……おいしー」
「……っ」
視線が通い合った状態で舌なめずりして見せると、真っ赤になって俯いてしまう。愛しさが爆発して抱き締めた。強く、強く。俺が頬ずりすると課長もわずかに返してくれる。ようやく手に入れた。課長、俺のものだ。
愛してます。思い浮かべても言葉にはしない。しっかりと確信した今、言葉にしたら陳腐なものに成り下がってしまう気がしたから。その代わりずっとずっと離せないでいると、やがて課長が小さく身じろぎした。仕方なく少し力を緩める。課長は顔を離さず、耳元に小さく問いかけてくる。
「食事は……もういいのか?」
その甘い響きは「もっとキスして」と同義に聴こえてしまって。俺は手探りでサンドイッチを手に取って、すぐ横にある顔に食べさせた。素直に咀嚼するその口を塞いで、グチャグチャに課長の口の中で混ぜる。もう何味かもわからない。
サンドイッチは俺が飲み込んだのか、課長が飲み込んだのかもわからない。気付くと塊はなくなっていて、俺は課長の舌を強く吸い上げる。いいほどそれを繰り返してから、ちゅぽん、音を立てて離した。
「もっとか……?」
「オレンジジュース、俺も飲みたいな」
「わかった……」
課長はコップを傾けて、残っていた少しを一気に口内に迎え入れる。そうして目を伏せたまま俺を向いた。
言っておくが俺が制限されているのは食べ物のみであり飲み物は自由に摂取してもいい。自分の口で飲めるのだ。それなのに、課長はもうそんなことも忘れてしまったみたい。その細い二の腕を掴んで、当たり前のように口を塞いだ。
流れ込んでくる。こく、こく、こく。純粋なオレンジジュースとは違う、課長のツバの味の名残ににんまりとする。「美味しいよ」って口元に囁いた。お礼に唇を軽く弾いた。課長が恥ずかしそうに俯く。
「ねえ課長。俺全部食べますからね」
「……わかった」
「はい、あーんして?」
俺が課長に食べさせて、課長が俺に口移しする。そんな世にも幸せな繰り返しを続けて、サンドウィッチのお皿は見事に空になった。それでも俺と課長はキスをやめず、しばらく唇を弾き合っていた。
すごいことになった。ついに俺、この人と自由にキスする権利も得てしまった……。
ランチもディナーも同じようにキスしまくりながら済ませた。
風呂上がりには乳首をコネコネしながら薬を塗ってあげた。
そして就寝時。乳首を弄っていた流れで、俺たちはベッドに入るなり寝そべりながら向かい合って、どちらからともなく唇を重ねる。「あくまで口移しだから口はつけない」と言っていたのがウソみたいだ。今俺の腕の中にいる課長は、蕩けた瞳で俺だけを見つめて、突然キスを仕掛けても応えてくれて、舌をかき回せば同じようにして俺の舌を愛してくれる。
まるでラブラブ同棲生活だ。俺は調子に乗って、変なタイミングで強引にキスを剥がす。課長が「あっ」と切なそうな声をあげて、大量のヨダレがシーツに沁みをつくった。
「へへ。かーわい」
「あ……」
「いいよ。もっと垂らして」
薄い唇の間に指を突っ込んでかき回す。不意に垂れた一滴に俺が肯定的な態度を見せると、課長は安心したかのように蕩け顔のまま、俺を見つめてたくさん垂らしてくれた。
課長どうすんの。こんなんになっちゃって。昨日の夜からのアンタ、別人みたいだよ。ずっと俺のこと見てて。ずっとトロトロの目してて。まるで俺に恋してるみたいなそんな表情、見せられたら……俺、勘違いしちゃうよ? 勘違いじゃないの? 聞いたら課長、ちゃんと言ってくれる?
「ヘンタイだね。恋人にはこんな顔見せるの?」
いろいろな下心があってそう問いかけた。課長は力なく首を横に振る。ヨダレまみれの口元を拭おうともせずに、俺の言葉に答える。
「こういうの……はじめてで」
「へ~~~~~」
ヤベ、ニヤける。課長やっぱりはじめてだったんだ。もしかしてキスも俺がはじめて? そんなの聞くまでもない、この顔見たらね。
「こういうの」って、もう俺たち付き合ってるのかな。聞いてもいいかな。いや、ハッキリさせないほうが面白いかも。課長から言ってくれたらラッキーだし。俺の気持ちはもう伝わってるはずだ。あとは課長が決断してくれるだけ。それなら俺はあらんばかりの好意を、この人に伝え続けよう。
ビチョビチョになった顎を舐め啜る。少し伸びたヒゲの感触にゾクゾクする。課長、前髪も薄めだし、体毛も少ないし……何よりマメだから無精ひげなんて見たことなかったけど、舌で触るとさすがにわかるんだ。俺だけ。俺だけが、課長のこの感触を知ってる。
「みんな、こんないやらしいことしているのか……?」
「うーん……あんましないかも。課長ヨダレ多いよ。俺は、好きだけど」
「ああっ……」
興奮して顎に何度も吸いつく。その延長で首筋から耳にまで舌を這わせて誘惑した。もうちょっとで完全に手に入る。雲の上の人だったはずのこの人が。「ヨダレ飲まないで」「もっとこぼして」って命令すると、言うとおりにして垂れ流しにしてくれる。
まさかこんなだらしない人だったなんて……ヤバイ興奮してきた。今夜どうにかしてやろうなんて、全然そんな気はないけど……もうちょっとエロいことしてみたい。だけどうーん、この後どうすればいいんだっけ?
やり方なら知っている。これでも数え切れないほどネコを鳴かせてきた。手順はすでに十分すぎるほどに身についている。だけど対課長のこととなると、俺の脳が考えるのを拒否するのだ。
こんな上玉、あっさり抱いちゃうのはもったいない。もっと楽しみたい。付き合っているか付き合っていないのかわからないまま、だらだらイチャイチャしていたい。
幸いそれが許される環境下にいる。設けられた一ヶ月間が終わるまでにはまだたっぷりと猶予がある。それならもうちょっと遊んじゃおう。課長のこと、弄んじゃおう。
耳に何度もキスする。コクリと音がすると「ツバ飲まないで。垂れ流して」と指示する。お仕置きするみたいに、指で先ほどより乱暴に口内をかき混ぜる。課長は「あ~~~~~」と嬉しそうな声をあげて俺の指をベタベタにした。
「こういうことされるの、好き?」
「…………いや…………」
「やめる?」
「そういう……意味じゃなくて……」
やめてほしくないんだ。濡れた指で課長の顔を撫でたくって、汚れたところをくまなく舐め取る。付き合ってもいないのにこんな変態な行為……俺だって、シたことないよ。それをよりにもよってあの清廉な藤野課長と。奇跡としかいいようがない。
課長は「あぁああん」と高い声をあげて悦んでいる。ちゅぱ、ちゅぱと強めに唇を弾いて、さりげなく脚を絡めた。ぎくりと細い身体が硬直する。
「どうしたの?」
「…………どうも、しない」
「可愛いですね」
抱き締めて頬ずりすると、にわかに課長が拒否し始めた。俺の頬を肘で押して逃れようとしてくる。さっきまでトロトロだったのにどうしたんだよ。逃がさないとばかりに脚をきつく締めて腰を撫でまわした。課長はみるみるうちに脱力するが、俺に顔を近づけられないように懸命にいやいやしている。
「くっつくの、いやですか?」
「……ツバまみれだから、あ、洗いたい」
「そんなこと気にしてるの? 俺が好きでやったのに?」
「においとかしたら、いやだ」
「……そんなの気にならないくらいにツバまみれにしてやるよ」
課長は俺のことがわかってない。全然。この匂いが興奮するのに。
両手首を拘束して、ガバッと上から覆いかぶさる。突然の獣化に課長は小動物のように縮こまり、首に何度もキスする俺に「やだ」「やめて」と小さく訴えてくる。ダメだね。そんな弱い抵抗、煽られているとしか思えない。
べろり。口の端から頬を思いっきり舐め上げる。ブルッと伝わってくる震えに勝利を確信して、一息に唇を塞いだ。もう容赦しない。子どものキスは終わりだ。課長の舌を絡め取って緩くまわす。課長の瞳、だんだん蕩けていって、ついに伏せられてしまった。
理性の光がなくなっていく過程がエロすぎて、ガツガツ食らうように舌フェラしてやった。すぼめた唇で吸って、限界まで吸って、ちゅごちゅごと顔を上下して……課長、両手で必死にシーツを掴んでいる。俺の暴虐に耐えようと、立てた両膝を内股にしてもじもじする。その膝で俺の股間をグリグリと押しているのはわざとか事故なのか教えてほしい。
「ふっ、ふっ、ふっ」
「う、あっ」
「飲むな……垂れ流せ……!」
下卑たニヤケ顔を隠さずに渾身の力で顎を掴んで迫った。歯をむき出しにして笑う、俺は、もうこの人の知る無害な部下ではない。溢れる課長のヨダレを指で顔の上に戻して、塗りたくって遊んだ。たまに過激な音を立てて啜り取る。課長の下半身がガクガク揺れる。
こんな責め方サレて感じてるなんて、この人ガチマゾじゃん……やった~……ああっ早く最後まで……いや、我慢だ……こんな美味しいの、一気に食べたらもったいない……! せっかくここまできたんだ……じっくり、じっくりと、俺のモノにする……!
「はあ、ツバくさい、課長、俺も同じにおいにして」
「ああっ、ダメ、ダメ~~~~」
ジタバタする足を抑え込んで頬を擦り寄せた。俺の顔も湿っていく。課長のエロい匂い、興奮する……これ毎日やりたい……お互いの顔をお互いのツバまみれにして、頬ずりして、ずっとヨダレ垂れ流しながらキスしてたい……そのために、今は、調教だ…………。
「いい匂いだよ……俺、好きだから……もっとツバ、出して……?」
「あ、ぅ、あっ、う、私、変に、変に、なるっ」
「変でいいじゃん……!!!」
首を上から押さえて圧迫した。かは、と喉が詰まる音がして、課長が目を見開く。すぐに緩めて人工呼吸するみたいに俺の息をあげた。
課長は縋るように俺の後頭部を引き寄せて自分から舌を絡めてくる。まるで、媚びているみたいなその仕草が可愛すぎて泣けてきた。俺、ビョーキかな? 恋の病ってやつ。
「べー」
「あっ、う……!」
また深くで絡み合っているタイミングで口を強引に離した。課長の口からヨダレが大量に流れ出る。もう飲み込むことを忘れてしまったみたいだ。俺はすぐさまそのヨダレを手にもらって、露出したチンポに塗りつける。
ああ、課長のツバでシコれるなんてっ…………気持ちいい気持ちいい……オマケに課長とまたキスしちゃったりして……課長、自分から俺の舌吸ってくれて……ヤベ、今なら俺死んでもいいかも……昇天しそう…………っ。
「あ……!」
息と声を課長の口内に吐き出す。同時に竿からも精を吐き出した。課長の腹の上に飛び散って……課長はそれを、息を荒げながら、見つめている……。
射精の余韻に酔いしれながら、チラリと見下ろす。課長の股間も、テントを張っている。ずるりとはぎ取って丸出しにした。課長は怯えながらも、俺の顔から目が離せないみたいだ。泣きそうに息を震わせて、次の俺の言葉を、行動を、待ち望んでいる……。
「課長も俺のツバでシコりたい?」
「あ、あ……う」
もう人語も話せなくなったのだろうか。だらしなく口を開けたまま、それでもこくこくと頷いている。欲に塗れた課長の顔は淫靡で、素敵だ。俺も同じような顔をしているだろうか。課長、俺に惚れてくれたのだろうか。
「じゃあ課長の舌見せて。レロレロって上下に動かして」
「れ……え……」
「そうそう、目を開けたままね。続けて」
切なそうな顔が、俺の顔を見つめたまま、目を細めて舌を卑猥に動かしている。衝撃的な光景にすぐさま俺の口内にはヨダレが満タンになった。課長のチンポに垂らして力強く扱いてやる。課長は舌を伸ばしたまま、なんとも甘やかに喘ぎ始めた。
顔がエロくていくらでもヨダレ出せる。そうすると課長はより気持ち良くなるらしくて、もっともっとエロい声を出す。幸せの連鎖だ。俺は課長の顔に釘付けになり、痛めつけるみたいに荒々しく細くてしなやかなチンポを擦りまくる。
「れる、れるぅ、ああ~~~」
「出せ! いっぱい出せよ!?」
「ああう~~~~~っ」
ピュッ、ピュッ。慎ましい放物線が宙に飛ぶ。だが俺の足にかかったそれは思ったより多くて、濃くて、見ている俺が照れてしまうほどに性的だった。指で摘まんでぷりぷりの感触を確かめていると、窘めるように手首を取られる。勢いあまって押し倒した。
「気持ち良かった?」
「う、う、」
素直に頷く課長。明日になったらちゃんと喋れるように戻っているだろうか。ちょっぴり心配だ。
最後に唇をチュッと弾いて、二人分の精子を拭き取ってやった。課長もティッシュを素抜いていると思ったら、なんと涙を拭いている。マジで女の子みたい。カワイイ…………。
「すみません。やりすぎました」
「う、うう」
ふるふると首を横に振る様がまた愛らしい。ムラつく気持ちを抑えながら、課長の頭を撫で続けた。こういうのは緩急が大切だ。俺は基本、好きな子には優しい男でいたい。
俺たちは抱き合って眠りについた。全身が幸せで満たされていた。
課長、俺のこと性的な目で見ている……よな。付き合ってくれないかな。はあ好き……ずっとずっと、こんな時間が続けばいいのに……。
祈るように、強く強く、抱き締める。
「そう、もっと舌伸ばして……あ~~そう」
「ふぇえっ、え、うぅ、」
ベッドの中。起き抜けで乳首に薬を塗ってやりながら、舌先をレロレロと交わらせている。舌と指で動きを合わせてやるとえらく感じてクスンクスンと喉が泣いている。
例によってヨダレを飲み込むことは許可していない。全部垂れ流しで、ひたすら舌先に神経を集中するよう命令している。
「こら……乳首感じたらダメ。治らないよ」
「あっあ~~~っ……ごめ、おおっ……みや、もう、っ」
「…………いいよ。今度こそキスに集中しようか」
服を下げて乳首を隠す。代わりに舌をジュコジュコとあらんばかりの力で吸い出してフェラした。課長の仰け反る喉がセクシーで……軽く手の甲で押して圧迫しながら、無駄に角度を変えて唾液を飛び散らせる。
ジュピジュピジュピジュピ!!
「ひい、あが、ご、ごおぉ」
「ん~~っ、んめ、んめ」
「おおっ…………!」
課長の下半身が大きく跳ねる。もしかして。股間を手探りするとグッショリと濡れている。俺の舌フェラでイった……淫乱すぎるだろこの人~~ッ……かわいい、かわいい……!
情熱が止まらなくて、余韻で緩く舌フェラを続ける。課長も絶頂の余韻で何度も大きく跳ねる。何回もイッてるのかもしれない。完璧に俺で感じるカラダになったな。労うように頭を優しく撫でて、緩やかに舌を絡めるキスに変えていく。
気付けば課長の腕が俺の後頭部を引き寄せて、うっとりと応えてくれている。
「はあ…………朝から変態ですね、俺ら」
「…………」
恨みがましくじとっと睨まれてしまう。課長は身を起こすと、その足でバスルームへと籠ってしまった。程なくしてシャワーの音。大方汚れたパンツと股間を洗っているのだろう。
この一欠けらだけ残る意地がまたすごくいいんだよなあ……ほとんど陥落しているくせに、まだ少しは上司のプライドが残っているらしい。だけど、もう俺のこと好きだよね? 少なくともカラダは堕ちてる。そう思いたい。
クチュクチュ。たくさんあったご飯粒はもう一粒も口内に残っていない。俺たちはそれでも口を離さず、ひたすらキスを続けていた。ハア、マジで頭バカになる。こんな生活を続けていたら……だけど俺の食事は課長の口から摂取することが会社からの条件だ。クビになるわけにはいかない。やめられない。だから、だから……。
ようやく課長の唇を解放する。まだ食事はたくさん残っている。頭がボーッとして、今が朝から昼か夜かも忘れてしまった。ただただ飯を食って、キスをする。俺たちの爛れた生活は徐々にヒートアップしていく。
また、課長が俺のために口に含んで咀嚼してくれている。その間だけでもう焦れてしまって、ひたすらに課長の腕を擦って、この熱を、伝えようとする。
「課長、もっと噛んで……俺が噛む時間もったいないから……そのまま飲み込めるようにドロドロにしといて」
「ん……」
「早く……ハアハア……食わせろよっ」
よく噛むように命令しておいて、結局耐え切れず強引に奪ってしまった。グダグダにされた流動食はもう味なんてしない、代わりに……課長の唾液がたっぷり染み込んだ、俺にとっては最上級の料理だ。
興奮しすぎて、課長の顔だけ持って、そのまま強引に席を立たせた。唇をつけたままベッドまで引っ張っていって、押し倒す。結局食べ物は全部下になった課長の喉を通り、俺は空っぽになった課長の口内の唾液を、啜りまくる。
「ジュルジュル……ああすげ、こんなの……もう呑気に食事なんかしてられない!!」
「みや……まって……」
「待てない! アンタのこと食べたい!! アアッ……!!」
「ま~~~~!!」
首筋をベロベロと舐めたくる。まさか本当に食べるつもりはないけど、課長のことメチャクチャにしたいっていう加虐心が抑えられない。もっといじめて泣かせて、甘やかして、俺に依存させたい。
脅かすために股間を揉みながらしつこくキスをした。そうして、ついに後ろの穴をズボン越しに擦る。脱力していた体が、一気に、固くなった。
「課長、もう最後までシちゃいましょう? もう……」
「や、ダメ、まって……こわいぃ……」
「こんなにキスしてエッチまだなんて俺たち異常だよ……なあ、そうだろっ?」
「みやにし、食べて、食べないと、ダメだ」
課長が必死に訴えかける。それもそのはず。俺は課長の唇ばかりに固執して、連日こうやって食事を蔑ろにしていたものだから、みるみる体重が落ちていた。最近は少し太り気味だったからちょうどよかったのだが……課長は本気で俺を心配してくれているようだ。細くなった腰を確認するように撫でて、絞り出すような声で言う。
「お願いだ、食べてくれ…………」
「フウッ……課長、そんなに俺に口移しで食べさせたいの? ねえっ」
「あ…………そう、だ…………」
「自分の唾液ででろでろになったメシで部下の胃を満たしたいんだ!?」
「そう…………です…………っ」
屈辱にまみれた顔を見下ろしてゾクゾクと愉悦に浸る。俺は俺自身を人質にして課長に恥ずかしいことを認めさせた。本当のところはどうだかわからない、まあ俺のこと心配してくれているだけだと思うけど……俺のために体張って、そんな俺自身に辱められて、本当にアンタって可哀想な人だ。ああまたムラムラしてきた。
納得したフリをして食卓に戻る。そうして課長が口移しをしてくれている最中に、また発作を起こして課長をベッドに連れて行った。繰り返し。同じことばかりして。だんだん課長の抵抗が弱まっていくのを見守る。
食事中だろうと何度も俺に迫られてまんざらでもないみたいだ。ついにベッドから動かなくなってしまった。その首筋をしつこく舐めまわして、唇も乱暴に弾いて、いつまでも、いつまでも、弄び続けた。
「貴方たちは、節度というものを知らないのですか?」
俺と藤野課長は、横並びで正座させられて吉野さんに説教されている。その内容がもっともすぎて、俺はしょんぼりと首を垂れるしかなかった。
吉野さんは俺たちの行動をちくいち観察している。当然、日々加速していく過激なプレイの数々も。ただありがたいことに、彼はそこに言及することはなかった。それなら何故叱られているのかというと……俺が調子に乗ったせいで、代替案である「藤野課長の口から食事を摂取する」という条件すら、実行不可になってしまったからなのだ。
「乳首だけでなく、唇まで再起不能にするとは……さすがに私もはじめて見ましたよ」
「すみません……」
「申し訳、ございません……」
課長はまた吉野さんに見られているということを忘れていたのか、涙目で赤面しながら土下座している。いやしかし、本当に土下座しなければいけないのは俺のほうだ。
エロい課長がシコすぎて課長の乳首をこてんぱんにのしてしまった俺は、懲りずに唇や舌も酷使して、当分はキスができないほどに傷ませてしまった。今回ばかりは猛省……だ。課長に続いて俺は床に額を擦り付ける。
吉野さんは珍しく横柄な格好で股を開いて屈みこむ。そして俺たち二人の肩を同時に叩いた。
「別に私はどこも痛くないから構わないのですが……藤野課長、この生活は続けられそうですか?」
そう言いながら吉野さんが忌々しそうに睨みつけているのは、顔があげられない藤野課長ではなく、もちろん平社員の俺だ。課長って本人の主張次第では全然被害者だし……吉野さんもそれをよくわかっているのだろう。やっぱり第三者から見ても俺って加害者なんだ。片想いなのかな……居た堪れず、ふたたび床と睨めっこを始める。
課長には今度こそ愛想をつかされても仕方ない。吉野さんの質問がひどくまっとうで打ちのめされる。課長は今冷静だ。俺に手を出されて前後不覚になっている精神状態とは違う。
怖くて課長のほうが見れない。縋っているようでひどく惨めで、余計に課長を困らせてしまう気がしたので……俺はおとなしくそのまま判決を待つことにした。
「私は……」と課長が口火を切る。俺はゴクリと、音が立たないように唾を飲み込んだ。
「私なら大丈夫です。続けさせてください」
はっきりと宣言するその声音に、俺は、夢を見ているようだと思った。
このことだけで、課長が俺を許しているなんて保証になるわけはないのだけど……まだ、課長の隣にいてもいいんだって思ったら急に心が浮き上がってくる。よくない。俺はすぐに反省を忘れる人間だ。胸の前でこぶしを握って、懸命に湧きあがる己を律する。
吉野さんは地獄から響き渡るようなため息をついて、課長の目の前に新たな軟膏を取り出した。それに飲み薬も。
「口内炎用のものですが……ないよりはマシでしょう。鎮痛剤も渡しておきます」
「ありがとう、ございます……!」
「申し訳ございません……」
ダメ押しで重ねて謝罪をしておく。吉野さんは最後にもう一度クソデカため息を残して部屋を出て行った。二人きりの空間。しばらく静まり返った後、静かに、課長が語りかけてくる。
「気にしなくて、いいからな……?」
「へっ」
「私も、その、ハメを外しすぎてしまったし……」
「課長……!」
なんて優しいんだ。もう聖人通り越して聖母。俺のこと全肯定してくれる俺のママなんじゃないだろうか。
すぐさま手を取り顔を近づける。落ち着け、キスはダメ、ダメだって。危うい距離感なのに、課長は「あっ」と声を漏らしたきり、自分から離れようとしない。
至近距離で見つめ合い、キスもできない俺たちは、そのまま熱烈に見つめ合って……………………
ガチャ「言い忘れましたが、」
吉野さんが突然戻ってきた。もう身を寄せ合っている俺たちを目の当たりにして言葉を詰まらせている。さすがに監視は携帯式ではないらしい。課長はすぐさま俺の手を放り捨てて、不満そうな俺の頬を釣り上げて表情を取り繕おうとしている。
「なんでしょう!?」
「宮西さんの食事の条件ですが、乳首も唇もダメとなると、藤野課長の全身を使ってもらうより他なくなりますね」
「「へ!?」」
俺は喜色満面。課長はみるみるうちに耳まで真っ赤になり、困惑に支配されている。藤野課長の全身ってまさか……え? いいの? いいんですか神様? 神様じゃねーわ間違えた吉野さん!!
「藤野課長の肌の上に食事を置いて食べるのならセーフとみなします」
「肌!! 生肌じゃないとダメなんですね!?!?」
「宮西……!」
いきり立って身を乗り出す俺を後ろから課長が羽交い絞めにしてくる。そんなことされても落ち着けるものか。課長の全身を……俺が食事に使ってもいいの!? 課長の生肌が俺のオカズなの!?
呆れて立ち去ろうとする吉野さんに、課長が食い下がる。
「吉野さん!!」
「……まだ何か?」
「あの、せめてパンツ、パンツだけは…………!」
「許可します」
「ええ~~~~~~~っ…………」
俺を軽蔑の眼差しで一瞥して、今度こそ吉野さんは行ってしまった。
パンツ、パンツか……まあいきなり全裸は課長も気まずいのかもしれないな……。逆に考えろ、俺。股間以外は使い放題なんだ。細い首筋も、深い鎖骨も、薄いお腹も……すらりとした脚だって丸ごと…………。
課長に向かい合う。少しは取り繕わなきゃいけないのに、ニヤケが抑えられない。
「食事の時間が楽しみです!!」
「お前、少しは反省とかないのか……?」
「反省してます。もうどこも傷つけません。大事にします」
「……期待してるよ」
課長は言葉とは裏腹に、俺に期待なんてひとかけらもしていない顔で、手を握ってくる俺から逃げ出すようにその場を立つ。少しは優しくしないと、でも……身体的に傷つけなければ大丈夫だよな?
もう少しくらい課長の尊厳ズタズタにしちゃっても、罰は当たらないよな……?
ついに食事の時間がきた。
ごく普通の白米に野菜炒め、茶わん蒸しというセットだ。汁物がなかったり、いつもはアツアツのご飯やおかずを少し冷ましているところに吉野さんの配慮を感じる。
課長は俺が食べ始めるといつも正気を失ってしまって(まあ俺のせいなんだけど)自分自身の食事がおろそかになるので、先に食べてもらう。その頃にはきっと差支えがないくらい料理は冷めているだろう。それでいい。課長の柔肌に火傷をさせるわけにはいかない。
課長はなんとも気が進まない様子で、しかめっ面を丸出しに食事を進めている。俺は新聞を読むフリをして背中を向けているが、課長がチラチラと俺の様子をうかがってくる様子がついていないテレビ画面にそのまま映し出されていてたまらなかった。
やっぱり俺のこと意識しているのかな。っていうか、これから俺にされるであろうことを想像して照れちゃってるのかな!?
脳内で足をバタバタと振り回してはしゃぎまくる。課長の……好きな人の裸体をお皿にして食事ができるなんて……まさに全男性の夢ではなかろうか。唇と乳首には触れられないけどそれ以上の部位は触り放題だなんて、異常すぎて逆にソソる。
カチャンと箸を置く音が二人きりの部屋にやけに響いた。俺もあえて新聞をバサッとうるさく閉じる。俺が隣に座ってするりと肩に手を回すと、課長は目を逸らしたまま、そっと退けようとする。
「やめろ」
「だって次は俺の番ですよね? 脱がしてあげようかなって」
「自分で脱ぐ……!」
システムが変わるたびに好感度がリセットされるのはなんなんだ。まあこれが課長のプライドというか意地なのだろう、俺は海のような広い心で付き合ってやらねば。なんてたって俺はこの人の恋人ポジションを目指しているのだからな。
課長は腕を交差させると、潔くシャツを脱ぐ。肌着も脱いで、ズボンも脱いで、靴下も脱いで、ついにパンツ一枚になった。ちなみにパンツは黒のボクサーだ。予想を裏切らないクールな出で立ちに、早くもムラつきが止まらない。
そして、なんという細さだろう。腕も脚も枯れ木みたいで……胴体まではまさかと思ったが、幹も枯れてしまったかのようにみすぼらしい。脇腹なんて骨が浮き出てしまっているし、鎖骨も深くて、マジでほぼ骨と皮だけだ。
凝視する俺から隠すように、自らの身体を抱き締める課長。あまりの俺の不躾な視線に怒っているのだろうけれど、それならちゃんと怒鳴るなりしてほしい。そんな泣きそうな顔見せられたら、余計に煽られちゃうでしょーが。
「あんまり、見るな……」
「見ないと食べられないですし」
「…………」
睫毛が震える。本当に泣きそうなのか。俺は咄嗟に視線を外す。「どうかしたん、スか」としどろもどろに呟いて、今さら話を聞ける男を演出した。課長はしばらく黙っていたが、やがてポツリポツリと、話し始める。
「みっともないだろう、私の身体」
「へ? そんなこと――――」
「太れない体質みたいで、ヒョロヒョロのガリガリだと昔から馬鹿にされてきた。だから、わりとな……コンプレックスなんだ」
「あ……」
「だが、そんなことはお前に関係ないよな。勝手に恥ずかしく思ってしまっただけだ、すまなかった。それでは食事を」
「課長」
ついと課長の手を取って、俺の胸に押し当てた。心臓の上。今も平常時より高く熱く鳴り響いている。あまりの暴れように課長も面食らったようで、泣きそうだったのに口がひん曲がって首を傾げてしまった。俺の行動の意図がわからないようで、戸惑いながら見つめてくる。
「課長のハダカが綺麗で、俺、こんなにドキドキしてます」
「なっ……!」
「ストイックで素敵です。課長の生き様を表していてカッコイイと思います。理想通りのハダカで、俺、嬉しいです」
「な、な、なんで、理想なんて……私なんかの身体で、お前が……」
慌てて手を引っ込める課長。泣きそうな気配が消えた。ホッとして表情を緩めると、課長は信じられないものでも見るような顔で俺を見る。言っておくがすべて本心だ。スーツの上からでも素敵だと思っていたけど、白い肌に、余分な肉がついていないその身体は、俺が好きになった課長の人格をそのまま映し出している。
貧相だと思う人もいるかもしれないが、俺は、好きだ。余分をそぎ落としてやるべきことに打ち込んできた凛々しさを湛えている。日に焼けていない、透き通ったような肌が美しい。
「課長が今欲しい言葉がこんなものかどうかはわからないけど……俺、本当にすごく……ドキドキしてるんです……」
課長が追及するように俺の胸を押し込む。ドクドクドク。さらに強くなる鼓動に、課長はどこか安心したように息をついた。俺の気持ちが届いたのならいいけど。
……どうして課長はこんなにも自分に自信がないんだろ。仕事はできるし、顔も頭もいいし、部下からの人望だって厚い。俺が持っていないもの、全部持っているのに。
そんな俺が、この素晴らしい人を励ませるならなんだってしたい。課長の手の上から俺の手を重ねる。
もっと聞いて、俺の鼓動。課長のことを好きな、キモチ。
「…………お前にこんなことを言わせてしまって、不甲斐ない……」
「えっ? えっ?」
課長はなぜか膝を折り、墜落するように床に屈みこんだ。両手で顔を覆ってしまってその表情は伺い知れないが……少なくとも泣いてるわけではない。
俺はプレイ以外で課長を泣かせたくない。だっていつもさみしそうだから。
俺が居るのに、この人に悲しい顔をさせたくない。
「課長……?」
「私の弱さは、私の問題だ……」
「そうかもしれないですけど、でも……課長、弱くてもいいんですよ」
「え……?」
「俺が、守ります」
格好良く言えたと思ったけど、実際は緊張してプルプル震えていたし、声も裏返ったし、何より顔がひどく強張っている。これで嘘だと思われたら心外だ。
だけど課長は呆気に取られた後、俺の滑稽な顔つきを見て吹き出した。少し目に涙が滲んでいたけど、これは泣かせたにはカウントされないだろう。その筈だ。
男が男を守る、なんて場面はなかなかないと思う。ここは法治国家日本だし。だけど課長は何かにひどく傷ついていて、今、俺の手を取る決心を、少しずつだけどしてくれているように感じるんだ。
だから俺は、課長の心を守りたい。強い人だと思っていたけど、この人は本当に弱いのかもしれないから。ならその分、俺が強くならなくちゃ。
「宮西、それならいっぱい食べないとな」
「はい!!」
なんだか課長にいつもの柔らかい雰囲気が戻った。それに笑顔になっている。かたくななこの人の心を溶かしたのが自分だと思うと誇らしかった。俺は堂々と、裸の課長に身を寄せる。
課長はご飯が大盛りにつがれた茶碗と箸を手に取ったかと思うと、なんと俺に手渡してきた。そうか、課長の身体に乗せなきゃいけないんだもんな。俺のほうが位置的にやりやすいのか。
こうして実際に乗せる直前になると勃起しそうになる。いかんいかん、いい雰囲気なのにブチ壊すわけにはいかんぞ。
俺は意を決して、箸で米を持ちあげた。そしてまずは無難に、課長の肩に乗せる。
「いただきます!」
「ああ」
課長が機嫌よく微笑む。それだけで俺は心がどろどろに蕩けて幸福感に満たされた。
あーんと口を開けて勢いよく課長の肩にかぶりつく。「ンッ」と鼻にかかった声が漏れて、課長が少し身体を強張らせる。それがつぶさにわかってしまって、ごうごうとと胸の奥が燃え盛る。
唇で米を回収して、さりげなく課長の肌に吸い付く。ああ、ほのかに汗の香りがする。プレーンな白米に塩味がちょうどよくて、俺は万物に感謝しながら咀嚼した。
課長から離れるのが惜しくて、肩に唇をつけたままモグモグと口を動かす。飲み下して、仕方ないから強く吸いついてから離れた。ヂュッッッ。
舌と唇で同時に弾いたから刺激が強かったのか「はぁあああん」と情けない声が出て、課長は慌てて己の口を覆う。
「す、すまない」
「いえ。俺が強く吸ったから。痛かったですか?」
「いや……大丈夫だ。それより……」
次の米を乗せようとすると、なぜか両手で制される。やっぱり嫌だったのかな。調子に乗りすぎた? 課長は俺に吸われた部分を軽く親指で拭って、そして恥ずかしそうに目を逸らしたまま言った。
「風呂……入るの忘れたから、少し待っていてくれないか?」
「へ? まだお昼ですよ」
「お前に食べさせるのに、身体を洗っていないのは非常識だった……だから……」
「えっと、いやです。俺、課長の匂いが強いほうが嬉しいですよ」
「~~~~~~またお前はっ」
「そんなの気にしなくていいから。てか待てないです。この状態で完食したい」
「この状態」を示すように、課長の裸の肩を包んで、二の腕まで擦るように下げていく。それだけで課長は下唇を噛んで、恥ずかしそうに刺激に耐えている。
いやマジで風呂に入る必要なんて一個もない。数日間入っていないとかだったらさすがに躊躇するけど……汗がうっすら乗っている課長の肌なんて最高級の霜降り肉のようなものだ。是非ともそのまま味わわせてほしい!
課長は眉を下げてわかりやすく困っている。俺が困らせたのか。そんな小さなことにじんとできる辺り、自分の本気度を察してしまう。
「……あまり、舐めないように」
「じゃあ吸います!」
「…………」
吸うのは許容範囲内なのか、それとも呆れているだけなのか、課長は苦い顔を浮かべて返答しない。俺はうやうやしく、課長の反対の肩に野菜炒めをオンする。もやしとかキャベツとか人参とかいろいろ入っているけれど……もはや野菜嫌いとか、そういうの関係なくなっちゃってるんだよなあ。
だって今俺の目の前にあるお皿って、世界一料理を美味しく食べられる極上の逸品だからね。
二の腕を掴み、身を乗り出してかぶりつく。ああ、課長の肌の感触……味……!
舐めるなと言われたものの、調味料が定着したら痒くなりそうで、少しだけ、怒られない程度に舌を這わせて舐め取る。そしてまた唇をつけたまま咀嚼した。ああもう課長の肩にキスしているだけで脳内麻薬出まくりでなんだって美味しく食べられちゃうわ…………。
咀嚼が終わると予告通り強く吸い出す。ヂュウウウッ、ヂュウウウウッ。二吸い目で「複数回は聞いていない」とばかりに課長が頭を押してくるけど、レロレロと舌先でくすぐったら小さく喘いでパワーダウンした。その隙に細かく、歯を立てて、吸って、堪能した後で、ようやく解放してやった。
「フッ……いいですねえ~~」
「な、何が……」
「いえいえ、こっちの話です」
両肩の同じ位置にアザが出来た。当然、俺が付けたキスマークだ。課長には見えない位置だからまだ気付かれまい。できたら全身に付けたいけど……腕あたりで気付かれちゃうかな、これは。
次は茶わん蒸しだ。これにはちょうどいい部位がある。まずはスプーンで掬い、唇をつけて温度を確認する。よし、熱くないな。そうして乗せた。課長の鎖骨の上、極端に凹んでまさにお皿のようになっている部分に。
「課長ここ深いですね~。いっぱい入っちゃいます」
「…………」
「褒めてるんですよ?」
骨を指先でつうとなぞると「ヒッ」と高い声が上がる。課長は羞恥で俯いてしまう。もっと辱めるためにどんどんそこに茶わん蒸しを注いだ。大きなくぼみに、何掬い分入れただろうか……こんなに入る人、本当にそうそういないんじゃないかと思う。
俺のためのお皿としてものすごく健気に感じてしまう。なみなみ注がれた液体にゴクリと唾を飲んで、俺は唇で啜りついた。
ズゾゾゾゾゾ、ヂュッヂュッ…………。
「あ……あ……」
「なんで感じてるんですか? ここ、こんなふうに使われるのはじめて?」
「うう~~ッ……」
屈辱なら応えなければいいのに、律義にもコクコクと頷くその姿にまたも股間が反応してしまう。しかし、ほんと鎖骨のお皿深いな。俺の舌が底まで届くか微妙だ……。腕を引っ張って少しでも平らにして綺麗に舐め取る。オマケに鎖骨の下の、痕がつきそうな場所に短く吸いついた。
この人ってほんと……変な部位に反応するよな。今のところ経験が浅いだけで、実はすごく変態の素質を持っているんじゃないのか? 教え込んだら、俺が負けちゃうくらいの淫乱ネコちゃんになっちゃうんじゃないの?
無性にワクワクしてきた。次は手の上に野菜炒めとご飯を一緒にたらふく置く。本当はこれって全身を使わずとも手だけでいいのだろうけど、せっかく鈍感な課長が気付かずハダカになってくれたんだから、いろんなところを使ってあげないとな。
とはいえ基本は外せない。手に乗せたものを少しずつ胃の中に収めていき、やがて課長の手の平に唇が触れて……まだ少し米粒が残っているのも構わずに、舌でぬるぬると撫でまわす。
今までになく課長が反応する。やっぱよく使う部分って敏感なんだな。半分人体実験のような心地で舌を這わせ続けた。ぬるぬるぬる。れろれろれろ。
課長の手を取り、角度を変えて舐め続けながら顔を見上げる。課長も俺を見ていて……口移し中の、あの時のようにじょじょに目が蕩けていっている。
こんなにチョロくて大丈夫ですか、課長。やっぱり放っておけない。絶対に俺と付き合って欲しい!!
「ハア、ハア……課長、んンッ」
「あ、や……っ、うう……」
歯を立てる。腰からビクンと跳ねたので、調子に乗って指も食んだ。チュポチュポ、チュポチュポ。粘着質な指フェラを披露すると、もうすっかり蕩けきってしまった。こういうのって嫌がる奴のほうが多いんだけど、課長は付き合ってもいないのによくやらせてくれるよな~~……俺と相性いいんだろな……へへへ。
「手ヨかった? もっかい?」
「ん……」
課長は手を引っ込めない。それどころか少し前に出してきた。もう一回やってほしいんだ。これってもう実質セックスだよな。俺ら、何日もかけてずっと前戯をしているようなものだ。
もしこれがアダルトビデオなりの一つの作品ならば、前戯だけで終わるわけにはいかない。最後までいかなければ、見ている人たちに申し訳が立たないぞ。まあ見ている人なんて実際には……あ、吉野さんがいるか。
俺のことを心から嫌悪するあの表情を思い浮かべると余計に興奮してきた。第三者がヒくようなことでも課長さえ受け入れてくれれば何も問題はない。課長は俺のやりたいことを受け容れてくれる。このまま押せばきっと、手に入る筈なんだ。
先程以上に爆速で食べてしまって、舌で愛撫する時間を倍くらいとった。舐めまわしている合間の息継ぎでも、欠かさずにハァハァと熱い息を吐きかけて刺激が途切れないようにする。指の股まで丁寧に舐め取り始めると、課長は息を震わせて、俺が舐めやすいように自分から指を開いてくれる。
付き合ったら聞きたいな。俺が今までしてあげた中でどのプレイが好きかって。だけどこの人たぶん全部好きだよな…………反応がそう物語っている。数々のネコを抱いてきた俺でもこんなに従順な人には出逢ったことがない。
課長。マジで、マジで、俺と付き合ってください。毎日エッチして幸せにするから。
「ン……課長の味、します……ずっと舐めてたい」
「ダメ……ちゃんと、食べてくれっ……」
「じゃあ横になれます? 『全身を』お皿にしたいんで」
手を離して食事をお盆ごと持ち上げた。課長はすぐに察してベッドまで先立って歩いていく。いよいよ本格的にペロペロできるぞ。
勃起を隠しもせず、むしろ堂々と胸を張って歩いていくと、先に座って待っていた課長は俺のソコに釘付けだった。ベッドサイドテーブルにお盆を置くなり、押し倒して上に覆いかぶさる。
「見ないでください、エッチ」って囁いて頬にキスすると、ブワッと体温が上がって一気に瞳が潤んだ。可愛すぎる、このままパンツ脱がしてしまいたい…………ああでも、もう少し、己を焦らすとしようか。
「まずは首に……」
何をされるか不安だろうから先にお皿にする部分を教えてあげる。人体盛りのマナーだ(まあ俺が今考えたんだけど)そこに茶わん蒸しを垂らして、ズゾゾと派手な音を立てて啜る。ビクビク震えているところに思いっきり舐めまわした。押し倒した体勢のままだから、首に愛撫している前戯でしかない。
何度も舐め上げてベタベタにした。それに、王道の場所だから張り切って大きなキスマークを付けた。何個付けようかな。俺が満足するまで付けちゃお。何回も茶わん蒸しを乗せては啜り、その何倍もの時間をかけて舐める、吸いつく、息をかける。
大きな喉仏が邪魔でカリッと歯を立てると「ア……!」ってひっくり返った声が上がって、俺らはとっさにバッと顔を離す。なに今の声。股間直撃なんですけど。今までで一番エロい声だ……エッ、この人の性感帯、まさかの喉仏……!?
「課長……いっぱいするね」
「い、いや……ああ……」
かぷ、かぷ、かぷ。歯を立てては離し、立てては離し。華奢な課長がこんな立派な喉仏を持っているのがだんだん忌々しく思えてくる。俺はゲイだし、男は男であればあるほどいいのだから、こんなふうに思ったことないのだけど…………できれば課長を一生俺に縛り付けておきたいから、それを阻む男の証明のようなこの部位が、憎々しく感じてしまう。
明らかにネコのくせにイキがってんじゃねーよ。心の中で明確に罵って、強めに歯を食い込ませた。課長の全身がバクンと跳ねる。逃げ出そうともがくので、抑えつけて必死でやさしく舐めてやった。
ああ、愛しい…………可愛い課長に不釣り合いなこの大きな喉仏も……たくさん抱いてやったら男性ホルモン減少して小さくなっちゃうのかな…………やっぱり大きいままがいいな、いじめ甲斐あるし……。
ヂュパッ、ヂュパッ。唇で何度も弾いて唾液を散らす。コクコクと上下する喉を押し潰して「飲むな、垂れ流せ」と耳元で言い付けると、じきに口の端からヨダレが垂れてきた。それを舌で課長の首全体に塗り付けて、汗と唾液のまじった課長の肌をじっくりと愉しんだ。
「ンッ、ンッ、課長、ツバ美味しい」
「みやにしっ、も、もうっ」
「ん~~~?」
首から伝っている線を辿って、口の端まで舐め上げる。キスはダメだからギリギリのラインを責めた。課長の声は完全に涙に濡れている。俺はその情けない響きを噛み締めながら、胸元に握っていた課長の拳を開いて指を絡ませた。
「首、もう終わりにしてくれっ……おかしくなる……」
「下のほうも早く使って欲しいんだ?」
「アッ…………」
首を包むような手つきからするりと下に降ろしていく。胸元をひと撫でして、おへそまで舐めるようにゆっくりと撫でた。課長は早くも感じてしまってもう何も言えない。いや、言わないんだな。早く次のステップに進みたいのは課長も同じのはずだから。
次は胸の真ん中におかずを置く。乳首はダメって言われてるけど、真ん中は荒れてないしセーフだろう。胸元に顔を埋めるだけで乳首イジリまくりたくなって我慢するのが大変だけど、まるで乳首を愛撫するような手つきで課長の指をコネコネして気持ちを抑えつける。課長もたいそう気持ち良さそうな声を漏らして、まるでほんとうに乳首を触っているかのような錯覚に陥れた。
野菜炒めのタレでかぶれないようにしっかりと舐め取る。「ふ、ふ、ふ」と漏れる息が可愛くて口元に手を添えた。いけない、口も禁止だ。すぐさま軌道修正して手探りで頬を包む。そうすると課長からも頬を俺の手に寄せてくるものだから思わず声を漏らしてしまった。これ、両想いだろ、絶対?
「次はおへそ辺りにたくさん置きますね……」
耳に囁きかけて、コクコクと頷いてもらえた。胸のすぐ下からおへそへ、さらに通り抜けてパンツスレスレまでご飯を置く。そんで上からゆっくりと啄んだ。チュッ、チュッとバードキスを落として、課長の味をオカズにしつつ、白米を食らっていく。
パンツの手前まで食べてしまうと、パンツを少しだけ持ち上げて舌を差し入れる。これは予想外だったみたいで、「あっ」「ダメっ」て上ずった声と広げた手の平が制止にくる。両手で組んで捕まえた。そして心置きなくパンツに隠れた課長の下腹部へと舌で進んでいく。
少し蒸れてる。もう少し先が本丸だ。できる限り舌を伸ばしてチロチロと肌を撫でる。組んだ指に力が込められて、課長の緊張が伝わってくる。ハア脱がせたい。脱いでくれないかな……。
「課長……」
「ぬ、脱がないぞっ」
「残念」
「ああ……ちょっ……」
次はここに置くから、という意味で太腿を撫でる。硬くて骨ばっていてこんな太腿見たことない、男でも大抵はふっくらしているものだけど……こんなに肉感がないのに十分興奮している俺、自分の中に新しい扉が開くのを感じずにはいられない。
茶わん蒸しを少しだけ垂らして、間髪入れずジュルジュルと啜った。同時に犬のような息で舐めまわしてやる。玉子が垂れた内股も舌でなぞって、不必要に何度も往復した。
例によって脚の付け根からもパンツを持ち上げる。折り畳まれた部分は味が濃くてとても美味しい。そしてついに舌先で課長の金玉をひと舐めした。すっげ、小さい……緊張して縮こまっちゃってるのかな? 可愛い…………。
「みやにし~~……!」
「これじゃ脱いでるのと一緒でしょ? ねえ……」
「ダメ、ダメっ、ああっ」
俺がガバッと開いて金玉丸見えにすると、課長は脱がせまいと上からきつく引っ張り上げてくる。なにこの幸せな攻防。課長はどうやら必死だけど、パンツ破けそうでどのみち俺の勝利が見えていてメチャクチャ楽しい。
「お願いっ、ほんとにっ」と訴える声に涙が混じってくる。どうやらここまでか。なに、まだ時間はたっぷりある。俺はパンツから手を離して、力の入った課長の両手をなだめるように優しく擦る。
「そんなにチンチン見せるの恥ずかしいの? シコる時にもう見たよ?」
「違うっ……舐められるのが……」
「いや?」
「恥ずかしい…………」
いやではないんだ? そんな言葉で詰れば今度こそ大泣きさせてしまいそうなので自重した。代わりに俺はまだまだ下へ進む。薄くすね毛の生え揃った脛を擦って見上げる。あまり性的な場所ではないから安心すると思ったのだが、課長は下唇を噛んでいやいやと首を横に振る。なんで股間周りより脚が嫌なんだよ。
強引に野菜炒めを乗せる。ご飯粒は毛にくっついて後始末が大変そうだったからな。たくさん乗せて、たくさん食べて、タレのついたすね毛を唇に挟んで丁寧に綺麗にした。
「いやだああああ……」
あらら、泣いちゃった。俺そんなヒドイことしたっけ?
課長のすね毛をはむはむしながら顔を上げる。課長はそれを見るとひどく顔を歪めて脚を振り、苛立ちまぎれに俺の顔を蹴りつけてきた。こんなに邪険にされたのはじめてかも。よくわからんけどよっぽどいやだったんだな。
「すみません、課長」
「もう、もうっ、終わりだ!」
「わかりました。ごめんね」
ギュウウッと抱き締めて謝意を伝える。こんなので許してもらえるかわからないけど、課長は少し考えたのち、俺の頭を抱き込んで「もういい」と小さく言ってくれた。ほんとチョロいんだから。相手が俺じゃなかったら全力で阻止してるわ。
相変らず課長の地雷はわからないが、こうやってゆっくりと知っていけばいいか。こんな相手、前は面倒くさいだけだったのに……今は一生懸命になって、課長のことを知ろうとしてる。俺、変わったよな。
俺はパンイチの課長と抱き合ったまま、直接の肌の温もりに酔いしれた。本当は俺も服なんて脱ぎ捨てて肌を合わせたかったけど……それはまだ早いだろう。ゆっくり、ゆっくりでいい。たまに暴走するかもだけど、課長、謝れば許してくれるから。
甘えるように頬ずりをする。課長が頭を撫でてくれる。もう俺たちは上司と部下の範疇を超えている。そのことにたまらなく、興奮する。
隣り合って歯を磨く。食事後の俺たちの習慣だ。正直俺はもともと朝と寝る前しか磨いていなかったのだが、課長が昼食後もしっかりと磨いているから俺も真似した。まあ会社の女の子達もそうしていたし、歯の健康にはいいに決まってるしな。
……本音を言うと、一秒でも課長と同じ時間を共有したいだけなんだけど。
「ふーっ、さっぱりした!」
課長は俺に遅れて口をゆすぎ、丁寧にタオルで口元を拭いている。プレイの最中はヨダレ垂れ流して喘いでいるくせに、こういうギャップがたまらないんだよな……。
悟られない角度でじとっと見つめていると、課長は手元に置いてあった塗り薬を手に取る。小さなチューブに入ったそれがなんだったか瞬時に思い出して、横からそれをかすめ取った。
「あっこら」
「俺が塗ってあげます」
「いいから」
「ほら、あーん」
逃げないようにガッチリと肩を抱いて向かい合う。指先に薬を付けて眼前に差し出せば、課長は観念して薄く唇を開いた。
「もっと大きく開けて。どこですか?」
「全部腫れてるけど……特に下唇の裏だ」
「うげっ、口内炎いっぱいある……なんで? 俺こんなとこ噛んでないですよね?」
「自分で噛んでしまったみたいで」
「ええ~~……?」
一体全体何をどうしたらそんな事態になるんだ。てかそれ俺悪くなくない? え?
「普段からよく噛むんですか」と聞くと課長はムッとして「そんなことはない」と言い返してくる。なら、やっぱり俺のせいか……?
「あれ。もしかして俺にスケベされるのが嫌で、ストレスで噛んでる……?」
サアッと血の気が引く。同時に声に出ていたことに気付いてハッとした。だけどもう遅い、課長は難しい顔をして考え込んでいる。
そうだよな、ストレス溜まった人って自分で髪の毛抜いたりリスカしたり……自傷行為をすると聞いたことがある。なら課長のこれもあてはまるのでは……?
途端に課長の顔が見れなくなる。俺って暴走しやすいから、自覚はあるんだけど、好きになったら止まらなくて、だから……。
「ストレスというか、緊張……だな……?」
思いもよらない言葉が降ってきて、俺は思わず顔を上げた。課長は照れくさそうに頬をかいて微笑んでいる。怒りや憎しみなど一切含んでいない優しい顔つきは見紛うことなき、聖母だ。
このままキスして緊張させてやりたかったけどさすがに我慢した。親指と人差し指で課長の唇を上下にぱかりと開いて、薬越しに口内炎に触れた。「いひゃいっ」なんて子どもじみた叫びでなぜだか心がくすぐったくなって、「大丈夫、大丈夫」と頭を撫でてあやしながらしっかりと患部に塗ってあげた。
頬を包み込んで顔を見つめる。ああ、やっぱりキスしたい。こんなに近いのにできないなんて。無意識に舌なめずりしていたらしい、課長が急に赤面したから気付いた。バレたならしょうがない。
「キスできなくてさみしいよ……」
「…………ッ」
「今はこれで我慢するね」
ジュッ……ジュッ……ジュッ……。課長の唾がたっぷり付いた人差し指に舌を巻きつけて舐め取る。課長の味……薬も混ざっているだろうけどまったく気にならない……俺の好きな人の味……早く、早く、取り戻したい……。
悦に浸っていると、突然課長が俺の手首を掴んで制した。くしゃっと顔が歪む。しまった、と思うと同時に、目から涙が溢れ出してきた。
「もうこういうの、やめてくれないか」
「え…………」
「苦しい…………」
苦しい、って。首を絞めた時に言うならわかるけど、今?
俺はもう課長に触れていない。課長から手首を握られているだけで。変なタイミングで決壊した彼をよくよく見つめて、俺はまさかと思う。課長はほんとうに苦しそうに息を切らして、自分の胸を抑えている。
「胸が……苦しいんですか?」
「ああ」
「それって……」
俺に、恋してるんですか。
また悪い癖が出た。すぐに自惚れる。だけど口説かれて胸が苦しいなんて、もうそうとしか思えなくて身を乗り出す。だけれど否定されたらと思うとこわくてどうしても声にならず、抱き締めるだけに留めた。
課長、俺も好きです。なんて、告白されたわけでもないのに勝手に心の中で返事して、それが伝わるようにギュッときつく抱き締める。
「こうしていたら……少しは、楽になりますか……?」
「…………ありがとうな」
見当違いならはっきりそう言って欲しいのに、こうやってお礼なんか言ってくれちゃうんだもんなあ。俺だけじゃなくって、課長も悪いよ。
優しすぎるこの人を共犯者にして、俺はまた、幸せな夢の中に潜り込む。
食品上場企業に入社して二年目の春。今、俺は面接以来の本社のエレベーターの中で冷や汗が止まらないでいる。
「大丈夫か? お前……」
隣で背中をさすってくれているのは上司の藤野さんだ。三十代半ばで課長にまで登り詰めたエリート中のエリート。俺のような出来損ないを部下に持ったばっかりにこうして状況説明と謝罪に同行させられている。
しかもこの人、俺を庇って「責任はすべて私が取ります」なんて言っちゃったものだから、少なくとも減俸は免れないだろう。最悪一緒にクビだ。
「本当にずびばぜん」
「泣くにはまだ早いぞ」
そう言って取り出した真っ白なハンカチで、一瞬の迷いもなく俺の鼻水を拭ってくれる。なんていい人なのだろう。俺のせいでこの人の輝かしい経歴までダメにしてしまうのかと思うとますます泣けてくる。
「顔が真っ青だ。落ち着け。大丈夫だから」
「ふぁい……」
今は背中に感じる課長の手の温もりだけが俺を現世に繋ぎ止める糧だ。
エレベーターが最上階に着く。着いてしまった。ドアが開くと秘書が待ち構えていて、俺たちを速やかに社長室まで案内してくれた。
「ご到着されました。失礼します」
扉が開かれる。俺は藤野課長の後ろで小さくなりながらおずおずと入室した。
都会を一望できる絶景をバックに、社長が難しい顔をしてゲンドウポーズをしている。
…………終わった。
「藤野くん。それに宮西くん。わざわざご足労どうもね」
「いえ……この度は私どものミスで会社に多大なる損失を被らせてしまい、大変申し訳ございませんでした」
綺麗に頭を下げる課長にならって俺も深く、深く首を垂れる。こんなことで許してもらえるわけはないけれど、謝意の一欠片でも伝わってくれと願った。
「いやあ今回のはすっごいよねえ、たまげた。補填するには数千万かかるよ~」
「申し訳……」
「申し訳ございませんっ!!」
耐えきれず、その場に這いつくばった。だって真に謝らなければならないのは俺だ。藤野課長にばかり謝らせてなるものか。
俺は、俺には、これしかできない。この土下座で、せめて、せめて……!
「責任はすべて俺にあります!! 地下で強制労働でもなんでもしますんで!! 藤野課長は何も悪くないんでっ……この人には何もペナルティを背負わせないでください!!」
「こら、宮西……!」
「ふーん」
床に額を擦り付ける。起こそうとする藤野課長に必死に抗う。
社長の顔は見れないが声がやけに楽しそうだ。いや。はらわた煮えくり返った末のブチギレに決まっているんだけど。
「宮西くん。藤野課長だけは許して欲しいと?」
「はい!」
「いえ社長! 部下の責任は私がっ……」
「二人とも許してあげてもいいんだけどぉ」
「「え!?」」
俺と藤野課長の声が重なる。あわよくばという気持ちが見透かされてしまったようで、気まずくてすぐにかち合った視線を外す。
社長は肩をゆすって笑っていた。その様子は実に穏やかだ。怒って、いないのか……?
「今から言う条件を飲めば今回の件は不問にしてあげよう。今まで通り同じ部署で同じように働いてもらう」
「条件とは……?」
なんとかなるかもしれない。俺たちの心は今間違いなく一つだ。ゴクリと固唾を飲んで社長の言葉を待つ。
彼は傍らの秘書に何か耳打ちする。秘書はこともなげに頷いて速やかに部屋を出て行った。えらく、早足だった。
「まず、君たちの身柄は本社預かりで一か月家に帰れない。そしてこのビルの地下にある施設に、泊まり込みで特別業務をしてもらいたい」
「特別業務……ですか」
ビルの地下だなんて本当に強制労働ではないのか。本社の地下に何か施設が存在するなど聞いたことがない。だがここは都会の一等地、そんなに広くもないだろうから、大掛かりな労働をさせられるとは考えにくい。
“特別業務”という言葉の響きからも、ごく一般的な仕事をさせられるだけのように思う。悪くてクレーム対応の電話番くらいか。
「やらせてください」
土下座の体勢のまま、謹んで答えた。藤野課長も俺の隣に並んで同じように土下座する。
たかが一ヶ月で数千万のミスを許してもらえるなら安いものだ。死ぬこと以外はかすり傷。という言葉を使うのも畏れ多いほどにイージーな条件に感じて、俺は床に面した顔面を早くも緩めていた。
「では案内を頼む、吉野くん」
「承知いたしました」
先程出て行った秘書が気付いたら俺たちの背後に立っている。同じようにビクッと身体を跳ねて、社長に一礼し、秘書の後についていった。
エレベーターで一階まで降りた後、吉野さんはおもむろに俺の目に黒い布をかける。藤野課長も同じようにされているようだ。ややあって説明が始まった。
「施設の場所は極秘裏です。私が藤野課長の手を引きますので、藤野課長は宮西さんの手を引いてあげてください」
「わかりました。宮西、行くぞ」
「はい……」
わざわざこんなふうに目隠しするなんて、本当に強制労働施設行きの前触れみたいじゃないか。思い浮かべてぶんぶんと首を横に振った。
これは現実だ。漫画やゲームの世界じゃない。そんな怖いことに、なるわけがない。
藤野課長の手が俺の手を包む。体温の低い骨ばった感触が新鮮でひどく緊張した。
彼はとても細身でスーツの上からでも全身が骨ばっているのがわかる。今にも折れそうな体躯を見ているといつも心配になるが、溢れ出るしごできオーラは外見の頼りなさを補うのに余りあるものだった。
今だって、藤野課長に手を繋いでもらっているだけで一人じゃないって思える。藤野課長がいてくれるなら、きっと俺はどんな困難でも乗り越えられる。そう、信じられるのだ。
見慣れたロビーから少し歩くと重い扉の開く音がする。そこを通過して長い階段を降りさせられた。非常階段のように足場が小さくて身体を横にしながら慎重に降りていく。
手すりはなくてその代わりに壁があった。もうトンネルのような空間に入っているような雰囲気がした。空気が、今までのものと明らかに違う。やけに澄んでいて、そして、重い。
扉をもう一つ潜ると、ようやく目隠しを取ってもらえた。そこは……小さな生活空間。ソファーとダイニングテーブル、タンス、本棚、テレビ、それに大きなベッドも一台ある。温かみはなく簡素な印象だが、小奇麗で居心地が良さそうだ。家具も自分のような新社会人が一人暮らしするよりはランクが上の部屋にも感じる。
「こちらはトイレ、こちらはバスルームです」
奥の扉を開けて説明してもらう。俺と藤野課長は不動産の内見でもしている気分で「ほー」と感嘆の声を上げながら、他人事のようにそれらを見物していた。
ここで一ヶ月生活するのか。藤野課長と。それはなかなか悪くない。俺にとっては尊敬する上司だし、これを機会にもっと仲良くなれるかもしれない。
藤野課長も安心した表情で俺に笑いかけてくれた。杞憂だった。あんなに怯えていたのが今となっては恥ずかしい。俺も照れ笑いで返して、かしこまる秘書に向き直った。
「社長は寛大なお方です。ただ今一度、我が社の食に対する理念を思い出してもらいたいとも考えていらっしゃいます。あなた方の意識向上のためにこちらで特別カリキュラムをご用意しました」
「では、特別業務というのは……」
「研修みたいなものって、ことですか……?」
「ええ」
泊まり込みで研修。何か山積みでテキストを読まされたり映像を見せられたりするのだろうか。だがそんなことならいくらでもやってみせる。
本来なら身を粉にして取り戻さないといけないところなのに、人材の育成を重んじてこんな機会まで恵んでくれるなんて、社長は本当に寛大だ。こんないい会社に入社できたことを感謝しないと。
「……端的に申し上げます」
俺の感触とは裏腹に吉野さんは憂鬱そうだ。神経質そうに眼鏡を持ち上げて、七三をさらに撫でつけながら俺たちを見据える。そして放った。衝撃の一言を。
「これから一ヶ月の間、どちらかお一方はもうお一方の乳首からしか食事が摂れません」
「は…………」
は?
宇宙猫状態はまさに今の俺たちのことだろう。乳首て。乳首から食事?
俺たちの困惑ぶりを予想していたかのように吉野さんは息をつく。そしてさも面倒そうに付け加えてくれた。
「お相手の乳首の突起部分に乗ったものしか食べられません」
「え……それって、俺か藤野課長の乳首のこと?」
「ええ」
「男の乳首なんて米粒一つも乗らなくないですか?」
「そうですね」
「ええ…………?」
いかん。これ以上の説明なんてないはずなのに、いまだに理解ができない。俺が何も言えないところに、藤野課長がやっと口を開いてくれた。
「これが、我が社の食の理念……ですか?」
「ええ。米粒一つ口にするのがどれほど大変なことか。一粒ずつを味わって食べるのがどれだけ大事なことか。特に今回の件は貴重な食物の廃棄も大量に出ました。然るべき処置かと」
今回の損失についての話を出されると俺は弱い。数千万の補填などできるわけもないのだ、何を言われてもやるしかない。藤野課長は真剣に何か考え込んでいる。
「あの……吉野さん」
「はい?」
「乳首を使用される方の食事はどうなるのでしょうか?」
「そちらの方はご希望分だけ食事を摂っていただけます。こちらで最高級のものをご用意いたしますよ」
「すごい落差だな……」
その吉野さんの回答で、俺の腹は完全に決まった。
藤野課長は眉を下げ、心底困り果てた表情を俺に向ける。
「宮西、どうする。選んでいいぞ。やはりお前は若いしたくさん食べるから自由に食事できるほうがいいだろう。ただ問題は、私がお前の乳首にものを乗せて」
「俺が藤野課長の乳首から食事を摂ります!!!」
一生言うはずがなかったぶっ飛び宣言を、大声で致してしまった。驚く藤野課長と顔色一つ変えない吉野さんが対称的でなんだか可笑しい。だが今は笑っている場合ではない。自己犠牲の強い藤野課長を説得しないと。
「今回の件は疑いようもなく俺に全責任があります。俺がひもじい側になるのは当然です。食の大切さを……忘れていたかもしれません。これを機会に自分を変えたいんです」
自分のへそを覗き込むほどに深く頭を下げる。少し視線を上げると藤野課長のワイシャツの胸元が目に入って、慌てて言葉を足す。
「でもっ、藤野課長の乳首に食べ物を乗せるなんて……お、お嫌ですよね? 俺はどっちでも……やっぱり藤野課長が選んでください」
「いや……わかった。私の乳首を使おう」
またしてもなんというパワーワードだ。堅物な藤野課長がはっきりとそんな破廉恥なことを言うものだから、俺は目を丸くしてじっくりと噛み締めてしまった。そこに吉野さんの乾いた声が割り込んでくる。
「お決まりですね。では藤野課長には毎食二人分の食事をお届けします。そこから宮西さんに分け与えてください」
「二人分もらえるんですか……」
藤野課長の頬が緩む。俺も正直ホッとした。俺のせいで藤野課長の取り分を減らすのは嫌だったから。もっとも、成人男性の一食分をすべて乳首に乗せて食べるなんて途方もない時間がかかってしまいそうだが……。
「あ、不正をしたら即刻バレますのでお気を付けください。二十四時間体制で監視しております」
「え? 監視カメラあるんです?」
「探ってもわからないと思います。巧妙に隠してありますので」
それは……本気を出しすぎなのではないか。下手したら全方位見られているということだよな。どこに隠れて食べても必ずバレるということだ。
「ちなみに不正が発覚したら宮西さんには今回の損失分を全額補填していただきます」
「えっ……どうやって……?」
「幸い社長は他人の身体を使って稼ぐのが得意ですので」
それってどういう意味なの。ねえ吉野さん。いや……知らなくていいや…………。
俺はカスカスの声で「不正は絶対にいたしません」と誓った。断食というわけでもないのだしこれくらい我慢しないと。本来なら強制労働させられてもおかしくない損失額だもんな……。
「ちょうどお昼時ですね。それではさっそくお出しします。お待ちください」
綺麗に一礼をして吉野さんが部屋から出ていく。部屋の外の風景を見ようと身を乗り出すがほとんど見えず、ガチャッ、錠の落ちる音が無機質に響いた。
ハア。想像していたよりも軽い処分だけど、でも、予想の斜め上をいく奇怪さだ……。
とぼとぼと歩いてソファーに倒れ込む。藤野課長が目の前に立ったのでスペースを開けた。隣に座った課長は、複雑そうな表情で俺の顔を覗き込む。
「良かったのか? ひもじい側で」
「それは、もちろん……だって俺が責任をとらないと。それに、」
ヒクッ。喉が引き攣れて変なことを言いそうになった。軌道修正。咳ばらいをして、さりげなく藤野課長の身体つきを見回す。やっぱり、細い。心配になるくらい。
「藤野課長、細すぎます。普段ちゃんと食べてるんですか?」
「ああ。これでもしっかり食べてるんだよ。どうやら太れない体質みたいでな」
「そんなこと言って。よくメシ抜いて根詰めてるところ見ますよ」
指摘すると、気まずそうに視線を逸らされた。俺が気付いていないとでも思っていたのか。意外と見ているんだぞ。課長限定でだけど。
そういえば、俺も今日何も喉を通らなくて朝飯を抜いてた……空腹感に気付くと急にしんどくなってくる。俺こそ日頃は大食漢なのだから、最近は肉付きが良くなりすぎて少し悩んでいたのだ。この機会をダイエットとするのもやぶさかではないか。
「それよりいいのか。私の、その……乳首に、食べ物を乗せて食べるだなんて」
藤野課長の手が胸元のシャツを柔く握っている。筋張った手の甲には存外力が入っているようで、釘付けになってしまった。意識しているのかな。途端に俺も胸の奥が疼く。
「俺は全然ッ……けど、藤野課長に不愉快な思いをさせてしまうかもしれません……なるべく触れないように食べますので……む、無理そうなら食べなくても平気ですしっ」
「いや、大丈夫だ……幸い乳首は私の性感帯ではない。米粒くらいしか乗らんだろうが、こまめに食べてくれたらいいからな。遠慮をするなよ」
「きょ、恐縮です……!」
これから俺は、藤野課長の乳首に乗せたものしか食べられないのか……。
実に不思議な展開だが、世にも奇妙な物語でもこんな題材は取り上げないだろう。だってなんだか卑猥だ。俯いた先でこっそりと課長の胸元を盗み見た。期待で、胸がはちきれそうだ。
コンコン、ガチャ。ノックの後で間を開けずにドアが開く。まったくノックの意味を成さない行為だが、あいにく今の俺たちに文句を言う筋合いはない。
「食べ終わった食器はそちらのボックスに入れてください。自動で回収されますので」
「どこまでハイテクなんだ……」
軽い説明をしながら吉野さんは淡々とテーブルに二人分の食事を並べる。すべてが整うとアッサリ部屋から出て行った。
俺たちはソファを立ってテーブルにつく。目の前にはトンカツ定食。白く艶々と炊き上がった大盛りご飯に、大きく切ったカツが五切れ。カラッときつね色にあがって実に美味しそうだ。これまた山盛りのキャベツの千切りには角切り玉ねぎの混ざったドレッシングがかかっている。
「味噌汁……はまず無理そうだな」
「課長が俺の分も飲んでください」
「腹に余裕があったらな」
汁物は絶対に飲めないのに、きっちりと用意してくる辺りがなんとも嫌味だ。
俺は箸を持つことも許されていない。遠慮する藤野課長に「どうぞどうぞ、召し上がってください」と手を差し出して少し身体を反対に向けると、ようやく手を付け始めた。
ガリッ。サクサク。衣をかじる音やキャベツを咀嚼する音を、目を閉じてじっくり聞いていた。上司の咀嚼音ASMR……これがなかなかどうして、意外にも心地よい。
「宮西、そろそろお前も食べるか」
半分ほど食べたところで課長がそう声をかけてくれる。俺はバクバクと暴れ出す心臓を気合いで抑えつけて、いつもの屈託ない笑みを浮かべた。つもりだ。
課長がワイシャツのボタンを外す。その中からは純白の半袖インナーが姿を現した。眩しい……なだらかな胸元に目をやる。藤野課長は俺から目を逸らしながら、少し恥ずかしそうにして、それでも一息にそれも脱ぎ去った。
想像通りの骨ばった身体に……薄く色づいた胸の突起。その淡い色合いに目が奪われる。ダメだと思うのに、視線を外すことができない。だって、なんてささやかな飾りなのだろう。虫眼鏡で見ないと見落としてしまうくらいには、小さい。
「えっと……やっぱりまずは米粒から挑戦するか……?」
「は、ハイ! お願いします!」
「じゃあ……」
課長が箸に米を一粒挟んでそっと乳首の上に乗せた。明らかに米粒のほうが大きいが、粘着力でちゃんと乗っているように見える。これならセーフだろう。
「ほら、食べろ」
「あ……」
課長の乳首に、米がくっついている。俺に食べさせてくれるために――――。
倒錯的な光景に目が眩んだ。この上、唇を寄せて、その米を口の中に含んでしまっても、いいのか。ゴクリと唾を飲み込む。そのまま身動きできず凝視していると、課長が裏返った声で口走る。
「あー……やはり抵抗があるか? そうだよな……もう一度社長に掛け合ってみよう。これは明らかに罰ゲームだ。条件を緩めてもらえないか私も一緒に頼んでやるから……」
「いえ! 食べたいです! あっいや……」
ヤバイ。変態の発言みたいになってしまった。
「そうか」と恥ずかしそうに俯く課長。だけど俺が顔を寄せると即座にあさっての方向を向いて胸元が目に入らないようにした。きっと課長なりの気遣いなのだろう。
あ、と口を開けて顔に角度をつける。だけれど思ったよりも米粒が小さくて、おちょぼ口に修正、乳首に触れないように細心の注意を払って、唇の先で米粒を摘まむことに成功した。
「ほれは(取れた)……」
「上手いもんだな」
課長の声はまだ緊張している。俺はその米一粒を噛み締めて味わう。ああ、これは……確かに食の大切さに回帰できるな……甘くて瑞々しい……そのくせほろほろと柔らかくて、二、三回咀嚼しただけですぐに粉々になってしまう。
物足りなそうな顔をしていたのだろうか、課長がすぐに新しい米粒を乳首に乗せてくれる。
「ほら」
「あ、ありがとうございます……!」
またしても唇の先で米粒の端っこを挟んで取る。藤野課長はしきりに俺の咀嚼する様子を見つめながら、どんどん米粒を追加してくれた。
これならいつかは腹も膨れるだろうけど、やはり膨大な時間がかかる。藤野課長の食事はまだ半分残っていて、すぐに冷めてしまうだろう。俺は新しい米粒を唇に咥えながら、課長の顔の前に手の平を向けた。
「課長、先に全部食べちゃってください。いつ終わるかわかんないですよこれ」
「空腹のお前を差し置いて私一人食べるなんてできないよ。もう少し食べなさい。私のことは気にしなくていいから」
課長……なんて優しいひとなんだ。
ほろりと泣きそうになるのを堪えて、俺は米粒を咀嚼する小鳥に戻った。
あああ、口いっぱいにこの白米を頬張りたい。だけど課長の乳首を介して一粒ずつしか食べられないのと天秤にかけるなら、断然…………いかん、変なことを考えるな。
むずむずしてきた股間に叱咤して、無心で米粒を食べ続けた。角度を変えて、慎重に。絶対に触れないように。上司の乳首に唇をあててしまった、なんてそんな事故聞いたことない。気を付けないと。
「…………なあ宮西」
「ふぁい?」
「そんなに慎重に食べなくてもいい。少しくらいあたっても構わないから……スピードアップしたらどうだ?」
「え」
少しくらいあたっても構わないから?
あまりの発言に思わず目を点にして課長を見上げてしまう。それを受けてか、課長は急に目を逸らしてどぎまぎとし始める。
「あ、いやっ、宮西だって嫌だよな、私のが口に当たってしまったら……どれだけ時間がかかっても私は構わないんだ、ただお前がもどかしくないかと」
「スピードアップ、お願いします」
「えっ? …………ああ」
藤野課長がこちらを見なくてよかった。
今の俺、たぶん両眼ギンギンだ。だってとんでもないお許しが出たのだ。これは願ってもない、免罪符だ。
藤野課長の両腕を掴む。突然だったからかビクッと揺れるけど、俺が胸元に顔を寄せたらグッと飲み込むような顔をして、乳首に米粒を置いてくれた。
だってスピードアップなのだ。距離を詰めて、テンポ良く食べていかないと。
「あ、」
三粒目くらいで、唇が少し掠ってしまった。だけどスピード重視だから仕方ない。
狼狽える藤野課長に「スミマセン」と小声で謝る。意図していなかったけど、乳首に息があたったらしくて少し、腰が引けている。
「いや、いいんだ。宮西が嫌じゃなければ全然、構わないから」
「ありがとうございます」
今度は息がかからないようにしっかりと顔を見上げてお礼を言う。目が合うと、藤野課長の眼鏡の中の瞳が収縮して、何かに驚いたように見えた。
見ていると、また、目を逸らされてしまう。
無言のままに次の米粒がきた。課長の腕を少しだけ引き寄せて、次々と食べていく。
三粒に一粒くらいは唇に乳首があたってしまう。そのたびに課長が息を詰めるから、なんだか俺は嬉しくなって、そのうちに偶然を装って胸の下の方に顎をあてたり、鼻先で乳首に掠って二往復くらい擦り付けたりした。
課長はその度に少し次の米粒を乗せることに躊躇する。だけど止まりはしない。慈悲の心に感謝してこの異常な行為を続けた。
時間短縮のために唇で米を吸引して口に入れる。その代わりに鼻先で胸をだだくさに擦る。ハアハアハア。息が荒くなっているのは速くたくさん食べたくて頑張っているからだと、自分に言い訳をした。
そのラリーがいつまで続くのかと、互いに疲労困憊になってきた頃――――。
チュッ
「あっ?」
米だけを吸引するつもりが、間違えて乳首ごと吸引してしまった。
慌てて口を離して、今しがた入ってきた米粒を咀嚼する。つい声を上げてしまった藤野課長は、恥ずかしそうに口に手をあてて悶絶している。
「ハア、すみません……ミスりました」
「いっいや……私こそ、変な声を聞かせた……」
「ご馳走様です。もう大丈夫ですから」
「えっ? まだたくさん」
「もう限界でしょう? 藤野課長。俺は大丈夫ですんで」
そうして引き際よく俺はその場を去った。とはいえ部屋の外に出ることはできないから。立ち上がってトイレに入っただけなのだが。
個室に入って鍵を閉めた瞬間、口を抑えて俺も悶絶した。
嘘を吐いた。限界なのは俺のほうだ。だって、さっき俺、藤野課長の乳首を吸っ…………。
「ハアッ……!」
せわしなくベルトを外し、ズボンと下着を一気に下ろした。ボロンとまろび出た逸物は血管を浮き上がらせて硬く反り返っている。俺史上、最高潮だ。
左手を添えて擦り上げる。まだ下に残る藤野課長の乳首の感触を思い出して。ああ、ああ、藤野課長。乳首吸っちゃった。美味しかった。藤野課長の乳首を介した米粒で、俺、今お腹満たされてる。
今起こったことをすべて反芻しながら、音が出ないように高速でズった。最高に気持ち良い。はじめてセックスをシた時より興奮しているし、快楽も比ではない。
「……ッ!」
便座に腰掛けていたので精液は壁に勢いよく飛んだ。飛距離も凄い。自分がいかに興奮していたか思い知って、ニヤニヤと迸る笑みが抑えきれない。
「藤野課長…………エロい……」
舌をレロレロと動かしてあの乳首を好きにいたぶる妄想に溺れる。もう一度竿に手を添えて乱暴に擦り上げながら、チュウチュウと吸う仕草をして己を昂らせる。
間違えて吸っちゃったときの声、エロかった。上擦っていて、余裕がなくて、いつもの藤野課長とは正反対だった。もっとしたらどうなるんだろう。「エロいですね」って言ったら、怒るかな。それとも恥ずかしがって、顔を隠しちゃうかな。
えげつない妄想ですぐに二発目を発射してしまった。これくらいにしておこう。夜も抜きたいし。てか絶対夜も、抜けちゃうし。
「ハア―――――……好き…………」
俺はゲイだ。しかも前々から藤野課長を性的対象として見てきた。こんな人間にとって今のこのシチュエーションは、ご褒美以外の何物でもなかったのだ。
ソワソワしているうちに夜になってしまった。
娯楽はテレビと数冊の雑誌のみ。スマホも入室時に取り上げられてしまったから、俺の頭の中はますます藤野課長のことでいっぱいになってしまっている。
目の前にいるのに。そして今まさにシャツのボタンを開けて、乳首に米粒乗せて差し出してくれているというのに。
ハア、とため息を吐く。あまりの悩ましい光景に、感情を逃がすためにそうした。だけどそうすると藤野課長は何を勘違いしたのか、シャツをすべて脱いでしまう。
「あ、先に風呂に入ってこようか。気が付かないですまんな」
この人、風呂上がりの綺麗な乳首を俺に提供しようとしていんの?
二人でする行為の前に身体を清めるなんて、そんなの…………もうほぼセックスじゃないか。
ガシッと腕を掴む。少々強く握りすぎて、改めてその腕の細さに驚く。
「そのままでいいです」
「だけど、汗とかかいているかも」
「【そのままが】いいです」
しまった失言だ。慌てて口を覆うけど、藤野課長は「そうか?」と呑気に返して曖昧に笑うだけだ。あちらもいっぱいいっぱいなんだろうか。なんにせよ助かった。
夜の献立は南蛮漬けのから揚げにサラダ、デザートに苺のムースまでついている。しかし俺には米粒を一粒ずつ食べることしか許されていない……。
だがその米粒の価値は偉大だ。なんせ藤野課長の乳首を介しているのだ。一度藤野課長の乳首にくっついた米粒。まだ風呂に入っていない、汗をかいているかもしれない藤野課長の肌に触れた米粒……。
欲望を抑え込み、唇で米粒をうまく摘まんだ。本当は乳首が摘まみたかったんだけれど、そんなことして嫌われたら元も子もない。昼みたいに一回でも吸えるチャンスがあればいいけど……。
乳首から米粒を取りながら課長を見上げる。相変わらず恥ずかしそうに目を逸らして、せっせと次の米粒を準備している。俺の視線を感じているのか、意地でも目を合わせようとはしない。
昼はスピードアップとか言っていたが、初めての時と同じ速度の供給になっている。これってやっぱりあれかな。俺が乳首を吸ってしまったから……警戒してる?
「ゆっくりにするなら、課長も食べてください」
「あ、ああ……けど、下手に動いたらと、思うと」
また乳首吸われちゃうかもしれないって?
普段は一切表情の変わらない冷静な顔面が困ったように眉を下げ、サッと頬に紅が射すのを目の当たりにして、俺は心の中で小躍りする。
意識されてる。俺、別に告白とかしたわけじゃないし、そもそもアプローチも何もできていないけど。油断すると乳首を吸ってくるかもしれない男として見られている……! ぐ、興奮するッ。
「じゃあ昼みたいに早くしますか? 課長にもちゃんと食べて欲しいです」
「そ、そうだな……お前は昼もろくに食べていないものな」
俺は課長の心配をしているのに、課長は俺の心配をしているようだ。何これ、相思相愛?
脳内のお花畑でフワフワとスキップしながら、俺はコツンと額を課長の鎖骨の部分にあてた。こうすることで距離が近づいていち早く米粒を摘み取ることができる。けっして密着をしたいわけでも、乳首に少しでも近づきたいわけでも、ないのだ。
俺はそうやって頭を課長にもたれさせたまま、米粒を摘まんでは咀嚼した。わざと熱い息を吐きかけると、少しだけ乳首がピンと勃つ。
舐めたい。シコりたい。必死でそれを我慢して、それでも少しずつ乳首と唇の距離を詰めていく。取る拍子に唇を掠らせる。息を呑む課長の鼓動を肌からじかに感じながら、何度もそれをした。
はあ、一歳児の離乳食分も食べていないだろうに、ものすごく満たされている……課長の乳首ご飯美味しい……課長が俺のために手ずから乳首に米粒くっつけてくれるの、幸福でしかない……。
「なあ、宮西……お前、おかずも欲しいよな?」
声が震えている。ちょっと掠らせすぎたかな。どうやら俺の気を逸らしたいようだ。
別におかずなんてもう眼中になかったけど、少し可哀想だから乗ってやるとしようか。目を合わせてコクンと頷く。無理に微笑む口角が震えていて、グワッと心臓を鷲掴みにされた気がした。
手が伸びる。ピン。俺の供給源である乳首を指先で弾く。やってしまった、でも……そのまま身体を抑えつけて下を脱がさなかっただけでも褒めて欲しい。そんでこの人、驚いた表情までシコすぎる!!!
「でもこんな小さい乳首に乗るわけなくないですか」
「……ッ」
ビクンと身体が跳ねる。だけどはっきりと恥ずかしがるのはプライドが許さないのか、背を伸ばして僅かばかり避けただけ。俺は上司になんてことをしているんだ。思いながらも止まらない。今度は両乳首を人差し指と親指で摘まんで、クニクニと捏ねてみる。
「あ、おっきくなりましたね……もうちょっとタたせていいですか」
「えっ……」
「俺おかず食べたくて……ちょっと昼から目眩するんですよね。栄養摂らないと……」
もっともらしい言い訳をしてみる。藤野課長は何か言いたげだったがグッと飲み込んで、耐えるように下唇を噛むだけに留まった。
俺、今藤野課長の乳首捏ねてる。勃起させるために。この上にから揚げ乗せて食べるために。涎が垂れないようにこまめにコクコクと喉を上下させながら、四本の指で藤野課長の両乳首を愉しむ。
ちっちゃいなあ……乳輪も小さくて薄い色……こんな乳首で健気に俺に物食べさせてくれるんだもん、もうママといっても過言ではないんじゃないか?
ママの乳首コリコリ……ママの乳首コリコリ……ああ~~~~~~たまんね……あとで指舐めよ……へへ、俺の指で硬くしてやがる……可愛い、可愛い…………。
心の中で薄ら笑いを浮かべながらも、真剣な表情を作る。痛そうなほどに張り詰めてきたので、名残惜しかったけど指を離した。「課長、」手を重ねてそう呼ぶと、乳首に気を取られていた課長はハッと我に返り、慌ててから揚げを箸で運ぶ。
「やっぱり乗りそうもないですね……」
「私が千切ってやろう。待っていなさい」
そうだ。米粒くらいの大きさに切ってくれたら、理屈上は乗るだろう。しかしこの部屋にはナイフも何もない。箸でカリカリ衣のから揚げをカットするなど至難の業で、何度も箸の間からから揚げが逃げていってしまう。
「う~~~ん……困ったな……」
「課長の歯で噛み千切ってください」
「へ?」
「課長がそのまま大部分を食べていいから、乳首に乗る分だけ残して噛み千切ってください」
「な、なるほど」
俺の取り分は減るが、少しでも食べれたら御の字だ。というかそれどころではない。俺はまた藤野課長の乳首を捏ねている。乗らないといけないからタたせているだけです。そんなフリをして、至近距離でその光景をガン見しまくる。
藤野課長が箸でから揚げを構える。少し逡巡した後、弱々しい声が降ってきた。
「なあ……俺の噛み千切ったものでいいのか? 気にならないか?」
「そんなこと……今さらでしょう? ここに乗せるんだし」
「アッ、くッ」
示すようにピンピンと強く弾くと、さすがに声が出た。「もういいだろ」と少し怒ったように言われたので大人しくやめる。確かにもうよさそうだな。勃起は衰えることなく、ピンピンに張って今か今かとから揚げを乗せられるのを待っている。
課長が手を震わせながら慎重に乳首に肉片を乗せる……正直味も分からない程に小さいが……久しぶりに味のついたものが口にできると、俺は意気込んだ。嘘です。早く課長の乳首から食べ物摂取したかった。
歯で掴み取る。南蛮タレが乳首に付いているのを見て、つい舌で巻き付いてしまった。チュルッ。課長の身体が大きく揺れる。動かないで。言外にそう訴えるように両腕を掴んで、チュッチュッ。二回ほど吸って、口の中から乳首を解放する。
「うまっ」
「な、なんで、舐め……!」
「タレ付いてたから、かぶれたら申し訳ないなって。美味しいです。もう一回」
「あ、いや……」
課長はまたしても俺と目を合わせない。腕を掴んだ手に力を込めて引き寄せると、乳首が目の前にきた。ハア……ハア……さりげなく息を吐きかける。凄い。触れていないのに、課長の心臓が跳ねまわっているのが、わかる。
「お前、男の乳首を、その……舐めることに、抵抗がないのか……!?」
「俺ゲイなんで。むしろご褒美ってゆーか」
「なっ……!」
「早く。肉、食べたいです」
ねだるように腕を引く。一か八かの賭けだった。これで拒否されたら……俺は潔く餓死する覚悟すらあった。だってこのまま藤野課長に嫌われてクビだなんて生き地獄だ。それならいっそこの異常な空間で藤野課長に見捨てられて死にたい。
俺、もうダメだ。半端に手ェ出しちゃったから……本気で、藤野課長のこと……。
目が合う。藤野課長が、じっと俺の顔を見ている。
諦めたように息をつくと、またもやから揚げを噛み切って乳首に乗せてくれた。むしゃぶりつく。乳首に吸い付きながら咀嚼して、その間も舌でレロレロしたりチュウチュウと吸いつく。
下の方で手を握ると、身体の跳ね方が大きくなった。課長、完全に俺のこと意識してる。エッチなことされてるってわかって反応してるんだ。可愛すぎる!!!
指を絡めて恋人繋ぎにして、ねとねとと口の中で乳首を愛しまくった。反対の乳首も指でコリコリして、そういえばこっちは全然使ってなかったなと思い立ち、そちらも唇で吸いついた。
息を吐きかけながら上目遣いで見上げる。課長も、見てる。俺に乳首舐められているところ……。
「ゲイとか、冗談ですよ……口でシたほうが、課長の乳首大きくなるから……俺にいっぱい食べさせてくれるんでしょ? ねえ課長」
「ンッ……宮西、やりすぎっ……」
「次、こっちの乳首使いましょう?」
唇から解放して、指でコリコリして指し示した。課長は使い倒したほうの乳首を律義にハンカチで拭き取って、新しいほうの乳首に米粒を乗せてくれた。乳首シコりながら食べる。舌先でベロベロと揺らして、米粒を唇にくっつけたまま課長の突起を夢中で吸いまくる。
「んふ……美味しいです……課長」
「おい、ちゃんと食べろ……」
「美味しい、もっと」
何もくっつけていない課長の乳首を吸って、反対も指でカリカリして、完全に開発の体勢に入っていた。
もう我慢できない。俺は興奮して、ハアハア息荒げながら、すっかり上司の乳首にむしゃぶりつく変態だ。軽蔑されてもいい。もっと藤野課長の乳首味わいたい……!
俺を遠ざけようとする手を絡め取って指を組む。結局両方恋人繋ぎになってしまった。だけど両方乳首を弄ってあげたいから交互にチュッチュッチュッチュッと啄んでやる。
課長、目を瞑って必死に耐えてる……見たくないのかな、俺に弄られているところ……それとも、顔、見られたくないのかな……?
「課長~、デザートも食べさせて」
「ハアッ……デザート……?」
両手が塞がっているので顎で卓上を指し示す。
課長が動揺して机にあたると、苺のソースがたっぷりかかったピンク色のムースが魅惑的に揺れる。
「柔らかすぎるだろう……乗らないし、乗っても崩れる」
「一瞬で食べますから、こうやって」
ジュルジュルジュル!!!!!!
しゃぶりついて唾液を塗り付けてやった。藤野課長の手が俺の額を押す。ジュパッ、と音を立てて離れると、脇腹にコツンと拳をあてられた。
エッもしかして今のがお仕置き……? 藤野課長ちょっと優しすぎないか? 部下にいいように乳首しゃぶられてるのにこんだけ!? 無防備すぎる、隙だらけだ! 思いっきり付け込んでしまいたい……!
「課長、早く、食べたい」
めげずに舌をつき出して乳首スレスレでレロレロと動かすと、課長は逃げるように食卓に手を出した。ムースを小さく掬い上げて、そうっとスプーンを傾け……乳首に乗るか乗らないかの絶妙なタイミングで、しゃぶりついた。
ジュジュジュジュジュッ!! ジュジューッ!!
「あ、ああ……やめっ……」
「ダメです、もっと味わいたい」
腕を掴んで引き留め、もう何も残っていない乳首を未練がましくチュパチュパと弾く。俺の唾液が跳ね返ってくるくらいに強くしたからか課長の腰が揺れてる。感じてるのかな。スーツの太腿を擦ると、慌てて手を重ねられた。
「宮西、もう……」
「変な気分になっちゃいましたか?」
「…………」
その沈黙は肯定ととっていいのか。隠すように片手で口元を覆っている。俺が答えを急かすように見つめていると、緩く、首が横に振られた。
「なって、ない……」
「ホント? じゃあこっちの乳首でも味わいたいです」
ムースを乗せていないほうの乳首を指先でピンと弾くと、課長が泣きそうな呼吸をする。俺は勝手にムースの皿を手に取ると、スプーンで課長の乳首に垂らした。それを下から受け止めて味わった。乳首ごと。
乳首に乗せている判定になるかは正直微妙だが、自由に食事もできない環境で俺は十分に食事の大切さを痛感している。だからきっと許容範囲だ。
もっと食べたい。そんで精力つけて、この人を押し倒したい……!
大げさな音を立て続けて、あっという間にムースを乳首越しに飲み干した。
課長の乳首、イチゴ味だし……まるでイチゴみたいに真っ赤に色づいて、可愛い……ずっと、弄ってあげたくなっちゃう……。
交互にジュピジュピと唇の先で吸う。左の乳首のほうがちょっとデカい。確かめるように歯を立てると、「ウッ……!」と悶えて、課長が全力で俺の肩を押し返してきた。怖かったのか、目に涙を浮かべている。
「宮西! 何を考えているんだ……!」
「課長の乳首大きくなって欲しいんです。いっぱい食べたいので」
「だからって……!」
「……スミマセン。空腹で我を忘れてました。今日はもうご馳走様にします」
今日はこのくらいで引き下がっておこう。課長、怒ってる。誰にでも優しいこの人が怒っているところ、はじめて見たかもしれない。…………ゾクゾクする。
昼と同じようにトイレに行こうと席を立つと、下から腕を強く引かれた。藤野課長。じっと俺を睨んでいるけれど、涙を浮かべながらではまったく迫力がない。からかうように指で拭ってやると、俺の腕を投げるようにして解放してくれた。
「課長はたくさん食べてくださいね。細すぎて心配になるので」
ずっと言いたかったけど部下の身では言えなかったことを、思い切って言ってみる。部長はなぜだかクシャッと顔を歪めて、今度こそ泣き出してしまったかと思った。俺は気付かないフリをして、トイレに逃げ込んだ。
それぞれ入浴を済ませて就寝する。
ところで、忘れていたけどベッドは一台だ。超キングサイズだから、男二人で寝ても窮屈なことはないけど……。
「…………」
気まずいので互いに背中を向けて身動きもしない。だけど寝れるわけないって。前から好きだった人がすぐ隣で寝ているんだぞ。これを据え膳と言わずしてなんだというんだ。
そんなこと考えてたらムラムラしてきた。あーーーーー。トイレでもう一回抜いてこようかな……。
動こうとした一秒先に課長がむくりと上体を起こす。俺は息を潜めてその動向を空気の流れで感じ取った。流し場に向かっている。水分補給でもしているのだろうか。というか課長もまだ寝ていなかったんだな。
意外にも蛇口を捻る音はせず、カチャ、と特徴的な音がして課長は部屋に戻ってくる。しかし俺の横たわるベッドをすり抜けて、端っこのソファーに行ってしまったようだ。
もしかして俺との同衾がそんなにいやだったのかな。音をたてないように細心の注意を払ってどん底まで落ち込む。そりゃあ嫌だよな。「乳首大きくしてください」って好き放題舐めしゃぶってくる、失礼極まりない変態部下…………。
課長に嫌われたくない。明日ちゃんと謝ろう。涙目で反省の弁をいくつも考え込む。
そりゃああわよくばという気持ちはあったさ。だけど手を出す前に嫌悪されたら元も子もないのだ。今さらどうにかしてやろうと思わないけど、せめて、せめてここに入れられる前と同じ、適切な距離を保った上司と部下の関係でいたい…………。
「ンッ……」
なに今の悩ましげな声。エッ課長?
寝返りを打つふりをしてソファを向く。衣擦れの音も息遣いも一瞬やむけど、寝ているフリをしていたら元通り、薄暗い寝室に控えめな喘ぎ声が響き渡るようになった。
課長ソファで何しているんだろう。もしかしてオナニー?
期待に胸を膨らませて薄目を開けた。チッ、背中を向けていてよく見えない。しかもズボンは履いている。なーんだ、オナニーじゃないのか。
いい加減寝よう。そう思い瞼を閉じる瞬間、何かが課長の手元でプラプラと揺れていて、俺はもう一度目を凝らした。あれ、課長上は脱いでる……そんで、しきりに手を動かしてる…………。
………………。
もしかして乳首弄ってる????????????????
一気に目が覚めて、物音を立てないように伸び上がって見た。
プラプラと揺れる謎の白い物体は洗濯バサミだ。僅かに腰を揺らす課長の動きに合わせて、あまりにも小さな軸に留められて所在なさげに揺れ動いている。
ち、乳首に、洗濯バサミ挟んでる……!?!?!?!?!?
こうしちゃいられない。ガバッと起き上がってソファに歩み寄る。振り返った課長が慌てて前を隠すけれど、両手首を掴んで無理やり開いた。そこには確かに右乳首を挟む洗濯バサミが。左乳首も指で弄っていたのだろう、しっかりと勃ち上がっている。
こんな。こんな卑猥なシチュエーションがあってたまるか!?!?!?!?!?
「藤野課長、なっなっ何を」
「ち、違うんだ……これは」
「なんで洗濯バサミ?」
思わず手を伸ばすが、またしても前開きのパジャマを閉じられてしまった。
暗闇の中でも課長が耳まで真っ赤にしているのがわかる。息が荒い。ちっとも俺の顔を見ようとはしない。それはある意味普段俺に屈託なく向けられる視線よりも雄弁で、コクリと唾を飲む。
「き、君が、乳首大きいほうが食べやすいと言っていたから……自分で……」
「大きくしてたんスか?」
かなり長い時間をかけて、藤野課長は頷いた。
なんだそれ。なにそれ。今度こそ据え膳だよな?
一気に押し倒してまた両手首を掴みながら開く。白い洗濯バサミがプラプラと揺れている。こんなものまで使って、俺のために乳首大きくしてくれようとしてただなんて……そんなの、愛でしかないじゃないか!!!
「俺も、好きです」
「ハァ? 何を……」
飛躍してしまった感は否めない。けど決してその言葉は嘘ではないので、何も訂正せず洗濯バサミをデコピンで強めに弾いた。振れ幅が大きくなって、課長が「グッ、」と息を詰める。感じてる? まさかな。
「宮西、やめなさい」
「なんで? 俺のためにやってくれてたんですよね? なら呑気に俺だけ寝ていられませんよ」
「お前、ちょっと変だぞ……!?」
「変なのは藤野課長も同じでしょ……!」
「あっ、こらっ」
洗濯バサミに挟まれた乳首を横からレロレロと舐める。こんなにきつく挟まれて可哀想に。けどこの人これを自分からやったんだよな。手拭きタオルが挟んである洗濯バサミが一つしかないから、それを使って、もう片方は指で弄って……なんっていじらしいんだ!!!
もう大丈夫ですよ。あとは、俺が全部してあげる。
ヂュッヂュッ。ヂュゾゾゾゾゾ……。
「ンッ、ちょっ、」
「ハアハア、痛そうだから、消毒ですっ」
「いいってぇ~~……!」
上から洗濯バサミを持って乱暴に回転させる。課長が仰け反る。この人痛いのもいけるタイプなんだ。俺いじめ甲斐のあるネコちゃん大好き。課長は絶対ネコだ。痩せっぽっちのうぶなネコちゃん。
「あ、あ、あ!」
パチン! 強く引っ張りすぎて洗濯バサミが取れた。付いていた右乳首がぷっくりと腫れている。間髪入れずにしゃぶりついて、俺の口の中の唾液の海で泳がせた。
俺の唾が、全部課長の乳首からダシとって乳首ジュースになってる……飲み込むたびに下っ腹が疼いて……ああ、勃起、しちまう……。
「ひははっはへふは?(痛かったですか?)ほへんえ(ごめんね)」
「ああ、今舐めたらっ……ほんと、ダメっ……!」
「ふへぇ」
前髪を掴まれて無理やり顔を上げさせられた。いっぱい溜まっていた唾液がトロリと課長の乳首に全部零れて胸元全体を濡らしていく。それがソファの座面にまでポタポタと落ちて、改めて自分の唾液量に驚く。どんだけ興奮していたんだ、俺。
藤野課長は唾液が胸元から四方に伝っていく感覚に震えて、なぜだかビクビクと胸を上下させている。身動きできなさそうなのをいいことに、俺は手の平をそこにあてがって唾液を塗り広げた。
「課長、大丈夫ですか……? 消毒してますよ~……」
「あっ、やめっ、」
戯れにピロピロと指で乳首を弾くのも忘れない。塗り広げながら指の股で挟んでギュッと捻り上げると、「ひゃんっ」と実に艶っぽい声を上げて、大きく腰をバウンドさせる。
藤野課長、乳首、感じるようになってるじゃん。クスクスと嘲笑するように喉を鳴らすと、課長の息遣いが激しくなる。もう半分泣いている。泣くことないのに。俺のほうが今、恥ずかしいことになってるのに。
パジャマの上から隆起した股間を擦る。課長には見えないように手を突っ込んで扱きながら、ふたたび乳首を唇に挟んだ。
「今度はこっち。さみしかったね」
「ふぁ、あ、ダメッ、てぇ」
左乳首をチュウチュウと愛情たっぷりで吸い上げる。ソフトタッチであやすように。オマケで頭を撫でてやると、途端にくたりと脱力してしまった。
こちらを凝視しているのはわかってるから……煽るように、両手で周りを揉み込んで中心をこれでもかと丁寧に吸い上げる。唇だけで伸ばして、全体をモミモミして、味わうように舌を巻きつける。
「へ、へんたいぃ」
「変態はどっちですか。夜中に洗濯バサミで乳首オナニーなんて」
「こ、これは君の、ために」
「はい、嬉しいです。ありがとうございます。しっかりお手伝いしますね」
そう、俺は変態じゃない。俺のために乳首育ててくれた課長に報いるために、その手伝いをしているだけなんだ。そう頭で言い聞かせながら、徐々に欲望まみれな舌遣いにしていく。
ハアハアとみっともなく息を吐きかけて、目を合わせながら、レロレロと舌で弾く。課長ははくはくと口を開閉しながらも、何も言えずついに目元を手で隠してしまった。
いいんですね課長。あなたの乳首、俺がしゃぶり倒しちゃいますよ。
「右はひどくされて、左はやさしくされて、どっちが気持ちいいですか?」
「どっちもよくないっ……」
「じゃあこっちで勝手に見極めますね」
「アッアッアッ……」
左乳首は変わらず舌と唇で柔く愛撫する。対して右乳首は二本の指できつく摘まみ、天井に向かって引っ張り上げた。課長の両手がシーツを掴んで悶絶する。可愛い。もっといじめたい。グニグニと揉んで伸ばして蹂躙する。
数分後には、すっかり肥大した勃起乳首が二つ。
「ふふ、どっちもよくないじゃなくて、どっちもよかったんですね」
「ち、ちがう……!」
「若干右のほうがデカいかな? 平常時は左のがデカいから、やっぱマゾなんだ」
「ちがうってえ~……!」
拳で胸を叩かれる。だけどそれは暴力にほど遠く、ただ抗議の意を示すだけの弱々しいものだ。こんな失礼なこと言われてもこれだけしか怒らないなんて……マジで聖人か何かじゃないのか。清らかすぎる。
「認めてくださいよ。じゃなきゃ効率的に乳首大きくできないでしょ」
「自分でやるからっ……」
「ダメです。俺にやらせてください」
優しくしていた左乳首に顔を寄せる。ふう、と息を吐きかけただけで全身を震わせる課長。いくらなんでもまだ性感帯にはなっていない筈だが……雰囲気に酔っているのだろうか。
今度はそうっと歯を立てた。撫でていた脇腹が一気に硬直する。
「こっちもマゾ乳首にしてあげる」
「やめっ……それ……!」
「なに?」
「……こわい…………」
そう言って目に涙を浮かべる藤野課長はとても扇情的で。
俺はすぐさま舌を巻きつけて激しく舐めしゃぶった。泣いて嫌がることはしない。歯が嫌なら舌でどれだけでもしてあげたい。ぷっくりと尖った感触、すごく愛しい……米粒三つくらいは乗りそう……って、成長、早すぎだろ……。
「ああ、みや、にし」
「俺の後頭部に手置いて……そう……ああ、求められてる感じして燃える……!」
「たのむ、もう、アアアア~~ッ……」
チュバ! チュバ! チュバ!!!
唇で勢いよく弾いて刺激する。課長の反応は良好だ。というか激しくされて興奮しているみたい。マゾだ。サドの俺と相性バッチリ。いじめる。もういじめ倒す。
ハアハアと息をまき散らして顔を振った。舌を出したまま擦り付けてる。高速で捏ねられて、俺の興奮が伝染したように課長も息を乱す。俺の後ろの髪を縋るようにかき混ぜてくる。もうたまらない。
「課長、ンン~~~……乳首おっきいよ……おっきい……」
「あああ~~~~~~~」
強調するように舌で持ち上げて弾いてやる。課長はもう声が我慢できないみたいだ。太腿を撫でていた手を思い切って股間にあてがった。ビクンと大きく揺れる。だけど、拒絶しない。ずれた眼鏡の奥は物欲しそうに、俺を見つめている……。
「感じてるね、いいよ。そのほうが早く乳首おっきくなりそう」
「あッ、みやにし、やめ、ンッ」
「精一杯奉仕します、俺っ」
ゴシゴシと扱きながら両乳首を交互に吸いまくる。激しすぎて唾液が飛び散るたびに藤野課長はいちいち感じて、身体まで律義な人だと感心した。
俺のやることすべてに感じてくれているみたいだ。興奮しているだけなんだろうけど……これで乳首を弄られることを快感だと教え込めば、この人は黙っていても自主的にまた乳首オナニーするだろう。そうなったら最高だ。絶対にそうなるように調教してやる。
「あっという間にカチカチですね……もう出そう?」
顔を上げて聞くと、課長は歯を食いしばりながら何度も必死に頷く。俺がズボンとパンツいっぺんに引きずり下ろしても拒まない。射精直前のビキビキチンポが出てきて、涎を垂らしながら今か今かとトドメの刺激を待っている。
手の平でゆっくりと包んで、直接、扱き上げた。
「出してください? 乳首も一緒に扱いてあげる」
「フッ、ンッ……」
口元に手を添えて清楚に感じているが、はしたなく勃起させたものを部下に握られて、両乳首を舌と指でいじめられて、もう、最高にみだらな雌にしか見えない。俺にチンポ握られるのを許しちゃってる。ああ。まさかこんな日が来るなんて。
興奮のままに乳首を右も左もわからないくらいしゃぶり倒した。ドクン、手の中で脈打つ。俺は慌ててティッシュをあてがい、なんとか無事に課長の精液を受け止めた。
「ハア……ハア……」
「気持ち良かったね……」
「ううっ……」
くったりとしたその身体を後ろから抱っこして抱き締める。耳元に息だけでそう囁けば、一旦は止まった精液がまたコポ、と先端で泡立って滑り落ちた。エロすぎ。どうしたら感じるのか丸分かりじゃん。
そのままさわさわと上半身を撫でまわしているうちに、俺の下半身が本格的に兆してきた。腰を回して擦り付ける。あ~~気持ちいい。課長、イった余韻で気付いてないみたいだ……。
「じゃあ俺、トイレ行ってきますね」
「あ……」
「ちゃんとベッドで待っててください?」
もう一度耳元への囁きで震えさせて、俺はトイレの個室へと籠った。
静寂。ドアの向こうからは遠く、僅かな衣擦れの音。悪戯心が働いて、俺は「あ、」とわざと大きな声を出す。
「課長、藤野課長……ハア、ハア…………」
衣擦れの音が止む。こちらを窺っている気配。きっと俺の声、聞こえている。
先走りを竿に塗り付けてグチュグチュと音を立てる。
「課長の乳首、美味しい……レロレロ……エロいです……どんだけ舐めても足りない……ハア、ハアっ……!」
宙で舌を高速で動かしてピチャピチャと水音まで出す。課長が息を潜めてこれを聞いている。俺のダダ漏れの欲望を聞いて、多分今きっと、最高潮に俺を意識してる……!
「可愛い、課長、課長、前から、好きでっ……オオッ……」
コプ。先端から濃いのがどろりと垂れ落ちる。今日何回も抜いたのに。マジで今の俺絶倫すぎる。だってあの藤野課長に思う存分密室で欲望をぶつけられるんだ。
藤野課長、俺のことを許してる。きっと少しずつ責めていけば、抵抗されない。
「へへ……」
後始末をして、丁寧に手を洗ってから個室を出た。
ベッドの上にはこんもりとお山が一つ。そそくさと隣に入り込んで、掛布団を剥がし、後ろから抱き締めた。途端に硬くなる身体。俺を意識してもうどうしようもなく火照ったその肌を撫でて、ボタンを外し、ふたたび乳首に指をセットする。
「あ…………」
「課長……聞こえてた? 俺のオナニーの音……」
「う……」
「好きです……いっぱい、触らせてください……」
ついに、言ってしまった。
藤野課長は逃げない。おとなしく俺に乳首を捏ねられて、いじらしくも小さく息を吐いて耐えている。俺はその晩、もう一生分の告白を藤野課長の耳元でした。
「すきだよ」「あいしてる」「エロいね」「かわいいよ」「食べちゃいたい」
何を言っても……課長はその度に肩を震わせるだけで、俺を跳ねのけようとはしなかった。
朝ご飯が運ばれてきた。それを目の前にして動かない課長の肩を支えて、隣に座る俺のほうを向かせた。当たり前のようにパジャマの前をはだける。課長は……俯いたまま、押し黙っている。
「食べる前に、乳首大きくしますね」
肩を擦りながら耳元でそう宣言する。ハアッ……とすでに感じているかのような吐息を返されて、一気にエレクトした。
課長、想像しちゃったのかな。俺に乳首弄られるの。昨日も寝落ちするまで散々していたし。
両乳首を指で摘まんでやさしく捏ねる。課長は顔を覆って泣いているかのように喘ぐ。もうすっかり感じやすくなっちゃってるみたいだ。ほぼ一晩中開発していたものな。
ちゅぽちゅぽちゅぽ。顔を寄せて唇で吸い取る。いかにも乳首を勃起させるための動きに、課長はいやいやと頭を横に振る。だけどその場所はあっという間にぷっくりだ。
「えらいね」
乳首に囁きかけると、弱々しく頭を叩かれた。こんな程度で済むならもっといじめてやりたい。俺は自ら課長の箸を取って、米粒を俺専用の可愛いお皿に乗せた。
チュウウウ。思いっきり乳首ごと吸引する。課長は胸を反らして悦んでいる。脇腹をくすぐって、どんどん食べ物を皿に盛りつけては食べていく。塩鮭を乗せた後はとくに丹念に舐め取った。しょっぱい課長の乳首も、絶品だ。
「美味しいです」
「ウッ……こっち、見るな……」
「顔見たらダメなんですか?」
コク、と頷かれて、俺は改めて課長の乳首を凝視した。乳首なら何も言われないのに。改めて、異様な状態だ。だが俺はこの好機を逃しはしない。
「課長もお腹空いたでしょう。一緒に食べましょう」
「一緒に、って……」
「俺は自分で盛り付けて勝手に食べてるので、課長も俺に構わず食事してください」
「え……えっ」
まずは俺の膳を、俺の座っていた椅子に置く。そして俺自身は机の下に潜り込んだ。課長の足の間に身体を割り込ませて……そして俺の目の前には、また、課長の乳首。
俺は俺の食事を再開した。盛り付けては食べる。離す間際にチュパッと弾いたりレロレロと愛撫するのは忘れずに。課長、その度にガタガタと椅子を揺らして……可愛いな……。
「宮西、これえっ」
「顔見られたくないんでしょう? これなら見えませんよ」
「けど、乳首ィ」
「俺だって食べたいですもん。課長もちゃんと食べて。いっぱい食べないと乳首大きくなりませんよ」
まあ俺がたっぷり可愛がってあげるから大丈夫だと思いますけどね。
とは言わず、ひたすらに盛り付けては食べた。使っていないほうの乳首を爪先でコリコリしてやるのも忘れない。課長は悶絶してしまって食事どころではなさそうだ。くぐもった声から、口元を完全に覆ってしまっているのがわかる。
「課長。早く食べないと片付ける吉野さんに迷惑ですよ」
「じゃ、じゃあっ……せめて、指、やめっ」
「わかりました。ほら、食べてください?」
仕方なく指を外してやった。カチャ。箸を持つ音。だけど俺が乳首に食べ物を乗せるとピクリと反応し、唇をつけるといちいち茶碗を置く。課長が悶えている振動が、テーブルごしに伝わってくる。
すう、ハア。すう、ハア。すう、ハア。深呼吸で必死に自分を落ち着けて食事を進めようとしているのに、俺がチュウチュウ乳首を吸うと……せっかく整い始めていた呼吸が「アア、アア」って喘ぎに変わる。
「このつくだに絶品ですね。ねえ課長?」
ジュッ、ジュッ、ジュッ!
「アア、アア、やあっ~~~!!」
乳首に乗る食べ物で助かる。しかしべっとりとタレが付いてしまったので、俺は善意で綺麗に舐め取った。というか、吸い取った。
唇から出して指先でツンツンと張りを確認する。ハア、可愛い……俺の愛撫でこんなにして……まだ朝なのに。っていうかこれからずっと三食これかよ。何が地下労働だ、天国じゃねえか。
「課長食べてます? 早くしないと……」
「も、もういいっ。ご馳走様だっ」
「ええ? 全然食べてないじゃないですか」
「いいんだっ……」
話しながらも乳首をずっとピロピロ弾いている。課長はそれを怒りもしない。そんなふうに息を切らしてても、乳首弄りを咎めないなんて……期待しちゃうじゃないか。
俺は乳首にご飯をよそって食事を再開した。課長がやめたからって俺はやめない。まだ食べたいし、まだ舐めたい。課長はフーフー言いながら俺に舐められている乳首を凝視している。痛いほどの視線に、なんとなく合点がいった。
「ああ……乳首舐められてるほうに集中したかった?」
「はっ!? ち、ちが」
「いっぱいしてあげますね」
「ちがう~~~~~」
ああ、両手でこけた頬を覆って、可憐すぎる……中年のオッサンのくせに……。
色素の明るい髪はぺたんとしていて、前髪短めでデコ丸出し。首も肩幅も脇腹も、何もかも貧相で……それなのに、俺に舐められている乳首だけは、ビンッビンに勃起してんの最高にエロい……!
「課長、美味しい……ンッンッ」
「みやにしぃ、も、ごちそうさましてぇ~~~~」
「しませーん。ン、おいし、ンン」
チュッポ、チュッポ、チュッポ。
口内の食べ物を咀嚼するのも忘れて、課長の乳首に吸い付いては弾き、吸いついては弾き……シャツを脱がせてまだまだ終わらないことを示唆する。脱がされる感覚だけで課長はブルッと全身で震えて喉を露わに仰け反った。
長い、長い、食事時間の後。
パジャマから楽な部屋着に着替えて、藤野課長は部屋に置いてあるビジネス雑誌に没頭していた。そんなの読んで一体何が楽しいのかわからない。いや、俺といるのが気まずいから読んでいるフリをしているだけかな?
背中を向けられているからイマイチ判別できない。深呼吸。勇気を出して、ローテーブルの前に座る課長の背中にべたりと覆いかぶさる。ブワッ、と体温が上がったような気が、した。
「課長、俺ヒマです」
「お、お前も何か読めばいいだろう……」
「興味ないです。課長の乳首大きくしてていいですか?」
聞きながら、すでに服の中に手を入れてコネコネしている。食事の時間だけじゃ足りない。ずっと、課長に触れていたい。一日中感じさせて、課長、俺のこと好きになっちゃえばいいのに。
課長はしばらく平気なフリしてページをめくっていたけど、全神経を乳首に集中させているのがわかる。どのページも小さな字が詰まっているのに、次のページにいく速度もバラバラで、明らかに読めていない。
藤野課長。
ずっと憧れていたから大きな人に見えていたけど、今は俺の胸にすっぽりと収まっている。女よりも華奢で、骨と皮しかない身体。だけどたまらなく興奮する。性の匂いが一切しないこんな真面目な人が、俺の愛撫に感じてくれているのが何よりうれしい。
「み、みやにし、もう」
「課長……」
「アッ、」
耳元で呼ぶだけでピクンと縮こまってしまう。甘いムードを増幅させるために愛撫もとびっきり優しいものに変えた。乳輪を指の腹で撫でて、乳首には掠らせるだけ。ん? これ優しいのかな。ある意味イジワルか?
「もう、いいだろっ……」
「課長の乳首もっと大きくならないと、俺ずっと腹ペコです」
「~~~~~ッ、わかった、わかっらからっ」
強引に肘で押してきたので、さすがに解放した。課長は乱れた衣服を直して、すくっと立ち上がる。
「じゃあ自分でやる! だからお前はもうかまうな!」
「どこ行くんですか」
「ウッ…………」
歩き出したところを強く腕を引いて阻止した。逃げようったってそうはいかない。
「トイレだよ……トイレで乳首、弄ってくるから……」
「ダメですよ。課長やらないでしょ」
「やるって……」
「じゃあ俺の前でやってください」
見え透いた嘘をつく課長には、お仕置きしたって罰は当たらないだろう。にっこりと笑みを深める俺に、課長は気まずそうに視線を合わせる。課長の腕を掴んだ手に尋常じゃない力を込めた。絶対にやってもらうぞ。逃がさないからな。
課長はうろ、と視線を彷徨わせるが、やがて諦めたようにその場に腰を下ろした。そのまま動かないので、俺が腕を持って乳首へと導いてやった。もちろん、服をまくるのも忘れない。
「はい、どうぞ」
「…………」
胸全体を揉むような仕草。しかしおっぱいどころかぜい肉さえついていないので、何をやっているのかわからない。じっと咎めるように見つめれば、観念したように目を閉じて、課長はついに己の乳首に指を伸ばした。
「ンッ……」
鼻にかかった声。しかしそれ以降は一切声を出さずに、課長は親指と人差し指で両方の乳首を丹念に捏ねている。
脚をぺたんと床につけて女の子座りで乳首オナニーする上司、たまんねえ~~~~~ッ………………乳首を伸ばすようにゆっくりと捏ね上げるその指の動きがどうにもいやらしくて……俺もあの指でいろんなところ触られたいなって、つい想像してしまう……。
「宮西……見すぎだ」
「だって俺も課長の感じるところ覚えておきたくて」
「な、なんで」
「人に触ってもらったほうが感じるでしょ?」
「…………」
否定はしないんだよな、この人。馬鹿正直が裏目に出ていて大変よろしい。
これで俺は堂々とこの人の乳首オナニーを視姦する権利を得たわけだ。テーブルの向かい側に移動し、あえて距離を取ってじっくりと観察する。
課長の手つき、捏ね方、表情、声……五感で感じ取ると、フェロモンなのか甘い匂いまで漂ってきてヤバイ。
俺と目を合わせたくないからしっかりと目を伏せていて、そのおかげで長い睫毛がやけに妖艶だ。ハッハッと小刻みに吐息を漏らす唇、本当は今すぐにキスで塞いでやりたい。捏ね方がだんだん大胆になってきて……ヒクッ、と喉がひきつる瞬間が多くなる。
「気持ち良さそうですね~~」
「うるさいっ……」
「コネコネばっかりもマンネリ化しますし、次は押し潰してみたらどうですか?」
「押し潰す……?」
さりげなく指示してみると、課長はゴクリと唾を飲み込む。やったことがないんだろうな。というかその発想もなかったという顔だ。
この人、もしかして童貞か?
俺が見ているか一度視線を合わせて確認すると、眼差しをキッと強くして睨みつけてきた。全然怖くないんですけどね。部下の前でおっぱい丸出し乳首イジリしてる上司なんか。
課長の指がこわごわと乳首の先端にあてがわれる。ゆっくりと乳輪の中に突起を押し込んで……グリュグリュ。存外強く押し込んだから驚いた。人差し指では力が足りなかったらしく、親指に代えてまで過激な刺激を与えている。
「ンッ、あッ」
胸をつき出したまま下半身がビクンと跳ねた。薄目で俺が見ているのを確認すると、今度は指先でピンピンと弾き出す。その捨て鉢な弾きっぷりに、俺は自分がたらりと直線にヨダレを垂らしていることも気付かなかった。ローテーブルに異様な水溜まりができていく。
ああ課長、もう仰け反っちゃって、無防備にこっちに喉仏突き出して腰振っちゃってるよ……乳首、痛そうなくらいに張り詰めてる……もうぷりっぷりじゃん……なんで俺が触ってる時より大きくなっちゃってんの? そこはちょっと許せない。
「ひィン、ひッ、もう~~~~~~~」
自分でやっているのに自分の意思で止められないみたいだ。無様な泣き顔晒して乳首引っ張る上司なんて今生で見るの最後かもしれない。俺も無様にヨダレ垂らして、目の前の嘘みたいな光景に釘付けになる。
下を寛げて迷わず扱き上げた。課長たぶん乳首だけでイく。俺も一緒にイきたい。今にも達しそうに震える細い喉を見て、焦りながらマッハで自分を追い立てる。
「み、みゃ、みゃに、し、イっ、く……」
「!!!!!!!」
今、俺の名前呼んだ?
なんで…………俺が触っているわけじゃないのに?
あまりの衝撃に、方向も定めず射精してしまった。自分の意識と反して出してしまうなんて生まれてはじめてだ。ローテーブルの裏面はきっとエグいことになっているが、今はそれどころではない。
テーブルに伏せてはあはあと息をついている課長の腕を取って立たせようとする。
「みゃ、や、みゃ、みゃ」
この人は何をミャーミャー言っているんだ。もしかして俺の名前呼んでるの? 可愛すぎて生後1か月の子猫かと思ったわ。頬はほの紅く上気して、潤んだ目は虚ろ、それにこの人も口の端からヨダレが垂れてる…………。
見とれていると、じわりと課長の目に涙が滲む。相変わらずみゃーみゃーと連呼しながら。俺は屈みこんで背中を擦ってやった。課長が俺に何か伝えようとしている。聞いてあげなければ。
「みゃ、にしっ…………」
「どうしたの? 課長……」
「い、言わないで……会社の皆に……私、乳首でこんな、感じてッ…………」
――――プッツン
涙目で乞うてくる藤野課長のエロい顔に、ついに俺の中の理性が切れた。完全に脱力したその身体を正面からわきの下に手入れて抱え上げて、ベッドまで連れて行く。
ひと息に押し倒して、服をまくり、労わるように優しく手のひらで乳頭を撫でる。そんな些細な刺激にさえ、課長は「オッ、オッ」と脚をバタつかせて悦んだ。
こんなんもう、ダメでしょ。きっちり責任とってやらないと、男がすたる。
「素敵でしたよ。課長のあんな姿、誰にも見せたくないです。だから言いません」
「うう、ほんとぉ、に?」
「ええ……だから俺の前では、好きなだけ乱れてくださいねっ……!」
重く、緩く、乳首を弾く。一打ごとに大げさなくらい「きゃうんっ」「ひゃあんっ」と可愛らしく鳴くから俺の息子はふたたびフル勃起だ。心臓が自分のものじゃないと思うほどにうるさい。今すぐに襲い掛かって全部食べちゃいたい本能の俺と、じっくり乳首を苛め抜いてまずは俺の愛撫中毒にしてやりたいという理性の俺が素手で殴り合っている。
己を収めるために、課長の胸元に頬ずりした。至近距離で、横から乳首をガン見して、ゆっくりと弾く。「あ、あ、」と小刻みな声がもう未成年の女子としか思えないおぼこさで、どんどん俺を追い詰めていく。
「課長、気持ちいい? 俺の指ッ」
「あ、やらあっ……」
「気持ちいいんだろ? 押し潰せって言ったらすぐあんなふうになっちゃって」
「ひゃああ~~~~~っ」
グニグニグニ。渾身の力を指先に込めて押し潰してやった。この人ドマゾだ。確信した。激しいほうが感じてる。自分でやってる時もすんごかったもんな……!
抉る勢いで爪の先も使ってこてんぱんに圧してやった。もう再生できないんじゃないかってくらい、押し込んで、ガリガリ潰して、息つく間もなく口で吸い出してまた復活させた。
あまりの凌辱っぷりに課長はもう何回イッてるのかもわからない。ズボンもパンツも履いたままだからさすがに沁みてきた。気付いているぞと言わんばかりに服の上から揉みしだいて羞恥を煽る。
課長は「ああ~~~ッ」と悲鳴を上げてなんと腰を浮かせている。俺に差し出しているのだ。股間を。全部脱がして竿同士で触れ合った。課長、それを首だけ起こして確認すると、「あ、あ」と声を漏らしながら自分から擦ってくる。
もうこれは俺の勘違いじゃないよな? 課長、俺に手を出されたがってるよな?
二本を一緒に手の平に握り込んで擦り上げた。課長が俺の肩に手を回して引き寄せてくる。心臓飛び出るかと思った。可愛すぎる! 可愛すぎるッ……!
「みや、みや、イくっ、イくぅ」
「いいよ、どっちでイく?」
「ふぁああああ」
同時に乳首をピンピン弾いてわけわからなくする。どちらにしろ俺の手でイくんだ。お前は、俺に、可愛がっていた部下に、イかされるんだッ…………!
「あぅあ~~~~~!!!」
「…………ッ!!」
藤野課長が俺をきつく抱き締める。頭から力が抜けて、どろりと脳髄が垂れるような感覚だった。本当に、魂が身体のどこかから漏れ出しているのかと思うくらいの虚脱感。
俺は抱き返すこともできず、課長に全体重をかけてくたばった。ビクンンビクンと密着した身体から跳ねる振動が伝わってくる。愛おしくて、たまらなくて、ようやく頭を抱き込んだ。
可愛い…………上司なのに……中年男、なのに…………綺麗で、細くて、エロくて……放っておけない…………護りたい…………。
「あ、すまないっ……」
急に課長が慌てて俺の下から這い出る。できれば一生抱き締め合っていたかったんだけど。俺は起き上がる気力もなくて、寝そべった状態で横に座る課長を見つめた。
部屋着の上だけ着た状態で、体育座りをして、顔を隠してしまっている。
「こんな体力使ったの、はじめて」
「そうだよなっ……すまなかった」
どうして謝るのだろう。俺、最高に愉しんだのに。
もう一度抱き締めたくて手を伸ばすと、指先が課長の乳首を掠った。課長は声にならない悲鳴を上げる。チョンと触れただけなのに、胸元を抑えてベッドの端まで後ずさる。
「課長…………?」
「少し休むといい、無理をさせた!」
「無理なんて、別に……」
ああ、課長を抱き枕にして、お昼寝、したかったなあ……。
いそいそとトイレにこもってしまう課長を名残惜しく見つめながら、俺は心地よいまどろみに身を委ねる。
ぐらぐら。揺さぶられてハッと覚醒する。
課長の「昼食、きたぞ」の言葉に、そういえばまだ午前中だったと思い返す。朝飯食ってエッチなことして寝落ちなんて自堕落な生活を藤野課長と出来るなんて改めて考えても最高だ。ムードに任せて抱きつくけど、やんわりと手を剥がされてしまう。
「なんもしてないのに食べてばっかでいいんですかねえ」
「お前はほとんど食べてないだろ……」
じゃあお昼は課長の乳首からイッパイ食べたいです、と言いかけてやめた。課長もそう言われるであろうことを予想して、自分の失言を苦い顔で噛み潰していたから。いじめすぎもよくないもんな。こういうのは駆け引きだ。
「じゃあ朝の時と同じように、同時に食べましょっか」
「え? あ~~~~うん……そうだな……」
恥ずかしそうに顔を逸らしている。こういう態度が余計に加虐心を煽るんだって、藤野課長は永遠に気付かないんだろうな。天然で可愛い人なんだから。
課長が席に着く。俺も席に着く。(テーブルの下に座って課長の胸元をめくる)
あ、俺のお皿、もうビンビンに勃起してるや……マジで米粒余裕で三粒くらい乗るようになっちゃったなあ。嬉しい。
挨拶代わりにチュウと吸いつく。すると「ひゃっ!」と課長の身体が飛び上がって、箸がカロンと落ちてくる。拾って顔を出すと、藤野課長は涙目で歯を食いしばっていた。
「課長……? どうしたんですか?」
「いたい、んだ」
「へ……?」
「乳首が……じんじんして、ずっと熱い」
試しに指先でもう一度撫でてみる。課長の悲鳴は感じてるなんて生易しいものじゃない。本気で痛がって泣きべそをかいている。やりすぎたな、と俺は即座に後悔した。
「すみません、俺のせいで……」
「いや……」
「ちょっと吉野さん呼んで相談してみましょうか」
まさかこの状態を押してでも「乳首から食事」だなんて常識はずれな条件を強行させる会社ではない……と、信じたい。
「もしものことがあったら」と教えられていたインターホンを押してみると、吉野さんが面倒くさそうに「はい?」と応答する。
「あの、藤野課長の体調がですね……」
「乳首の痛みの件ですよね。ただいまお薬をお持ちしますので」
どうやら今この時も監視されていたらしい。俺たちの用件がわかっていたからこそ、あんなうんざりした声だったんだろうな。いや、用件がわかっていたからというより、朝っぱらからあんな爛れたことして、それを見せつけられていたんだから……のほうが正しいか。
課長もどうやら同じように考えたらしく、羞恥に絡め取られて頭を抱えている。「おっぱい出しっぱなしですよ」と指摘すると目にもとまらぬ速さで服を下ろした。
この人が俺の前で無防備になっていくの、嬉しいけど……同時になんだか、苦しい瞬間が増えていく。吉野さんにだって課長の乳首を見られたくなくって、今だって慌てて阻止した、俺のほうが複雑な気持ちなの、この人はわからないんだろうな……。
ほどなくして吉野さんが救急セットを持ってきた。体温計や包帯などすべて揃った中から、手書きのラベルが貼られた丸い容器の軟膏が課長に手渡される。
「痛み止め、腫れ止め、殺菌消毒が調合されたものです。朝晩の一日二回、適量を塗布してください」
「はあ……」
あれだけ恥ずかしがったのに、当の吉野さんは驚くほど業務的だ。町医者と話しているかのような安心感に、俺も課長も拍子抜けしている。
そんな俺たちの心を読んだように「いつものことですから」と吉野さんは独り言ちる。いつものことって、どういうことだろう……もしかしてこの地下労働を強いられるのって、俺たちがはじめてではない…………?
「一週間は藤野課長の乳首に触るのを禁止します。社員の方の健康が第一ですからね」
「それは、まあ……でも、じゃあ俺の食事は……? まさか絶食?」
「それこそ健康を害します。もちろん代替案をご用意しております」
「すでに社長にお伺いは立てておきました」と言いながら眼鏡を持ち上げる吉野さんはシゴデキすぎて惚れ惚れするほどだ。普通の業務もこなしながら、俺たちのこんな世話までしてるなんて常人じゃないだろ。あらゆる意味で。
目の前の人物に圧倒されて、俺は今自分が置かれている状況が頭から抜けつつあった。だからすぐには反応できなかった。吉野さんが言い放った【代替案】とやらに。
「それでは本日の昼食より、宮西さんには藤野課長の乳首に代わり、藤野課長の“口”から食事をしていただきます」
「えっ!?」
「そ、それって」
にわかに体温が上がる。胸がドキドキして、本当に胸ってドキドキするんだなんてアホみたいなことしか考えられなかった。だってまともに考え始めたら幸せすぎてどうにかなってしまう。これからは藤野課長の“口移し”で食事ができるなんて……!?
サッと隣を見る。藤野課長は口元を押さえて絶句している。その表情がガチの絶望なのかどうかは、顔の半分が隠れているから俺にはよくわからない。
「せっかくなので二、三回は咀嚼してから与えてあげてくださいね」
「な、なんで……!?」
「乳首より食べやすくなるんです、ペナルティ要素は残しておかないと」
いやそれが、まったくペナルティでもなんでもないんですよね~~。課長の咀嚼した食べ物を、課長が口移ししてくれるなんて……俺にとってはまったくもってご褒美でしかない。こんなにも幸せでいいのだろうか。この部屋を出た瞬間、たぶん俺は事故る。
吉野さんはどういうつもりで言っているのだろう。もうこれが俺にとってペナルティでもなんでもないの、わかっているだろうに。窺うように見つめていると、意味深に視線を合わせた後、フイッと逸らしてそっけなく部屋を出ていってしまった。
気まずい沈黙、だったのだろうと思う。だが俺は浮かれていてその気まずさにすら気付けなかった。今から課長の口移し。いまから課長とキス。乳首の時みたいに勢い余ってディープキスしまくれるかも…………。
にやあと緩む頬を両手で叩いて引き締めた。このままじゃいけない。俺、もう課長に告白したんだ。それなら流されるまま、この幸せを享受するだけじゃダメだ。
ちゃんと、課長とそういう関係になるために、向き合わなくては。
「あの、課長。昼食を再開する前に……」
「うん……?」
「一度、ちゃんとキスしておきませんか」
「は?」
間の抜けた声が響く。本気で理解していないような声色だった。
だけど完全に舞い上がった俺は、そんなことにも気づかず課長の両肩を掴む。指を食い込ませ、逃げようとする身体を手の力だけで引き留めて、グッと顔を近づけた。
「口移しがはじめてのキスなんて、ロマンチックじゃないし……オレ、思い出に残るいいキスできるように頑張るんで」
「ちょっと待て。違うだろ」
「課長、口開けて……舌、出してください……」
「待てって、お前……! やめろ!!」
グイーッ。額に手の平を押し当てられて思いっきり俺の首は仰け反る。本気の力だ。それでも照れているだけだと決めつけて顔をもとの位置に戻すと、今度はパン! と頬を張られた。
そんな……あんなデカいミスしても、課長怒らなかったのに……乳首もあんだけ舐めしゃぶっても許してくれたのに……なんで、なんでこんなに怒ってるんだよ……?
「違うだろう? 私とお前は……そういう関係じゃない」
「えっ?」
今度は俺が素っ頓狂な声を上げた。さっき俺に「キスしよう」と言われた時の課長の声の響きとよく似ていた。そこで俺は、自分の愚かさを思い知ることになる。
「どうしてわざわざキスする必要がある。吉野さんに言われたのは『口からの食事』だ」
「だって……課長、乳首……ヨかった、っスよね……?」
「…………会社命令で仕方なく好きにさせていただけだ。キスなんて必要ない」
ガツンと、ハンマーで頭を横殴りにされた気分だった。
この人はまだそんなところにいるのか。部下に乳首を弄られるのもあくまで会社命令のためであって。オナニーまで一緒にしたのに、あれも業務の内ってことかよ? 「乳首こんなに感じるのバラさないで」って泣いて頼んできたくせに、人格違いすぎるだろう……!?
言葉を失った俺は、しばらく課長とともにフリーズしていた。
俺、もうすっかり課長と恋人同士のような気分でいたのに。ここにきてまさかの拒絶? 望んでいない天然発動? ふりだし?
ぐるぐるする頭で懸命に考えた。ここから巻き返す手はあるのか。何はともあれ、課長が俺に口移しで食事をさせないといけないという事実は変わらない。ただの部下と上司から乳首をチュパチュパできるまでになったんだ、口だってなんとかできるかもしれない。
俺は下心を隠して、ようやく課長の腕を解放する。
「わかりました。じゃあ食事を再開しましょう」
「……ああ。言っておくが唇はつけないからな。お前が下で口を開けて待っているんだ。私が上から落とす」
「はあい……」
なんだか急に強気だな。そこまで俺とキスしたくないのか……。
先程のショックの余韻が抜けないが、ともあれ課長には咀嚼まで課せられている。課長の唾付きご飯が食べられるという保証は揺るがないのだ、ここは焦らずにいこう。
課長が米を口に含む。「俺にくれるならちゃんと咀嚼してくださいよ」と口を挟むと、ムッとした顔で面倒そうに頷かれた。もぐもぐと数回噛み砕いた後で……課長は自分の顔の下を指さす。
しゃがみこんであーんと口を開けると、課長も頭を下げて近付いてきた。それでも到底唇は触れない10センチほどの距離で、白い塊が課長の口から落ちてくる。
「んぐ」
キャッチできた。うまいもんだ。舌に乗せてまずは吸った。バレないように。課長の唾を吸引して、味わいながらゆっっっっくりと飲み干した。搾りかすの米粒は数回咀嚼して適当に飲み込んだ。明らかに俺のメインは米ではなく課長の唾液だ。
なんか、口中が甘い気がする……美味い……米粒よりもだんぜん甘くて……頬の内側も喉の奥も悦びに萌えている……。
「次は何が食べたい?」
課長は自分の咀嚼したものを俺が味わう様を見ていられないのか、誤魔化すようにそう聞いてくる。伸び上がって食卓を確認すると、ふたたび定位置の課長の膝の間に戻る。まるでワンコだ。
「サラダで」
「わかった」
レタスとトマトを一息に口に含んでくれる課長。俺の栄養バランス考えていろいろ食べさせてくれるのマジ感動。緑の赤の綺麗なコントラストが、てらてらと透明の液体に塗れて俺の口の中に落ちてくる……。
俺は驚愕した。美味い。美味すぎる。
まず前提として、俺は野菜が大嫌いだ。葉物も果実も根菜もすべてダメで、普通の料理に入っているものならまあなんてことないが、生野菜のオンパレードであるサラダはいつも食べない。飲食店でセット価格になっていたって購入することはないのだ。
その俺がまさか生野菜を美味しく感じるだなんて。どうしても食べなきゃいけない場面かつごまだれドレッシングがかかっていればギリ……という感じだったのに、今や課長の咀嚼によってドレッシングもほとんど洗い流された状態でまさに「素」の状態でお出しされた生野菜なのに……やはり、甘みが染み渡ってくる。これが恋の味なのか?
世界一美味しいドレッシングを見つけてしまった。敬愛する藤野課長の唾液ドレッシングだ。発売されたら絶対に一生分買いだめするけど、他の奴に味わってほしくないからやっぱり俺にだけこうして欲しい……。
夢見心地で課長の横顔を眺めながら今度は何度も咀嚼する。「生野菜食べれないって言ってなかったか?」なんてとぼけてる課長、わかって言っているのだろうか。ああもう可愛くて憎らしい。
次はハンバーグをお願いした。分厚くてデミグラスソースがかかっている豪華なものだ。先ほどから良い匂いに食欲を刺激されていた。
肉を咀嚼して分け与えてもらえるなんて、なんだかエロスだよな……ああ、牛さんだか豚さんだかわかんないけどごめんなさい。お前らの肉をダシにして俺、課長に口移ししてもらっちゃいます♡
「あ……」
肉の塊が落ちてくると同時に課長の声が漏れた。そして俺は見た。肉を追いかけるようにして、だらりと垂れてくる大量の課長の涎の雫を。
ボタボタボタボタ! 一滴逃さず受け止めた。肉の味は強いのに、課長の味のほうが勝ってる……課長の唾液がなにしろ大量で、何より俺がそちらに神経を集中させているから。ああ美味しい。美味しいのハーモニーが俺の口の中で繰り広げられている。
課長は濡れた口元を慌てて袖で拭う。恥ずかしそうに唇を噛んで、それでもどこか蕩けた瞳で俺の口元を見つめている。……そっか。
「ハンバーグ。美味しすぎてヨダレいっぱい出ちゃったんですね」
「う…………」
「課長も食べてください。俺、少し待っているので」
あまりの旨みに唾液腺が勝手に反応してしまったのだろう。生理現象をもろに喰らってしまったが、俺にとってはラッキーでしかない。まだ課長の味を惜しんで少しだけ唾液を口内に残してある。肉はとっくに喉の奥に流してしまったが。
課長はハンバーグ好きなのかな。子どもみたいで意外だけどやっぱり可愛い。
「すまない」と小声で呟いてハンバーグにがっつく課長。俺を待たせているのを気にしているのだろうか。いいのに。課長が食べてる姿を見ているだけで、俺お腹いっぱいになれちゃうのに。
半分ほど平らげた時点で、課長が念入りに口を拭いてじっと俺を見つめる。俺の食事を再開してくれるのか。ドキドキしながら課長の椅子の横に跪いた。上を向いて口を開ける。課長はなぜだか蕩けた瞳をして、俺の目を見つめながらもぐもぐと咀嚼している。
べ。ぼとりと肉の塊が落ちてきて、舌先から涎も滴る。俺はそれを伸ばした舌で迎えて、唾液と肉をジュルジュルとやかましく啜った。
課長が俺を見ている。舌をしまうのも忘れて、息を弾ませながら……。
俺も課長から目が離せない。惰性で咀嚼しながらも味なんて全然しなかった。ごく、と俺の飲み下す音が際立つ。課長はふらあと目を逸らして、またハンバーグを俺のために咀嚼してくれている。
「課長。肉と白飯一緒に食いたいです」
「ん……」
課長は怒るでもなく、軽く頷きながら肉を落としてくれた。続いて白米も咀嚼して与えてくれる。……大量の唾液とともに。俺は肉と白飯を口に残したまま、あえて唾液を先に飲んだ。ごくっ、ぷはー。課長の太腿が、震えている。
そこに手を置くとびくりと震えて、みるみるうちに股間が膨らんでいく。二人してそれを目撃して、課長はもう誤魔化せるわけもない。俺から守るように手で覆って、半分だけ背中を向ける。
「興奮してるの?」
「し……してない」
「美味しいよ。もっと…………」
舌を伸ばして目を閉じる。するとなんと、どろりと唾液だけが垂れ落ちてくる。もごもごと舌で転がして、口内中に行き渡らせた後でゆっくりと飲み下した。課長が舌なめずりする。勃起がひどくなってる。
「課長…………そんなに俺に唾飲ませたいの?」
「あ、あっ…………」
太腿を両手で撫でさすって背を伸ばすと、課長は慌てて箸を持った。どうやら無意識だったらしい。俺の手の平が薄い大腿筋を往復すると、ピク、ピクと小刻みに跳ねる。落とした箸を両手で丁寧に持たせてやって、そのまま手の平をいやらしく撫でてみる。
「あ……ダメ……」
「箸、拾っただけですよ?」
「ごめ、」
「ヨダレいっぱい出てもいいですから、食べさせて」
「…………うん」
今度はサラダがきた。相変わらずドレッシングはすべて課長の口内に置き去りにされているけど、噛み砕かれた繊維にはべっとりと課長のドレッシングが絡みついている。
自分の唾液を啜って激しい水音を立てた。まるで課長の唾液が過剰に多かったかのように演出したのだ。そうすると課長はごく、と唾を飲んで、また小さく「ごめ」と口走る。
「なんで謝るんですか?」
「その、私、ツバ…………」
「気にしてないですよ。ただ……」
手を課長の内股に少しだけ寄せる。小さく息が乱れたのを聞き逃さず、ほんのりと微笑む。課長、緊張してる。だけど俺が何を言うかが気になって、俺から目が離せないみたい……。
「やっぱり、ぼとって落とされるのさみしいなあ……唇くっつけたらダメ?」
「ダメ、っ」
「そう……じゃあ」
激しく首を横に振る課長をなだめるように両手を握ってやった。ハッとした顔が改めて俺の瞳を見下ろす。すべての指を恋人みたいに絡めて柔く握る。
課長、体温高い。熱があるみたいだ。思わず笑みがこぼれてしまう。なんて可愛い人なんだ。……絶対にオトしたい。
「食べている間、こうやって手を握っててください。そうしたらさみしくないので」
「あ……え……」
「お願いします」
飢えた子犬のようなイメージで、目を大きく開いて見上げる。課長の顔がくしゃっと歪んで、みるみるうちに顔が赤くなった。もう耳まで染まっている。可愛い。可愛いな。
思いを込めて互いの両手の平をすり合わせるように動かすと、課長は顔を逸らして、ようやく、頷いてくれた。
「なら……準備、するから」
「はい」
するりと課長の手が抜けていく。俺はおとなしく課長がハンバーグを口に入れるのを見守った。咀嚼が始まると、すぐさま自由になった両手を捕まえて、いやらしく擦り合わせた。
咎めるような目つきで見返されるが、そんな潤んだ瞳ではまったく怖くない。じきに肉が落ちてくる。遅れて、唾液も。最後の一滴までとろりと舌を滑るのを待って咀嚼した。
課長の手を握る力をだんだん強くしていく。もちろん視線は通い合わせたままで。課長の口を通った食べ物と、課長の唾液をたっぷりと味わいながら、手を握る……甘美な時間に酔いしれながら、ごくりと飲み下した。「ぷはあ、」と息をついて最大限に手に力を込める。課長からも、少し握ってきてる。
なんだか、なんだろう……ものすごく、エロスだ。
「課長、美味しい……」
「……よかったな」
「時間がかかってもいいから、もっと咀嚼してください? 吉野さんに怒られちゃいますよ」
「う……そう、だな……」
食べ物の味や噛み応えがなくなってもいい。
もっと課長の唾液が欲しい。味わいたい。
食事が終わって互いに入浴を済ませる。課長が脱衣所から出てくると、待ち構えていた俺はすかさずソファから飛び起きた。その勢いに課長は面食らったような顔で硬直する。
「な、なんだ」
「遅いですよ」
「先に寝ていればいいだろう」
「いえ。俺にはまだ一つ、重要な仕事が残されているので」
そう言って机の上のものを手に取れば、課長は一瞬ですべてを察したようだ。真っ赤な顔を腕で隠して後ずさる。
俺の手の中にある円柱形の容器。手の平で握り込めば隠してしまえそうなその小さな容器が、俺と課長の命綱であることは言うまでもない。
「これ。朝と寝る前に塗るようにって吉野さんに言われてましたよね」
「ああ……塗る。こちらに渡してくれ」
「俺が塗ります」
悪あがきを笑顔でかき消してやった。俺は悪意がないフリをするのが得意だ。もちろん今の俺には本当に善意しかない。課長の乳首を痛めつけたのは俺だ。俺が責任を持って治してあげないといけない。
悪意……はないけど、下心なら、おおいにある。
蓋を開けて人差し指に適量を取る。課長はグッと唇を噛んで、俺が近寄ると完全に下を向いてしまう。
「からかって、いるんだろう……?」
「違います。俺のせいなんだから俺に塗らせてください」
「ヒリヒリするんだ、まだ」
「ですから俺が、やさしく、塗りますから」
薬をスタンバイしているのとは反対の手で、だらりと下がった手を握り込む。励ますように包み込んで柔く握った。食事の時と同じように、俺の体温を伝えてみる。
禁止されているけど、課長の乳首、触りたいです。少しだけだから。お願い、出してください。
そんな俺の気持ちが通じたかのように、課長は繋いでいない方の手で、もたもたパジャマのボタンを外してくれる。俺の手を払って両手で脱げばいいのに、繋いだままなのはどうしてなんだろう……期待、してしまう……。
「はあ……宮西……」
白い肌着から僅かに乳首のピンクが透けている。俺が胸元に釘付けなのを、課長が見ている気配がする。呆れられている。全然いい。見せてもらえるのなら。
「やさしく、してほしい……」
「し、します! 痛いんですもんね! 塗るだけですから!!」
「頼むぞ」
ついに課長の手によって肌着がめくられた。
半日ぶりの課長の乳首……すでにツンと勃起して、こころなしか少し腫れているように見える……おいたわしや……全部、俺のせいなんですけど。
柄にもなく震える指。課長が痛くないように。痛くないように。軟膏ごしに、そっと先っぽに触れた。「ンッ……」とくぐもった声が漏れて、慌てて離す。
「大丈夫ですか?」
「ああ、冷たくて気持ちいい……大丈夫だ」
今のは冷たくて驚いたのか。課長に「気持ちいい」って言ってもらえるなんて、いいな~~~~お前。指に残った白い塊を羨みながらもう一度触れた。今度は乳首の周り、乳輪に塗り広げるように丸を描く。
課長が息を詰めている。今さら我慢しなくてもいいのに。痛いほど握られている手の力が愛おしくて仕方なくて、あやすようにニギニギしてやる。そうしてついにその突起に少し力を込めて塗り込んだ。
「アッ……」
「はあ…………」
課長の乳首。俺が指で弄って舌で吸いまくって痛めつけた乳首。やっぱり少し熱を持ってる。ごめんなさい。けど俺、こんな場面でもドキドキして……嬉しくて……つい指先に力がこもる。
下から上に緩く押し潰して往復する。繋いでいた手が振りほどかれて、課長の手が縋るように俺の腕を握ってくる。もう一度手を取って、指を絡めた。
「痛い? でもしっかり塗り込まないと」
「も、いい……」
「まだ白いの残っていますよ」
「ああ……ッン……」
膨らみの感触を確かめるようにゆっくりと塗り込む。ああ、早く治ってくれ。また指に挟んでクリクリしてやりたい。思いっきり引っ張って鳴かせたい。夜じゅう口の中に含んで、味わいたい…………。
「みゃ、にし、もう」
「ン……じゃあ反対も」
「えぇ……」
今度はちゃっかり反対の手を繋いで、同じように塗り込んだ。最初は痛がるけど、塗り込み始めると快感もあるらしく、課長も素直に感じているようだった。俺の胸にもたれて脱力してくるのが可愛くて、つい強めに弾いてしまう。
「いや……いたいぃ……」
「ごめんなさい、つい……最後に仕上げしますね」
「あぁう~~」
繋いだ手を離して、両手の人差し指で両乳首を押す。痛くないように、押し込んだ状態でゆっくりと動かして……最後までその感触を愉しむ。耐え切れなくなったのか、課長がずるりと床に落ちてしまったので、慌てて助け起こした。
「終わりにしましょう」
「ばか~~~」
「ごめんなさい。頑張りましたね、えらいえらい」
衝動的に胸の中に抱き締めて、頭をよしよししてしまった。およそ上司に対する態度ではない。だって課長、子どものように泣きじゃくって叩いてくるから、庇護欲が天元突破してしまって。
頭を抱き込んで、まだ少し濡れた髪をずっと撫でていた。やがて課長の腕が俺の背中を抱き返してくれたから、嬉しくて、心臓壊れそうで、もっともっと強く抱き寄せた。
この人、俺を殺す気だろうか。なんでこんなに可愛いの。ヤバイ。
「朝も俺が塗りますからね。勝手に塗っちゃダメですよ……」
「やだ……」
「やだじゃないの。俺が責任とります。とりますから」
マジでこの人に対する責任全部取らせて欲しい。だからメチャクチャにさせてほしい。こんなふうに甘やかして、もっとトロトロにして、俺ナシじゃいられない身体にしてやりたい。乳首も、唇も、全身俺のモノにして……毎晩、チンポハメまくって……休日はデートして……笑い合って……夜はまたエッチして…………
俺、この人の、恋人に、なりたい…………。
昨晩の形のままで目覚めた。俺が課長を後ろから抱き締めて、お腹で手を組み、その上から課長が手をかぶせているというラブラブカップルも真っ青の体勢。どうしてこうなったかというと、俺がいつも通り乳首弄るモードになって後ろから迫ったところで課長に怒られて、すぐさま切り替えたのだ。
「じゃあ朝まで抱き締めていいですか」「俺の手が悪さしないように課長がずっと握ってて」そんなふうに言いくるめて本当に一晩中こうしていた。幸せだった。くっついて眠れることもだけど、何より課長が俺を受け容れてくれたことが。
「ン~~課長……藤野課長」
「ん……?」
うなじに鼻先を埋めて擦り付ける。寝起きの課長、お日様の匂いがする。もう陽射しなんてずっと浴びていないのに。課長は寝ぼけていて何をサレているかまだわかってないみたいだ。めいっぱい嗅ぎまくって、マーキングするみたいに頬を擦り付けてから、満足してベッドを出た。
軟膏を持ってきてすぐに逆戻り。課長の肌着をめくって軟膏を乳首に付けた。刺激にならない程度に……きわめて弱い力で両乳首に塗り込める。課長がむずがって甘い声を漏らす。抵抗は弱い。そのままもうちょっと寝ぼけていてくれ。
「ふぁ、アッ……あ、あン、アァ、ンッ……」
「痛くない? いい子だね……」
「みゃ、み、や」
「ああ好き…………好き、愛してます……本当はもっと、メチャクチャにしたい」
「ああ、あっ、アッ」
課長の脚の間に膝を割り込ませると、ぎゅっと締め付けてくる。もう起きてるじゃん……それでも好きにさせてくれるの……可愛くて、つい指に挟んでコネコネしてしまう。
「気持ちいい? ホントはダメなんですよ、乳首禁止なのに」
「ふァン……アッアッ……いゃ、ン、みや、」
「終わり。続きは治ったらね」
指を外して肌着を下げても、課長は小刻みに震えて動かない。身体がメチャクチャ熱い。俺と同じように興奮してくれてるのかな。耳の付け根にキスすると「ひゃんっ」と叫んでさらに小さく縮んでしまった。
「朝ご飯きてる。先に食べてください」
「あ……うん」
食卓にはサンドイッチが並んでいる。これなら野菜も肉も一気に摂れて効率がいいな。……チェッ。ここでの食事の効率なんて、悪ければ悪いほどいいのに。なんて世にも珍しいクレームは心の中に留めつつ席に着いた。(俺の場合の「席に着く」とは課長の足元に座り込んで課長を見上げるの意だ)
課長はおぼつかない足元で椅子に座る。頬は上気して、目は虚ろで……もしかして本当に熱がある? ふと心配になって手を握るが、それだけでは判断がつかない。課長は俺の手を振りほどこうともせず、俯いたままだし。なんだか昨日から反応が鈍いんだよな……。
「課長。ちょっといいですか?」
「へっ」
ぴと。立ち上がって、中腰で課長と自分の額を合わせた。
やっぱり課長のほうが若干熱い……けど、温い程度だ。発熱というほどではなさそう。寝起きでボーッとしているだけかな。安心して顔を離すと、課長は目を白黒させて「え」「えっ」と息を乱している。
「早く食べましょう?」と促すと、慌ててサンドイッチを口に詰め込んでいく。そんなに急がなくてもいいのに。思いながら口は出さなかった。俺に早く食べさせてやろうと焦って食べる姿、可愛い。俺に説教されるからって頑張って全部食べてるのもいじらしい。俺、いじわるかな。
食べ終わると苦しそうにトントンと胸を叩いている。焦りすぎだよ。小さな子どもにするように背中をさすってやった。
「ちゃんと飲み物飲んでください。注ぎますよ。どれにしますか?」
「えっ……」
食卓に並ぶのはオレンジジュースにミルクに、紅茶のティーバッグ。今朝は洋風とあって選択肢が豊富だ。俺はどれにしよっかな。考えつつ、課長の傍らに立つ。それなのに課長は食卓には目もやらず、なぜだか蕩けた瞳で俺を見上げ続けているではないか。
「課長?」
「あ、その……み、宮西は、どれがいい?」
「えっ?」
今は課長の飲みたいものを用意しようとしているのだが。あからさまに困惑する俺の顔を見て、課長は何か言いたげに唇を開く。だけど結局口ごもって、また俯いてしまって……その様子がやけに扇情的で、俺は気付いたらふたたび課長の背中を撫でていた。
「どういう意味ですか?」
「えっと、その……」
この人のことだからきっと何か意図があるはずだ。最近それもわかるようになってきて、仕事も円滑になり、いいコンビだと取引先にも褒められ浮かれていたけど……今はどれだけ考えたって、課長の言葉の意味がわからない。
課長は口元を手で隠して、こくり、唾を飲み込んだようだ。そんな些細な音に耳を澄まして答えを待つ。ややあって、決心したように、課長が小声で白状した。
「ツバの味が、変わるから……宮西、どれがいいのかなって……」
「え!」
ツバの味が変わるからって……え、課長の……課長の唾の味が変わるから、俺の好みの味にしようとしてくれてるってこと!?!?!? 理解した途端にバクンと心臓が脈打つ。いや撃たれたのかもしれない。今のはそういう類の衝撃だった。
そうだ、口移しだから、今から俺が食べるサンドイッチは課長の口の中の味になるんだよな……そんなの気にしたこともなかった。今まではお茶か水だったから、わりと純粋な課長の唾液の味を愉しめたといえよう。
今日はオレンジジュースかミルクか……紅茶は苦いから却下だが、柑橘系の課長のツバ、いいな…………マイルドなミルク風味も捨てがたい…………グッ、悩ましい……こんな難問、超ハイレベルな入社試験の時でも、難関校受験の時ですらなかったぞ!?
「か、柑橘系で……!」
「えっと、あー……オレンジジュースのことか……?」
「は、ハイ! オレンジジュースがいいです!」
僅差で柑橘系が勝った。というかオレンジジュースがいいですってなんだ俺よ。柑橘系の課長のツバを所望しているのがバレバレではないか。
まあ課長だってそういう意味で聞いたんだもんな……自分の飲みたいものより、俺い与える唾液の味を気にするなんて、本当やさしすぎる……いや、やさしいのか? これ……なんか頭おかしくなってきたかも。俺も、課長も。
「じゃあ……」
課長がごくごくとオレンジジュースを喉に流し込む。一息で飲み干して、俺の分の皿に手を伸ばした。大きな一口も、俺の空腹に気を遣ってのことだろう。いそいそと寄り添って、あーんと口を開ける。
落ちてきた。俺のサンドイッチ、と、課長の唾液。ああ、ちょっとすっぱくてほのかにオレンジの風味が……なんかすげえエロい気持ちになるな、これ…………課長が食べたものがじかに俺の味覚を刺激してくるの……繋がってるって、感じだ……。
うお、パンからも課長の唾液が染み出てくる……!音が立たないようにジュウジュウと口の中で吸いまくる。そんでカチカチになったパンを適当に噛み砕いて喉に流し込んだ。具の味? 知らん。それより課長のオレンジ味のツバもう一回飲みたい。
「課長、もう一回オレンジジュース飲んでからサンドイッチください」
「え……あ、ああ、わかった……」
多分一口ずつ要求することになるので「口を湿らす程度でいいです」と断っておく。課長の瞳はますます潤み、咀嚼している間も、俺の口元をぼうっと見つめている。
「おほふほ(落とすぞ)……」
「ハイ、お願いします」
いやらしく舌を伸ばして先っぽをクイクイと誘導するように動かす。ビチャ。サンドイッチの塊が落ちてきた。……ただし、口の中にではない。俺の唇も舌も掠らない、俺の鼻筋に。
一瞬何が起こったかわからなかった。課長が目を見開いて俺の顔に手を伸ばしてきたので、反射的にその手を取った。
「ごめ、宮西っ、外したっ」
「大丈夫ですから! 課長、これ口に戻して……それで改めて俺の口にください?」
「え……」
「口で与えなきゃでしょ? 手で触ったらノーカンになっちゃうから」
「あ、う、あ、わ、かった」
課長は動揺している。当然か。自分がグチャッと噛み砕いたものを部下の顔面のド真ん中にぶちまけてしまったのだ。正直汚らしい見た目になっていると思うが、俺はいっこうに気にしていない。むしろ……いや、みなまで言わすな。わかるな?
とにかく俺はそんな課長の慌てっぷりに付け込んで法外な要求をした。間違えて俺の鼻の上に落ちたサンドイッチを口で回収しろという言葉を、課長は何の疑いもなく受け入れたようだ。あーんと口を開けて近付いてくる。
はぷっ。
濡れた唇に鼻筋をねとりと覆われて、俺は思わず吐息を漏らした。せっかく課長とすごく近いのに、緊張して目をきつく閉じてしまう。離れるのが惜しくて手探りで手首を掴むと、唇を指でなぞられる。そんなわけないのに、俺の心臓は今度こそ飛び出してどっかいっちゃいそうになった。
反射的に口を開ける。そして課長の吐息を感じる距離で、サンドイッチが口の中に入ってきた。とろりとオレンジ味の唾液が後を追って滑り落ち、俺はごくごくとそのまま飲み込む。味わいたかったけど、至近距離でそれはさすがに気が引けた。
まだ、課長の吐息が鼻の下にかかっている。近い。なんでそんなにも近くで俺の咀嚼見てるの。俺としたことが、まだ目を開けられない。
ドッ。限界は突然きた。俺は課長の唇の位置におおよそのアタリをつけてチュッと啄む。一瞬の触れ合いに……途端に課長の呼吸が爆発する。泣いているみたいにしゃくりあげているから慌てて目を開くと、わなわなと唇を震わせながら、正真正銘、泣いていた。
「す、すみませ、課長」
「いや……私こそ……すまない、汚してしまった」
手元にあったナプキンを手に取り、俺の鼻の上をやさしく拭ってくれる。母のようにやさしいその手つきに、俺の頭はまた熱暴走する。いけないって。泣かせてしまったのに。でも、でも。俺まで呼吸が震えてしまう。
課長は鼻を拭き終わると、今度は俺の口元も手で拭ってくれた。汚れていたのかな。もしかしてヨダレ垂れていたかもしれない。課長とキスできたのが、嬉しすぎて。
ヤバイ。目が合わせられない。怒っているかな。いやでもさっき謝罪した時に課長もなぜか謝罪してきたし。俺の鼻汚すくらい全然いいのに。むしろもっと汚して……。
「次からはもっと近くで受け渡しする」
「あ……ハイ」
「こっち、座ってくれ」
隣の椅子に勧められるままに腰掛けた。どうやら俺はもう課長の足元に跪いて、上を向き口を開けてスタンバイしていなくてもいいらしい。これってランクアップか? 一体どのくらいの距離でくれるんだ!?
課長は律義にオレンジジュースを一口流し込んでから俺のサンドイッチを咀嚼する。そしてなんと俺の肩に両手をかけてきたではないか。
「ふぉあ(ほら)……」
「あ、あ、あ」
課長が、ほとんどキスの体勢で、サンドイッチの塊を舌で押し出して……俺を、見つめている……………………。
あまりに倒錯的な光景に目眩を起こして首がかくんと下がる。いやクラクラしている場合じゃない。課長と疑似キスできる一世一代のチャンスぞ、俺。
課長の目を見つめ返して唇を開く。サンドイッチを挟んで、取ろうとすると……安定していないから床に落ちそうになる。咄嗟にお互い舌を伸ばして支えた。
舌先が、触れ合った。
「あ……」
俺は動けなかった。いや、動きたくなかったんだ。俺も課長の肩を掴んで、そのまま数秒間停止した。俺から舌を動かさなければキスにはカウントされないと思ったから。今触れ合っているのはこれは事故だから。せめてこの瞬間が長く続くようにと、課長の感触を舌先で感じながら、じんと噛み締めていた。
柔らかいのに、硬く尖らせていて……自分はすでに特殊な形の愛撫を受けているのではないかと卑猥な気分になる。力が入ったその舌先で、自分の舌どころか股間を舐められているような感覚に襲われて、触れてもいないのにエレクトする。
ああ、せめてこのまま唇を塞いでこの舌吸いまくりたいナア。でも、そんな妄想は妄想だけでいい。妄想だけでヌける。思い浮かべると息が荒くなって、やがて課長が居心地悪そうに目を逸らして俺の肩を押した。
事故で触れ合った舌先から、銀糸が、垂れ落ちる。
「課長、俺……」
「宮西……もっと、近くで受け渡さないと……危なかったな」
「は、はい……!」
あれより近いってことは、もしかして。
押し寄せる期待を唾液と一緒に飲み込んで、課長の咀嚼をじっとりと見つめる。次は一体どんなに近くで……あ、課長、オレンジジュース飲んでない……生のツバの味、するんだろうな…………。
課長がまた俺の肩を持つ。俺も、課長の肩に手を置く。傍から見れば完全にキスするであろう体勢で、俺たちは角度をつけて唇を…………
くっつけた。
くっついた、のだ。俺は寸止めにした。だけど課長が唇で飛び込んできて、隙間が無くなるくらいにくっついた。サンドイッチの塊が移動してくる。だけどそんなのお構いなしに、俺は課長の唇を感じるために、ムチムチと動かして、課長の肩をひたすら強く掴む。
それから、ただの口移しでは説明のつかないような長い時間が流れた。体感は数十秒だったけど、たぶん二分くらい経ってた。だって課長のヨダレで俺、溺れそうだった。ごくごく飲んで、そのたびに課長の目が蕩けていって、だけど二人ともそれ以上にアクションはしなくて……ただ、見つめ合って、少しだけ唇を動かして、互いを挑発していた。
俺が先にその誘惑に負けた。自らその甘美な時間を終わらせて、睨みつけるほどに強く課長の瞳を覗き込む。色素の薄い課長の虹彩はもうとっくに蕩けて、原形を失っている。
「課長、俺……もう我慢できない」
「…………」
「いい?」
最初の時みたいに、怒られるのも覚悟してた。だけど課長は何も言わず、それどころか薄く唇を開いて目を閉じるものだから……!
ここまできたらおれの勘違いじゃないよな? キス、してもいいんだよな!?
飢えた野獣のように、ぱくりとかぶりついた。唇の感触が恋しかった。いっぱい味わいたい。チュパチュパと弾いては何度でもくっつける。課長は嫌がらない。それどころか俺の首の後ろに手を回して、こころなしか引き寄せてくる。
漫画だったら絶対俺の全身からハートマーク出てたと思う。それくらいご機嫌でしつこく課長の唇を味わった。薄くて存在感ないのが儚げだ。たけどちゃんと柔らかくて……それにすごく熱い。震えるような吐息を感じてたまらない。
このまま先に進んでしまいたかったけど、課長があまりにも大人しいから、また泣かせてしまうかもと怖くてそれだけで口を離した。課長は俺をポーッと見つめた後で「あ」と気付いたように、また、サンドイッチを咀嚼する。そして大胆にも、べ、と見せつけるように舌先に乗せて差し出してきた。
当然、俺はむしゃぶりついた。サンドイッチに、課長の舌ごと。
グチャグチャグチャ。俺の舌によって課長の口内でサンドイッチがグチャグチャになる。俺が食べさせてもらう予定だったのに。課長の手はいつの間にか俺の胸元に移動してギュッて服を掴んできていたから、慌てて中身を舌で回収する。
飲み込んだ。味なんてしなかった。それより課長。課長とキスしてる。この間も唇は一切離さず、わずかに残る卵ペーストを塗り広げるように、課長の口内をくまなく舐め回した。
ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ。止まんねぇ。腰を抱き寄せて舌を絡ませる。課長はされるがままだ。上の歯茎をぬとぬとと舐めて、同じ動きで腰を撫でまわす。そうすると身体が硬くなって緊張が伝わってきた。可愛い。こんなの絶対誰にも渡したくない。
俺はどうしても聞きたくて、唐突に唇を離した。課長が飲み損ねたヨダレが垂れ落ちる。驚いた表情の課長にまたグッと顔を近づけて、耳元で囁いた。
「もしかしてキス……はじめて?」
「あっ」
「はじめてで玉子グチャグチャのキスがしたかったの? 変態」
ゾクゾクゾクッ。抱き込んだ背から課長の衝動が伝わってきて、俺までゾクゾクしてしまった。もっと変態なことしたい。変態は俺だ。けど、課長も変態って言われて喜んでる。俺にツナサンド詰め込まれても、体勢変えずにポーッと俺の口見つめてる。
「モグモグして」
「ン……」
言われた通りに、目を伏せて咀嚼する課長。俺が両頬を包んで顔を上げさせると、サンドイッチを舌先に乗せて献上しつつ、ツナまみれの口内をあーんと見せつけてきた。
あーもう。ヤバイって。どうしよう。勃起収まらねェ。クセになったらどうしよう。こんなプレイして、メシ食うたび好きな人とのキス思い出すようになっちゃったらとかそれどんな拷問? 一生ムラムラしてなきゃダメじゃん。
今後の自分の人生に危機感を覚えつつ、それでも今目の前にぶら下がっているエサを無視できない。つくづく俺って愚か者だ。
大きく口を開けて、また、かぶりついた。視覚的暴力がすごいので目は閉じた。それでも課長の中で混ざるツナの味と感触が、背徳的で……レタスなんてもう、もともと嫌いなもんだから邪魔でしかなく、課長の口に押し込んで退かした。「食べて」って言ったら唇が触れたまま咀嚼して、俺の目を見つめてきて…………なんでこんなにも従順なの、射精しそう……。
「ん……おいしー」
「……っ」
視線が通い合った状態で舌なめずりして見せると、真っ赤になって俯いてしまう。愛しさが爆発して抱き締めた。強く、強く。俺が頬ずりすると課長もわずかに返してくれる。ようやく手に入れた。課長、俺のものだ。
愛してます。思い浮かべても言葉にはしない。しっかりと確信した今、言葉にしたら陳腐なものに成り下がってしまう気がしたから。その代わりずっとずっと離せないでいると、やがて課長が小さく身じろぎした。仕方なく少し力を緩める。課長は顔を離さず、耳元に小さく問いかけてくる。
「食事は……もういいのか?」
その甘い響きは「もっとキスして」と同義に聴こえてしまって。俺は手探りでサンドイッチを手に取って、すぐ横にある顔に食べさせた。素直に咀嚼するその口を塞いで、グチャグチャに課長の口の中で混ぜる。もう何味かもわからない。
サンドイッチは俺が飲み込んだのか、課長が飲み込んだのかもわからない。気付くと塊はなくなっていて、俺は課長の舌を強く吸い上げる。いいほどそれを繰り返してから、ちゅぽん、音を立てて離した。
「もっとか……?」
「オレンジジュース、俺も飲みたいな」
「わかった……」
課長はコップを傾けて、残っていた少しを一気に口内に迎え入れる。そうして目を伏せたまま俺を向いた。
言っておくが俺が制限されているのは食べ物のみであり飲み物は自由に摂取してもいい。自分の口で飲めるのだ。それなのに、課長はもうそんなことも忘れてしまったみたい。その細い二の腕を掴んで、当たり前のように口を塞いだ。
流れ込んでくる。こく、こく、こく。純粋なオレンジジュースとは違う、課長のツバの味の名残ににんまりとする。「美味しいよ」って口元に囁いた。お礼に唇を軽く弾いた。課長が恥ずかしそうに俯く。
「ねえ課長。俺全部食べますからね」
「……わかった」
「はい、あーんして?」
俺が課長に食べさせて、課長が俺に口移しする。そんな世にも幸せな繰り返しを続けて、サンドウィッチのお皿は見事に空になった。それでも俺と課長はキスをやめず、しばらく唇を弾き合っていた。
すごいことになった。ついに俺、この人と自由にキスする権利も得てしまった……。
ランチもディナーも同じようにキスしまくりながら済ませた。
風呂上がりには乳首をコネコネしながら薬を塗ってあげた。
そして就寝時。乳首を弄っていた流れで、俺たちはベッドに入るなり寝そべりながら向かい合って、どちらからともなく唇を重ねる。「あくまで口移しだから口はつけない」と言っていたのがウソみたいだ。今俺の腕の中にいる課長は、蕩けた瞳で俺だけを見つめて、突然キスを仕掛けても応えてくれて、舌をかき回せば同じようにして俺の舌を愛してくれる。
まるでラブラブ同棲生活だ。俺は調子に乗って、変なタイミングで強引にキスを剥がす。課長が「あっ」と切なそうな声をあげて、大量のヨダレがシーツに沁みをつくった。
「へへ。かーわい」
「あ……」
「いいよ。もっと垂らして」
薄い唇の間に指を突っ込んでかき回す。不意に垂れた一滴に俺が肯定的な態度を見せると、課長は安心したかのように蕩け顔のまま、俺を見つめてたくさん垂らしてくれた。
課長どうすんの。こんなんになっちゃって。昨日の夜からのアンタ、別人みたいだよ。ずっと俺のこと見てて。ずっとトロトロの目してて。まるで俺に恋してるみたいなそんな表情、見せられたら……俺、勘違いしちゃうよ? 勘違いじゃないの? 聞いたら課長、ちゃんと言ってくれる?
「ヘンタイだね。恋人にはこんな顔見せるの?」
いろいろな下心があってそう問いかけた。課長は力なく首を横に振る。ヨダレまみれの口元を拭おうともせずに、俺の言葉に答える。
「こういうの……はじめてで」
「へ~~~~~」
ヤベ、ニヤける。課長やっぱりはじめてだったんだ。もしかしてキスも俺がはじめて? そんなの聞くまでもない、この顔見たらね。
「こういうの」って、もう俺たち付き合ってるのかな。聞いてもいいかな。いや、ハッキリさせないほうが面白いかも。課長から言ってくれたらラッキーだし。俺の気持ちはもう伝わってるはずだ。あとは課長が決断してくれるだけ。それなら俺はあらんばかりの好意を、この人に伝え続けよう。
ビチョビチョになった顎を舐め啜る。少し伸びたヒゲの感触にゾクゾクする。課長、前髪も薄めだし、体毛も少ないし……何よりマメだから無精ひげなんて見たことなかったけど、舌で触るとさすがにわかるんだ。俺だけ。俺だけが、課長のこの感触を知ってる。
「みんな、こんないやらしいことしているのか……?」
「うーん……あんましないかも。課長ヨダレ多いよ。俺は、好きだけど」
「ああっ……」
興奮して顎に何度も吸いつく。その延長で首筋から耳にまで舌を這わせて誘惑した。もうちょっとで完全に手に入る。雲の上の人だったはずのこの人が。「ヨダレ飲まないで」「もっとこぼして」って命令すると、言うとおりにして垂れ流しにしてくれる。
まさかこんなだらしない人だったなんて……ヤバイ興奮してきた。今夜どうにかしてやろうなんて、全然そんな気はないけど……もうちょっとエロいことしてみたい。だけどうーん、この後どうすればいいんだっけ?
やり方なら知っている。これでも数え切れないほどネコを鳴かせてきた。手順はすでに十分すぎるほどに身についている。だけど対課長のこととなると、俺の脳が考えるのを拒否するのだ。
こんな上玉、あっさり抱いちゃうのはもったいない。もっと楽しみたい。付き合っているか付き合っていないのかわからないまま、だらだらイチャイチャしていたい。
幸いそれが許される環境下にいる。設けられた一ヶ月間が終わるまでにはまだたっぷりと猶予がある。それならもうちょっと遊んじゃおう。課長のこと、弄んじゃおう。
耳に何度もキスする。コクリと音がすると「ツバ飲まないで。垂れ流して」と指示する。お仕置きするみたいに、指で先ほどより乱暴に口内をかき混ぜる。課長は「あ~~~~~」と嬉しそうな声をあげて俺の指をベタベタにした。
「こういうことされるの、好き?」
「…………いや…………」
「やめる?」
「そういう……意味じゃなくて……」
やめてほしくないんだ。濡れた指で課長の顔を撫でたくって、汚れたところをくまなく舐め取る。付き合ってもいないのにこんな変態な行為……俺だって、シたことないよ。それをよりにもよってあの清廉な藤野課長と。奇跡としかいいようがない。
課長は「あぁああん」と高い声をあげて悦んでいる。ちゅぱ、ちゅぱと強めに唇を弾いて、さりげなく脚を絡めた。ぎくりと細い身体が硬直する。
「どうしたの?」
「…………どうも、しない」
「可愛いですね」
抱き締めて頬ずりすると、にわかに課長が拒否し始めた。俺の頬を肘で押して逃れようとしてくる。さっきまでトロトロだったのにどうしたんだよ。逃がさないとばかりに脚をきつく締めて腰を撫でまわした。課長はみるみるうちに脱力するが、俺に顔を近づけられないように懸命にいやいやしている。
「くっつくの、いやですか?」
「……ツバまみれだから、あ、洗いたい」
「そんなこと気にしてるの? 俺が好きでやったのに?」
「においとかしたら、いやだ」
「……そんなの気にならないくらいにツバまみれにしてやるよ」
課長は俺のことがわかってない。全然。この匂いが興奮するのに。
両手首を拘束して、ガバッと上から覆いかぶさる。突然の獣化に課長は小動物のように縮こまり、首に何度もキスする俺に「やだ」「やめて」と小さく訴えてくる。ダメだね。そんな弱い抵抗、煽られているとしか思えない。
べろり。口の端から頬を思いっきり舐め上げる。ブルッと伝わってくる震えに勝利を確信して、一息に唇を塞いだ。もう容赦しない。子どものキスは終わりだ。課長の舌を絡め取って緩くまわす。課長の瞳、だんだん蕩けていって、ついに伏せられてしまった。
理性の光がなくなっていく過程がエロすぎて、ガツガツ食らうように舌フェラしてやった。すぼめた唇で吸って、限界まで吸って、ちゅごちゅごと顔を上下して……課長、両手で必死にシーツを掴んでいる。俺の暴虐に耐えようと、立てた両膝を内股にしてもじもじする。その膝で俺の股間をグリグリと押しているのはわざとか事故なのか教えてほしい。
「ふっ、ふっ、ふっ」
「う、あっ」
「飲むな……垂れ流せ……!」
下卑たニヤケ顔を隠さずに渾身の力で顎を掴んで迫った。歯をむき出しにして笑う、俺は、もうこの人の知る無害な部下ではない。溢れる課長のヨダレを指で顔の上に戻して、塗りたくって遊んだ。たまに過激な音を立てて啜り取る。課長の下半身がガクガク揺れる。
こんな責め方サレて感じてるなんて、この人ガチマゾじゃん……やった~……ああっ早く最後まで……いや、我慢だ……こんな美味しいの、一気に食べたらもったいない……! せっかくここまできたんだ……じっくり、じっくりと、俺のモノにする……!
「はあ、ツバくさい、課長、俺も同じにおいにして」
「ああっ、ダメ、ダメ~~~~」
ジタバタする足を抑え込んで頬を擦り寄せた。俺の顔も湿っていく。課長のエロい匂い、興奮する……これ毎日やりたい……お互いの顔をお互いのツバまみれにして、頬ずりして、ずっとヨダレ垂れ流しながらキスしてたい……そのために、今は、調教だ…………。
「いい匂いだよ……俺、好きだから……もっとツバ、出して……?」
「あ、ぅ、あっ、う、私、変に、変に、なるっ」
「変でいいじゃん……!!!」
首を上から押さえて圧迫した。かは、と喉が詰まる音がして、課長が目を見開く。すぐに緩めて人工呼吸するみたいに俺の息をあげた。
課長は縋るように俺の後頭部を引き寄せて自分から舌を絡めてくる。まるで、媚びているみたいなその仕草が可愛すぎて泣けてきた。俺、ビョーキかな? 恋の病ってやつ。
「べー」
「あっ、う……!」
また深くで絡み合っているタイミングで口を強引に離した。課長の口からヨダレが大量に流れ出る。もう飲み込むことを忘れてしまったみたいだ。俺はすぐさまそのヨダレを手にもらって、露出したチンポに塗りつける。
ああ、課長のツバでシコれるなんてっ…………気持ちいい気持ちいい……オマケに課長とまたキスしちゃったりして……課長、自分から俺の舌吸ってくれて……ヤベ、今なら俺死んでもいいかも……昇天しそう…………っ。
「あ……!」
息と声を課長の口内に吐き出す。同時に竿からも精を吐き出した。課長の腹の上に飛び散って……課長はそれを、息を荒げながら、見つめている……。
射精の余韻に酔いしれながら、チラリと見下ろす。課長の股間も、テントを張っている。ずるりとはぎ取って丸出しにした。課長は怯えながらも、俺の顔から目が離せないみたいだ。泣きそうに息を震わせて、次の俺の言葉を、行動を、待ち望んでいる……。
「課長も俺のツバでシコりたい?」
「あ、あ……う」
もう人語も話せなくなったのだろうか。だらしなく口を開けたまま、それでもこくこくと頷いている。欲に塗れた課長の顔は淫靡で、素敵だ。俺も同じような顔をしているだろうか。課長、俺に惚れてくれたのだろうか。
「じゃあ課長の舌見せて。レロレロって上下に動かして」
「れ……え……」
「そうそう、目を開けたままね。続けて」
切なそうな顔が、俺の顔を見つめたまま、目を細めて舌を卑猥に動かしている。衝撃的な光景にすぐさま俺の口内にはヨダレが満タンになった。課長のチンポに垂らして力強く扱いてやる。課長は舌を伸ばしたまま、なんとも甘やかに喘ぎ始めた。
顔がエロくていくらでもヨダレ出せる。そうすると課長はより気持ち良くなるらしくて、もっともっとエロい声を出す。幸せの連鎖だ。俺は課長の顔に釘付けになり、痛めつけるみたいに荒々しく細くてしなやかなチンポを擦りまくる。
「れる、れるぅ、ああ~~~」
「出せ! いっぱい出せよ!?」
「ああう~~~~~っ」
ピュッ、ピュッ。慎ましい放物線が宙に飛ぶ。だが俺の足にかかったそれは思ったより多くて、濃くて、見ている俺が照れてしまうほどに性的だった。指で摘まんでぷりぷりの感触を確かめていると、窘めるように手首を取られる。勢いあまって押し倒した。
「気持ち良かった?」
「う、う、」
素直に頷く課長。明日になったらちゃんと喋れるように戻っているだろうか。ちょっぴり心配だ。
最後に唇をチュッと弾いて、二人分の精子を拭き取ってやった。課長もティッシュを素抜いていると思ったら、なんと涙を拭いている。マジで女の子みたい。カワイイ…………。
「すみません。やりすぎました」
「う、うう」
ふるふると首を横に振る様がまた愛らしい。ムラつく気持ちを抑えながら、課長の頭を撫で続けた。こういうのは緩急が大切だ。俺は基本、好きな子には優しい男でいたい。
俺たちは抱き合って眠りについた。全身が幸せで満たされていた。
課長、俺のこと性的な目で見ている……よな。付き合ってくれないかな。はあ好き……ずっとずっと、こんな時間が続けばいいのに……。
祈るように、強く強く、抱き締める。
「そう、もっと舌伸ばして……あ~~そう」
「ふぇえっ、え、うぅ、」
ベッドの中。起き抜けで乳首に薬を塗ってやりながら、舌先をレロレロと交わらせている。舌と指で動きを合わせてやるとえらく感じてクスンクスンと喉が泣いている。
例によってヨダレを飲み込むことは許可していない。全部垂れ流しで、ひたすら舌先に神経を集中するよう命令している。
「こら……乳首感じたらダメ。治らないよ」
「あっあ~~~っ……ごめ、おおっ……みや、もう、っ」
「…………いいよ。今度こそキスに集中しようか」
服を下げて乳首を隠す。代わりに舌をジュコジュコとあらんばかりの力で吸い出してフェラした。課長の仰け反る喉がセクシーで……軽く手の甲で押して圧迫しながら、無駄に角度を変えて唾液を飛び散らせる。
ジュピジュピジュピジュピ!!
「ひい、あが、ご、ごおぉ」
「ん~~っ、んめ、んめ」
「おおっ…………!」
課長の下半身が大きく跳ねる。もしかして。股間を手探りするとグッショリと濡れている。俺の舌フェラでイった……淫乱すぎるだろこの人~~ッ……かわいい、かわいい……!
情熱が止まらなくて、余韻で緩く舌フェラを続ける。課長も絶頂の余韻で何度も大きく跳ねる。何回もイッてるのかもしれない。完璧に俺で感じるカラダになったな。労うように頭を優しく撫でて、緩やかに舌を絡めるキスに変えていく。
気付けば課長の腕が俺の後頭部を引き寄せて、うっとりと応えてくれている。
「はあ…………朝から変態ですね、俺ら」
「…………」
恨みがましくじとっと睨まれてしまう。課長は身を起こすと、その足でバスルームへと籠ってしまった。程なくしてシャワーの音。大方汚れたパンツと股間を洗っているのだろう。
この一欠けらだけ残る意地がまたすごくいいんだよなあ……ほとんど陥落しているくせに、まだ少しは上司のプライドが残っているらしい。だけど、もう俺のこと好きだよね? 少なくともカラダは堕ちてる。そう思いたい。
クチュクチュ。たくさんあったご飯粒はもう一粒も口内に残っていない。俺たちはそれでも口を離さず、ひたすらキスを続けていた。ハア、マジで頭バカになる。こんな生活を続けていたら……だけど俺の食事は課長の口から摂取することが会社からの条件だ。クビになるわけにはいかない。やめられない。だから、だから……。
ようやく課長の唇を解放する。まだ食事はたくさん残っている。頭がボーッとして、今が朝から昼か夜かも忘れてしまった。ただただ飯を食って、キスをする。俺たちの爛れた生活は徐々にヒートアップしていく。
また、課長が俺のために口に含んで咀嚼してくれている。その間だけでもう焦れてしまって、ひたすらに課長の腕を擦って、この熱を、伝えようとする。
「課長、もっと噛んで……俺が噛む時間もったいないから……そのまま飲み込めるようにドロドロにしといて」
「ん……」
「早く……ハアハア……食わせろよっ」
よく噛むように命令しておいて、結局耐え切れず強引に奪ってしまった。グダグダにされた流動食はもう味なんてしない、代わりに……課長の唾液がたっぷり染み込んだ、俺にとっては最上級の料理だ。
興奮しすぎて、課長の顔だけ持って、そのまま強引に席を立たせた。唇をつけたままベッドまで引っ張っていって、押し倒す。結局食べ物は全部下になった課長の喉を通り、俺は空っぽになった課長の口内の唾液を、啜りまくる。
「ジュルジュル……ああすげ、こんなの……もう呑気に食事なんかしてられない!!」
「みや……まって……」
「待てない! アンタのこと食べたい!! アアッ……!!」
「ま~~~~!!」
首筋をベロベロと舐めたくる。まさか本当に食べるつもりはないけど、課長のことメチャクチャにしたいっていう加虐心が抑えられない。もっといじめて泣かせて、甘やかして、俺に依存させたい。
脅かすために股間を揉みながらしつこくキスをした。そうして、ついに後ろの穴をズボン越しに擦る。脱力していた体が、一気に、固くなった。
「課長、もう最後までシちゃいましょう? もう……」
「や、ダメ、まって……こわいぃ……」
「こんなにキスしてエッチまだなんて俺たち異常だよ……なあ、そうだろっ?」
「みやにし、食べて、食べないと、ダメだ」
課長が必死に訴えかける。それもそのはず。俺は課長の唇ばかりに固執して、連日こうやって食事を蔑ろにしていたものだから、みるみる体重が落ちていた。最近は少し太り気味だったからちょうどよかったのだが……課長は本気で俺を心配してくれているようだ。細くなった腰を確認するように撫でて、絞り出すような声で言う。
「お願いだ、食べてくれ…………」
「フウッ……課長、そんなに俺に口移しで食べさせたいの? ねえっ」
「あ…………そう、だ…………」
「自分の唾液ででろでろになったメシで部下の胃を満たしたいんだ!?」
「そう…………です…………っ」
屈辱にまみれた顔を見下ろしてゾクゾクと愉悦に浸る。俺は俺自身を人質にして課長に恥ずかしいことを認めさせた。本当のところはどうだかわからない、まあ俺のこと心配してくれているだけだと思うけど……俺のために体張って、そんな俺自身に辱められて、本当にアンタって可哀想な人だ。ああまたムラムラしてきた。
納得したフリをして食卓に戻る。そうして課長が口移しをしてくれている最中に、また発作を起こして課長をベッドに連れて行った。繰り返し。同じことばかりして。だんだん課長の抵抗が弱まっていくのを見守る。
食事中だろうと何度も俺に迫られてまんざらでもないみたいだ。ついにベッドから動かなくなってしまった。その首筋をしつこく舐めまわして、唇も乱暴に弾いて、いつまでも、いつまでも、弄び続けた。
「貴方たちは、節度というものを知らないのですか?」
俺と藤野課長は、横並びで正座させられて吉野さんに説教されている。その内容がもっともすぎて、俺はしょんぼりと首を垂れるしかなかった。
吉野さんは俺たちの行動をちくいち観察している。当然、日々加速していく過激なプレイの数々も。ただありがたいことに、彼はそこに言及することはなかった。それなら何故叱られているのかというと……俺が調子に乗ったせいで、代替案である「藤野課長の口から食事を摂取する」という条件すら、実行不可になってしまったからなのだ。
「乳首だけでなく、唇まで再起不能にするとは……さすがに私もはじめて見ましたよ」
「すみません……」
「申し訳、ございません……」
課長はまた吉野さんに見られているということを忘れていたのか、涙目で赤面しながら土下座している。いやしかし、本当に土下座しなければいけないのは俺のほうだ。
エロい課長がシコすぎて課長の乳首をこてんぱんにのしてしまった俺は、懲りずに唇や舌も酷使して、当分はキスができないほどに傷ませてしまった。今回ばかりは猛省……だ。課長に続いて俺は床に額を擦り付ける。
吉野さんは珍しく横柄な格好で股を開いて屈みこむ。そして俺たち二人の肩を同時に叩いた。
「別に私はどこも痛くないから構わないのですが……藤野課長、この生活は続けられそうですか?」
そう言いながら吉野さんが忌々しそうに睨みつけているのは、顔があげられない藤野課長ではなく、もちろん平社員の俺だ。課長って本人の主張次第では全然被害者だし……吉野さんもそれをよくわかっているのだろう。やっぱり第三者から見ても俺って加害者なんだ。片想いなのかな……居た堪れず、ふたたび床と睨めっこを始める。
課長には今度こそ愛想をつかされても仕方ない。吉野さんの質問がひどくまっとうで打ちのめされる。課長は今冷静だ。俺に手を出されて前後不覚になっている精神状態とは違う。
怖くて課長のほうが見れない。縋っているようでひどく惨めで、余計に課長を困らせてしまう気がしたので……俺はおとなしくそのまま判決を待つことにした。
「私は……」と課長が口火を切る。俺はゴクリと、音が立たないように唾を飲み込んだ。
「私なら大丈夫です。続けさせてください」
はっきりと宣言するその声音に、俺は、夢を見ているようだと思った。
このことだけで、課長が俺を許しているなんて保証になるわけはないのだけど……まだ、課長の隣にいてもいいんだって思ったら急に心が浮き上がってくる。よくない。俺はすぐに反省を忘れる人間だ。胸の前でこぶしを握って、懸命に湧きあがる己を律する。
吉野さんは地獄から響き渡るようなため息をついて、課長の目の前に新たな軟膏を取り出した。それに飲み薬も。
「口内炎用のものですが……ないよりはマシでしょう。鎮痛剤も渡しておきます」
「ありがとう、ございます……!」
「申し訳ございません……」
ダメ押しで重ねて謝罪をしておく。吉野さんは最後にもう一度クソデカため息を残して部屋を出て行った。二人きりの空間。しばらく静まり返った後、静かに、課長が語りかけてくる。
「気にしなくて、いいからな……?」
「へっ」
「私も、その、ハメを外しすぎてしまったし……」
「課長……!」
なんて優しいんだ。もう聖人通り越して聖母。俺のこと全肯定してくれる俺のママなんじゃないだろうか。
すぐさま手を取り顔を近づける。落ち着け、キスはダメ、ダメだって。危うい距離感なのに、課長は「あっ」と声を漏らしたきり、自分から離れようとしない。
至近距離で見つめ合い、キスもできない俺たちは、そのまま熱烈に見つめ合って……………………
ガチャ「言い忘れましたが、」
吉野さんが突然戻ってきた。もう身を寄せ合っている俺たちを目の当たりにして言葉を詰まらせている。さすがに監視は携帯式ではないらしい。課長はすぐさま俺の手を放り捨てて、不満そうな俺の頬を釣り上げて表情を取り繕おうとしている。
「なんでしょう!?」
「宮西さんの食事の条件ですが、乳首も唇もダメとなると、藤野課長の全身を使ってもらうより他なくなりますね」
「「へ!?」」
俺は喜色満面。課長はみるみるうちに耳まで真っ赤になり、困惑に支配されている。藤野課長の全身ってまさか……え? いいの? いいんですか神様? 神様じゃねーわ間違えた吉野さん!!
「藤野課長の肌の上に食事を置いて食べるのならセーフとみなします」
「肌!! 生肌じゃないとダメなんですね!?!?」
「宮西……!」
いきり立って身を乗り出す俺を後ろから課長が羽交い絞めにしてくる。そんなことされても落ち着けるものか。課長の全身を……俺が食事に使ってもいいの!? 課長の生肌が俺のオカズなの!?
呆れて立ち去ろうとする吉野さんに、課長が食い下がる。
「吉野さん!!」
「……まだ何か?」
「あの、せめてパンツ、パンツだけは…………!」
「許可します」
「ええ~~~~~~~っ…………」
俺を軽蔑の眼差しで一瞥して、今度こそ吉野さんは行ってしまった。
パンツ、パンツか……まあいきなり全裸は課長も気まずいのかもしれないな……。逆に考えろ、俺。股間以外は使い放題なんだ。細い首筋も、深い鎖骨も、薄いお腹も……すらりとした脚だって丸ごと…………。
課長に向かい合う。少しは取り繕わなきゃいけないのに、ニヤケが抑えられない。
「食事の時間が楽しみです!!」
「お前、少しは反省とかないのか……?」
「反省してます。もうどこも傷つけません。大事にします」
「……期待してるよ」
課長は言葉とは裏腹に、俺に期待なんてひとかけらもしていない顔で、手を握ってくる俺から逃げ出すようにその場を立つ。少しは優しくしないと、でも……身体的に傷つけなければ大丈夫だよな?
もう少しくらい課長の尊厳ズタズタにしちゃっても、罰は当たらないよな……?
ついに食事の時間がきた。
ごく普通の白米に野菜炒め、茶わん蒸しというセットだ。汁物がなかったり、いつもはアツアツのご飯やおかずを少し冷ましているところに吉野さんの配慮を感じる。
課長は俺が食べ始めるといつも正気を失ってしまって(まあ俺のせいなんだけど)自分自身の食事がおろそかになるので、先に食べてもらう。その頃にはきっと差支えがないくらい料理は冷めているだろう。それでいい。課長の柔肌に火傷をさせるわけにはいかない。
課長はなんとも気が進まない様子で、しかめっ面を丸出しに食事を進めている。俺は新聞を読むフリをして背中を向けているが、課長がチラチラと俺の様子をうかがってくる様子がついていないテレビ画面にそのまま映し出されていてたまらなかった。
やっぱり俺のこと意識しているのかな。っていうか、これから俺にされるであろうことを想像して照れちゃってるのかな!?
脳内で足をバタバタと振り回してはしゃぎまくる。課長の……好きな人の裸体をお皿にして食事ができるなんて……まさに全男性の夢ではなかろうか。唇と乳首には触れられないけどそれ以上の部位は触り放題だなんて、異常すぎて逆にソソる。
カチャンと箸を置く音が二人きりの部屋にやけに響いた。俺もあえて新聞をバサッとうるさく閉じる。俺が隣に座ってするりと肩に手を回すと、課長は目を逸らしたまま、そっと退けようとする。
「やめろ」
「だって次は俺の番ですよね? 脱がしてあげようかなって」
「自分で脱ぐ……!」
システムが変わるたびに好感度がリセットされるのはなんなんだ。まあこれが課長のプライドというか意地なのだろう、俺は海のような広い心で付き合ってやらねば。なんてたって俺はこの人の恋人ポジションを目指しているのだからな。
課長は腕を交差させると、潔くシャツを脱ぐ。肌着も脱いで、ズボンも脱いで、靴下も脱いで、ついにパンツ一枚になった。ちなみにパンツは黒のボクサーだ。予想を裏切らないクールな出で立ちに、早くもムラつきが止まらない。
そして、なんという細さだろう。腕も脚も枯れ木みたいで……胴体まではまさかと思ったが、幹も枯れてしまったかのようにみすぼらしい。脇腹なんて骨が浮き出てしまっているし、鎖骨も深くて、マジでほぼ骨と皮だけだ。
凝視する俺から隠すように、自らの身体を抱き締める課長。あまりの俺の不躾な視線に怒っているのだろうけれど、それならちゃんと怒鳴るなりしてほしい。そんな泣きそうな顔見せられたら、余計に煽られちゃうでしょーが。
「あんまり、見るな……」
「見ないと食べられないですし」
「…………」
睫毛が震える。本当に泣きそうなのか。俺は咄嗟に視線を外す。「どうかしたん、スか」としどろもどろに呟いて、今さら話を聞ける男を演出した。課長はしばらく黙っていたが、やがてポツリポツリと、話し始める。
「みっともないだろう、私の身体」
「へ? そんなこと――――」
「太れない体質みたいで、ヒョロヒョロのガリガリだと昔から馬鹿にされてきた。だから、わりとな……コンプレックスなんだ」
「あ……」
「だが、そんなことはお前に関係ないよな。勝手に恥ずかしく思ってしまっただけだ、すまなかった。それでは食事を」
「課長」
ついと課長の手を取って、俺の胸に押し当てた。心臓の上。今も平常時より高く熱く鳴り響いている。あまりの暴れように課長も面食らったようで、泣きそうだったのに口がひん曲がって首を傾げてしまった。俺の行動の意図がわからないようで、戸惑いながら見つめてくる。
「課長のハダカが綺麗で、俺、こんなにドキドキしてます」
「なっ……!」
「ストイックで素敵です。課長の生き様を表していてカッコイイと思います。理想通りのハダカで、俺、嬉しいです」
「な、な、なんで、理想なんて……私なんかの身体で、お前が……」
慌てて手を引っ込める課長。泣きそうな気配が消えた。ホッとして表情を緩めると、課長は信じられないものでも見るような顔で俺を見る。言っておくがすべて本心だ。スーツの上からでも素敵だと思っていたけど、白い肌に、余分な肉がついていないその身体は、俺が好きになった課長の人格をそのまま映し出している。
貧相だと思う人もいるかもしれないが、俺は、好きだ。余分をそぎ落としてやるべきことに打ち込んできた凛々しさを湛えている。日に焼けていない、透き通ったような肌が美しい。
「課長が今欲しい言葉がこんなものかどうかはわからないけど……俺、本当にすごく……ドキドキしてるんです……」
課長が追及するように俺の胸を押し込む。ドクドクドク。さらに強くなる鼓動に、課長はどこか安心したように息をついた。俺の気持ちが届いたのならいいけど。
……どうして課長はこんなにも自分に自信がないんだろ。仕事はできるし、顔も頭もいいし、部下からの人望だって厚い。俺が持っていないもの、全部持っているのに。
そんな俺が、この素晴らしい人を励ませるならなんだってしたい。課長の手の上から俺の手を重ねる。
もっと聞いて、俺の鼓動。課長のことを好きな、キモチ。
「…………お前にこんなことを言わせてしまって、不甲斐ない……」
「えっ? えっ?」
課長はなぜか膝を折り、墜落するように床に屈みこんだ。両手で顔を覆ってしまってその表情は伺い知れないが……少なくとも泣いてるわけではない。
俺はプレイ以外で課長を泣かせたくない。だっていつもさみしそうだから。
俺が居るのに、この人に悲しい顔をさせたくない。
「課長……?」
「私の弱さは、私の問題だ……」
「そうかもしれないですけど、でも……課長、弱くてもいいんですよ」
「え……?」
「俺が、守ります」
格好良く言えたと思ったけど、実際は緊張してプルプル震えていたし、声も裏返ったし、何より顔がひどく強張っている。これで嘘だと思われたら心外だ。
だけど課長は呆気に取られた後、俺の滑稽な顔つきを見て吹き出した。少し目に涙が滲んでいたけど、これは泣かせたにはカウントされないだろう。その筈だ。
男が男を守る、なんて場面はなかなかないと思う。ここは法治国家日本だし。だけど課長は何かにひどく傷ついていて、今、俺の手を取る決心を、少しずつだけどしてくれているように感じるんだ。
だから俺は、課長の心を守りたい。強い人だと思っていたけど、この人は本当に弱いのかもしれないから。ならその分、俺が強くならなくちゃ。
「宮西、それならいっぱい食べないとな」
「はい!!」
なんだか課長にいつもの柔らかい雰囲気が戻った。それに笑顔になっている。かたくななこの人の心を溶かしたのが自分だと思うと誇らしかった。俺は堂々と、裸の課長に身を寄せる。
課長はご飯が大盛りにつがれた茶碗と箸を手に取ったかと思うと、なんと俺に手渡してきた。そうか、課長の身体に乗せなきゃいけないんだもんな。俺のほうが位置的にやりやすいのか。
こうして実際に乗せる直前になると勃起しそうになる。いかんいかん、いい雰囲気なのにブチ壊すわけにはいかんぞ。
俺は意を決して、箸で米を持ちあげた。そしてまずは無難に、課長の肩に乗せる。
「いただきます!」
「ああ」
課長が機嫌よく微笑む。それだけで俺は心がどろどろに蕩けて幸福感に満たされた。
あーんと口を開けて勢いよく課長の肩にかぶりつく。「ンッ」と鼻にかかった声が漏れて、課長が少し身体を強張らせる。それがつぶさにわかってしまって、ごうごうとと胸の奥が燃え盛る。
唇で米を回収して、さりげなく課長の肌に吸い付く。ああ、ほのかに汗の香りがする。プレーンな白米に塩味がちょうどよくて、俺は万物に感謝しながら咀嚼した。
課長から離れるのが惜しくて、肩に唇をつけたままモグモグと口を動かす。飲み下して、仕方ないから強く吸いついてから離れた。ヂュッッッ。
舌と唇で同時に弾いたから刺激が強かったのか「はぁあああん」と情けない声が出て、課長は慌てて己の口を覆う。
「す、すまない」
「いえ。俺が強く吸ったから。痛かったですか?」
「いや……大丈夫だ。それより……」
次の米を乗せようとすると、なぜか両手で制される。やっぱり嫌だったのかな。調子に乗りすぎた? 課長は俺に吸われた部分を軽く親指で拭って、そして恥ずかしそうに目を逸らしたまま言った。
「風呂……入るの忘れたから、少し待っていてくれないか?」
「へ? まだお昼ですよ」
「お前に食べさせるのに、身体を洗っていないのは非常識だった……だから……」
「えっと、いやです。俺、課長の匂いが強いほうが嬉しいですよ」
「~~~~~~またお前はっ」
「そんなの気にしなくていいから。てか待てないです。この状態で完食したい」
「この状態」を示すように、課長の裸の肩を包んで、二の腕まで擦るように下げていく。それだけで課長は下唇を噛んで、恥ずかしそうに刺激に耐えている。
いやマジで風呂に入る必要なんて一個もない。数日間入っていないとかだったらさすがに躊躇するけど……汗がうっすら乗っている課長の肌なんて最高級の霜降り肉のようなものだ。是非ともそのまま味わわせてほしい!
課長は眉を下げてわかりやすく困っている。俺が困らせたのか。そんな小さなことにじんとできる辺り、自分の本気度を察してしまう。
「……あまり、舐めないように」
「じゃあ吸います!」
「…………」
吸うのは許容範囲内なのか、それとも呆れているだけなのか、課長は苦い顔を浮かべて返答しない。俺はうやうやしく、課長の反対の肩に野菜炒めをオンする。もやしとかキャベツとか人参とかいろいろ入っているけれど……もはや野菜嫌いとか、そういうの関係なくなっちゃってるんだよなあ。
だって今俺の目の前にあるお皿って、世界一料理を美味しく食べられる極上の逸品だからね。
二の腕を掴み、身を乗り出してかぶりつく。ああ、課長の肌の感触……味……!
舐めるなと言われたものの、調味料が定着したら痒くなりそうで、少しだけ、怒られない程度に舌を這わせて舐め取る。そしてまた唇をつけたまま咀嚼した。ああもう課長の肩にキスしているだけで脳内麻薬出まくりでなんだって美味しく食べられちゃうわ…………。
咀嚼が終わると予告通り強く吸い出す。ヂュウウウッ、ヂュウウウウッ。二吸い目で「複数回は聞いていない」とばかりに課長が頭を押してくるけど、レロレロと舌先でくすぐったら小さく喘いでパワーダウンした。その隙に細かく、歯を立てて、吸って、堪能した後で、ようやく解放してやった。
「フッ……いいですねえ~~」
「な、何が……」
「いえいえ、こっちの話です」
両肩の同じ位置にアザが出来た。当然、俺が付けたキスマークだ。課長には見えない位置だからまだ気付かれまい。できたら全身に付けたいけど……腕あたりで気付かれちゃうかな、これは。
次は茶わん蒸しだ。これにはちょうどいい部位がある。まずはスプーンで掬い、唇をつけて温度を確認する。よし、熱くないな。そうして乗せた。課長の鎖骨の上、極端に凹んでまさにお皿のようになっている部分に。
「課長ここ深いですね~。いっぱい入っちゃいます」
「…………」
「褒めてるんですよ?」
骨を指先でつうとなぞると「ヒッ」と高い声が上がる。課長は羞恥で俯いてしまう。もっと辱めるためにどんどんそこに茶わん蒸しを注いだ。大きなくぼみに、何掬い分入れただろうか……こんなに入る人、本当にそうそういないんじゃないかと思う。
俺のためのお皿としてものすごく健気に感じてしまう。なみなみ注がれた液体にゴクリと唾を飲んで、俺は唇で啜りついた。
ズゾゾゾゾゾ、ヂュッヂュッ…………。
「あ……あ……」
「なんで感じてるんですか? ここ、こんなふうに使われるのはじめて?」
「うう~~ッ……」
屈辱なら応えなければいいのに、律義にもコクコクと頷くその姿にまたも股間が反応してしまう。しかし、ほんと鎖骨のお皿深いな。俺の舌が底まで届くか微妙だ……。腕を引っ張って少しでも平らにして綺麗に舐め取る。オマケに鎖骨の下の、痕がつきそうな場所に短く吸いついた。
この人ってほんと……変な部位に反応するよな。今のところ経験が浅いだけで、実はすごく変態の素質を持っているんじゃないのか? 教え込んだら、俺が負けちゃうくらいの淫乱ネコちゃんになっちゃうんじゃないの?
無性にワクワクしてきた。次は手の上に野菜炒めとご飯を一緒にたらふく置く。本当はこれって全身を使わずとも手だけでいいのだろうけど、せっかく鈍感な課長が気付かずハダカになってくれたんだから、いろんなところを使ってあげないとな。
とはいえ基本は外せない。手に乗せたものを少しずつ胃の中に収めていき、やがて課長の手の平に唇が触れて……まだ少し米粒が残っているのも構わずに、舌でぬるぬると撫でまわす。
今までになく課長が反応する。やっぱよく使う部分って敏感なんだな。半分人体実験のような心地で舌を這わせ続けた。ぬるぬるぬる。れろれろれろ。
課長の手を取り、角度を変えて舐め続けながら顔を見上げる。課長も俺を見ていて……口移し中の、あの時のようにじょじょに目が蕩けていっている。
こんなにチョロくて大丈夫ですか、課長。やっぱり放っておけない。絶対に俺と付き合って欲しい!!
「ハア、ハア……課長、んンッ」
「あ、や……っ、うう……」
歯を立てる。腰からビクンと跳ねたので、調子に乗って指も食んだ。チュポチュポ、チュポチュポ。粘着質な指フェラを披露すると、もうすっかり蕩けきってしまった。こういうのって嫌がる奴のほうが多いんだけど、課長は付き合ってもいないのによくやらせてくれるよな~~……俺と相性いいんだろな……へへへ。
「手ヨかった? もっかい?」
「ん……」
課長は手を引っ込めない。それどころか少し前に出してきた。もう一回やってほしいんだ。これってもう実質セックスだよな。俺ら、何日もかけてずっと前戯をしているようなものだ。
もしこれがアダルトビデオなりの一つの作品ならば、前戯だけで終わるわけにはいかない。最後までいかなければ、見ている人たちに申し訳が立たないぞ。まあ見ている人なんて実際には……あ、吉野さんがいるか。
俺のことを心から嫌悪するあの表情を思い浮かべると余計に興奮してきた。第三者がヒくようなことでも課長さえ受け入れてくれれば何も問題はない。課長は俺のやりたいことを受け容れてくれる。このまま押せばきっと、手に入る筈なんだ。
先程以上に爆速で食べてしまって、舌で愛撫する時間を倍くらいとった。舐めまわしている合間の息継ぎでも、欠かさずにハァハァと熱い息を吐きかけて刺激が途切れないようにする。指の股まで丁寧に舐め取り始めると、課長は息を震わせて、俺が舐めやすいように自分から指を開いてくれる。
付き合ったら聞きたいな。俺が今までしてあげた中でどのプレイが好きかって。だけどこの人たぶん全部好きだよな…………反応がそう物語っている。数々のネコを抱いてきた俺でもこんなに従順な人には出逢ったことがない。
課長。マジで、マジで、俺と付き合ってください。毎日エッチして幸せにするから。
「ン……課長の味、します……ずっと舐めてたい」
「ダメ……ちゃんと、食べてくれっ……」
「じゃあ横になれます? 『全身を』お皿にしたいんで」
手を離して食事をお盆ごと持ち上げた。課長はすぐに察してベッドまで先立って歩いていく。いよいよ本格的にペロペロできるぞ。
勃起を隠しもせず、むしろ堂々と胸を張って歩いていくと、先に座って待っていた課長は俺のソコに釘付けだった。ベッドサイドテーブルにお盆を置くなり、押し倒して上に覆いかぶさる。
「見ないでください、エッチ」って囁いて頬にキスすると、ブワッと体温が上がって一気に瞳が潤んだ。可愛すぎる、このままパンツ脱がしてしまいたい…………ああでも、もう少し、己を焦らすとしようか。
「まずは首に……」
何をされるか不安だろうから先にお皿にする部分を教えてあげる。人体盛りのマナーだ(まあ俺が今考えたんだけど)そこに茶わん蒸しを垂らして、ズゾゾと派手な音を立てて啜る。ビクビク震えているところに思いっきり舐めまわした。押し倒した体勢のままだから、首に愛撫している前戯でしかない。
何度も舐め上げてベタベタにした。それに、王道の場所だから張り切って大きなキスマークを付けた。何個付けようかな。俺が満足するまで付けちゃお。何回も茶わん蒸しを乗せては啜り、その何倍もの時間をかけて舐める、吸いつく、息をかける。
大きな喉仏が邪魔でカリッと歯を立てると「ア……!」ってひっくり返った声が上がって、俺らはとっさにバッと顔を離す。なに今の声。股間直撃なんですけど。今までで一番エロい声だ……エッ、この人の性感帯、まさかの喉仏……!?
「課長……いっぱいするね」
「い、いや……ああ……」
かぷ、かぷ、かぷ。歯を立てては離し、立てては離し。華奢な課長がこんな立派な喉仏を持っているのがだんだん忌々しく思えてくる。俺はゲイだし、男は男であればあるほどいいのだから、こんなふうに思ったことないのだけど…………できれば課長を一生俺に縛り付けておきたいから、それを阻む男の証明のようなこの部位が、憎々しく感じてしまう。
明らかにネコのくせにイキがってんじゃねーよ。心の中で明確に罵って、強めに歯を食い込ませた。課長の全身がバクンと跳ねる。逃げ出そうともがくので、抑えつけて必死でやさしく舐めてやった。
ああ、愛しい…………可愛い課長に不釣り合いなこの大きな喉仏も……たくさん抱いてやったら男性ホルモン減少して小さくなっちゃうのかな…………やっぱり大きいままがいいな、いじめ甲斐あるし……。
ヂュパッ、ヂュパッ。唇で何度も弾いて唾液を散らす。コクコクと上下する喉を押し潰して「飲むな、垂れ流せ」と耳元で言い付けると、じきに口の端からヨダレが垂れてきた。それを舌で課長の首全体に塗り付けて、汗と唾液のまじった課長の肌をじっくりと愉しんだ。
「ンッ、ンッ、課長、ツバ美味しい」
「みやにしっ、も、もうっ」
「ん~~~?」
首から伝っている線を辿って、口の端まで舐め上げる。キスはダメだからギリギリのラインを責めた。課長の声は完全に涙に濡れている。俺はその情けない響きを噛み締めながら、胸元に握っていた課長の拳を開いて指を絡ませた。
「首、もう終わりにしてくれっ……おかしくなる……」
「下のほうも早く使って欲しいんだ?」
「アッ…………」
首を包むような手つきからするりと下に降ろしていく。胸元をひと撫でして、おへそまで舐めるようにゆっくりと撫でた。課長は早くも感じてしまってもう何も言えない。いや、言わないんだな。早く次のステップに進みたいのは課長も同じのはずだから。
次は胸の真ん中におかずを置く。乳首はダメって言われてるけど、真ん中は荒れてないしセーフだろう。胸元に顔を埋めるだけで乳首イジリまくりたくなって我慢するのが大変だけど、まるで乳首を愛撫するような手つきで課長の指をコネコネして気持ちを抑えつける。課長もたいそう気持ち良さそうな声を漏らして、まるでほんとうに乳首を触っているかのような錯覚に陥れた。
野菜炒めのタレでかぶれないようにしっかりと舐め取る。「ふ、ふ、ふ」と漏れる息が可愛くて口元に手を添えた。いけない、口も禁止だ。すぐさま軌道修正して手探りで頬を包む。そうすると課長からも頬を俺の手に寄せてくるものだから思わず声を漏らしてしまった。これ、両想いだろ、絶対?
「次はおへそ辺りにたくさん置きますね……」
耳に囁きかけて、コクコクと頷いてもらえた。胸のすぐ下からおへそへ、さらに通り抜けてパンツスレスレまでご飯を置く。そんで上からゆっくりと啄んだ。チュッ、チュッとバードキスを落として、課長の味をオカズにしつつ、白米を食らっていく。
パンツの手前まで食べてしまうと、パンツを少しだけ持ち上げて舌を差し入れる。これは予想外だったみたいで、「あっ」「ダメっ」て上ずった声と広げた手の平が制止にくる。両手で組んで捕まえた。そして心置きなくパンツに隠れた課長の下腹部へと舌で進んでいく。
少し蒸れてる。もう少し先が本丸だ。できる限り舌を伸ばしてチロチロと肌を撫でる。組んだ指に力が込められて、課長の緊張が伝わってくる。ハア脱がせたい。脱いでくれないかな……。
「課長……」
「ぬ、脱がないぞっ」
「残念」
「ああ……ちょっ……」
次はここに置くから、という意味で太腿を撫でる。硬くて骨ばっていてこんな太腿見たことない、男でも大抵はふっくらしているものだけど……こんなに肉感がないのに十分興奮している俺、自分の中に新しい扉が開くのを感じずにはいられない。
茶わん蒸しを少しだけ垂らして、間髪入れずジュルジュルと啜った。同時に犬のような息で舐めまわしてやる。玉子が垂れた内股も舌でなぞって、不必要に何度も往復した。
例によって脚の付け根からもパンツを持ち上げる。折り畳まれた部分は味が濃くてとても美味しい。そしてついに舌先で課長の金玉をひと舐めした。すっげ、小さい……緊張して縮こまっちゃってるのかな? 可愛い…………。
「みやにし~~……!」
「これじゃ脱いでるのと一緒でしょ? ねえ……」
「ダメ、ダメっ、ああっ」
俺がガバッと開いて金玉丸見えにすると、課長は脱がせまいと上からきつく引っ張り上げてくる。なにこの幸せな攻防。課長はどうやら必死だけど、パンツ破けそうでどのみち俺の勝利が見えていてメチャクチャ楽しい。
「お願いっ、ほんとにっ」と訴える声に涙が混じってくる。どうやらここまでか。なに、まだ時間はたっぷりある。俺はパンツから手を離して、力の入った課長の両手をなだめるように優しく擦る。
「そんなにチンチン見せるの恥ずかしいの? シコる時にもう見たよ?」
「違うっ……舐められるのが……」
「いや?」
「恥ずかしい…………」
いやではないんだ? そんな言葉で詰れば今度こそ大泣きさせてしまいそうなので自重した。代わりに俺はまだまだ下へ進む。薄くすね毛の生え揃った脛を擦って見上げる。あまり性的な場所ではないから安心すると思ったのだが、課長は下唇を噛んでいやいやと首を横に振る。なんで股間周りより脚が嫌なんだよ。
強引に野菜炒めを乗せる。ご飯粒は毛にくっついて後始末が大変そうだったからな。たくさん乗せて、たくさん食べて、タレのついたすね毛を唇に挟んで丁寧に綺麗にした。
「いやだああああ……」
あらら、泣いちゃった。俺そんなヒドイことしたっけ?
課長のすね毛をはむはむしながら顔を上げる。課長はそれを見るとひどく顔を歪めて脚を振り、苛立ちまぎれに俺の顔を蹴りつけてきた。こんなに邪険にされたのはじめてかも。よくわからんけどよっぽどいやだったんだな。
「すみません、課長」
「もう、もうっ、終わりだ!」
「わかりました。ごめんね」
ギュウウッと抱き締めて謝意を伝える。こんなので許してもらえるかわからないけど、課長は少し考えたのち、俺の頭を抱き込んで「もういい」と小さく言ってくれた。ほんとチョロいんだから。相手が俺じゃなかったら全力で阻止してるわ。
相変らず課長の地雷はわからないが、こうやってゆっくりと知っていけばいいか。こんな相手、前は面倒くさいだけだったのに……今は一生懸命になって、課長のことを知ろうとしてる。俺、変わったよな。
俺はパンイチの課長と抱き合ったまま、直接の肌の温もりに酔いしれた。本当は俺も服なんて脱ぎ捨てて肌を合わせたかったけど……それはまだ早いだろう。ゆっくり、ゆっくりでいい。たまに暴走するかもだけど、課長、謝れば許してくれるから。
甘えるように頬ずりをする。課長が頭を撫でてくれる。もう俺たちは上司と部下の範疇を超えている。そのことにたまらなく、興奮する。
隣り合って歯を磨く。食事後の俺たちの習慣だ。正直俺はもともと朝と寝る前しか磨いていなかったのだが、課長が昼食後もしっかりと磨いているから俺も真似した。まあ会社の女の子達もそうしていたし、歯の健康にはいいに決まってるしな。
……本音を言うと、一秒でも課長と同じ時間を共有したいだけなんだけど。
「ふーっ、さっぱりした!」
課長は俺に遅れて口をゆすぎ、丁寧にタオルで口元を拭いている。プレイの最中はヨダレ垂れ流して喘いでいるくせに、こういうギャップがたまらないんだよな……。
悟られない角度でじとっと見つめていると、課長は手元に置いてあった塗り薬を手に取る。小さなチューブに入ったそれがなんだったか瞬時に思い出して、横からそれをかすめ取った。
「あっこら」
「俺が塗ってあげます」
「いいから」
「ほら、あーん」
逃げないようにガッチリと肩を抱いて向かい合う。指先に薬を付けて眼前に差し出せば、課長は観念して薄く唇を開いた。
「もっと大きく開けて。どこですか?」
「全部腫れてるけど……特に下唇の裏だ」
「うげっ、口内炎いっぱいある……なんで? 俺こんなとこ噛んでないですよね?」
「自分で噛んでしまったみたいで」
「ええ~~……?」
一体全体何をどうしたらそんな事態になるんだ。てかそれ俺悪くなくない? え?
「普段からよく噛むんですか」と聞くと課長はムッとして「そんなことはない」と言い返してくる。なら、やっぱり俺のせいか……?
「あれ。もしかして俺にスケベされるのが嫌で、ストレスで噛んでる……?」
サアッと血の気が引く。同時に声に出ていたことに気付いてハッとした。だけどもう遅い、課長は難しい顔をして考え込んでいる。
そうだよな、ストレス溜まった人って自分で髪の毛抜いたりリスカしたり……自傷行為をすると聞いたことがある。なら課長のこれもあてはまるのでは……?
途端に課長の顔が見れなくなる。俺って暴走しやすいから、自覚はあるんだけど、好きになったら止まらなくて、だから……。
「ストレスというか、緊張……だな……?」
思いもよらない言葉が降ってきて、俺は思わず顔を上げた。課長は照れくさそうに頬をかいて微笑んでいる。怒りや憎しみなど一切含んでいない優しい顔つきは見紛うことなき、聖母だ。
このままキスして緊張させてやりたかったけどさすがに我慢した。親指と人差し指で課長の唇を上下にぱかりと開いて、薬越しに口内炎に触れた。「いひゃいっ」なんて子どもじみた叫びでなぜだか心がくすぐったくなって、「大丈夫、大丈夫」と頭を撫でてあやしながらしっかりと患部に塗ってあげた。
頬を包み込んで顔を見つめる。ああ、やっぱりキスしたい。こんなに近いのにできないなんて。無意識に舌なめずりしていたらしい、課長が急に赤面したから気付いた。バレたならしょうがない。
「キスできなくてさみしいよ……」
「…………ッ」
「今はこれで我慢するね」
ジュッ……ジュッ……ジュッ……。課長の唾がたっぷり付いた人差し指に舌を巻きつけて舐め取る。課長の味……薬も混ざっているだろうけどまったく気にならない……俺の好きな人の味……早く、早く、取り戻したい……。
悦に浸っていると、突然課長が俺の手首を掴んで制した。くしゃっと顔が歪む。しまった、と思うと同時に、目から涙が溢れ出してきた。
「もうこういうの、やめてくれないか」
「え…………」
「苦しい…………」
苦しい、って。首を絞めた時に言うならわかるけど、今?
俺はもう課長に触れていない。課長から手首を握られているだけで。変なタイミングで決壊した彼をよくよく見つめて、俺はまさかと思う。課長はほんとうに苦しそうに息を切らして、自分の胸を抑えている。
「胸が……苦しいんですか?」
「ああ」
「それって……」
俺に、恋してるんですか。
また悪い癖が出た。すぐに自惚れる。だけど口説かれて胸が苦しいなんて、もうそうとしか思えなくて身を乗り出す。だけれど否定されたらと思うとこわくてどうしても声にならず、抱き締めるだけに留めた。
課長、俺も好きです。なんて、告白されたわけでもないのに勝手に心の中で返事して、それが伝わるようにギュッときつく抱き締める。
「こうしていたら……少しは、楽になりますか……?」
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