王子の僕が女体化して英雄の嫁にならないと国が滅ぶ!?

蒼宮ここの

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第18話 語り合う夜

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風呂場から出た僕らは会話もないままに寝巻きに着替えて、粛々と僕の部屋に向かう。指を絡めて繋がれた手が妙に熱い。意識するのも無理はないと思う。だってさっき僕ら、お風呂であんないやらしい‪……‬こと‪……‬。
ボッ。ジャオにサレた数々の行為を思い返すと手だけでなく全身が燃え上がった。ジャオもやっぱり男なんだ。しかも、ウマかった‪……‬。
巧みに摘まれた乳首がまだジンジンと疼いているし、扱かれた股間なんて竿のはずなのに、先端がくぱくぱと開閉するような動きを繰り返しているような感覚だ。

もしかして僕、今、発情してる‪……‬?
こんな状態でジャオと添い寝なんてしたら‪……‬‪……‬。

思わず繋いだ手に力がこもる。ジャオに顔を覗き込まれて「なんでもない、なんでもない」と慌てて離した。‪……‬のに、またしっかりと掴まれて指を絡められてしまって。コイツの手繋ぎへの執着はなんなんだ‪……‬。



部屋に着くとにわかに緊張感が高まった。入った瞬間、襲われたらどうしよう。べ、別に期待してるわけじゃない。今日だけでコイツとどうこうなろうなんて気はないし‪……‬一時のムラムラに任せた結果、もし妊娠なんてことにでもなったら目もあてられない。僕はまだ、子を産む勇気なんて‪……‬。
ジャオに悟られないよう、深呼吸をして扉を開ける。いつも通りの僕の部屋。トルテは‪……‬いないな。今日ばかりは彼女の不在に安心した。後から入ってきたジャオが扉をしっかり閉めるのを見ていると、もう心臓がはち切れそうだ。

「いい部屋だな」
「そ、そうか? まあ一応……王子だからな」
「ベルの匂いがする」

‪……‬‪……‬なんでこういうことを恥ずかしげもなく言えるんでしょーか。
なんて返したらいいかわからなくて無言のままベッドに腰掛けた。一方のジャオは立ち尽くし、うろ、と視線を彷徨わせて、一言。

「俺はどこに寝たらいい?」

はいきました。わざとか? どう見たってベッドひとつしかないじゃん。僕が王子だから一人用よりは少し広めに造られている、二人で一緒に眠るにはおあつらえ向きのベッドが!!

「‪……‬いーよ。ここで」
「え?」
「僕のベッドに一緒に寝ればいいって言ってんの‪……!‬」

ヒーーなんで僕は恥じらってんだ!? 初夜じゃないっての!! 間違ってるってわかってんのに、気付いたら指モジモジさせてジャオが隣に来るのを待っているし、もう身体はお風呂の時より火照ってるし、我ながらスタンバイOKすぎる‪……‬!! ってなんの!?!? あああ僕、絶対流される‪……‬!!

「‪……‬ありがとう」

ボスン、ジャオが隣に来た。少し弾んだ身体はまた縮んでしまったような気にさせられる。ジャオが見下ろしてきて優しく頭を撫でてくれると、もう‪……‬小さな女の子にでもなってしまったような気分だ‪……‬‪……‬。

「風呂場では‪‬すまなかった。理性を失ってしまった」
「別に‪……‬どうってこと、ない‪……‬」
「そうか」

どうってことないなんてことがあるものか。僕、感じすぎて股間からなんか勢いよく水噴射してたし‪……‬まだ、弄られたところが萌えてて、期待、してる‪……‬。

「横になろうか」

ジャオが僕を壁と自分の間に挟み込んで後ろからギュッと抱き締めてくる。
あああああきた。襲われる。あああああああ‪……‬‪……‬。

「温かいな」
「そう‪……‬だな‪……‬」
「今日は色々あったな」
「‪……‬うん」

そうだ、本当に色々あった。ユーステンの起こした事件、ミヤビさんに決意表明したこと、はじめてジャオにフロストを会わせたこと‪……‬どれも今思い出すと恐ろしい出来事ばかりだが、ジャオの胸の中でなら安心して思い返せる。何があったって、ジャオが守ってくれるから。
‪……‬なんて。稽古してジャオくらい強くなるつもりだったのに、今では到底敵わないんだってわかる。何度も助けてくれた。僕が突き放しても駆け付けてくれて。その上、今も背中に密着しているご立派な胸筋‪……‬なぜあんなに強いのか、あらためて納得させられた気がする。

「母さんを元気づけてくれてありがとう」
「えっ? ああ、いや‪……‬僕は何も‬」
「正直不安だったんだ。母さんとベルを会わせるの」

唐突にミヤビさんの話が出てきて内心驚く。だけどジャオの中では大事なことなのだろう。僕はいきり立った心を鎮めて、おとなしく話を聞くよう自分に言い聞かせた。

「母さんは王族を恨んでいたから‪……‬ベルがどんな人間でも、頭ごなしに嫌ってしまうんじゃないかと心配していた」
「へっ? あのミヤビさんが!?」

意外だ。ミヤビさんはいつも温かく迎えてくれるし、僕がどんな迷惑をかけたって許してくれる。今日なんて「本当の息子のように思ってる」とまで言ってくれたんだ。そんな彼女が王族嫌いなんて‪……‬どんな心境の変化なんだろう?

「母は俺に友人ができないことを心配していたから、ベルに感謝しているんだと思う」
「そんな、それだけで‪……‬」
「俺も、感謝している」

ジャオは友達ができなかったんじゃなくて作らなかっただけだ。こんないい奴、誰だって好きになるに決まってる。いつも気遣ってくれるし、優しいし、愛情深いし‪……‬美丈夫で立ち振る舞いだって華麗だ。少し抜けたところもあるけれど、そんなところも愛嬌があって、僕は、気に入っている。

「ジャオが完璧だから皆近寄りがたかっただけだ」
「ふふ‪……‬ベルの視点は変わってるな」
「そんなことない」

ああ、いい雰囲気かもしれない。そろそろ‪……‬。
抱き締めてくるジャオの腕にギュッと縋り付く。ジャオは僕の頭を胸の中に収めてよしよしと撫でながら、何度もキスを落としている。ふたたびドキドキが高まるが、ジャオは腕の力を抜いてまた話し始めてしまう。

「ベルには話しておこうと思った。‪……‬オトメのことだ」
「‪……‬なに?」
「歴代のオトメは立派に務めを果たしているが、実情は‪……‬召還後に自分の役目を告げられるとひどく狼狽し、家に帰して、近寄らないでと我を忘れて暴れるのが常らしい」
「ああ‪……‬」

それはそうだろう。
想像できていたことのはずなのに、ジリジリと胸が痛み、同時に今さらそのことを思い知った自分が情けなかった。見ないフリをしていた。オトメの現実的な苦悩を。その身に降り掛かった事態が「災難」以外の何物でもないことを。

「母さんもそうだった。半年ほど幽閉されていたらしい」
「幽閉って‪……‬城の地下にか?」
「ウチの地下だ。当たり前にオトメを監禁する牢が存在する」

オトメを監禁する、って‪……‬。
牢に収容されるのは本来ユーステンのような罪人だけだ。何の罪も犯していない、しかも国の宝と謳われるオトメを、牢に監禁する‪……‬?

「ウソ、だろう‪……‬?」
「壁に頭を打ち付けて自害しようとした者もいたらしい。血の跡が生々しく残っている」
「うっ‪……‬」

こんな手の込んだ作り話、ジャオがするわけない。
急に寒気がしてきた。自分の身体を抱えて縮こまる。

「拘束具はいつからのものなのか‪……‬かなり昔から使われてきたものであることは確かだ。自害を試みたオトメは手足や首も動かせず、排泄も垂れ流しで、舌を噛まないよう口輪までされて精神を矯正させられた記録がある」
「‪……‬‪……‬」

涙が滲む。どんな怪談話より恐ろしくおぞましい。この国で実際に行われていたのだ。そんなことが。逃げ出そうとしたり、自害しようとしたりするのも無理はない。恋愛や出産は‪……‬誰かに強制されてするものでは、ない‪……‬。

「み、ミヤビさんは‪……‬? 大丈夫だったのか‪……‬?」
「母さんは‪……‬幸い、精神が強い人だった。暴れることはほとんどなく、半年で気持ちの整理をして、父と共に生活することを受け入れたようだ」
「……‬」
「そんな母さんでもこの国を恨まずにはいられなかった。こんな残酷な儀式を執り行う王族を‪許してはおけないと、涙ながらに語る日もあった」
「ジャオに‪……‬?」
「幼い頃から王族への恨み言ばかり‪聞かされて‪……‬俺も王族に不信感が募っていった」

あんな良い母親が幼いジャオに‪……‬感情を抑えきれなかったのだろう。前のオトメがひどいことをされたから、受け入れたフリをしていただけだったのかもしれない。
今となっては、高頻度で出産を繰り返しながら、たくさんの女子を育て、毎日ジャオや僕に凝ったお弁当を作ってくれる‪……‬ここでの生活を謳歌しているようにしか見えないが‪……‬彼女の本来の運命は、この王国に潰されたのだ。夢があったかもしれない。恋人がいたかもしれない。僕はそんなことも知らず、一国の王子として有り余る富を享受し‪……‬のうのうと生きてきた‪……‬。

「僕‪……‬ミヤビさんに謝りたい‪っ……‬何も知らなかった‪……‬知ろうとしなかった‪……‬っ」
「ベル」

僕の顔が濡れていることに気付いてジャオが振り向かせ、強く抱き締めてくれる。
ジャオは僕のこと嫌わないでいてくれた。本当に? 母親を苦しめた王族の僕のこと、恨んでないのか? 必死にしがみついて泣きじゃくる。ジャオは僕のつむじに頬擦りして、冷えた身体に体温を分け与えてくれた。

「泣かせるつもりはなかった‪……‬すまない。怖がらせてしまって」
「ちがうっ‪……‬ほんとうに怖かったのはミヤビさんだ‪……今までのオトメたちだ‪……‬‬!」
「‪……‬そうかもしれないな。だが母さんはベルが大好きだ。いつも「明日は来ないのか」とうれしそうに聞いてくる」
「ほんとに‪……‬?」
「ああ。ベルは今までの王族とは違う。それを俺も母さんも知ってる。だから俺はベルにも無理をして欲しくないんだ」

無理‪……‬というと、英雄であるジャオとの恋愛のことだろうか。無理なんてしていない。少々強引にされたって、ジャオが相手なら構わない。なんて、素直に言えればいいのだけど‪……‬あいにく僕にはまだ、そこまでの決心がついていない。

「‪……‬うん。ありがと」

袖口で涙を拭いて、そっとジャオから離れた。それでもジャオはふたたび引き寄せてくる。僕は吸い込まれるようにその胸の中に収まる。

「どうかこのままのベルでいて欲しい‪……‬それだけでよかった、はずなのに‪……‬俺は最近欲張りになってる、自分でも止められない‪……‬」
「‪……‬ジャオ‪……‬」

止めなくて、いいのに。
そう言ってしまいたかった。だけれど臆病が顔を出す。性行為とか、真実の愛とか、まだよくわからない。僕は思春期で、ジャオとそういうことがしたいだけなのかもしれない。もちろんジャオにだってその可能性はある。だから互いに心を通い合わせた上で‪、ジャオとはゆっくりと、進んでいきたい。
ぽかぽかして気持ちいい。何も特別なことしなくたって‪……‬ジャオがこうして傍にいてくれたら幸せだ。
僕は穏やかな眠りに落ちていく。薄れゆく意識の中でジャオの手が僕の心音を確認して、涙が混じるような吐息を漏らした。すでに、夢だったのかもしれない。











僕は森の中にいる。一人きりだ。
さっきまで誰かと一緒にいたような気がするのだけれど。

森は深い。上を見上げても枝葉に覆い隠されて青空は臨めなかった。だけどそれでいいようにも思う。広がっているのが青空とは限らない。曇天だったり、雷雨だったり吹雪だったり‪……‬あるいは、ここよりももっと暗黒に包まれた世界かもしれないのだから。
森に護られている。そう感じた。外界から遮るように木々が鬱蒼としていても、どこからか風が入ってくる。僕の頭を撫でるように通り抜け、まるで戯れるように、ゆっくりと髪を持ち上げていく。


――――ベル。


女性の、声だ。
それは成熟した婦人の重みを持ち、また何も知らない少女のようにあどけない。


――――もう少し、あなたの魂が癒えるまで

――――私の肉体が、あなたになるまで‪


涙が止まらない。何を言っているの。恐ろしいことはやめて。
遮られた天へと手を伸ばす。手は何者かに掴まれて、あやすように指が絡まる。

「トルテ‪……‬?」

気付けばそう呼んでいた。でも‪……‬トルテって、誰だったっけ‪……‬?
混濁した記憶を辿ると一人の妖精の姿が浮かぶ。いや、これは妖精じゃない‪……‬もっと大いなる意志‪……‬この国を、いや、この国全土を揺るがすほどの、畏れるべき存在、


精霊



ハッ‪……‬!



激しく吐き出した己の吐息に驚いて目が覚めた。
傍らにはジャオが居る。寄り添うと‪、‬まだ眠ったままなのに抱き寄せて胸の中に収めてくれる。ひどくなっていた鼓動が瞬時に落ち着いていった。

僕の世界にはジャオがいる。もう一人ぼっちじゃないんだ。
そう、確認するだけで、何もかもが報われたような気がした。
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