王子の僕が女体化して英雄の嫁にならないと国が滅ぶ!?

蒼宮ここの

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第41話 浴衣姿

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式典の数時間前。学校帰りの僕とジャオはユーリとルシウスも連れてジャオの家へと訪れていた。他ならぬミヤビさんからの招待だ。ミヤビさんの天真爛漫さと、奥からわらわら出てくる妹たちにユーリとルシウスは目を白黒させていた。
無理もない。この国の女性は家庭の中にしかいないから、結婚前の男子が今まで接したことがあるのは大体自分の母親か祖母くらいなのだ。オトメを見るのもはじめてだろうに、いきなりこんな大勢の女児らに取り囲まれて‪……‬気持ちはわかるぞ。僕も最初に来た時そうだった。そう昔ではない過去を懐かしみながら、僕はミヤビさんと談笑する。
ジャオが妹の大半を引き連れて通学鞄を置きに行ったが、数人の女児は物珍しそうにユーリとルシウスを囲んでいる。

「ジャオのお友達イケメンばっかりだね!?」
「こんにちはー!」
「お兄ちゃん達おなまえは!?」
「あ、ユーリ‪……‬」
「ルシウスだ」

あたふたしている二人はあまり見ないからなんだか楽しい。ミヤビさんは僕の袖を引いて、早く紹介しろと催促してくる。

「こちらがユーリ。こちらがルシウスです。以前から僕の友人で、今はジャオとも仲良くしています」
「ユーリくんにルシウスくん。はじめまして!」
「は、はじめまして」
「今日はお招きいただきまして」
「礼儀正しい子ばかりで嬉しいわ。そこに座ってゆっくりしていて。ベルくんはこちらに」
「はい」

勝手知ったる他人の家とはこのことか。はじめてここに来る二人を見ていると、僕もジャオの家に慣れてきたよなと実感する。ミヤビさんの後をついて奥の部屋に入る。そして二人きりになるが早いか、満面の笑みでこう言うのだ。

「じゃあ、脱いで?」
「え」

ミヤビさんの前で、脱ぐ? え? なんで?
硬直する僕をしばらく観察してから、ミヤビさんは急にぷりぷり怒り出した。

「もう! ジャオったら何も説明してないのね!」
「説明、て‪……‬?」
「ベルくん。お祭りといえばね、私のもといた国では「浴衣」を着るのよ」
「ユカタ‪……‬?」
「そう。私が仕立てたものだからどこかヘンテコかもしれないけど、娘たちに着せたら一応形にはなったから。是非ベルくんにも着てほしくて」
「僕でも着こなせるものなんですかね‪……‬?」
「もちろん! さ、早く脱いで」

ウッ。やっぱり脱がなきゃダメなんだな‪……‬? なんでミヤビさんずっと僕の横で待機してるの‪……‬?

「あのー、僕一人で着ますので‪……‬」
「一人では無理よ」
「え」
「よっぽど練習しないと自分では着付けができないものなの。ベルくんは着物、知らないわよね?」
「キモノ‪……‬はあ‪……‬」
「じゃあおとなしく脱ぎなさい!」
「ちょっちょっとミヤビさん!?」

制服のジャケットを強引に脱がされてしまった。ミヤビさん、目が本気だ。……これは観念するしかなさそうだ。まあ僕って今身体は女人だし‪、‬何も恥ずかしいことはない……のか?

「召使だと思ってくれたらいいから、ね」
「そんな滅相もない‪……‬‪……‬じゃあ、お願いします‪……‬」

なぜだか目を輝かせて浴衣を握りしめるミヤビさんを、振り切れなかった。シャツとズボンを脱いで下着姿を晒す。自分が手作りした下着が現れて心なしか嬉しそうにしながら、ミヤビさんは薄い衣を羽織らせてくれる。

「いくつか重ね着するから、頑張りましょうね」
「え、ハイ‪……‬お願いします‪……‬」

ミヤビさんは本当に専属の召使のように、テキパキと気付けをしてくれた。最後のオビ? とやらを締める時はかなり力一杯引っ張られて僕も彼女も息切れしてしまったけれど‪……‬なんとか完成したようだ。
苦労の甲斐あって、鏡の中の僕は重厚な衣装に包まれ、異国情緒溢れる佇まいだ。着物は薄いグリーンに紅い花が点々とあしらってあり、帯は豪華なゴールド。少し伸びた金髪のサイドを編み込んであるのがとてつもなく可愛らしい。
……これが僕なのか。この家で着替えさせられると、僕はたびたび自分を見失う。

「すごい‪……‬こんなにも趣深い服があるんですね‪……‬!?」
「綺麗でしょう? ベルくんとっても素敵よ」
「そんな‪……‬ミヤビさんのお力の賜物です」
「早くジャオに見せてあげて」

ぽん、と帯の後ろを叩かれて部屋を出る。妹さん達がワアッと歓声を上げて迎えてくれる中、ジャオとルシウスが呆気に取られた顔でこちらを遠巻きに眺めていた。妹さん達に押されてジャオの前まで来るが、あれ。こっち見てくれない。目も合わせてくれない。
え? ジャオもしかしてこういうの嫌い‪……‬?

「ジャオ、あの‪……‬」
「ちょっと待ってくれ。綺麗すぎて直視できない」

黄色い声がヤジを飛ばしてくる。顔を背けた上に手でこちらを隠してはいるが、ストレートな褒め言葉をくれたジャオに僕はたちまち赤面してしまった。落ち着けるようにと、ルシウスがジャオの背中を撫でてやっているのがなんだか滑稽だ。

「いや~ベル、すごいね‪……‬誰もベルってわからないかも‪‬」
「じゃあ思いっきり遊べるね?」
「お、おう」

笑いかけるとルシウスまでもが目を逸らしてしまった。恐るべし、ユカタ。男子の何らかを挑発してしまうらしい、恐ろしい衣装だ。

「あれ、そういえばユーリは?」
「アリッサと気が合うみたいで連れられて行ってしまった」

アリッサはジャオのすぐ下の妹さんで僕らと同じくらいの年齢だ。確か前に僕にワンピースを譲ってくれたっけ。豊かな黒髪も話しやすい雰囲気もミヤビさんにそっくりな可愛らしい女の子だ。

「ルシウス、ユーリ取られちゃうんじゃないの~?」
「バッ‪……‬アイツは俺にベタ惚れなんだから、いくら女子相手でも靡くわけないだろ!?」

わっビックリした。ルシウスが大声を上げるのってはじめて見たかも。どうやら繊細な問題らしい、これ以上からかうのはやめておくか。
その時奥の部屋から先ほどと同じような歓声が上がる。女の子らに囲まれて出てきたのは、青い牡丹が敷き詰められた総柄の浴衣を身に纏った愛らしい女の子だ。ジャオの妹の誰かかと思って目を凝らし、仰天した。隣のルシウスをちらりと見る。硬直してる。完全に。

「ユーリ!?」
「わ、ベル! ベルも着せてもらったんだね! きれ~!」
「す、すごいユーリ! 完全に女の子だ‪……‬!?」
「それをベルに言われてもなあ~」

照れ笑いで染まる頬は、よく見ると紅も差してもらったらしい。アリッサが誇らしげに傍らに腕を組んで立っている。帯はすっきりとした紫色で少し光沢があり星空のようだ。緑の髪には大きな白い花の髪飾りがついている。これは‪……‬お世辞抜きで、女人になってしまった僕よりも、女人だな‪……‬?
あまりの愛らしさにゴクリと唾を飲む。身長が縮んでしまった僕よりもユーリは幾分か小さい。くわえてこのくりくりとした目。紅を差した分厚い唇。こんなの、悩殺されてしまう‪……‬。
忘れていた雄の本能が久々に僕の中でごうごうと燃えている。この愛らしい小さな生き物を、とって食べてしまいたい。ああ、可愛い。ムラムラしているうちに、ユーリは目の前から忽然と姿を消していた。

「ルシウス! どう?」
「いや、その、あ、えと」
「‪……‬落ち着け」

今度はジャオがルシウスの背中をさすってやっている。妙な友情が芽生えた瞬間を見た。
ルシウスは室内にも関わらず汗をびっしょりかいて、今も必死に手汗を拭っている。にっこりと笑って待つユーリを見つめているうちに、何度も思考停止しては持ち直してを繰り返している。このまま放置しておいたら、ルシウス、出掛ける前に体力消耗して倒れてしまうかもしれないな‪……‬。

「か、かわいい、よ‪……‬てか、綺麗だ‪……‬俺、今日隣歩いていいの? こんな‪……‬」
「当たり前じゃんっ」

ユーリも褒められてご満悦だ。ぴょんとルシウスの懐に飛び込んで手を握ると、そのままぐらりと倒れそうになってジャオが片手で支えてやってた。大丈夫か、ルシウス‪……‬。

「ジャオとルシウスくんもいらっしゃい! 男の子用の浴衣もあるから!」
「えっ俺たちもこれ‪……‬!?」
「安心しろ。もっと簡素なものだ。いくぞ」
「あっああ、ユーリ~‪……!‬」

名残惜しそうなルシウスをジャオが引っ張っていく。ユーリ本当に愛されてるよな。まあこんなに可愛いんじゃ無理もないか。にこにこと手を振るユーリの横顔を見つめ、あらためて惚れ惚れとする。

「ユーリ、着替え恥ずかしくなかったか? 僕でも恥ずかしかったのに」
「まあ少しは。でもアリッサちゃんが「女の子にしてあげる」って言ってくれたから身を委ねた」

完全なる有言実行だ。アリッサちゃんはしっかりとミヤビさんの才能を受け継いでいるな。着付けも完璧だし、色のチョイスも素晴らしい。

「可愛い女の子になってみたかったんだよね~。ルシウスとも堂々とデートできるし嬉しい」
「ユーリはいつでも堂々としてるじゃないか?」
「僕は平気なんだよ。でもルシウスが、僕といることで恥ずかしい思いしたりするのいやだからさ、やっぱ気がひける時もあるっていうか」

そうだったのか。ユーリは無敵だからそんな感情一切ないんだと思っていた。
憂いを帯びた美しい横顔にいろんな意味で胸が騒ぐ。また僕の悪い癖が出たな。他人の気持ちを決めつける癖。どんな人だっていろいろと考えているし、笑顔の裏で苦しんでいるのかもしれない。そんなふうに想像して人と接しようと決めたのに、近しい人間であればるほど気遣いを忘れてしまう。まだまだだな、僕も。

しばらくすると浴衣姿のジャオとルシウスが出てくる。女性用とは違って柄もつくりもジャオのいった通り簡素なものだ。でもだからこそ素材の良さが際立つというか‪……‬ジャオ鎖骨見えててエロい‪……‬髪もいつもより崩していてエロいし、かっっっっっっこいい‪……‬心臓バクバクする。ジャオも僕の浴衣姿見た時、こんなふうになっててくれたのかな。

「ジャオすごく似合ってる!」

自分から手をかたく結んでしまった。これは僕の。僕だけのジャオだ。そんな独占欲丸出しに。だけどそういう対策が必要だったのは、どうやらジャオのほうではなかったらしい。

「ルシウスさん素敵!」
「カッコ良すぎます!!」
「目の保養~!」

身内にまったく興味のないジャオの妹達は、一人残らずルシウスに群がった。ルシウスだってこう見えて実はジャオより身長高いし、切れ長の瞳は理知的だ。綺麗な桃色の髪をさらりと肩に流していて浴衣によく似合っている。まんざらでもない態度で女子に愛想を振りまいているルシウスに、ユーリはぷくっと頬を膨らませている。

「やっぱり本物の女子のほうがいいよね‪~‬」
「ユーリ、後で僕も一緒に怒ってあげるから。ほら行こう?」

手を差し出すと素直に掴んでくれるユーリ。男友達同士で手を繋ぐなんて普段は絶対にない発想だが、今日はなんだかお互いにそんな気分だったんだと思う。女友達なら、こういうのも普通のはずだから。
一足先に家を出た僕らを追ってジャオとルシウスがそれぞれの隣に並ぶ。不機嫌なユーリにルシウスは平謝りして、僕からユーリの手を取り上げた。そうすると徐々に笑顔を取り戻して、数分後にはいつものユーリに戻っていた。ホッ。こうやって引きずらないで済ませるのが、ユーリのいいところだよな。

「ベル」

すかさずジャオが僕の手を攫う。かたく指を絡めて、愛情たっぷりの視線で僕を包んでくれる。なんてカッコイイんだろう。今日は一段と大人の色気が漂っている。

「綺麗だな」
「さっきも聞いた‪……‬」
「何度でも言いたくなる」

すり。繋いだ手を頬擦りされてカアッと全身が熱くなった。
公衆の面前でこんなの。でも、人気の多い場所に入っても誰も僕とジャオを見てはいない。やっぱり、皆僕だってわからないんだ。それなら、いいのかな‪……‬?

せめてものお返しにと僕からも強く手を結び直す。ジャオは僕の腰に手をまわして我がもの顔だ。
これが僕とジャオの初デートになるのか。柄にもなく、ワクワクと胸が躍る。
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