王子の僕が女体化して英雄の嫁にならないと国が滅ぶ!?

蒼宮ここの

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第42話 女の子になりたい

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祭りの醍醐味である屋台が見えてきた。リンゴ飴とかお好み焼きとか、出店の料理は独特だ。もしかするとこれも異国から持ち込まれた文化なのかな‪……‬と考えていると、にわかにユーリが声を上げる。

「わたあめ! 買ってくるね!」
「ああっこらユーリ‪……‬!」
「ベルも食べるか?」
「え、うん」
「じゃあルシウスと一緒にゆっくり来い」

そうして駆け出したユーリを追い掛けて行ってしまった。残されたルシウスと僕は顔を見合わせてクスッと笑う。

「ジャオ、ユーリが一人になると危ないって思ったんだろうね。メチャクチャ可愛いもん」
「いや、それを言うならベルだって‪……‬」

言いかけてルシウスは言葉を止める。少し照れてしまった僕も俯いてただしずしずと歩を進めた。浴衣も草履も歩きにくくて、ほんとうにゆっくりしか進めない。そういえばユーリは駆け出す時に裾を持ち上げていたな。器用な奴だ。

「‪……‬ベル、さあ」
「ん?」

ルシウスの呼びかけに顔を上げると、目があった瞬間に顔を逸らされてしまう。呼んでおいてなんだその態度は。咎めようか迷うが、ルシウスは何やら言いにくそうにもじもじしている。

「なんだ?」
「‪……‬ハア。やっぱ俺ってダメだな」
「どうしたんだよ」

ルシウスらしくない。いつもはハッキリとモノを言うのに、こんなに言い淀むなんて‪……‬?

「……お前、今日は完全に女の子だから緊張する」
「何言ってんだよ。今さらすぎないか?」
「だって普段はかたくなに男用の服ばかり着てるじゃん」
「そりゃ、世間体とかあるからな」
「世間体気にしなければ女になるのか?」

なんて不躾な。ジロリと睨みつけると、ルシウスは顔を手で覆って勝手に凹んでいる。

「‪……‬すまん。こんなことが言いたいんじゃないんだ」
「じゃあ何」
「いや、俺ずっとお前に謝りたくて」

ルシウスが僕に謝りたいこと? まったく身に覚えがない。首を傾げて見せると、ルシウスは「お前はそういう奴だよな」と笑われた。褒められてるのかけなされてるのかわからん。

「お前がオトメになったばっかの頃さ‪……‬俺ら、お前のこと知らんぷりしてたじゃん」
「あー」

そういえばそんなこともあったな。あの時は結構ショックだったけど、それこそ今さらだ。許す許さないの問題じゃない。あの時は皆がどうしていいかわからなかっただろう。僕ですらそうだ。
というか、僕が強引に学校に行ったこと自体がそもそも間違いだったのかもしれないし‪……‬だから、ルシウスを責めるつもりなんてまったくない。

「あの時さ‪……‬ユーリは変わらずお前に接しようって言ってたんだよ。それを俺が止めたんだ。お前のことはもちろん心配だったけど、ユーリが政治に巻き込まれたらと思うとなんか‪……‬‪……‬こわくて」
「それが正解だと思うぞ。人間、誰もかれも救えるわけじゃない」

自分でも驚くほどにすらすらと言葉が出る。だってこんなふうにあらためて自分の反省すべき点を掘り返すなんて普通はできないものだ。
ルシウス、ずっとそんなこと気にしていたんだな。優しい奴。

「ほんっとうに悪かった! スゲー反省してます!」
「いいって。ルシウスがユーリのこと大切にしてくれる奴で、僕はむしろ嬉しいよ」

本心だ。ユーリは大切な友達、無論ルシウスも。そんな奴らが幸せになってくれたら僕にとってもそれが一番だ。手を合わせて長身を折り曲げるルシウスの肩を、揶揄うようにツンツンとつつく。

「そんなことより! 僕に黙って二人が付き合ってたって事実のほうが僕的にはキたけどな?」
「それは、ハイ‪……‬すんません」
「どうやってくっついたんだ?」
「あーユーリが俺に猛アタックしてきてだな」
「ほんとか~? ユーリにも確認するぞ?」
「‪どうぞご自由に」

出店の行列に並んでいる二人が見えてくる。ぶんぶんと手を振るユーリにルシウスは口元を緩める。一緒だ。ジャオが僕を見つめる時の顔と。

「もう少しで買えるぞ」
「ルシウスも食べる?」
「お前の一口ちょーだい」

ああ。なんかいいな、こういうの。あまりにも混み合っていたので、僕とルシウスは列には合流せず屋台の脇で待っていた。ルシウスが一層声を潜めて言う。

「俺とお前、あんまり二人になる時ないから‪……‬ジャオに頼んで時間作ってもらったんだ」
「そうだったのか?」

そうか。ユーリはいつも僕にべったりだからな。そう言われれば、なかなかユーリを外しての会話はできていなかったかもしれない。貴重な時間だった。ジャオもそういう気遣いができるんだな。二人と仲良くなってくれて、よかった。

「まあベルもだな、ジャオに言いにくいことがあれば俺らに相談しろよ? お前ってすぐ一人で抱え込むし」
「‪……‬ありがとう」

不器用だけど、いい奴だな。笑みを向けるとまた深く俯いて目を逸らされた。
僕が女人になって、友人関係も変わっていく。けれどルシウスはこれからも僕と友達でいてくれるってことだ。ありがたいと思おう。

「なあ、あれ王子じゃね?」
「なにあの格好。スゲー綺麗」
「ベル様じゃないって。女の子だし」
「バッカお前、あんな若い女の子、この国にベル様以外いるかよ?」
「そうそう。だってあの人ってオトメになったんだろ?」

遠巻きに男子の集団に見られている。ルシウスが僕を隠すように寄ってくれた。ジャオとは違う男子の匂いに少しだけ、気まずくなる。

「隣にいる男、英雄じゃねーじゃん。違うよ」
「でも顔が‪どう見ても」
「にしても美人だな~! 俺声かけてこようかな?」
「彼氏いるのにムボーすぎるだろー」

言いながら集団で近づいてくる。僕とルシウスが身構えていると、ちょうどジャオとユーリがそれぞれ両手にわたあめを持って戻ってきた。

「お待たせ~! はいっルシウスの分!」
「あ、なにお前。一口でいいって言ったろ~?」
「ベル、これ」
「ありがとう」

ジャオと、そしてめちゃくちゃ可愛い女の子にしか見えないユーリの出現に集団が怯んで立ち止まる。

「英雄だ」
「ヤベェやっぱベル様じゃん!」
「あぶね~~」
「でもあの緑の子超かわいくね!?」
「いいからもう行くぞ!」

ユーリが反応してひらりと手を振る。男子らは顔を真っ赤にしてヘラヘラと笑いながら去っていった。ジャオに至っては気付いてもいない。離れていたのは数分なのに、懐かしむようにじっと僕を見つめている。僕だけを。

「‪……‬助かった~」

ルシウスが情けない声を出して僕の隣をジャオに譲る。

「やっぱ俺がベルの隣歩くのは、いろんな意味で荷が重いわ‪……‬」
「何かあったのか?」
「いや何も。ジャオのおかげで」
「? そうか」

周囲からの余計な視線や声に気付かないのは、英雄という立場に置いて間違いなく長所だろう。僕の隣を歩いて動じない胆力もある。やっぱり僕にはジャオしかいないんだよな。
心ばかり寄り添って甘えると、ジャオは頭を撫でてきて額にキスしてくれた。くすぐったくて顔が緩む。

「あま」
「わたあめよりもあま~~」

ルシウスとユーリに揶揄われてもジャオは気にせず、ただ単にわたあめのことを思い出してかぶりついた。僕もならって食べてみる。久しぶりの甘味が全身に染み渡る。

「ん~~美味しい!」
「俺にはちょっと甘すぎるかもしれん」
「じゃあもらってあげる。僕ジャオの分まで食べれそう」
「ベルってジャオといると口調がちょっと女の子になるよな」
「うんうん」
「そこ。うるさい」

そうかな。そうか? はじめて指摘されて少し恥ずかしくなる。僕らの会話を間近で聞いてるのってこの二人くらいだもんな。行為の最中なんかもう完全に女の子の言葉しか出ないし‪……‬でも普段もそうなっているのは気付かなかった。気をつけよう。

「今日は式典の後に花火が上がるらしいな」
「みんなで見よーよ!」
「いいな。城のほうからも見えるし、人気が少ないから終わったら合流して移動しよう」
「楽しみ~」

はしゃぐユーリがほんとうに愛らしい。じっと見ていると、ルシウスが思わず尻を撫でて怒られていたのでそっと視線を外す。友人同士のああいうのを見るのってやっぱり気恥ずかしいな‪……‬僕も人のこと言えないけど。

その後も出店を回ってお腹いっぱい食べてしまった。帯が苦しくてユーリと揃って後悔したりしたけれど、楽しい時間はかけがえがなくて、誘ってくれたユーリとルシウスには心から感謝した。
それに浴衣を着せてくれたミヤビさんにも。女の子として過ごす祭りの夜は新鮮だった。こんなにも動きにくくてお腹が苦しいけれど、でも‪……‬ジャオと人前で寄り添って歩いても罪悪感が生まれないのは、ほんとうにありがたかった。

「お手洗いに行ってくる」
「あ、じゃあ俺も」
「みんなで行こうか」

そう言って四人で向かったのはいいが、浴衣姿で立ち小便をするのはさすがに気がひける。考えた結果、僕とユーリは個室で用を足すことにした。一つしかない広めの個室に二人で入る。ユーリが躊躇なく前を寛げるので、なんとなく僕は後ろを向いて順番を待つことにした。

「‪……‬なんかさあ。悲しくなるよね」
「何がだ?」
「どれだけ女の子の格好したって、結局僕って男なんだなあって」

控えめな水音とユーリの本音が同時に聞こえてきて胸がじくりと痛む。何も答えられないでいると、ユーリが言葉を続ける。

「正直、ベルのことが羨ましいんだ。僕も本当に女の子になれたらいいのにって、思う」
「そう‪……‬なのか?」

女子不足のこの国では男同士で付き合っている者も多いとはユーリから聞いた話だ。だが、本物の女人になりたいと思うかは人それぞれだろう。僕だって強制的に女人にされなければわからなかった。男同士のままでジャオと恋愛している可能性だって、あったかもしれない。

「だってさ。こんなに大好きなルシウスの子どもを産んであげられないんだよ? それなら僕のことなんて捨てて、普通にお嫁さん取ってほしいなあと考える日すらある」
「そんな‪……‬」

子どもを儲けることがすべてではないはずだ。だがユーリにとっては譲れない価値観なのだろう。遠慮がちに振り返ると、もう前の裾を整えている。その目は僕を忘れたかのように、悲しげに個室の天井を見つめていた。

「僕も、女の子になりたいなあ‪……‬」

ポツリとつぶやかれた言葉は行き場もなく、僕らの間を漂う。ユーリはハッとして、すぐさま笑顔を作った。

「ごめんこんな話して。ベルだって好きでこうなったわけじゃないのにね」
「‪……‬僕こそごめん。ユーリのこと、無意識に傷付けていたのかも」
「違うよ。僕がワガママなだけなんだ。この国の女の子は好きな人と恋愛もできないでしょ。それに比べたら僕だって、幸せなのに」

驚いた。ユーリにもそんな観点があったのか。この国の女人に自由恋愛が認められないだなんて、僕が気付けたのは最近母上に面と向かって突きつけられたからに過ぎない。
ユーリは自分で気付けたのかな。すごいな。これも、僕とは違う目を持っているから‪……‬やはりいろいろな人の話を聞かなければ、いい国は作れない。僕の中で静かに、使命感という名の炎が燃え始める。

「‪……‬今の話、ルシウスやジャオには言わないでね」
「‪……‬わかった」

この大切な友人のために何もしてやれない自分が歯痒い。男同士というだけで、子を儲けることも家庭を築くこともこの国では不可能なのだ。この問題を解決するにはきっと気が遠くなるほどの労力と時間がいるだろう。だけどそれでも‪……‬いつかは。
ユーリの手を包む。驚いて顔を上げた瞳から、数滴の雫が飛び去る。

「ルシウスは何があってもユーリと一緒に居たいと思ってるよ。だから嫁を取れなんて言うな」
「あ‪……‬でも‪……‬」
「わかるよ。子どもが欲しい気持ち、最近僕にも芽生えてきたから‪……‬」
「僕とルシウスの子どもが、いいんだ‪……‬」
「わかるよ。わかる」

ユーリが涙目になって僕の手を握り返す。耐えきれず俯いて結んだ手を濡らしていく。無理やり産まされる人もいるのに‪……‬ユーリは、こんなにも、産みたいんだな。僕だけが特別で、言い知れない罪悪感に蝕まれていく。黙りこくった僕に、ユーリは慌てて涙を拭いてもう一度手を握り直した。

「ごめん! 僕が居たらベルおしっこできないよね!? 外で待ってる!」
「あ、うん‪……‬」
「今の話は気にしないで! ただの愚痴! じゃあね!」

いつものユーリだ。だけど腹の中ではあんなにも苦悩している。きっと僕の存在があるだけでつらい思いをさせているのだろう。皆が、望んだ性別をその身に受け取って、幸せになれたらいいのに‪……‬。
便器に座って用を足す。もうすっかり女になってしまったこの身を蝕み続ける罪悪感を、振り払うように頭を振った。これから式典だ。このやりきれない思いも乗せよう。国民にはすべて正直に話してわかってもらうんだ。この国の現状と、そして僕が考える、これからの展望を。
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