王子の僕が女体化して英雄の嫁にならないと国が滅ぶ!?

蒼宮ここの

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第154話 最低の兄弟

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マナトさんの子どもを妊娠した。
別に思うことは何もない。決まっていたことなんだから。

妊娠初期は放っておかれたから比較的平和だった。だけど安定期を過ぎると、マナトさんとケンさんが部屋にやってきて、僕はモモタを妊娠していた時と同じ屈辱を受けた。
お腹に赤ちゃんがいるのに、赤ちゃんの父親以外の男に、抱かれたのだ。

「妊娠中に負担をかけてすみませんねえ、ベル。でもケンがどうしてもって聞かなくって」
「へへ‪……‬ベルちゃん、ねえ、気持ちいい?」

ケンさんはだいぶ回復して人間の振る舞いができるようになっていた。だけど代わりに人間性を失った。
マナトさんにおねだりすればなんでも叶うから、マナトさんにエッチされることを条件に、城中の侍女を食い尽くしているのだ。
マナトさんが色々な女人で子作りしていた時と同じ‪……‬聞けば、彼らも数多くの婚外子から選ばれた二人なのだという。つまりは、そういう血筋なのだろう。
選別された人間は当たり前に子ども世代をも選別する。この城では、命は軽い。

そしてもっと悪いのが僕の立ち位置だ。
迷惑なことにケンさんは一等僕を気に入っているらしく、毎日のように犯しに来た。子作りという目的すらない。ただの慰みものだ。
腰を押し付けながら僕の丸いお腹を撫でて「マナトの子どものママとエッチしてる」「ベルちゃん、ママ、ママ、ママ」と気持ち悪い言葉で詰られて尊厳をズタズタにされた。

「マナト、俺もベルちゃんと子作りしたい」
「私との子が“当たれば”次はケンが作っていいですよ」
「やった!」

ガツガツガツ。不意に強くなる腰振り。腰に添えられたケンさんの手首を握って睨みつける。そうすると乳首を噛まれて強引にイかされた。
無惨な噛み跡‪……‬これだけじゃない。右の乳首にピアスを開けられた。太腿にはヤマト国の紋章を彫られた。ルシウスの淫紋と違って、もう一生消せない傷跡だ。
僕はやっぱりここで生きていくしかないんだ。二人の子を産み続けて‪……‬女として死ぬまで、侮辱され続けるんだ‪……‬‪……‬。

予想できていたことなのに、いざこの時が来るとやっぱり死にたくなった。夢も希望もない。生きる意味だってない。
だけど、だけど、トルテが言ってくれたんだ。生きていればまた会えるかもしれないって。僕が産んだトルテが、僕に生きる意味をくれた。
七人も産んで、接触の望みがあるのはもはやトルテだけだ。その望みすら薄いけど‪……‬彼女との再会を想わないと、僕はもう生きていけない。つらいんだ。
だけど受け入れろ。これが、僕が犯した罪の代償なんだ‪……‬‪……‬。


「ベル様の夢って、なんですか?」
「トルテに、会うこと‪……‬」

ハッ。隣で息を呑んだ音に僕は我に返った。
今は食事を持って来てくれたリリイさんと雑談をしているんだった。ぶんぶんと首を横に振って、今しがたの発言を恥じる。

「間違えた。忘れてください」
「間違い‪……‬じゃないですよね? トルテ様、やっぱりベル様にとって特別なお子様なんですね」
「‪……‬あの子は、僕が産まれる前から僕を見守っていてくれたんです。信じてもらえないと思うけど‪……‬だから今も、必ず僕を想ってくれている」
「素敵ですね。魔法の国‪……‬我々には計り知れない奇跡が存在するのでしょう」

リリイさんはルアサンテの話をするときまって目を輝かせる。きっとこの国の窮屈さに嫌気が差しているから‪……‬武力や権力に勝るかもしれない魔法に、憧れを抱いているのだろう。
だけどルアサンテ出身の僕にだって助けは来ない。自分の力で生きるとはそういうことだ。
理解したからもう、弱音は吐かない。だからトルテとの再会を願う気持ちは、今は胸にしまっておかないといけないんだ。

「ヤマト国の行く末はどうなるのでしょうね。王子二人があの調子では」
「ええ‪……‬マナト様は成長した我が子をまだ誰一人として跡取りとは認めていないようです」
「結局、この国の王は不在のままなんですね」
「ええ。最後の王妃様‪……‬マナト様のお母様が病でお亡くなりになり、王もすぐに謎の急死を遂げました」

マナトさんのお母さん‪……‬前に部屋の肖像画で見た。
彼が僕に話してくれたお母さんが亡くなった時期や経緯なんかはほとんど嘘だろうけど、でも、愛していたのは‪……‬本当だったんだろうな。じゃなきゃあんな冷酷な人がいつまでも肖像画を部屋に飾ったりしない。

「ケン様はマナト様の妨害があり、王位を継承することができておりません。当のマナト様も、嫁を取るまでは王子のままで国を仕切ると」

実質、マナトさんが現在この国の王というわけだ。それで仮の花嫁を据えて王位を継承するために、僕との結婚を考えている。
子どもにこだわるのは、自分が納得する子を産んだ女を嫁にしたいからだろうか‪……‬いや、あの人の考えていることなんて、推測するだけ無駄だ。

「リリイさんはどうなって欲しいですか? マナトさんがこのまま国を継ぐのがいいと思う?」
「いえ‪……‬私はやっぱり‪……‬」
「そうですよね」

その名を口に出さずとも伝わったようだ。もしかしたら城中の皆が同じことを考えているのかもしれない。
トルテの守護はすべてあの子にあげて欲しい。あの子はこの国の、唯一の希望だ。

「あの方はマナト様と母親が同じなんです。それでマナト様も一等可愛がっていらっしゃいます」
「そう‪……‬みたいですね」

前に同時に会った時も、あの子はマナトさんに対して怯えたりしていなかった。純粋に慕っているようにしか見えなかった。だから僕も、彼を信じ込んでしまったのだ。

「早く、解放されたい‪……‬」
「ベル様、お逃げになるのですか?」
「そう‪……‬だとして、リリイさんに言うと思う?」
「思わないです」

くすくす。鈴を転がしたような可愛らしい笑い声が耳に心地いい。
この国に仕えるリリイさんは僕にとっては敵だ。だけど見えない絆が出来ていた。僕もリリイさんも‪同じ男に「我が子との別れ」という、大きな痛みを背負わされたから。

「仮に逃げるとしてさ、無理だと思うんだよね。ルシウスと逃げた時はすぐに見つかっちゃったし」
「ああ、それはたぶん‪……‬オバアがいたからですね」
「オバア?」

響きからして一人しか思い浮かばなかった。僕をケンさんに襲わせた、あの小さな老婆だ。

「あの人は何者なんです‪……‬?」
「私がこの城に来る前からいらっしゃったので詳しくは‪……‬ですが、魔力がオーラとして見えるようです」
「え!?」
「ですからあの日もルシウス様の魔力を辿られたのでしょう」

なるほど、ということは‪……‬僕単独だったら、辿られる心配はないということか‪……‬?

「今まで彼女の能力を実証する術はなく、マナト様も保険程度に思って城に置いていたようですが、今後は重宝するだろうとご機嫌でしたよ」

マナトさんも一応は魔力‪……‬ルアサンテからの攻撃を警戒しているのだろうか。そんな心配しなくても、もう誰も僕を助けになんて来ないのに。
だがそれでモモタの魔力も判別できたのか。どうしてわかったのか疑問だったんだ。

「‪……‬話しすぎましたね。そろそろ戻ります」
「あの、最後に一つだけ。なぜ侍女の皆は‪……‬リリイさんは、逃げないんです‪……‬?」

リリイさんの瞳からスッと光が消える。立ち入りすぎただろうか。いや、今さらそんな気遣いは無用なはずだ。
緊張しながら答えを待つ。リリイさんは振り返らずに、冷静な声で言った。

「家族を‪……‬人質に取られています。我々は皆、ヤマト国もしくはその近隣の国々出身ですから」
「あ‪……‬」

なるほど、身元が明らかだからそういう脅しができるのか‪……‬つくづく最低な男だ。
リリイさんも皆も、家族のために我慢している。女人だけが自分の人生を歩めていない。そんなの、もう終わりにしてあげたい。

「ですから‪……‬ベル様にだけは、逃げていただきたいのです」

振り向いた彼女の目元がきらりと光る。「勝手な願いですけどね」と付け加えて、リリイさんは部屋を出て行った。

僕だって逃げ出したい。だけど身重のこの身体ではと及び腰になっている。設備も世話も、子どもの将来も保障されたこの城で産むのが一番いいはずなんだ。
だけどきっと、この子を産んだら‪……‬僕を縛る枷がまた一つ増える。きっと僕はこれからもずっと、この城に留まり続けるのだろう。
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