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第五十九話
果たして魔術は扱えるのか?
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今、俺は湖の畔ギリギリ……つまり水辺に立たされている。リアンはこう言った。
「魔術の基礎の法則や化学式、魔法文字や魔法陣の基礎から教えている時間は正直言って今はありません」
そうか、教わりたいけど、メフィストフェレスの予言も近い未来って言ってたもんな……
「兎に角、イメージと感覚、そしてセンスさえあれば知識や鍛錬不要で高度な魔術も扱える精霊系の魔術をお教えします。これは、火・水・風、または空気・土・植物・光・闇を司る精霊たちの力をお借りする魔術です。因みに、精霊そのものを使役する場合は『精霊使い』といいます」
なるほど、実は秘かに精霊使いと魔術師の違いが曖昧な部分があったんだけど。そういう事か。
「最初はイメージのコツを掴んで頂く為に精霊の姿、形、大きさ、香りの有無など、全て自由に空想して頂きます。では、行ましょう。まずは地にしっかりと足をつけ、背筋を伸ばして真っすぐに立ちます。そして軽く目を閉じて……。水辺におりますから水の精霊の力は得やすいでしょう。最初に水の精霊をイメージしてみましょう」
言われるままに、素直に従う。妄想は得意なんだけど空想となると……いや、集中集中。なぁ、フォルス、時間が無いんだ、一緒に頑張ろうぜ。
……目を閉じると、感じる。微かに頬を撫でて行く風。鳥の囀り、風に揺れる木々や植物の囁き……目の前に広がる湖が、風に任せてさざ波を立て始める。じんわりと温かくなり始める左手首……。水面の小波は少しずつ小刻みに歯へ敷くなり、次第に白波が立ち始める。そして万を期したように一斉に水面から丸い水滴が旅立った。まるで透明のビー玉の大小が空中に跳ね上がったような感じだ。そしてそれは、さながらヘリウムガスを吸い込んだかのような高音で、
『呼んだー?』『呼んだー?』『呼んだー?』『呼んだー?』以下延々と……
と、一斉に水滴が俺をめがけて飛んで来るじゃないか。これは、ちょっと怖い、焦る。
「イメージの中なのですから、自由に空想して大丈夫ですよ」
その時、リアンの声が響いた。そうか、これは俺の中の妄想なんだ。それなら……
『皆、俺の呼びかけに初めてなのに応えてくれて有難うな! 良かったら、風と手を繋いで踊って見せて欲しいな』
と呼び掛けてみた。飛んで来ていた水滴たちは、イメージの中で俺が声をかけるとピタリとその場で止まった。まるで静止画みたいだ。
『分かったー』『いいよー』『風さーん、あそぼー』
続いて、水滴たちはそう言いながらその場でピョンピョン跳ね始める。すると、風が俺の周りを囲うようにして吹いて来た。
『ちょうど退屈していたところだ、いいぞ』
わりと渋めの声で風は答えた。よく見ると、風はクリアブルーの朱雀みたいな形をしている。羽ばたく毎に、辺りに風が吹いた。
『わーい、あそぼー』『あそぼ―』『あそぼー』以下、ループ……(ヘリウムガスを吸い込んだような高音が無数にしゃべるのを想像してみてくれ)
風……クリアブルーの朱雀は、俺の周りを大きく優雅に飛び周り始めた。水滴は朱雀の背や羽に乗ったり、彼が羽ばたく度に起こる風に乗ったりして自由に舞い始めた。よく見ると、水滴は下半身が魚、腰から上が幼い男の子か女の子の姿をしている。髪の長さや色、鱗の色はまちまちだ。
なんだかメルヘンの絵本の世界にいるようだ。左手首が熱い。何となく、左手を天に翳すようにしてみた。すると、太陽がフォルスを目指して光が降り注いだ。まるで左手首にスポットライトが当たったみたいだ。すると、フォルスから虹色の光が光が溢れ出した。それは朱雀の羽ばたきで起こる風に乗って、辺りを虹色に包み込んで行った。
……綺麗だ……
本当に、メルヘンの世界だ。
「静かに目を開けてください」
リアンの声に従い、目を開ける。目を開けたら、この空想メルヘンの世界は終わるのか……少し残念に思いながら。
「え? あれ?」
目を開けると、そこは空想したままの世界が広がっていた。思わず左腕を見る。天に掲げたそれには陽の光が当たり……紛れもなくフォルスから虹色の光が溢れていた。
「お目でとうございます。やはり、イメージする力はずば抜けていましたね。これはもう、天性の『精霊使い』と言っても過言ではないでしょう」
右人差し指を眼鏡のエッジに当てながら、リアンにしては珍しく声を弾ませる。
「凄いや、惟光! 水だけじゃなくて風と光の精霊も呼び寄せちゃったね!」
王子が嬉しそうに俺の背中に抱きついた。
「えーと、あのー……」
だけど情けない事に、俺はこの状況がそんな褒めて貰えるようには見えなくてただ茫然としていた。一体、何がどうなってるんだ?
「魔術の基礎の法則や化学式、魔法文字や魔法陣の基礎から教えている時間は正直言って今はありません」
そうか、教わりたいけど、メフィストフェレスの予言も近い未来って言ってたもんな……
「兎に角、イメージと感覚、そしてセンスさえあれば知識や鍛錬不要で高度な魔術も扱える精霊系の魔術をお教えします。これは、火・水・風、または空気・土・植物・光・闇を司る精霊たちの力をお借りする魔術です。因みに、精霊そのものを使役する場合は『精霊使い』といいます」
なるほど、実は秘かに精霊使いと魔術師の違いが曖昧な部分があったんだけど。そういう事か。
「最初はイメージのコツを掴んで頂く為に精霊の姿、形、大きさ、香りの有無など、全て自由に空想して頂きます。では、行ましょう。まずは地にしっかりと足をつけ、背筋を伸ばして真っすぐに立ちます。そして軽く目を閉じて……。水辺におりますから水の精霊の力は得やすいでしょう。最初に水の精霊をイメージしてみましょう」
言われるままに、素直に従う。妄想は得意なんだけど空想となると……いや、集中集中。なぁ、フォルス、時間が無いんだ、一緒に頑張ろうぜ。
……目を閉じると、感じる。微かに頬を撫でて行く風。鳥の囀り、風に揺れる木々や植物の囁き……目の前に広がる湖が、風に任せてさざ波を立て始める。じんわりと温かくなり始める左手首……。水面の小波は少しずつ小刻みに歯へ敷くなり、次第に白波が立ち始める。そして万を期したように一斉に水面から丸い水滴が旅立った。まるで透明のビー玉の大小が空中に跳ね上がったような感じだ。そしてそれは、さながらヘリウムガスを吸い込んだかのような高音で、
『呼んだー?』『呼んだー?』『呼んだー?』『呼んだー?』以下延々と……
と、一斉に水滴が俺をめがけて飛んで来るじゃないか。これは、ちょっと怖い、焦る。
「イメージの中なのですから、自由に空想して大丈夫ですよ」
その時、リアンの声が響いた。そうか、これは俺の中の妄想なんだ。それなら……
『皆、俺の呼びかけに初めてなのに応えてくれて有難うな! 良かったら、風と手を繋いで踊って見せて欲しいな』
と呼び掛けてみた。飛んで来ていた水滴たちは、イメージの中で俺が声をかけるとピタリとその場で止まった。まるで静止画みたいだ。
『分かったー』『いいよー』『風さーん、あそぼー』
続いて、水滴たちはそう言いながらその場でピョンピョン跳ね始める。すると、風が俺の周りを囲うようにして吹いて来た。
『ちょうど退屈していたところだ、いいぞ』
わりと渋めの声で風は答えた。よく見ると、風はクリアブルーの朱雀みたいな形をしている。羽ばたく毎に、辺りに風が吹いた。
『わーい、あそぼー』『あそぼ―』『あそぼー』以下、ループ……(ヘリウムガスを吸い込んだような高音が無数にしゃべるのを想像してみてくれ)
風……クリアブルーの朱雀は、俺の周りを大きく優雅に飛び周り始めた。水滴は朱雀の背や羽に乗ったり、彼が羽ばたく度に起こる風に乗ったりして自由に舞い始めた。よく見ると、水滴は下半身が魚、腰から上が幼い男の子か女の子の姿をしている。髪の長さや色、鱗の色はまちまちだ。
なんだかメルヘンの絵本の世界にいるようだ。左手首が熱い。何となく、左手を天に翳すようにしてみた。すると、太陽がフォルスを目指して光が降り注いだ。まるで左手首にスポットライトが当たったみたいだ。すると、フォルスから虹色の光が光が溢れ出した。それは朱雀の羽ばたきで起こる風に乗って、辺りを虹色に包み込んで行った。
……綺麗だ……
本当に、メルヘンの世界だ。
「静かに目を開けてください」
リアンの声に従い、目を開ける。目を開けたら、この空想メルヘンの世界は終わるのか……少し残念に思いながら。
「え? あれ?」
目を開けると、そこは空想したままの世界が広がっていた。思わず左腕を見る。天に掲げたそれには陽の光が当たり……紛れもなくフォルスから虹色の光が溢れていた。
「お目でとうございます。やはり、イメージする力はずば抜けていましたね。これはもう、天性の『精霊使い』と言っても過言ではないでしょう」
右人差し指を眼鏡のエッジに当てながら、リアンにしては珍しく声を弾ませる。
「凄いや、惟光! 水だけじゃなくて風と光の精霊も呼び寄せちゃったね!」
王子が嬉しそうに俺の背中に抱きついた。
「えーと、あのー……」
だけど情けない事に、俺はこの状況がそんな褒めて貰えるようには見えなくてただ茫然としていた。一体、何がどうなってるんだ?
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